秋田じゃないのに「ひとめぼれ」
歩いてマンションまで戻ってきた。
何で5階に人が住んでるのに、エレベーターが止まってるんだよ!
エレベーターが止まってるからこのマンション、廃墟だと思われてるんだよ。というか、エレベーター止めるなら一階に人を住ませりゃ良いじゃんか!
文句を言いながら階段を五階まで歩く。見つかったらエラい事だ、誰もいないのを確認しながら周りを見る。階段の途中に黒のスプレーで落書きがしてある。コレ、スプレーしたヤツも肝試しで来た証拠にスプレー残したんだろうな、「バカな事してんじゃねーよ」って俺には言えないわな。
504号室に入る前にスマホで写真を撮る。
次に荒れ果てた504号室に入り、スマホで撮影する。さて、証拠としては充分撮影したかな?…という頃ドアをノックする音がした。「何回かインターホン鳴らしたんですけど、鳴らなかったんでドアをノックさせてもらいました」そこには前に見た女の子が立っていた。前に見た時には余裕はなかったけどちょっと、いや、かなり可愛いな、好みかも知れない。
「インターホンの電池が切れてたんでしょうね、そういえばエレベーターも動かなかったな。ボロいマンションはイヤですね」俺は言い訳のように言う。本当なら何も話さずボロが出る前に退散するのが良いんだろうけど、可愛い女の子とお近づきになりたい、なんて下心があったりなんかして。しかも「マンションに引っ越して来たけど、オンボロだったからすぐに他所に引っ越した」なんてアリバイ工作をするための言い訳をしている自分のしたたかさに驚いていると、
「え~!エレベーター使えないんですか?朝は使えたのに変だな~。あ、そんな事よりせっかくお隣同士になれたんですから、助け合ってこの東京砂漠を歩いて行きましょう!と、ここに来た要件ですが、あなたの名前を聞くのを忘れてたんです。言い忘れてました、私は中島日向(なかじまひなた)と言います。」女の子はペラペラと喋った。会ったばかりの男と話すには少し…何と言うか、悪く言えば警戒心がない、良く言えば気安い、かな?さっき東京砂漠って言ってたし、田舎出身かもな。つーか立川を、二十三区じゃない東京を『東京砂漠』って言うの初めて聞いた、というかきょうび『東京砂漠』って聞かねーな…と色々考えを巡らせていると、女の子は不安そうに「私なんか変な事言っちゃいました?」と聞いて来た。
「いや、どこ出身なんだろうなーって思ってただけですよ、別に変な事は言ってません。山中克己と言います。今後ともよろしくお願いします。」俺は微笑みながら否定したが、
「うそっ!?私訛ってた!?福島訛り出てた!?」と女の子は慌てていた。
そうか、この子は東北美人なのか、福島って確か会津若松弁だよな?この子のズーズー弁も聞いてみたかったな…と思いながらも「訛ってませんよ。ただあなたみたいな純粋さを東京の人間は失って久しい、と思っただけです。そうだ、友達に写真を見せるんです、よろしければ一緒に写っていただいて良いですか?」とスマホを出して女の子に見せた。
「構いませんよ!あっ!スマホだ!良いなあ…私まだ携帯電話なんですよ~。カッコいいですね!これがiPhone3Gですか?」
女の子は目をキラキラ輝かせながら言った。
俺はズッこけながらびっくりした。
東北では未だにiPhone3Gが流行ってるんだろうか?いや、この子がズレてるだけだろう。恥をかかせちゃいかない、スマホの話はうやむやにしよう。
「まあそんなトコです。じゃあ写真撮らせてもらいますね。」
「上手く撮れたら、私にも送って下さいね!メールアドレス教えますから」
この子、警戒心がなさすぎる。今日会ったばっかりの俺にメールアドレス教えるって…。でもラインアドレスじゃなくてメールアドレスってとこが東北らしい…と言ったら偏見かな?
「それじゃあ、また」帰っていく女の子を見ながら、「また来よう」なんてバカな事を考えていた俺であった。
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