復活編
第21話
車内は明るい音楽に満たされている。今日は3件の見積もりと2件の現場が重なっていた。
見積もりは西成区・大正区・浪速区と固まっていたので纏めて鹿骨と出雲が、現場の方は帝塚山と夕凪がリーダーを各自務めていた。
その中でも夕凪の現場がドハマり……即ち予想から外れたのだ。
「適当な事してるからだ」
鹿骨は舌打ちを隠さないが、ハンドル操作は丁寧だった。
しかし夕凪が悪い訳ではない。依頼者に騙されたのだ。
今朝、電話での緊急の依頼があった。1LDK、独り暮らしをしていた父親が心筋梗塞で亡くなり、部屋の中で死んでいたという。
自殺ではないと警察には裏を取ってあった。週3で通っていた囲碁クラブに来ないと不思議がったボランティア職員がアパートに訪れて発見した。長らく患っていた心臓の発作で、いわゆる孤独死というやつだった。
ここでトートに電話が掛かってくる。自殺ではない事から死神である我々の出番は無いが警察からの紹介されたとなれば無下にも出来ない。幸いな事に現場が重なっていたから、理由をつけて断るか、他業者を紹介すればよかった。
それなのに、感動屋で人情に厚く(人間ではないが)困った人間を放っておけない男・夕凪虎児が電話を取ってしまった。
電話口で遺族と一緒にワンワン泣いて、2つ返事で了承したのだ。止める鹿骨を振り切り「俺がやるから大丈夫だ」と。
そして蓋を開けてみれば、電話とは全く違うという事だった。1LDKの8畳1間の1人暮らしの割に3人家族ぐらいの物量があった。
家具も服もガラクタばかり、どこから持ってきたのかわからない物まで押入れに詰め込まれているゴミ屋敷だったのだ。
よくある事ではあるが、よくあって良い事ではない。素人のいう事を信じてはいけない。
今日は見積もり後会社に戻って書類作成の予定だったが夕凪のヘルプで現場に行くことになった。
途中で寄ったコンビニで買ったアイスコーヒーを信号待ちの間鹿骨が啜っている。
冷たいものが美味しい時期になった。ジャージに包まれた左腕がじりじりと熱いが、焼けたくなので袖を捲らずに我慢をする。
魚吉と食事をしてから1ヶ月、入社してから2ヶ月が経った。
人が変わったように仕事に精を出す出雲は長い髪を一つに束ね、助手席でナビを操作した。目的地は箕面市。今いる大正区南恩加島から高速で40分、下道で45分だ。
経費削減の為迷わず下道を選んでシートに体を預けた。自分もガムシロップとフレッシュを2つづつ入れたコーヒーを啜った。
「少しはマシな動きをするようになったな」
「ありがとうございます」
ナビの操作を褒められてもな……と内心思いながら運転席の鹿骨の横顔を盗み見る。
鼻筋の通った無駄の無い完璧な輪郭。初めの頃はときめいたりもしたが、今となっては只の鬼上司だ。
興味を失い、ラジオに耳を澄ませる。曲と曲の間にニュースが流れる。大阪の中学生がいじめが原因で自宅で自殺したらしい。今日もたくさんの事件が起きている。
「夕凪は何と言っている」
「あーとにかく物量が多いと。更にご遺族が泣いて泣いて仕方ないと……」
電話の向こうで弱ったように夕凪は頭を抱えていた。
「そんなに泣いて悲しむなら、同居でもすればよかっただろう。天寿を全うしているのに何を悲しむことがある」
一気に言い切った鹿骨はウインカーを出して左に曲がる。
「同居は難しかったんじゃないでしょうか。住宅状況とか……天寿を全うしてたとしても、理想の形とは違うかったんでしょう」
軽薄だと言い切るにはまだ早いのではないか。身内というものは近ければ近いほど優しくは出来ないのが人の心というものだ。
「この世から消えれば何を言っても本人には伝わらない。生きてる時にしか優しくできないのに人間はよく解らん」
馬鹿にしたようにフン、と鼻で笑った。
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