「フレンズ流の正義《ジャスティス》」
「なるほど、我々”スカイインパルス“と”スカイダイバーズ”を中心とする猛禽類フレンズを集め、対セルリアン戦闘グループ『飛行強襲旅団』を作る、という訳か」
ホートクエリアで大盛況のうちに終了したスカイレースの後、ハクトウワシは腕を組みながら、その鋭い目をキリッと細めて、コノハ博士とミミちゃん助手の提案を聞いていた。
「はい、その通りなのです」
「我々猛禽類は索敵能力、飛行能力、攻撃能力では鳥類の頂点なのです。このチームはパーク最強の武器になるのです」
フクロウの二人も背丈の違いを一切意に介さず、その丸い瞳をハクトウワシに向けていた。
「ふむ……But」
ハクトウワシは頷いたまま目を伏せ、その視線を移す。そこにはに先程まで1、2を争っていたスカイダイバーズがいた。代表のイヌワシは眉間にシワを寄せて不安げな顔だ。
「その前に、スカイダイバーズ側の意見を聞かなければならないわね」
公平に意見を聞く。それは彼女なりの
* * *
天空の正義を貫くフレンズ私設実力部隊、スカイインパルス。ハクトウワシ、オオタカ、ハヤブサの大型高速猛禽類の3人組は、ホートクエリアを中心として、セルリアンの討伐を疾風怒濤の勢いでこなしており、管理センターからの評判も高いベテランだ。
「私としても、共に戦ってくれる仲間が多い方が心強い。先程の空中戦も、まるで何度も訓練を重ねたような連携だった。共に戦う上での不安は一切ない。どうか協力してくれないだろうか」
しかし、スカイダイバーズはその名の通り、単なるフレンズのスカイダイビング愛好会。対セルリアン戦闘と聞いて渋い顔をするのは当然だった。
「……オレたちは全員が猛禽類だが、これからも沢山スカイダイビングの仲間を増やしたい。そいつらは猛禽類じゃなかったり、戦うのが得意じゃなかったりする奴かもしれない。チームを組むことで、敬遠してしまうフレンズは間違いなくいるはずだ……」
リーダーのイヌワシは、ハクトウワシの正面で襟を正して正直な言葉を紡いだ。ゴマバラワシとグアダルーペカラカラのルペラは後方でイヌワシを見守っている。
「ビビるのを見るのは好きだけど、実際に傷つくのはね……。辞められちゃったら困るもの」
「私も、スカイダイビングだけでも怖かった。それにセルリアンとの戦いが加われば……言わずもがなね」
双方の言い分を聞き、ハクトウワシは深く頷いた
「All right.把握したわ」
それぞれの現状を共有した後、ハクトウワシは腕を組み思い悩んだ様子でひとまずの留保をした。
「博士、助手。結論は少し待って欲しい。今のままでは双方が連携するのは難しいわ」
「分かったのです……」
てっきりハクトウワシが乗り気の返事をしてくると思った博士と助手は、歯がゆい気持ちを含んだ返事をした。しかし、すぐにその真ん丸の瞳が輝いた。
「……ここだけの話、ホートクエリア全空域の支配権は我々にあります。今回のエアレースの許諾者も主催者も我々なのです」
「我々はホートクエリア管理センターの管理権を移譲されたのです。職員の全面避難時に”偶然たまたま”通りすがった時に」
オオタカは打って変わって黒いオーラを放つ二人に圧されてしまっているほどだ。
「……それは“どさくさに紛れて”というのでは……」
トーンと反比例する威圧感を持った声で、博士は眉毛一つ動かさず結論を言う。
「つまり……スカイダイバーズの活動は我々の胸先三寸なのです」
「それでは、良い返事を期待しているのですよ。ハクトウワシ」
* * *
翌日、ハクトウワシはオオタカとハヤブサを引き連れて、ホートクの空を一望できる高台へと飛び立って行く。
「今、全力を挙げてセルリアンを倒さねばならない時なのは間違いありません!なんとしても『飛行強襲旅団』を結成し、ホートクエリアからセルリアンを追い払いましょう!」
「彼女たちに無理強いするのは気が引けますが……我々は少数部隊、大量のセルリアンを相手にするには人員が足りません。スカイダイバーズに協力するようなんとか説得すべきだと思います」
それぞれの意見に耳を傾けた後、ハクトウワシは羽根を羽ばたかせ、目的地を見据えた。
「二人の考えは良くわかった。それを踏まえて、私の考えを言わせて欲しい……あの高台で」
* * *
「フレンズに危害を加えるセルリアンを倒すことを、君たちや博士は常に正義だと信じている」
雲さえ眼下に映える高台からの風景を眺めながら、ハクトウワシは2人に背を向けて話し始める。
ハヤブサはハクトウワシの他人事のような言葉に虚を突かれたが、すぐに語気を強めた。
「当然です!……ハクトウワシは違うのですか?」
すぐさまハクトウワシは振り向く。
「Of course! 同じだわ。……しかし、そのために他のフレンズを意のままに動員し、その自由を奪うことは、意思のないセルリアンを動かして、私達の輝きを奪う……かの『セルリアンの女王』と何も変わらない、と私は思うわ」
その言葉と共に、彼女たちの脳裏に思い起こされるのは、あのセルリアン……バードリアンに乗ったフレンズ型のセルリアンと、
『イケ、スベテノチカラヲササゲロ。 ジョオウノタメニ』
去り際に放たれたその無機質な言葉。
女王の為に、駒のように動かされるその姿は、中身のない空っぽな人形のようだった。
「セルリアンと戦うために、私達までセルリアンやセルリアン女王のようになってはならない。そうなった時、”
