第111話 食堂での話し合い。


宿に近づいて来た反応に意識を向ける、まず先頭を普通の魔力を持った人物が歩き、その後ろに大きな魔力の反応が一つ、その周りにもその魔力より少し劣るが、それでも下手な金下級冒険者よりは大きな魔力の反応が四つ、合わせて六つの反応が連れ立って宿の前まで来て歩みを止める。


そして先頭で歩いていた、一般人程度の魔力反応を持つ人物が先に宿に入ってきた。


「ジーロいるかの?村長のヨザックじゃがホナミ様達をお連れした。村を救ってくれた方々は目を覚まされておるかの?」


宿の入り口から村長と名乗る人物が呼びかけて来る。


「今ご飯を食べてもらったところだぁ、少し待っててくれ」


俺達の目の前に立っていた店員が宿の入り口から聞こえてきた声に返事をし、それから俺達の方に向き直る。


「聞こえた通り村長がホナミ様達をお連れしたようなんでお通ししても良いですか?」


そう言ってくる店員に、俺は皆の顔を見回してから頷く。


「え、ええ、大丈夫です」


俺とリズを圧倒した相手との対面に、緊張して少し声が上擦ってしまった。


俺の返事に頷き店員が食堂を出て行く、そして店員が村長と名乗った人物と少しやり取りをし、それから宿の外で待っていた五人と合流し、食堂に向かって歩いて来る。


集団が食堂に入って来る前に皆の顔を見回す。


少し笑顔が堅いリズ、目線をテーブルに落とし顔が強張っているレイナ、食事が美味しかったのか満足そうなテオ、セオはいつもの無表情だが何となく緊張してるかな?そういう俺もかなり緊張している、なので深呼吸する、そして宿の店員を先頭に集団が食堂に入ってきた。


「儂はヤムシロの村長をしているヨザックですじゃ、今回は盗賊に襲われている所を救ってもらい感謝しております」


先に入ってきたのは皺々の顔に白髪、青い目をした腰の曲がった老人だ。その老人が感謝の言葉を言いながら頭を下げる。


店員と村長の後ろから四人の男性と一人の女性が入ってきて、村長が頭を下げたのに合わせてその五人も深々と頭を下げる。


まず村長の方を見る、村長の服装はステルビアでもよく見る厚手のチュニックに厚手のズボン、藁で出来た長靴を履いていた。


藁で作る靴、確か深藁靴やズンベ、ツマゴなどと言う名称だったか。


そしてその後ろの五人に目を向ける、五人は裃姿に脛巾と足袋という出で立ちだ、その服装は見事な白で統一されていた。


その裃を着ている五人を鑑定する。



キキョウ:ホナミ:22


人間:侍


魔力強度:148


スキル:[刀術:大] [身体強化:特大] [体術:大] [魔力操作] [魔力感知] [風魔法] [文言]




ミチナガ:コレトウ:56


人間:侍


魔力強度:130


スキル :[刀術:特大] [槍術:大] [弓矢:大] [体術:大] [身体強化:大] [気配察知] [精神集中] [文言]




タイジュ:33


人間:侍


魔力強度:119


スキル:[刀術:大] [身体強化:大 ] [槍術]




ミョーオ:35


人間:侍


魔力強度:117


スキル:[刀術] [身体強化:大] [槍術]




ケジロー:28


人間:侍


魔力強度:111


スキル:[刀術] [身体強化:大]



五人ともに魔力強度は三桁、その五人の中で一番魔力強度の高いキキョウという女性が俺とリズを倒した人物だろう、ホナミというのは名前かと思ったが苗字だったようだ。日本的な呼び方をするなら穂波、桔梗だろうか?


その右隣にいるミチナガにも苗字がある、この人も惟任、道長という漢字読みが出来そうだな、それにしてもこのミチナガという人は魔力強度はホナミより低いが魔力の流れがとても洗練されている、スゥニィやフェリックといった白銀級にまで上り詰めた冒険者と変わらない程に綺麗な流れだ、そしてスキルも刀、槍、弓、体術を持っている、侍は武芸百般が理想とされていたそうだが正しくそれだな。


キキョウにはリズと二人がかりで手も足も出なかったが、このミチナガという人にも全く勝てる気がしない、他の三人も高い魔力強度だ。


そうやって鑑定結果を見ながら考えていると村長と五人が頭を上げる、すると俺の視線がキキョウの顔に吸い寄せられる。


黒い髪を後ろで束ね、意思の強さを感じさせる黒くて鋭い目、スッと伸びる鼻筋、薄い桃色の唇、雪のように白い肌。


和風な顔が裃姿と相まって、大和撫子という単語が頭に浮かぶ。


和風な顔の中にもどこか若さというか、リズに似た活発さを感じさせる顔つきだ。


鑑定で見えたキキョウの年齢は22歳なのだが、日本に居た頃に近所でたまに見掛ける事のあった、近くの高校の弓道部らしき女の子達を思い出す。


最近は西洋風な顔ばかり見ていたからか、久しぶりに和風な顔を見たので余計に若く見えるのかもな、なんて考えていると隣に座るリズに横腹を肘で突つかれ、そこから魔力が流れ込んできた。


『ほら、トーマ。向こうが頭を下げたんだから何か言わないと』


あぁ、そうだ、キキョウの和風な顔に気を取られていたが今はそんな場合じゃないな。


俺はキキョウから視線を外し村長に声をかける。


「えっと、感謝の言葉は受け取りました。取り敢えず座って話をしませんか?」


俺がそう言うと村長も頷く。


「それもそうですな、では向こうのテーブルを足しましょうか。」


村長がそう言うと後ろの五人が動き、もう一つのテーブルを俺達の方へと移動させる、その間に宿の店員は食堂の外に出てどこからか余っていた椅子を持ってきてくれた。


五人掛けのテーブル二つをくっつけ、店員が持ってきた椅子を二つ足す、これで全員が座れる席が出来たが店員は飲み物を準備すると言ってそのまま厨房の方に行き、侍の中でもホナミの次に若いケジローが店員の後を追う。


席順はテーブル端の一番奥に俺、両隣にリズとレイナ、その隣にテオとセオ、セオの隣二つは店員とケジローが座るのか空いている、テオの隣に村長、タイジュと続き、その向かいにミチナガが座り、俺の正面にキキョウが座る形だ、食堂の入り口はキキョウの後ろにあるので俺の席が上座になるのか?


