その日は雨が降っていた。

少し悩んだ、正人とも「もうマンションには行かない」と約束してしまったし。

ただ「惚れた女の子を助けるのに雨が降っていたから行かない」というわけにはいかないだろう、と気持ちを奮い立たせて廃マンションに行く事にした。

「そういう問題じゃないだろう」とは自分でも思うが、雨はきかっけなんだろうな、きっかけを俺は欲してたんだろうな、行くタイミングが欲しかっただけで実は雨は関係ないんだろうな、と思う。

ビニール傘をさし廃マンションを目指す。

ビニール傘をたたみ、マンションの五階へと駆け上がり、念のため503号室のインターホンを押す、やはりというべきかタイムスリップは起きておらずインターホンは鳴らないし、503号室は空室だ。

「どういう仕組みなんだろう?もうタイムスリップは起きないのかも」と思いながらも傘を504号室のドアの外に置き、504号室の中に入る。

「二回とも504号室の中にいる時にタイムスリップは起きてるんだ。関係あるかどうかはわからないけど、関係ないならないで構わないし、可能性が一つ潰れるだけでも一歩前進になるじゃないか」と俺は思った。

504号室の中に入った途端に思い出した。

「そういや俺、掃除の最中だったんだ」

これ以上掃除をする気がなかったとしても、とりあえず掃除は終わらせなくちゃいけない。いや、今すぐやらなきゃいけない事があるわけじゃないからキリが良いとこまではやろうか?自分がいる空間は作らなきゃいけないし、今日がダメだってまたここに来なきゃいけないんだから。

そうと決まれば掃除を始める事にした。「ここには掃除をしに来たんじゃない。謎を解明しにきたんじゃないか?彼女を助けに来たんじゃないか?」と言われても具体的に何をすれば良いのかわからないんだからしょうがない。

俺はフローリングの雑巾がけをドタドタとはじめた。

ほどなくドアを控えめにノックする音が聞こえた。

「昨日は具合悪そうだったから来るのは遠慮したけど、掃除の音が聞こえたから来ても大丈夫かもと思って…って何でそんな嬉しそうなんですか!?」

ドアを開けたところに立っていたのは日向さんであった。


嬉しかったのは「もう二度と会えないかも」と思ってた日向さんに会えたからだけではない。


タイムスリップのタイミングが判明したのだ。

ドアを開けた瞬間、青空が広がったのだ。ドアの外に置いたはずの傘がなかったのだ。

ドアに入るまでは2017年、入った後は2011年だったのだ。

そして推測が正しければ、もう一回504号室の中に入った時、元の時代に帰るのだ。

もう一つわかった事がある。

元の世界で一日経過すると、過去でも一日が経過している。

つまり任意の時代には戻れないし、やり直しも一回きりだ、二度とやり直しは出来ないし、失敗は許されない。


「日向さんを助けるんだ」と決意を新たにし、彼女と一緒に504号室の外へ出るのだった。


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