「Proceed from "第一部 完"」


 激しい戦いの末、私達はセルリアン女王を倒した。


 案内してくれたガイドさん、一緒に戦ってくれたサーバルちゃん、カラカルさん、トキさん、シロサイさん、ルルちゃん、陰ながら助けてくれたギンギツネさん、最後の戦いに協力するために、パークセントラルに集まってくれた沢山のフレンズさんたち。


 そして、セーバルさん。


 *   *   *


 女王にサーバルの“特別”を殆ど奪われて、支配下に置かれてしまったセーバル。

清めの塩を使ってセーバルを消滅させるべきかどうか、苦渋の選択に苦しむサーバル。


 その時、急に壁のモニターがパッと光った。誰もがその光景に釘付けになった。映ったのはゴコクチホーで撮影したマーゲイの映画。峰打ちを食らって倒れたセーバルにキャプテン・サーバルが呼びかける。


「セーバル!」


 セーバルはその赤い目をゆっくりと開くと、こくりと頷きかえした。キャプテン・サーバルはセーバルを涙目で抱き起こす。


「正気に、戻った……?私の声が、届いたんだね……!」


 崩れ行く幽霊船の上で立ち上がったキャプテン・セーバルとサーバル、二人は真っ直ぐにお互いを向き合う。


「うん……サーバルの声、いつも聞こえてる。サーバルはセーバルの“トモダチ”……」


その最後の言葉と一緒に、海に反射する夕日を浴びながら二人は手を握りあった。瞬間、画面が乱れ、音が飛ぶ。


「セ……バル、そ…う だ  よ」

「あああもう! 一番いいとこから先に流してどーすんのよ! ちょっと待ってなさいよ! 今のは無し、ちゃんと――」


 混乱するマーゲイの怒声をバックに、糸の切れるような音を立ててモニターは元の黒い板に戻り、スピーカーはただの箱になってしまった。


 だけど、その最後のセリフの続きは、覚悟の表情で清めの塩を握りしめたサーバルの口から、はっきりと聞こえてきた。


「セーバルは、私の”トモダチ”だよ!」


 そのまま塩を飲み込んで倒れてしまうサーバル。その様子を見たセーバルに変化が生じた。


「……バル……バル……」


 女王のコントロールに抗う痛みに耐えるように目をぎゅっとつぶり、歯ぎしりしながら、体を折り曲げていく。刹那、激しい光がセーバルの胸から放たれ、その表情が落ち着くと、今度は体を仰け反らせ、両手をめいっぱい大きく広げた。


「サー……バ……サーバル……サーバル……」


 その姿は大きく変化していた、ほんの少し残っていたセーバルの“特別”そしてサーバルと通い合った心が生み出した“輝き”が、不安定だったセーバルの体を確固たるものにしていく。


「サーーーバルゥウウウウウウウウ!!!」


 そして、激しい叫びと共に見開かれたその目には、決意の光が宿っていた。

 セーバルがセルリアンからフレンズになった瞬間だった。


 *   *   *


 こうして私達の仲間になったセーバルさんと共に、暴走したセルリアン女王を打ち倒された。本当にギリギリの戦いだったけれど、でも、フレンズのみんなとの絆があれば、どんな大変な事でも乗り越えられる。オイナリサマの印が刻まれたお守りを見る度に、そう思える。


 女王事件が収束した後も、私はパークに残らせてもらって、ガイドさんやフレンズの皆さんと一緒にパークの正式オープンのために頑張っている。といっても、そんなに大したことはしていなくて、パークがオープンした時の施設やイベントの予行練習で「お客さん」役として参加したりするくらいなんだけれど。その上みんなが“園長さん”と呼んで慕ってくれるので、そのたびになんだか恥ずかしい。


 そうしてしばらく経ったある日、ガイドさんから電話がかかってきた。


「園長さん!カコさんがパークに戻ってくるそうです!どうです?一緒にお迎えに行きませんか?」

「ガイドさんまでその呼び方するなんて、困りますよ……」

「いえいえ、あなたのおかげでパークは大きな危機から救われました、カコ博士にもこの武勇伝をお伝えしなければいけませんから……」


 ガイドさんはもう有無を言わさず、私を連れて行く気満々のようだ。


 *   *   *


「もうそろそろなんですけどね……」


パーク・セントラルに仮設された港のベンチに座って、ミライさんは退屈そうに足をぶらつかせるサーバルちゃんとセーバルさんを見ながら時計を気にしている。足元の紙袋がバサバサと音を立てた。


