廃墟マンションにラブロマンスを

@yokuwakaran

肝試し

「克己の住んでるアパートの近くに心霊スポットの廃墟マンションがあるらしい」俺の部屋で飲んでいた時、そんな話題になった。

「しししししし心霊なんてめめめめめめめ迷信に決まってるじゃんか。」

俺があまりにもビビりすぎていたから悪友たちは悪乗りしたのだろう。

「廃墟マンションの504号室に行って何か証拠になるものを持って帰ってくる事」それが俺に課せられたミッションだ。

廃墟マンションの504号室に来た。鍵はかかっていない。

ビビりながらも部屋の中に入った。部屋は散らかり雑然としていた。

あとは肝試しの課題として何かを証拠として持って帰ればクリアだ。

このマンションは廃墟化して、無人のはずだ。

503号室の部屋から物音が聞こえるはずがない。

はずがないのに…聞こえるのは間違いなく生活音だ。

カチャカチャと聞こえるのは洗い物の音か?

おかしい…本当に幽霊がいるんだろうか?

恐怖を恐怖のままにしておけない。

「幽霊の正体見たり枯れすすき」なんてのが当たり前なんだ。

トリックを知ってしまえば、ただの笑い話なのだ。

503号室で俺を驚かそうとして、仕掛け人が待機してるに決まってる。

俺は勇気を振り絞って、503号室に行ってみる事にした。


503号室のインターホンを押すと「ピンポーン」という音がした。

インターホンは古い電池式でまだ電池が切れていなかったらしい。しばらく待っていると「はーい」という声が聞こえた。

隠れる気ないのかよ!まぁ見つかったら最初から誤魔化す気がなかったのかもしれないな。と思いながら仕掛け人が出てくるのを待っていた。

出てきたのは俺よりも少しだけ歳下であろう女の子だった。女の子はエプロンで手を拭きながら来客に応対していた。そういや洗い物の音がしてたもんな。「あ、504号室に引っ越してきた方ですね、音がしてましたから誰が引っ越してきたのか気になってたんですよ。お隣さんが見た感じ若い方みたいで良かったです。気難しいお年寄りだったらどうしようか、と思ってたんです。これからよろしくお願いします!」

誰だ廃墟って言ったヤツは。最上階には人が住んでるじゃねーか!しかしまずったな、コレって不法侵入じゃない?いや、廃墟だって持ち主がいたら不法侵入が認められるかもしれない。そのつもりなくても俺って犯罪者?マズい!この女の子にバレる前に逃げて帰ろう。あ、504号室に帽子忘れてきた。帰る前に寄ってから帰らないと…。俺は挨拶もそこそこにその場を後にした。


マンションから帰ってきて自分の部屋に戻ると、俺の罰ゲーム報告を聞こうと悪友たちが待っていた。大学卒業を控えた2月、もうすぐ皆社畜として働かなきゃいけない。「遊べるのももうちょっとだけだ。」と言いながら、大学に近い俺のアパートに同級生達はたむろしていた。

「5階の503号室まだ人住んでたぞ!人を不法侵入の犯罪者にするつもりか!この時期に内定取り消しとかたまったもんじゃねーぞ!」俺は悪友たちに文句を言った。

「そんなはずないんだけどなぁ、しかも503号室だろ?さすがに趣味が悪いと思って肝試しを隣の504号室にしたんだぜ?自分から503号室に行くかね?それより『何か証拠になるモン持って来る』ってルールだったよな?何持って来たんだ?」悪友の一人が手を出し証拠を催促した。

「そんな余裕なかったって言ってるだろ?しかも人がいるのに物を持って来たら不法侵入プラス窃盗だ」俺は憮然としながらそう答えた。

「じゃあノーカンだな。別に証拠は物じゃなくたって写真だって良いんだ、証拠がないんじゃ行ってないのと同じだ。もしかしてお前、ビビっちゃって行ってないんじゃねーの?」悪友は煽るように言った。

カチンときた。どんだけ苦労したと思ってるんだよ!504号室まで歩いて登るのだってけっこう大変だったんだ。

「写真を撮ってくれば良いんだな?それが証拠になるんだな?もう一度俺に不法侵入をしろ…そう言うんだな?」やってやろうじゃねーか、相手は幽霊じゃなくて大家だ。みつからないようにすれば良いんだ、怖がる事はない。俺はヤケクソに決意するともう一度マンションを目指した。

克己が出て行った後、悪友たちが話していた。

「アイツ本当に503号室の女と話したのかな?」

「503号室の女って噂の『あの女』だろ?ないない!逆に俺らを怖がらそうとして失敗したんじゃねーの?」

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