『ほら、トーマ!早く何か言わないと』


場に沈黙が流れている間に上座がどうのと、たわいも無い事を考えているとテーブルの下でリズが手を繋ぎ、魔力を流し込んできた。


『そっ、それはわかるけどさ。何を喋れば良いのか』


俺とリズが魔力会話をしている間も沈黙が続く。


レイナは強張った顔でテーブルに視線を落とし、セオは無表情で厨房を見ている、テオは俺と村長の顔をキョロキョロと不思議そうな顔で見ている。


向こうに目を向けると、村長は俺が話すのを待っている様子で、キキョウは緊張しているのか先程まで意思の強さを感じさせていた黒い瞳を忙しなく泳がせている。


ミチナガは背筋をピンと伸ばし、目を閉じながら姿勢よく座っていて、タイジュとミョーオも落ち着いて座っている。


これ、先に俺が喋らないといけないのか?でも何を喋れば良いのか…。


キキョウに向かって、よくも攻撃してくれたな!なんて言う訳にもいかないし、いやぁ〜強いですねキキョウさん、なんて事も言えないし、取り敢えず村の人に犠牲者が出なくて良かったですね、なんて言ってみるか?そうだ!その前にまずはお互い自己紹介をしないとな、そう思い口を開こうとした所で目を閉じていたミチナガが先に沈黙を破る。


「お嬢」


静かだがハッキリとしたミチナガの声に、キキョウがビクッと体を震わせ、視線を激しく泳がせる、そして俺と目を合わせると頭を下げ、再び頭を上げて俺と目線を合わせてから申し訳なさそうに口を開く。


「あ、あの、私はキキョウ、ホナミと言います。此度の件、村の為に戦ってくれていたあなた方の事をハッキリと確認もせずに攻撃してしまい申し訳ありませぬ。私の未熟さ故の行動で御二方にはいらぬ苦痛を、そしてお仲間の方には多大な心痛を与えた事を深く謝罪致します」


キキョウがテーブルにつく程に頭を下げ、謝罪した後で顔を上げる。


「あなた方が先に村の助勢をしてくれなければ少なからず村人に犠牲者が出ていただろうとその場にいた村の者から聞いております、誠に有難う御座います」


そう言ってもう一度頭を下げる、そして隣でじっとキキョウの謝罪を聞いていたミチナガが口を開く。


「儂はミチナガ、コレトウと申す。旅の方、今回は盗賊に襲われている村を助けた所を攻撃されるという、恩を仇で返す様な真似をしてしまい誠に申し訳無い。お嬢が未熟だというのがまず第一なのだが、一応の理由があるのでそれを聞いてくれるかの?」


閉じていた目を開いたミチナガの言葉に頷くと、ミチナガはかたじけないと軽く頭を下げて理由を話してくれた。


「まずこの時期にヒズールに旅人が来る事が珍しいのが一つ。旅の方と盗賊共の装備が似ていたのが一つ。最後に、これが一番大きいと儂は思っておるのだが、旅の方の実力がかなり高いのが一つ。恐らくお嬢は早く倒さねば村人に犠牲が出ると思い焦ってしまったのだろう」


ミチナガの説明を聞いて考える、確かに盗賊団全員が俺達と同じ様に体の動かし易さを重視したような装備だった、恐らく体を動かすのが得意な獣人という種族は防御力よりも体の動きを阻害しないような装備を好むのだろう、テオも装備の話をした時に動きが阻害される様な装備は気持ち悪いって言ってたしな。


そんな盗賊団と俺達の装備は薄暗い中で見ると見分けがつかない程に似通っていた筈だ、となると俺達も盗賊団の仲間と思われても仕方ないのかもしれない、鑑定で判断出来る俺とは違いキキョウは見た目で判断するしかないんだからな。


それにこの時期にはヒズールに余所者は滅多に来ないようなので村人、盗賊団以外の第三者という考えも浮かばないだろう。


そしてキキョウは魔力感知を持っている、その魔力感知で俺達の魔力を感知し、ある程度の実力を把握して村人には荷が重いと焦り、急いで無力化する為に誰何もせずに攻撃をしたと言われると、まぁ理解は出来る。


理解は出来るが、 やはり村を助けた、良い事をしたのに攻撃されたってのはモヤモヤするんだよなぁ。


でもそれは俺の言い分というか、勝手にお節介をしただけと言えばそうなんだよな、キキョウは盗賊に襲われている村に駆けつけて怪しい奴を無力化したという、職務に従っただけだしな。


キキョウの謝罪とミチナガの説明を受け、更に先ほど宿の店員に言われた、ホナミ様をあまり恨まないでくれという言葉を思い出し、納得した訳ではないが色々な事情が重なっただけで仕方ないよなと思い始めた頃に、ずっとテーブルに目を落としていたレイナがポツリと呟いた。


「納得…出来ません…」


「えっ?」


ポツリと呟いたレイナの言葉、その言葉が意外だったので思わず間抜けな声を出してしまった。

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