「…………」
ハクトウワシは、今度はしっかりと二人の目を見つめ、真剣な表情で宣告する。
「忘れないで欲しい……私の掲げる
「……では、なぜ?なぜハクトウワシはそんなに堂々と……」
戸惑う二人。
しかし、腕を組み仁王立ちになったハクトウワシの口元は対照的に吊り上がる。自信に満ちた笑い顔。
「Very Simple!私達が守ったフレンズの自由が、笑顔が、輝きが、私の
刹那、彼女の背後から無数の鳥が、鳥のフレンズが賑やかな声を上げて飛び上がってくる。赤、青、黄色、緑、黒に白。その中には、スカイダイバーズの3人組もいた。
「日々の生活を楽しんだり、真剣にレースをするフレンズ達や、沢山の仲間とスカイダイビングをする”スカイダイバーズ“。彼女らが、私達が行ったことが正しいことを証明してくれている」
その羽ばたきが風となり、彼女の軍服はその風を一身に受けはためかせる。
「だから私は、胸を張って”ジャスティス”と言える!」
ハヤブサはその堂々たる様子をしばらく黙って見ていたが、深く頷くと
「……お気持ち、心に染みました……確かにそうですね。自由に生きるフレンズ達がいるから、胸を張って戦える……その通りです」
と、ハクトウワシの意見を心から認めた。
しかし、問題はまだ解決していない。オオタカは疑問を差し挟む。
「ですが、今のままでは人員不足は解消できません……なにか対策はあるのでしょうか?」
「ああ、そうだな……それなら、こういうのはどうだろうか?」
そう言って博士から貰った立案書を指さしながら、ハクトウワシはほくそ笑んだ。
* * *
「……というわけで、こちらからも『飛行強襲旅団』の結成はToo earlyと結論付けたわ。博士たちには申し訳ないけど」
数日後、集まったスカイダイバーズと博士・助手の前で、ハクトウワシは開口一番に宣言した。
「それに加え、立案書の内容”・司令官、副司令官は猛禽類の長にして叡智の象徴、コノハ博士とミミちゃん助手が務めるものとする”この内容にも不服だ」
「実戦経験も実力もこっちのほうが格上ですし、何よりハクトウワシという適役がいますわ」
それに流れるように続くオオタカとハヤブサの指摘に、博士と助手は頬を膨らませて反駁する。
「何を言うのですか、軍隊は我々のような叡智ある者に支配されるべき……らしいのです」
「“しびりあんこんとろーる”です。我々の命令に従うのです」
その言葉を待っていたかのように、ハクトウワシは止めを刺す。
「それならば、博士と助手自らがチームメンバーをスカウトするのがBestでしょう!」
「ぬぅ……一理あるのです……」
博士と助手は彼女の提案と眼光に一瞬たじろいだ、が、すぐに元の調子を取り戻す。
「たしかに最初から最強戦力を投入するのは愚策です。暇な留鳥どもをかき集めれば優秀な突撃部隊になるでしょう」
「我々のカリスマと頭脳があれば、赤子の手を捻るよりもたやすいことなのです」
二人はそのままスカイインパルスに背を向け、ちらりと一瞥すると、
「では、我々は我々でやっていくので、お前たちはお前たちでせいぜい頑張るのです。では」
そう宣言して飛び去っていった。
残された2チームは、小さくなっていく博士と助手の背中をしばらく見ていた。が、イヌワシはすぐにハクトウワシに向き合った。
「オレたちに代わって、博士たちを説得してくれて本当にありがとう……そして、わがままを言ってすまない、本当は一緒にセルリアンと戦うべきなのだろうが……」
すぐにハヤブサが首を横に振る。
「わがまま?何を言ってるんだ。私達は好きで正義のヒーローをやってる。そちらが趣味でスカイダイビングをしているのと何も違いはない」
オオタカは優しげに言葉を繋げる。
「そして、貴方達はこの空に、セルリアンから守られるべき価値を与えている、私達はそれを守るために精一杯戦う」
最後にハクトウワシの翼と尾羽根が威風堂々と広がる。
「YES!これがフレンズ流のジャスティスよ!」
イヌワシは一瞬呆然としていたが、すぐに頷き返すと、スカイインパルスに負けるとも劣らない声量と気合で宣言する。
「分かった。ならばオレ達も精一杯スカイダイビングを極めて、沢山のフレンズ達に広めるために、やれることをとことんやるだけだ!」
ゴマバラワシとルペラもスカイインパルスに歩み寄り、意気込みを語る。
「負けてられませんからね。意気込みも、実力も」
「次の勝負では、あなた方の慌てふためく様子をじっくり見させて貰うわ……沢山の後輩の様子と一緒にね……フフフ」
共に戦っていなくても、2つのチームはお互いを支え合って飛んでいる。
一つの空を飛んでいるのだ。
* * *
その頃。
アンインエリアの棲家への帰路を一直線に飛びながら、博士と助手はもう自分たちのグループについて検討を始めていた。
「グループの名前は……『まったり浮遊部』とでもしておきましょう。イメージ戦略です」
「流石です博士、誰もセルリアン退治に駆り出されるなんて思いません」
「それでは準備が整い次第、スカウティングに行きましょう。博士の名を出せば皆喜び勇んでグループに加わるでしょう」
「助手もいますから、間違いありませんね」
数日後、二人による『まったり浮遊部』設立のための強引なスカウトで、パークに一波乱起こるのだが、それはまた別の話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます