変人部

「ぶかつー?」


 徹子が釈然としないと言うふうに声をあげる。他のメンバーも同じ思いだったろう。


「ええ、活動内容は、周囲のいろんな変人たちの悩みを解決したり、やりたいことを手伝ってあげること」


「ええと、そもそも何でしたっけ? 俺らが社会に出ても苦しまずに済むようにみたいな話をしてましたよね。それと部活が繋がらないんですが」


 俺が疑問を呈すると、片平は「順を追って説明するわ」と、若干食い気味に言葉をかぶせてきた。


「社会を構成する人々のうち、一パーセント程の比率で変人は存在するわ。と言うより、社会から何らかの形で逸脱しつつある人間、その逸脱度の大きい方から一パーセントをここでは変人と定義する、と言うべきかしら。

 その人達は今も社会との軋轢を感じながら、必死に生きている。何人ものそういう人たちと知り合い、助けていきながら、変人たちのコミュニティーを構築していく。同じ苦しみを知るもの同士の変人互助会をね。その最初の一歩が――」


 あなた達の部活というわけよ。と、片平は話をまとめた。


「ぷふい、それは無理だろう先生。変人は群れないがゆえに変人なんだ。そもそも多くの変人は自分が変人である自覚がない。自覚がないから他の変人を見つけると、常人に混じって一緒にそいつを爪弾きにするんだ。自分を棚に上げてあいつは変人だぞ、石を投げてやれ、ってね」


 竹代はそう言った後、「そもそも私は変人が好きなだけで自分が変人なわけじゃないのに、その部活とやらに入れられているのもせないね」と不満を漏らした。なるほど、多くの変人には自覚がないというのはこういう事か。


「困難なのは百も承知。人類がアフリカで初めて二足歩行して以来、連綿と続いてきた変人の苦難の歴史を終わらせようというのだから。でもね、群れない、他の変人たちを攻撃するような変人でも、変人であるあなた達が親身になって接し、彼らの変人ゆえの悩みを聞き出し、助けてあげたら、変わっていくと思うの。そうして変わっていった人々の間に、親密な交流が生まれたら? 変人社会が築かれたら?」


「変人社会? あっは、それが社会である以上、やはりその中にも逸脱する人は現れるだろうね。そして逸脱度の大きい上位一パーセントは、変人社会の中における変人として排斥される」


「それでも、今ある社会の一パーセント存在した変人の多くを苦しみから救うことができる。救おうとした変人の中の一パーセントが苦しむとしても、社会全体からみれば〇.〇一パーセントよ。そしてその中には、変人社会から通常の社会に戻ったほうが苦しみが少ない人もいる。そういう人たちは戻ればいい」


 要するに、今に比べれば明らかに多くの人が苦しまずに済むの。と片平は言う。


「良いだろう。そんなに上手くいく訳がないが、上手くいかないことを実践で証明するために、この首竹代が協力してやろう」


 反論していた竹代がそんなふうに納得すると、片平は「他のみんなはどうかしら?」と俺たちに訪ねた。


「片平先生が俺たちのためを思って考えた案だというのは分かりますし、その目指すところもある程度共感できるんですが、残念ながら面倒くさいんでパスです」


 俺の答えはもちろん拒絶だ。なるべく失礼にならないように、相手の言い分も認めながらやんわり拒否したつもり。


「部活上の都合なら授業を休んでも公欠扱いになるように、教頭先生に話をつけてあるんだけどな」


「やります」


「やる」


 俺の返事にかぶさるように、同時に承諾を表明したのはケイだった。彼女は授業に出ても教師を無視してひたすら好きな本ばかり読んでるんだから、部活より授業の方を好みそうだが、どうやらケイはケイなりの理由で、授業が嫌いらしい。


「あとは矢場徹子、あなただけね」


 片平は徹子に水を向ける。


「私は、由明くんがやるならやるよ」


 予想通りの答えが返ってきた。

 四人全員が参加することになったところで、片平は満足げな笑みを浮かべた。


「よろしい、それじゃあ、デタラメ高校変人部、始動!」


 いや、参加するとは言ったけど、その名称には賛同できない。

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