石北海は意識が高い
という訳で、俺たちは校内異能ベーションの選考会にやってきていた。
「んとまあ、そういうわけでぇ、僕らの世代にとっては確実にニーズが見込めるのでぇ……」
異能が聞いて呆れるような凡人による、退屈きわまりないプレゼンが続く。ほとんどが、「自分の得意なことで金を稼いで暮らしたい」というだけの、至極普通の生徒たちだった。
デタラメ財団のお偉方も一様に能面のような無表情でプレゼンを聞き、質問タイムになるとキャズムがどうのとか言う専門用語の混じった質問を投げかけ、プレゼンターが言葉に詰まると、「もういいです」と告げて、プレゼンを打ち切らせていた。
「おい竹代。この場にお前の知ってる変人はいないか? 面白いプレゼンしてくれそうなやつ」
「ひとりだけいるぞ、この次にプレゼンを行う
竹代の視線の先を見ると、緊張した面持ちの男子生徒がいた。黒縁メガネをかけ、やや長めの髪の男子だ。
その男子の出番は程なくやってきた。彼はプロジェクターに繋がったPCを操作して、自分の用意したパワーポイントのファイルを表示させると、指示棒を手に聴衆の方を向いた。
「二年D組、石北海と申します。本日はスマートコントラクトを用いたクラウドファンディングサービスについてプレゼンをさせていただきます」
竹代が意識高い系と評した通り、何やら小難しい感じのプレゼンだった。
「このサービスでは、すべての決済を仮想通貨によって行います。ICOによる資金調達の場を提供しますが、そうして調達した資金は、引き出す際に何にいくら使うかを明らかにした上で出資者に同意を求めます。賛成した出資者の出資金額の合計を超えて引き出すことはできない仕組みとし、余った資金は出資者に返還されます」
彼の説明によると、このサービスはビットコインのような仮想通貨を用いて資金調達を行うためのものだそうだ。仮想通貨の中には、取引自体にプログラムのような形で契約を埋め込むことができる『スマートコントラクト』という機能を持つ物がある。その機能を用いて、資金の使用に出資者の同意を必要とする、という契約を埋め込んでしまおうというわけだ。資金の運用者は『こういう目的で、この支払先に対し、これだけの金額を支払って良いか』と出資者に逐一同意を求め、出資者は賛成ならば自分の出資した資金をその目的に使う許可を出す。許可を出された金額だけが引き出し可能となり、運用者は引き出した金を約束どおりのことに使ったという証明のために、後日領収書をアップロードしなければならない。
「そこまでならThe DAOなどの既存のプラットフォームと大差ないかもしれませんが、このサービスの最大の
今までの生徒のプレゼンに比べれば、遥かにビジネスとしてまともに思えるものだったが、審査員たちの裁定は辛辣だった。
「色々と突っ込みどころはあるけど、まず最初に、その仕組みだとプロジェクトを失敗させる目的で多額の出資をして、いざその資金を引き出そうとした際に承認をしない、ということができてしまうよね? その点についてはどう考えてる?」
「そ、そういう場合は……、エ、エスクロー取引! エスクロー取引というものが、仮想通貨の取引ではよく行われますよね。送金元と送金先の各人の他に一人保証人を立て、その三者のうち二人が署名した場合に取引が成立します。送金元と送金先が共に取引に同意すれば両者の署名によって取引がなされ、両者の言い分が食い違う場合には保証人がどちらが正しいかを判断し、正しい方の取引に署名します。同様の仕組みで保証人を立て、出資者がプロジェクトを故意に邪魔していると判断されるときは、保証人の署名によって資金を引き出せるようにします」
別の審査員が、さらなる質問をぶつける。
「それよりもセキュリティだよ。不特定多数から集めた資金を預かるサービスだから、それだけ巨額の資金を扱うに足るセキュリティを確保しなきゃならない。さっき君が引き合いに出したThe DAOだって、脆弱性を突かれて資金を盗まれただろう。セキュリティに関してどういう対策をするんだい?」
石北は、完全に言葉に窮してしまったようだった。
「……セキュリティの重要性は十分承知しておりますが、私はその分野についてはまだ勉強中でして、ビジネスとして本格的に始動させる前までには、必ずセキュリティ対策を万全にしたいと思っております」
「わかりました。もういいです。お座りください」
石北は、かわいそうなぐらい
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