「美しき尾羽根」

(これまでのあらすじ

カコの指令で園長たち一行は「けもののお守り」にビャッコ、ゲンブ、セイリュウの印を集めた)


 スザク。

 四神獣の一柱にして南方の守護神、五行思想では火を司る。形法風水に従えば、南方の開けた土地に宿るとされる。


「……残念ながらスザクの目撃情報はパークが始まって以来、皆無……。最後の四神に相応しい難題だな……」


 そうつぶやきながら、カコは手元の羽をじっと見つめる。 


「唯一の手がかりが、この羽根か……」


蛍光灯の光にてらされたそれはまるで火傷してしまいそうなほどに激しく、揺らめく炎のような燐光をちらつかせている。


「美しいな」


 常に冷静な彼女でさえも、その美しさには圧倒されていた。しばし取り憑かれたようにそれを凝視するが、背後から制止の声が飛ぶ。


「そろそろ返すのです。それは我々が見つけたものなのです」

「何かしかの手がかりは見つかったのですか?」


 コノハ博士とミミちゃん助手だ。この羽根の発見者である二人は、カコ博士の要請で渋々サンプルの貸与に(結構な対価と引き換えに)同意したのだった。


「……この羽、一見美しく見えるけども、羽の先が相当磨り減っている……羽先に着いた土を用いれば、おおよその位置は割り出せるかもしれない。地学セクションに鑑定を依頼してもらいます」


 小さなチャック付きの保存パウチに羽根に付着した土をはたき落としながら、彼女は新たな疑問を抱いた。


「……鳥たちにとっては命に等しい物のはず……何故粗末に扱う?」


*   *   *


「……というわけで、先輩があなたにスザクさんを探す旅に同行して貰いたいそうなんです、ご迷惑おかけします」


 ミライが訪れたのは、つい先日行われた「ジャパリパーク・ミス・フェザーコンテスト」で栄えある優勝を飾ったクジャクだ。  

 元々の動物譲りの飾り尾羽根は毎日丁寧に手入れされ、折れたり曲がったり擦り切れたりした羽根は一本たりとも存在しない。その腕前を習いに他の鳥のアニマルガールが度々訪れるほどだ。


「い、いえ。そんな事ありません。こちらこそ宜しくおねがいします」


 謙遜しながらも彼女は、まだ見ぬ鳥の王に期待を膨らませた。


 一行がたどり着いたのは南方キョウシュウエリアのはずれの火山地帯、黒茶色の固まった溶岩の表層の隙間を真っ赤な溶岩が血管のようにドロドロと流れる光景が地平の向こうまで続いている。


「う……熱い……わね……」


 まるで大地の傷口のように、その炎症は一本道を通る一行を殺菌しようとする。


「こんなこともあろうかと、最強の冷却装備を発明したわよ、その名も『メチャヒエールV』!」


 ギンギツネは顔中に無数の汗粒をフツフツと浮かべるフレンズたちに取り出したカイロのようなシートを慣れた手付きで貼っていく、瞬間、フレンスたちの顔は爽快感に悶えた。


「ひゃあっ!凄いよ!ギンギツネ!とってもすずし~……」

「火傷しそうだったほどの私の甲冑がどんどん冷えていきますわ!

