異能ベーション

「校内異能ベーション制度?」


 俺の問いかけに、片平は「そうよ」と首肯する。


「ぷふい、聴いたことのない言葉だが、何やら下ネタっぽい雰囲気があるね」


 竹代が言うと、ケイも頷いた。


「ベーションとつくからには、何か特殊な自涜じとく行為のことだろうと思われる」


「残念ながら、異能の力に目覚めていじめっ子たちを成敗するオナニー小説をウェブの投稿サイトにアップする行為ではないわ。これを見なさい」


 そう言って片平は、一枚のパンフレットを差し出した。

 そのパンフレットによると、校内異能ベーション制度は、デタラメ高校の運営母体であるデタラメ財団が主催する、生徒に対する出資プロジェクトであるらしい。生徒の中から独創性に富むビジネスのアイデアや、誰にも真似できないような特殊な才能を持つ人を募集して、デタラメ財団が彼らに出資してその活動を援助しようというわけだ。


「異能ベーションと言うのは、政府も行っている取り組みなんだけど、要は変人だけど凄い才能を持っている人を支援しようという制度ね。私達がやろうとしていることに通じる部分もあるわ。で、校内異能ベーション制度というのは国の制度を真似て、デタラメ財団が独自に、この校内限定でそれをやろうということなの」


 でもね、と片平は言う。彼女に言わせれば、国にせよ財団にせよ、支援するのはごく一部の変人だ。他人から見ても凄いと思えるようなものを作れる、ごく一握りの天才。多くの変人は支援の手から漏れてしまう。


「そこで変人部は、この校内異能ベーション制度の選考から漏れた人を救って欲しいの」


 明日の放課後、多目的ホールにて校内異能ベーション制度の選考会が行われる。変人部はそこに潜入し、応募者たちをよく観察して、助けるべき人がいれば助けてあげて欲しい。片平からの指令はそういうことだった。


「しかし潜入というが、どうやって潜入するんです? 普通に考えて、選考会なんだから選考する側の財団関係者と、選考される側の生徒たちしか入れないと思うんですが」


「ならばあなた達が選考される側になればいいのよ。募集は今日の下校時間ギリギリまで受け付けてるから、適当に独創的なビジネスでもでっち上げて応募しなさい」


 無茶なことを言う片平。独創的と言うのは、簡単には思いつかないようなもののことを指すのだ。今日の下校時間までにそれを思いつけと言うのは無理がある。

 そう反論しようと思った瞬間、ケイが不意に立ち上がって図書室の隅のケイの私物が乱雑に積み上げられた一角へ行き、何やら数枚の紙を綴じたものを持ってきた。


「起業に関する本とロボティクス工学に関する本を並行して読んでいるときに触発されて書いた、自律思考するAIを搭載したロボットを量産し、販売するビジネスの構想がある。これを選考会に提出する」


 その資料にはロボットやAIの技術的な話だけではなく、いくらぐらいの予算で何をするか、それをどれだけの期間で回収できるか、さらに費用回収までの期間のキャッシュフローなども記載されていた。


「これ、ガチすぎて選考通っちゃうんじゃないの……」


 片平が、そんなつぶやきを漏らした。

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