決意
一週間後には日向さんは実家のある南相馬へ帰ってしまう。
そして新学期が始まるまで戻ってこない。
その間に東日本大震災が起こって南相馬は福島最大の被害を受ける。
考えるんだ、どうするのがベストなのか。
ふと思う。「過去は変えられない。日向さんの死ぬ運命は決まっているのかも。俺が干渉した事で3月23日まで生きる運命だったのが、3月11日に死ぬ運命に変わってしまったのかもしれない。」
日向さんが実家へ帰るまで一週間ある。考えろ、やり直しは出来ないんだ。
そうだ、実家に帰らず3月23日にマンションにいない状況を作れば良いんだ。
ふと思う。「日向さんは実家が被害にあった時、何で実家に帰らずマンションに残ったんだろう?彼女の性格だったら周りが止めたって実家へ帰りそうな気がするけど」
ある一つの可能性に思い当たり次の日、朝一番に自転車を飛ばして図書館へ行った。
やはり、である。
当時の新聞の震災被害者をみて「中島巌、中島朝日」という夫婦がいた。
彼女は震災後実家へ帰ったのだ。そこで変わり果てた両親と対面したのだ。
両親を弔った後、日向さんはマンションへ帰ってきた後に呆然としながら閉じこもったのだ。
そしてそこでストーカーに殺されている…
実家で両親と一緒にいる、という事は「両親と一緒に死ぬ」という意味だ。
考えられる最悪の選択肢じゃないか!
俺は弾かれたように立ち上がり、廃マンションへと走り出した。
504号室へ入り、少し冷静になり思った。
「俺はここへ来て何をするつもりなんだ?ここでの失敗は取り返しがつかないのに」
考えろ…日向さんを実家に帰らせるのが最悪の選択肢だ、下手をしたら両親と一緒に死んでしまうかもしれないし、万が一に日向さんだけが生き残った場合でも、ショックを受けてマンションに閉じこもってしまったら結末は変わらない。
未来が変わる選択肢の絶対条件は…「両親が死なない事」
両親が死なないために俺が出来る事…「両親を東日本大震災の日に東京へ呼び出す事」
他人の俺が日向さんの両親を東京へ呼び出す条件は…「彼氏として挨拶する事」
それより、あと一週間で日向さんに「実家に帰るより一緒にこっちにいたい」って思わせなきゃいけない。
無理無理!無理だけど…やらなきゃいけないよね?
やるために必要な事、それは一週間で日向さんと関係を作り上げる事
俺は意を決して、503号室のインターホンを押したのだった。
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