「ネーミングセンスは相変わらずですけどね」


ルルとシロサイとトキはその絶大な効果に驚嘆の声を上げた。それを聞いたギンギツネはグルグルメガネのつるを直し、鼻息を吹かし意気揚々と一行の先頭を歩きはじめた。


「久しぶりに発明品が役に立ったから、得意げだね~」

「『セルリアン破壊爆弾』以降スランプ気味だったものね……」


 背筋を伸ばしたその後姿を見ながら、サーバルとカラカルが呟いた瞬間、ギンギツネの目の前に高い火柱がいきり立つ。


「ひゃああああああ!」


 驚きの余りギンギツネは飛び上がった。反動で外れたメガネが溶岩の中に落ちる。ドロドロと溶けていくそれを前にへたり込む彼女。

 その頭上に、黒い影が横切った。


「だ、誰?まさか……スザク!?」


 クジャクは反射的に空を見上げる……そのまま、硬直した。

 紅白入り乱れる体から放射する後光のような紅の羽根。太陽の光に照らされて火の粉のように輝くその姿、一瞬であったが、網膜に焼き付く。


 間違いない。と、本能が気づいた。 


 だが、その羽根の主は目を光らせると、園長の前に急降下してきた。音もなく着々した瞬間に羽根をすぐに折りたたみ、険悪な睨みを利かせてくる。


「お主ら……我に何の用……フン、そのお守りの印じゃな。くれてやるから、早く立ち去れぃ」


 そしてまゆ一つ動かさずに、首にかかったお守りを乱暴に引っ張り寄せ、手をかざした。紅い稲妻が走り、お守りには赤い印が刻まれる。


「いてて……あっ、ありがとうございます……」


 その場にいた全員が、一瞬にして獲得した印を唖然と見ている隙に、スザクは再び尾羽根を広げ、飛び去ろうとする。

だが、唯一印の事を意識していなかったクジャクは、それに即座に反応できたのだ。


「ま、待って下さい!」


 その差が幸か不幸か、クジャクの懸命に伸ばした右手をスザクの尾羽根に触れさせた……指先の感触がスイッチになり、反射的にそれを掴む……


「ふんぎゃあああ!」


 スザクの叫び声が空一杯に響き渡り、我に返ったクジャクは、右手に掴んだ物を見てはっとした。


「……綺麗……」


 思わず、溜息が出た。


*   *   *


「すみません!すみません!すみませんでしたぁ!」


 平身低頭する彼らを無視して、スザクは腕組みをしながらクジャクを睨み据える。

 だが、クジャクも負けじと睨み返し、怒りの言葉を露にする。


「いくら四神の一人でも、こんなに無愛想でいいわけありません。せっかく訪ねてきた園長さんたちに対して失礼過ぎます」


 そして、目を手元に携えた尾羽根に移して、哀れむように言葉を落とす。


「それに……この羽根、とても美しいですが……手入れがなっていません。折角の羽根なのに……」


 スザクはそれを聞いて眉の斜角を上げた。


「……まずは我の羽根を返すのじゃ」


 クジャクは両手の掌で大切に持っていた羽根をそっと手渡す。スザクはそれをひったくるように奪い取って、そのままそれをちり紙を捨てるように……


「そ……そんな……」


 弾き落とした。ひらひらと熱風に煽られながら、淡い光を放ってそれは落ちていく。溶岩の海に。


「……どういう事ですか?捨てるくらいなら、私が大切に飾っておきますのに!」

「それこそが我が最も忌む事じゃ」


 スザクは目を伏せて、これまでを振り返るように話し始めた。


「我は今まで他の何者にも、この羽根を見られる事が無いように隠れ生きてきた……この羽根を見たものは、皆、狂っていったのじゃ……その美しさに」


 クジャクをはじめ誰もが息を飲む。彼女の悲しげな瞳はそれが自惚れでは無いことを表していた。悲しい現実を認めざるを得ないといった口調が続いていく。


「これをひと目見た者共は、揃ってこの羽根を手に入れようと追い求めたのじゃ。自らを飾るために、千金を得るために。羽根を奪い合う争いが絶えなかった事もあったのぅ……我は自らの尾羽根に慄いた、その美しさ故の恐ろしさにな……」


 彼女だけが知る遠い過去の記憶。無理もない。と誰もが思った。それでもクジャクは反駁する。


「でも、それはスザク様の責任ではありません……振り回された人たちの自業自得です。スザク様は何も悪くありません……」


 だが、スザクはクジャクの鼻先までずかずかと歩み寄ると、彼女の瞳の奥底を見通すように覗き込んだ。

 クジャクは動揺を隠せなかった。スザクはそのまま尋問するように、ねっとりと言う。


「……無論じゃ。だが、お主も我に振り回されぬとは言い切れぬぞ。お主の美しき、手入れの入ったその尾羽根、その誇りが我の尾羽根に敗れたのを我は見た……傷一つ無いその尾羽根に確かに刻まれたその傷……果たしてそれが癒やされるかのぅ……。もしくは、我に対する嫉妬の炎に燃えるやもしれぬのぅ……」

