不快です

 その翌日の放課後、変人部のメンバーと一緒に、部室代わりにしている図書室へ向かっている途中で、魂の抜けた幽鬼のように呆然としながらふらふらと一人で廊下を徘徊している石北を見かけた。


「あれ? 石北先輩、今日も一人ですか?」


 俺が声をかけると、石北はゆらり、と首だけをこちらに向けて、感情のこもっていない目で俺を一瞥した。


「ああ君か。実は、海音さんに振られてしまってね」


 力のない声で、石北は意外な事を言った。


「え? あんなに仲が良かったのに?」


「『不快です』と言われたよ。『趣味が合うので一緒に話すのは楽しいですが、異性としては最も交際したくないタイプです』だそうだ」


 そして、眼鏡が嫌い、男子にしては少し長めの髪型も嫌い、インドア派なのも嫌い、などと、嫌いな部分を並べ立てられたそうだ。


「眼鏡が嫌いって……、海音さんも眼鏡かけてるじゃないか」


「考えられる原因としては、私が海せんぱいの趣味趣向のデータを取ったタイミングに問題があったのかもしれない」


 ケイがそう口をはさんだ。

 どういう事かというと、石北の趣味趣向のデータを取ったのは、彼が異能ベーションのプレゼンに失敗して自信を失っている時期だった。そのため、自己嫌悪におちいっていた彼は、眼鏡だとかインドア派だとか、そう言った自分の特徴についてすべて「不快に感じる」と回答していた。そのデータを元に作られた海音の人工知能は、石北を嫌悪するようになったのではないか。というのがケイの説だった。


「なるほどね。そいつは……不運としか言いようがないな」


 ご愁傷様。と俺が石北に向かって合掌すると、彼は憔悴しきってリアクションが取れない様子で、こんなことを呟いた。


「どうすれば、海音さんと付き合えるんだろう……」


 こっぴどく振られてもなお、彼はまだ諦めていないようだった。ケイは少しの間、首をひねって考えてから、こう答えた。


「海せんぱいが自分に自身を持てるようになれば、自分で自分を好きになれれば、石北海音も海せんぱいを好いてくれるはず」


 ケイの考えはこうだった。海音の趣味趣向は石北と同じなのだから、海音に好かれるためにはまず自分で好きだと思える自分、こうありたいと思える理想の自分になれば良いのだ。彼の理想はすなわち、海音の理想の男性でもあるのだから。


「なるほどね。石北先輩、あなたの理想の自分とは、どんな人物ですか?」


 俺が問うと、石北は眉根を寄せて真剣に考え込んだ。

 随分と長い間、沈思黙考を続けた後、ゆっくりと石北は回答を告げた。


「……webサービスを作って、公開してみたい。プログラミングは勉強したし、アイデアはいっぱい考えて、海音さんとも話し合ったけど、まだ他人に使ってもらえるようなちゃんとしたものを実際に作ったことが一回もないんだ。それが僕の、自信のなさにつながっている様に思える。だからちゃんと不特定多数の一般ユーザに使ってもらえるようなwebサービスを作ってみたい。本当はビジネスとして軌道に乗せるところまでやりたいけど、そこまで出来なくても構わない。とにかく作って使ってもらいたい」


 彼の出した答えは、我ら変人部にとって、とても手伝い甲斐のある内容だった。


「あっは。微力ながら手助けしよう。君が自信を取り戻せるように」

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