首竹代は首ったけ

「学校は良いな。行かなくてすめばもっと良いんだがな」


 そんなことを言いながら、昇降口で上履きに履き替えて廊下を歩く。

 少し足取りの重い俺に合わせて、徹子はしずしずとゆっくり歩く。

 横一列に並んで廊下を進んでいると、行く手から見知った女生徒がこちらへやってきた。


「やあ、由明と徹子じゃないか。今日も相変わらず奇人変人かね?」


 こいつの名前はくび竹代たけよ。首という変わった名字だが本人の性格はもっと変わっている。とにかく変人が大好きで、変人がいると聞けばすぐに会って話をするし、むしろ変人以外とは口も聞きたくないという。

 そう、首竹代は変人に首ったけなのだ。


「お前の言う奇人変人は褒め言葉のつもりらしいから、なおさらたちが悪いな」


「あっは、無論褒め言葉だよ。奇人変人の方が常人よりも優れているだろう? 面白いという点において」


 首はそう言うと、ふぁさ、と艶やかな長い黒髪をかき上げた。


「奇人変人と言えば、ケイちゃんは今でも図書室に泊まってるの?」


「泊まってるなんてもんじゃない。住んでるんだよ。もう一ヶ月も家に帰ってないからね」


 ケイちゃんというのは、俺たちの比ではない超の付く変人、同級生の黒川ケイのことだ。三度の飯より本が好きで、暇さえあれば、いや、暇がなくても常に本を読んでいる。本好きが高じてここ最近はずっと学校の図書室に寝泊まりしているらしい。そんな変人だから、当然竹代はケイを気に入ってよく様子を見に行っている。竹代と仲のいい俺たちも自然と、ケイとは話す機会が多くなり、よく彼女に会いに図書室へ行くようになった。


「よく家に連れ戻されない……、というか、よく退学にならないもんだな」


「片平が必死に擁護しているそうだ。授業へは絶対に出させるし、自分が保護者として学校に宿直するからと言って」


 片平は、生徒から「いきおくれ」の愛称で親しまれている女性教師だ。担当教科は現国で、図書室の司書も兼ねている。


「片平なぁ……。何があの人にそこまでさせるんだか」


 ケイが図書室に住むようになる前から、片平はケイのことを気にかけていた。図書室に住み始めてからは、食事なども作ってあげているようだ。


「片平ほどの変人の考えることは、常人たる私には分からないよ。むしろ変人仲間の由明の方が、そのへんは分かるんじゃないかな」


 竹代はそんなふうにうそぶいた。変人を見ればどこへでも首を突っ込む彼女も相当な変人だろうに、どうやら彼女は、自分だけは違うと思っているらしい。


「おっとそうだ、これからその黒川ケイの様子を見に行こうと思っていたんだった。君たちも来るかい?」


 竹代がそう言うと、徹子は喜んで「行く行くー」と言って竹代に並んで歩き出した。

 俺もなんとなく、黒川ケイに会っておきたい気がして、二人のあとを追った。

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