「……そ、そんな訳……」


 クジャクは否定しようとしたが、スザクの瞳を誤魔化す事は出来ないと悟った。確かに彼女の羽根を見た瞬間、彼女は悟ってしまったのだ、ジャパリパーク一とされる自分の尾羽根でも、この美しさには決して敵わないという事を、直感で、本能で。

 その事実を、彼女はまだ胸の中で落ち着かせる事が出来なかった。落ち着かせられるかどうかすら分からなかった。

 スザクは踵を返すと、虫を追い払うように手で宙を払う。


「……分かったなら、直ぐに立ち去るのじゃ。そして我の事を忘れて、平穏の日々に戻るのじゃ。我もわざわざお主らの前に現れ心を騒がせる事は無い」


 羽根を遠慮がちに広げ、瞬時に彼女の姿は黒い噴煙の中に消えていった。


 「さらばじゃ」


 クジャクたちはその後ろ姿をただ、呆然と見ている。


 否定し得ない美しさだけが、そこにあった。


*   *   *


 それから数日が過ぎた……


 コノハ博士とミミちゃん助手がアニマルガールたちの集まる広場に堂々と歩いてやってきた。ステージに足音高く登ると、いつもは五月蝿いと言って頑なに嫌うスピーカーまで使って、宣言する。


「え~博士はこのたび、この、世にも珍しい『スザクの尾羽根』をオークションに掛けることに致しました」


 ミミちゃん助手の司会に沿って、コノハ博士は手元の赤いベールをさっと引き剥がすと高々とそれを衆目に晒す。


「見るのです!この世に2つとない美しさ。欲しい者は急ぐのです!ジャパリゴールド100個から始めるのです。入札者はいないのですか……?」


 だが、フレンズたちはそれを奇妙な目で見ていた。博士と助手は、期待はずれな展開に拍子抜けし、観衆たちを見渡して……髪飾りや胸元に、自分たちの物と同じような真紅の羽根が付いている事に気づいたのに時間はかからなかった。


「……どういうことなのですか!なぜお前たちが揃いも揃ってスザクの羽根を持っているのですか!?」


 苛立つコノハ博士に、フレンズたちは一斉に、広場に続く道で籠を手に羽根を配る園長とミライを指さす。


「スザクさんが尾羽根を、みなさんにどうぞ、と、たくさんくださいました!」

「一人一本づつでお願いします!」


 ミライの手から羽根を受け取ったフレンズたちは、それを日光に透かし、燃えるような輝きに目を喜ばせていた。籠いっぱいの羽根は広場中のフレンズに十分に行き渡って行く。


「凄い、綺麗な羽根……」

「こんなに美しい羽根は見たことがありませんわ!」

「貴重な物のはずなのに、気前よくくれるなんて、スザク様はふとっぱらだね!」


 恍惚とした感嘆の声がそこかしこから立ちのぼる。


「……ぬぅ……みんなが持っていたらこの尾羽根の希少価値は無いのです。誰も買い手はつかないのです。してやられたのです……」


 分が悪いと判断した賢い二人はオークションをきっぱりと諦め、尾羽根を仕舞うとそそくさと広場を後に飛び去っていった。


「……本当にこれでいいのでしょうか……ミライさん」


 籠の中の羽根が一本も無くなったを一瞥して、園長は不安な表情をミライに投げかけた。ミライにもその表情が移る。だが、彼女もそれに答える事は出来なかった。


「分かりません、でも、これがクジャクさんの出した結論なのは間違いありません。彼女を信じましょう」


 園長は軽く頷くと、空っぽの籠を片手に、誰もいないステージを眺めた。


*   *   *

 