 そのうち、汽笛が鳴り響き、水しぶきの煌めきと共に小型の連絡船が近づいてきた。サーバルさんの耳がピクッと立ち上がる。


が、それよりも早く動いたのはガイドさんだった。紙袋を掴み上げて船を睨み据え、すっく立ち上がる。いつもの丁寧で優しい物腰からは想像もつかないその動きに、私もサーバルちゃんもセーバルさんもベンチに固定されてしまった。


開いた乗船口から、眠たげな顔で綺麗な緑髪の女性が出てきた瞬間に、ガイドさんはそれに向かって一直線に走る、ブーツの音がコンクリートを鳴らし、そのテンポはだんだんと早くなる。

そして、その女性が船から降り、辺りを感慨深く見回そうとした刹那、ガイドさんの手が紙袋の中の物を掴み、その女性の顔に向けて


思いっきり、投げた。


「ぶふぁっ!」


潮風に煽られてその白い布は女性の顔に張り付く、想像だにしなかったガイドさんの行動に呆然としながらも、


「カコ博士を助けないと!」


 というサーバルちゃんの言葉の合図で、私達は走って行く。ガイドさんはその場でじっと立ったまま、布を引き剥がそうともがくカコ博士の様子を静観している。

 そして、あと一歩の所で、カコ博士の足が、港のコンクリートの濡れた床に滑った。


「危ない!」

「うみゃみゃみゃみゃみゃみゃーっっっ!!!」


 サーバルちゃんがとっさに大ジャンプして、倒れるカコ博士の背中の下に潜り込んだ。そのまま下敷きになるサーバルちゃん、だが、そのおかげでカコ博士に怪我はなかった。


「大丈夫ですか!?カコ博士」


 その手を取って引き起こす、ふらつきながらも立ち上がったカコ博士は、やっとの事で白い布を剥ぎ取ると、それを2,3度はたいて広げ、袖を通す。波の音と共に激しく風に揺れる髪の白衣、“博士”と呼ぶに相応しい風貌と精悍な目付き……


「……あれ……どこかで……」


 頭の隅がズキンと痛む、ホートクチホ―で過去の記憶をおぼろげに思い出した時の違和感が私を包みこむ、胸元に目をやると、お守りがぼんやりとした光を放っていた。


「やれやれ。予想はしていたものの、これはしばらく口をきいてくれなさそうだ……」


 もう爪の先ほどにしか見えなくなったガイドさんの後ろ姿を眺めながら、カコ博士は頭を掻く。そして目の前の私に向き直った。


「パークの危機を救ってくれた事、心より感謝する。” 名誉園長”さん。……だが、パークにはまだまだ解決しなければいけない事がある。そのためにはあなたとそのお守りの力が必要だ。申し訳ないが、今後も引き続き協力してもらえないだろうか」


 差し伸べられた右手に、緊張しながらも、握手をして答える。


「は、はい!私で良ければ……」


 カコ博士は口元にうっすら微笑みを浮かべて軽く頷くと、今度は視線を右にずらす。


「いてててて……」

「サーバル だいじょうぶ?」

「うん、何とか……ね……」


 立ち上がるサーバルの肩を支えるセーバル、通じ合う二人の視線。

 その様子を視界の隅に見ながら、カコ博士はふと口を開く。


「……まず……サーバルとセーバルから、目を離さないでくれ。そして、出来る限り一緒にしてやってくれ」


 その表情は先程とは打って変わって、静観と憂いが入り混じっていた。その理由も心中も推し量る事が出来ない私は、ただ静かにコクリと頷いた。


 *   *   *


「お恥ずかしい所をお見せしてしまい、すみませんでした……」


 後日、わざわざガイドさんが謝りに来てくれた。律儀な性格は相変わらずだった。


「いえいえ、博士にケガもなかったですし、大丈夫です。……それより、パークの開園日が決まったっていうのは本当ですか?」

「はい!……といっても、以前開放していた試験開放区域を再開する程度なのですが、それでも開園のための大きな一歩には違いありません!これから忙しくなりますよ!」


 両手を握りしめて、胸の前で構えながら、ガイドさんのメガネの奥の瞳が光る。私もそれを見て、パークの新しい一歩を支えようと決心した。忘れてしまった過去の事、お守りの謎、そしてカコ博士の憂い、心の隅でひっかかっている事も少しあるけれども、きっといつか分かる日が来る、そんな期待と一緒に。

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