取り戻すための戦い

 石北が変人部のメンバーと共に、毎日放課後図書室に集まる様になって数日が過ぎた。


「問題は、ブロックチェーンを使ってIPアドレスの交換をするとなると、ブロックへのIPアドレスの書き込みが確定して相手が読める状態になるまでにタイムラグがあることだとおもうんだ。ブロック生成時間が十分間に一個のビットコインでは無理だから、十五秒に一個のイーサリアムか、それともNEMの方が速いか……」


「とりあえずメジャーどころの仮想通貨の中で、トランザクションの確定までにかかる時間が短そうなものを幾つか見繕って、どれが一番速いか詳しく調べればいい。イーサリアムとNEM、あとリップルあたり調べておけば十分」


 そんな石北とケイのやり取りを、俺や竹代、徹子はすべて理解して聞いているわけではない。だがケイは、俺たちに的確に指示をくれる。


「そんなわけで、イーサリアム、NEM、リップルの三種類の仮想通貨のうち、トランザクションの確定にかかる時間が一番短くて済むものはどれか調べて。必ずしもブロック生成間隔が短ければ短いほどいいとは限らないかもしれないから、そこんところ気をつけて」


 そこまで具体的に指示されれば、俺にもインターネットで検索してみることぐらいできる。最初は『トランザクション』だの『ブロック生成』だのという単語の意味などわかっていなくてもいいのだ。検索して出てくるページを適当に拾い読みしているうちに、段々と分かっていく。


「ブロック生成間隔はすぐにわかったけど……ぷふい、トランザクションの確定時間は実際にその仮想通貨の取引をなんどか試してみないとわからないかもしれないな」


 しばらく黙々と検索をしていた竹代がそんな声をあげると、石北が答える。


「まあトランザクションの確定にかかる時間なんて、その時その時でまちまちだからね。実際に試してみたいし、メッセンジャーアプリの開発が進んできたらアプリのテストのためにも仮想通貨が必要だ。仮想通貨を買うには取引所に口座を作らないと行けないけど、僕達未成年でも作れるのかな」


「親の承諾があれば作れるのかもしれないですが、行きおくれの名義で口座を作ってもらうほうが手っ取り早いと思います。口座を作るだけなら無料のはずですし、仮想通貨の購入代金は俺たちで折半して行きおくれに渡しておけばいい」


 俺はそう言ってしまってから、嫌な予感がしてふと隣の司書室を一瞥した。すると案の定、司書室の奥に『行きおくれ』こと片平がいるのを見つけてしまったが、もう言ってしまったことは仕方がない。こんな場合の次善の策は、いることに気がついていないふりを続けることだ。


「ケイ、今夜あたり、行きおくれに頼んでおいてくれよ」


 こんな風に、ケイは石北に開発の上でのアドバイスや提案などをして、その他の変人部メンバーは調べ物を中心に、諸々の雑用を手伝っているが、ケイの提案の採用・不採用を決定して実際にプログラムを組むのは石北が一人で全部行っている。自分に自信を持つためにそうしたい、と、彼自身が望んだからだ。

 そして、つい数日前までいつも一緒にいた海音の姿は、ここにはない。


「海音さんに手伝ってもらわなくていいんですか? もともと一緒にこういう開発をしたくて作ったわけですし」


 俺がそう言うと、石北はちょっと困ったように眉根を寄せて言った。


「やっぱり振られた後では顔を合わせにくいし、次に合うのは自信を取り戻してもう一度告白する時って決めているんだ。早く海音さんに合うためにも、完成を急がなくちゃね」


 彼はノートPCのディスプレイに目を向け、カタカタと音を立ててキーボードを叩き始めた。

 明日あたり、海音の様子も見に行ってみよう。俺はなんとなく、そんなことを考えた。

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