 その頃、クジャクは単身、スザクの元を訪れようと灼熱の大地を一歩一歩踏みしめていった。両手には大きな木箱を提げ、額には汗がダラダラとこぼれ落ちる。


「メチャヒエールVの効果がこれほど短かったなんて聞いてませんわ……」


 目を回し、千鳥足でなんとか進み続ける彼女に、とうとう限界が訪れる。朦朧とした視界が暗転して、倒れ込んだ。


「もう……ダメ……です……」


 地面にその額を激突させかけた瞬間、彼女の肩ががっしりと掴み上げられる。

 驚いて頭を上げると、熱風に揺れる赤い髪が見えた。


「……全く、懲りずにまたやって来たのか。このまま野垂れ死なれてはかなわん。肩を貸すのじゃ」


 彼女を引き上げた瞬間、スザクの表情は一変した。


「こ、これは一体どういうことじゃ!」


 無理もない、あれほど鮮やかな翡翠色と瑠璃色を輝かせ、派手な模様を誇っていたクジャクの尾羽根は、その腰から一本も残らずに忽然と消え失せていたのだ。


「あれほど自らの尾羽根を大切にしておったお主が……」


 クジャクは気を持ち直すと深呼吸をして、スザクの尾羽根を、そっと撫でるように触れ、状態を確認する。


「……我に勝ち目が無いと悟り、自暴自棄になったのか?……理由はなんにせよ……お主は……」


 動揺を止められないスザクの隙をついて、クジャクはすばやくスザクの後ろに回り込んだ。倒れ込んだのはスザクを誘い出すための演技だったのだ。


 その勢いのままスザクの肩を掴み腰を落とさせると、木箱を開いて尾羽根の手入れを始めた。

 その熟練の手さばきで折れ曲がった羽根は丁寧に抜き取られ、擦り切れた毛先は縦横無尽に走るハサミで元の形に切りそろえられていく。


「なっ!やめるのじゃ、そんな事をしてどうするのじゃ!」


 スザクは一瞬抵抗したが、クジャクは彼女の背中を優しく包む。そこから伝わるほの暖かさに、スザクは抗う力が奪われたように感じた。


「……あなたの美しい羽根を見た瞬間、心の中に様々な気持ちが起こりました。羨ましくて、妬ましくて、遣る瀬なくて……でも、突き詰めれば、それを“美しい”と思う気持ちが全てだと気づきました」


 話しながらでもクジャクの手は休まることを知らない。絡み合った毛を櫛ですいていき、字のごとく一糸乱れず整えられたその羽根に、指先に艶やかに滴る脂を染み込ませていく。一枚一枚に、裏に表に、丁寧に。


「そして、思いました。スザク様の美しさをみんなに見せてあげたいと、スザク様が自分の美しさを堂々と誇れるようにしてあげたい、と」 


 尾羽根を、二つとない宝石を扱うように丁寧に触れるクジャクの手の感触だけがまっすぐ伝わって来る。

 スザクは顔を引きつらせた。今まで感じた事の無い思いが体中を痙攣させた。自らを傷つける者は数多いた……だが、自らに心から尽くす者は……


「……なぜじゃ……何故、お主は我のために……ここまで……」


その問いかけに、クジャクは訳もなく、微笑みを浮かべて答えた。


「スザク様が美しいから、それだけです」


 クジャクは道具を箱に収めると、スザクの手を取って立ち上がらせた。だが、それに留まらずそのまま手を滑らせて腰を掴む。


「しっかり掴まって下さいね!」

「こ、今度は何じゃ?!」


 スザクの言葉よりも先にクジャクの頭の羽根は大きく羽ばたいた。少しづつ高度が上がるにつれ、地獄のような火山帯が眼下に小さくなっていく。それとは逆に、だんだんとパークの賑やかな広場が近づいて来る。


