ロボット完成
それからと言うもの、ケイは石北と同じ趣味趣向をもつAIの開発に着手し始めた。
石北に様々なものを見せたり聴かせたりして、快いのか不快なのかを質問していくことで、石北の趣味趣向を分析していく。どの程度快いか、どの程度不快かを計測するため、光トポグラフィや事象関連電位、
俺が様子を見に行ったときは、ちょうど音に対する快不快を計測中だった。
「この音はどう?」
ガラスに刃物を当てるような甲高い音が鳴る。
「不快」
「じゃあこの音は?」
黒板を爪で激しく引っ掻くような音が響く。
「不快!」
「じゃあ光トポグラフィの装置外して。MEGの電極つけてもう一回」
計測する計器を変えて、また不快な音ばかりが流れてくる。
「石北先輩の精神を壊そうとしてるのかな?」
俺が声をかけると、ケイは一旦計測をやめてこちらを向いた。ちなみに音を止め忘れているので、石北先輩はスチールウールでステンレスを擦る音を聞きっぱなしだ。
「今はたまたまこういう音ばかりの計測なだけ。これが終わったらしばらくは無難な画像を見せての計測だよ」
石北が憔悴しているようなので、限界が来そうならば計測を中止させなければならないので、しばらく様子をみることにした。
ケイの言葉通り、音の計測は程なく終わり、画像を見ての計測になった。
「画像か。たとえば俺のスマホに入ってる画像で計測することもできるのか?」
「どんな画像でも、多少なりともその人の趣味趣向を知る助けにはなる」
ケイがそう言うので、少し俺の持っている画像で計測させてもらうことにした。
「このタイトミニをはいた黒パンストのOLさん画像は?」
「……こ、快い」
なるほど。脳の活動が活発になっている。
「じゃあこの金髪ツインテ幼女の体操着ブルマ姿は?」
「……不快」
「嘘はやめてくださいさっきより脳の活動が激しくなってます」
あんまり石北の性癖を暴いてもかわいそうなので、その辺でやめておいた。
※ ※ ※
そんなこんなをしてAIを開発している間に、大和田も無事にハードウェアを完成させ、ついに石北のコピーとも言えるロボットが完成したのだった。
てっきりまたケイが夢の中で読んだ理論を元に作ってたので失敗しましたというオチだと思っていただけに、無事完成したのはちょっと驚いた。
で、今日はそのロボットのお披露目の日である。
石北はまだ完成品を見ていない。ケイと、あと竹代は開発途中からちょくちょく大和田氏を訪ねてロボットを見せてもらっていたようだが、石北、俺、徹子はまだ、どんなロボットが出来上がっているかを知らない。
「それじゃあ、持ってきてくれたまえ」
竹代の指示で、大和田がロボット製作のために雇っていた技術者の一人が、ロボットを横たえたキャスター付きのベッドを俺たちの前に運んできた。まだ起動させていない、眠ったように瞳を閉じたそのロボットは、正に生身の人間そのものという感じの外見だったが、『石北のコピー』と聞いて俺が想像していたものとは、幾つかの点で異なっていた。
「……まず性別が違うな」
肩にかかる真っ直ぐで艶やかな黒髪。仰向けになってもまだ隆起している胸の双丘。胸だけでなく体全体のフォルムも石北より丸みがかっているように見える。
「全く同じだと区別がつかないし、ビッグベン氏も同じ人型ロボットなら美少女のほうがやる気がでるって言った」
あのエロジジイめ。あと大きな違いはもう一点。
「眼鏡も違う」
その指摘に反応したのは竹代だった。
「ああその眼鏡は私が用意した。本体が完成した時点で、知り合いの板金加工職人に写真を送って『チタンフレームでこの少女に似合う眼鏡を作って欲しい』と依頼したら作ってくれたぞ。彼の持つチタン加工技術のすべてを注ぎ込んだそうだ」
また眼鏡好き板金屋か。
「まあいいや。で、こいつを起動させるんだよな」
俺がそう言うと、ケイはロボットの髪の毛をかき分けて、耳の下あたりに隠されている電源スイッチを押した。
微かにキィン……という、可聴域ギリギリの高い音がして、数秒の後、ロボットは緩慢に動作を始めた。
指先が微かに何かを探るように動いたかと思うと、手のひらがしっかりとベッドに押し付けられ、身体がゆっくりと起き上がっていく。
上半身が地面に垂直になるまで起き上がると、彼女は目を開いて俺たちを一人ひとり、確かめるように見つめた。
「気分はどうだい自律思考型ロボットの
竹代が聞くと、石北海音という名前らしいそのロボットは、三秒くらいかけてゆっくりと首を横に降った。
「快です。ソフトウェア、ハードウェアともに、良好に動作しています」
ほんの少しだけハスキーな、爽やかな森の葉ずれの様な心地よい声で、彼女はそう答えた。
「『快です』と言うのはなんなんだ?」
俺の問いに、海音ではなくケイが答える。
「海せんぱいの快不快のデータをインプットしたのが正常に反映されているかどうかの確認のために、快いときには『快です』、不快な時には『不快です』と声に出すようなデバッグ機能を組み込んでおいた」
本稼働してるのにデバッグ機能を残しておくなよ。
というわけで、石北海と全く同じ趣味趣向を持つ(はずの)自律思考型ロボット、石北海音は、変人どもの妙なこだわりのせいで、人型ロボットというよりも変人型ロボットとして出来上がったのである。
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