第2話
「くっそーあのハゲ親父め!」
オフィスビルから出た出雲は、苦々しく建物を睨みつける。ガラス張りの建物は、太陽の光を反射してそれ自体が光っているように見える。
お役所仕事は事務的で、楽で良いな! とぶつぶつと文句を言いながら街を歩きはじめた。
5月の今は大型連休も終わり、温まった空気に青々とした香りが混じる。
平日昼間の梅田は、オフィス街でもあるし、繁華街でもある。
ロフトの紙袋をぶら下げた女子大生とおぼしき軍団。スマホを片手に慌ただしく手帳を捲るサラリーマン。
出雲も数ヶ月はそうだった。
現在はそうなっているはずだった。
こんなはずじゃなかった。
どちらにも成り損ねた出雲は、慌ただしく生きる街に、1人で立っていた。
何か楽しい事を考えよう。
落ち込みそうになった思考を無理やり切り替える。
明日はバイトが無いから、もう一度ハローワークに行こう。自分に相応しい仕事があるかもしれない。
そういえば、今週は楽しみにしていた映画の公開日だ。原作の漫画とはかなりストーリーが違うらしいが、キャストのビジュアルは割と合ってるからハズレることはなさそうだ。
スタバ行きたいけど、今お金無いからやめておこう。
バイト代入ったら夏服買いたいなぁ。
薄い紅色のタイルと、すり減ったパンプスのつま先を交互に見めながら駅までの道を歩く。無心で足を動かすと、不思議と気持ちは落ち着いてくる。
高架の上を走る阪急電車が見えてきた。トイレットペーパーが切れていたのを思い出し、信号待ちの間ティッシュ配りのアルバイトの前をワザとらしく往復し続けた。
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