「あそこまでお一人で飛べますか?」


 指差す先にはステージがあった、真っ赤なカーペットが敷かれ、金一色の屏風が立てられている。準備万端だ。


「……無論じゃ。じゃが、それがどんな結果になるか我には分からぬ。衆目に我が身を晒す事で如何なる悲劇が起こるのか……」

「悲劇なんて起きません」


 クジャクはスザクの瞳をまっすぐ覗き込んだ。その奥の奥にある不安を取り除こうと。


「もし、スザク様が悲しまれる事になれば、その時は焼き殺して頂いても構いません」


 スザクは呆けて笑いだした。


「お主、狂っておるのじゃな。救いようもないほどに」

「……はい」


 そのまま羽根を大きく広げ、自分からクジャクの手を離れて飛び去っていく。一直線に。


*   *   *

 

 ――今までずっと、この羽根を隠して生きてきた。

   美しきこの尾羽根に狂わされる人々を見て来た。

   この尾羽根のために、自らの命が狙われる事もあった。

   貶め続けた、虐め続けた、我が身を苛むこの羽根を。

 

   そして、また一人、この尾羽根で狂う者が生まれてしまった。

 

   だが、彼女は私を連れ出してくれた。広い世界へと――



 広場ではフレンズたちがスザクの尾羽根を振りながら、上空を舞うスザクを歓迎している。それはまるで真っ赤に波立った海のようだ。

 ステージに意を決して降り立った彼女は、しばし呆然としていた。かつてこれほどの人々の前で、これほど堂々とした事があっただろうか。火山にいた頃よりも、喉が乾き言葉が詰まる、汗が額を流れていく。


 だが、だんだんと落ち着きが出てきた。自分を受け入れて、自分のために尽くしてくれた者たちに出来る事を、自らに為せる事を考える。

 目を閉じ、小さく頷いて深呼吸をすると、彼女は胸を張り、両手をゆっくりと広げ、震える声を押し通すように言った。


「皆の衆、我のために集まってくれた事、心より礼を言うぞ!そして、心優しき者共住まうこの地を、四神獣の一角として未来永劫、守り続けようぞ!」

 

 会場からパーク全体に響くような、割れんばかりの拍手と歓声が轟いた。


 ――そのきっかけになったこの羽根は、思うより悪い物では無いのかもしれんのぅ……


*   *   *


 月の光だけの広場では、如何に美しい尾羽根でも、その輝きを見ることは難しい。


「カコ博士が私の尾羽根の色をスザク様の色に近づけてくれたんです。サンドスターで羽根の構造を変化させて、赤色だけを反射するようにしてくれました」


 そんな安らかな暗闇の中で、スザクとクジャクは座って言葉を交わしている。


「ほう……そんな力がサンドスターにあったなんて気づかなかったのぅ」

「大変な苦労だったみたいですけどね。『尾羽根の状態が気になって、羽根のエキスパートであるクジャクを派遣したのは私だからな。その結果起こった問題は私が解決しなければならない』と言いながら頑張って下さいました……責任感の強い博士らしいですわ」


 クジャクは軽いエピソードを挟んで、気楽に答えるが、スザクは彼女の腰に目を遣ると申し訳なさそうに声を落とす。


「だが、結果として……その尾羽根……すまなかった。取り返しのつかぬ事をしてしまったものじゃ……」


 クジャクはその言葉を聞いて思わず吹き出してしまった。


「そんな事、気にされていたんですか?」


 戸惑うスザクに対して、クジャクはステージから降り立つと、満面の笑顔で答える。



「クジャクの尾羽根は、毎年生え変わるんですよ」



 スザクは心の中で感嘆した。

 月の光を背に受けて照らされた見えない尾羽根は、自分の尾羽根よりも、何よりも美しかった。


*   *   *


「……四神の印は全て集まった……だが、まだ印は完全ではない」


 園長からの報告を聞いて、私はあの”夢”の記憶を深くまで掘り起こす。そうだ。あの”お守り”に印は6つあった。オイナリサマの印と対になるように、四神の力をヒトの手でコントロールできるようにするための、鳥居形の印がもう一つ。確かにあったはずだ。


「急がなければ……”あれ”が起こる前に」


 

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