連帯を求めて孤立を恐れず

 それからと言うもの、校内で石北と海音が二人で話しているのをよく見かけるようになった。

 朝、昇降口から階段まで真っ直ぐに続く長い廊下を、やけにゆっくりと揃いの歩調で歩きながら。

 昼休み、生徒たちでごった返すカフェテリアで、シーザーサラダなんか食べながら。

 放課後、薄らいでいく夕日の中で、校庭のベンチに並んで座りながら。

 彼らは語り合っていた。聞くとはなしに会話の内容を聞いてみると、KPIがどうのこうのとか、俺にはわからない単語をふんだんに織り交ぜながら、ビジネスの話をしているようだった。


 そんな風に、二人でいるのがすっかり普通になった頃、ふと石北が一人でいるのを見かけた俺は、声を掛けてみた。


「石北先輩、今日は海音さんと一緒じゃないんですか?」


 すると石北は急に神妙な顔になった。


「ああ、ちょっと用事があるらしいんだが、実は彼女のことでちょっと相談したいことがあるんだ」


 なにやら込み入った話のようなので、どこかでゆっくり話を聞くことにして、俺らは図書室へ移動した。図書室には、ケイと竹代、徹子もいて、いつもの変人部のメンバーが揃った。


「それで、相談って何なんです?」


 石北はちょっと言いよどんでから、意を決したように告げた。


「実は、海音さんを本気で好きになってしまった。交際を申し込みたいんだがどうすればいいと思う?」


 石北の発言に、俺はしばらく二の句が継げなかった。俺の中にある戸惑いを、うまく言葉にできなかったからだ。

 しばらく頭の中を整理して、やっと出てきた言葉は、これだった。


「むしろ、まだ付き合ってなかったんですか?」


 石北と海音はいつも仲良さそうに話していて、お似合いのカップルにしか見えなかった。地味な眼鏡少年とお洒落な眼鏡美人の取り合わせは若干不釣り合いなのだが、それを考慮してもどうみても交際中の男女に見えるほど、二人はいつも楽しそうにおしゃべりしていたのだ。


「一緒にITのこととか、起業の夢とかを語り合ってる時は楽しいし、海音さんも楽しそうに話してくれるんだけど、それ以上の仲に進展できないんだ。二人きりでカラオケで盛り上がったり、遊園地の観覧車でゆっくりと景色を眺めたり、そんな仲になりたいのに、一歩踏み出す勇気がない」


 あまり友達のいない石北が恋愛について積極的なはずもなく、海音と仲良くはなれてもそれを恋愛に発展させることが出来ないというのだ。だが海音は石北と同じ趣味趣向を持つように作られたAIなんだし、二人の相性はこれ以上ないほど良いはずだ。石北の方から告白さえできれば、多分断られることはないんじゃないかと思う。


「あれだけ仲がいいんだから、告白すればうまくいくんじゃないですか? こういう時は当たって砕けろだって、アニメのキャラも言ってましたよ」


 俺がそう言うと、徹子も同意する。


「そうだよ。断られることを恐れて踏み出せないなんて馬鹿げてるよ。こういう時は『連帯を求めて孤立を恐れず』だって、私の友達の市民運動家が言ってたよ」


「ちょっと徹子は黙っててくれないかな」


 だが石北には、案外徹子の言葉が響いたようだ。


「連帯を求めて孤立を恐れず……、なるほど。俺、告白してみるよ」


 意識高い系のご多分に漏れず、影響されやすいようだ。何かややこしい思想を持つ人に容易に扇動されそうだなと若干不安な感じではあるものの、とにかく今回の告白については俺も賛成なので、まあ結果オーライとしておこう。

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