第100話 決着、そして宿での一時

「あ〜、参った」


拳を目の前に突き付けられたドルントが両手をバンザイの形に上げて降参する、その言葉を受けてハミルを見る。


「勝者トーマ!これで決闘は兎の前足の勝利となる。なお決闘の結果とそれに伴う契約はラザの冒険者ギルドが証明するものとする」


ハミルの宣言に今日一番の大歓声があがる、割れんばかりの歓声を聞きながら疾風迅雷を解き、投げ飛ばした時に落ちていたドルントの帽子を拾い、倒れているドルントに手を差し出して引き起こした。


「おう、ありがとな。いやぁ、本当に強いな。それ以上に面白い、胸を打たれたと思った次の瞬間には地面が目の前に見えた、と思ったら今度は背中に衝撃を受けて気付いたら空が見えていたな。あれはスキルなのか?」


身体強化を特大まで鍛えたドルント、かなり強めに叩き付けたのだがまだ余裕がありそうだ、リズは速度の方を重点的に強化しているがドルントは体そのものを強化しているのかもしれないな、そのドルントに今のはスキルかと問われて考える。


ドルントを背負って投げたのは柔道の投げ技、背負い投げだ。


モストールの、体術とは違う蹴術というスキルを見て、自分の格闘術というスキルについても少し考えたのだが、これは地球にいる時に読んだ本やテレビで見た格闘技の知識が関係しているのだろう、身体操作や体を鍛える事でその知識を扱える様になったのがスキルに顕れ、体術ではなく格闘術になっているのだと思う。


格闘技は武器や魔法、更に身体強化で力任せに攻撃するだけで相手を殺す事が出来るこの世界にはあまり無い対人の技術なので、ドルントはそれに対応出来ずに俺の見様見真似の技術にもなす術もなく投げられ隙を作ってしまった、魔物にはあまり通用しないだろうが今回の様に命の奪い合いでは無く相手を制圧するだけでいい決闘等の場合には役に立つ技術だ。


「あれは昔「ああ、無理に答えないでいいぞ。冒険者なら自分の力を隠すのは当たり前だからな、それより仲間が来てるぞ。俺も仲間の所に戻るよ、他の奴等にも言い聞かせてくるからまた後でな」」


少し考え、小さい頃に習った特殊な技術だと答えようとした俺に被せる様にドルントが答え、さっさと仲間の所に戻ってしまった、パットもそうだけど中年冒険者はせっかちだな。


「兄ちゃんやったな!すっげぇ格好よかったぜ。あれ、凄いな、兄ちゃんがガッと掴んでバッと回ったと思ったら相手がクルンと回ってバァンて地面に叩き付けられてたぞ、あれ、俺にも教えてくれよ」


テオが興奮しながら駆け寄ってきたので頭を撫でる、どうやらテオに満足してもらえる動きは出来たようだ。


「テオ、まだ完全には治ってないんだから無理しないように」


はしゃぐテオをレイナが注意する、その後ろからセオとリズが歩いてきた。


「トーマ、何か変わった?」


「そうだね、少しだけ、覚悟が出来たかな。ありがとうリズ、俺に気付かせる為に今回は何も言わなかったんでしょ?」


リズに聞かれ、答えながらお礼を言うと、リズは首を振りながら笑顔を見せる。


「今回の決闘はラザの町を良くしたいと思ったから、それは私達も一緒だって言ったでしょ、私とレイナはトーマよりも先にラザの皆にお世話になってるんだよ」


「そうですよ、今回はテオとトーマさんに任せましたけど、私とお姉ちゃんだって自分達の噂でラザの町に迷惑をかけているのは心苦しかったんです」


リズとレイナは二年もラザにいるんだからな、それもそうか。


「それに、トーマには少しずつ馴染んでもらえばいいと思ったんどけどね。覚悟が出来たのはやっぱりテオが危ないと思ったから?」


「そうだね、俺も自分の事で色々と考えてはいたけど、テオが危ないと思った時に、後悔しないようにいつでもどんな時でも覚悟が必要なんだって思ったんだ」


俺とリズの会話に名前が出たテオが俺とリズを不思議そうに交互に見るので頭を撫でる。


そんな俺の顔をリズがジロジロと覗きこんできた、いきなり近くなるリズの自由な距離感だ、良い匂いがする、髪がサラサラだな、触ってみたい、そう思いリズの頭に手を伸ばそうとするとリズがまた離れた。


「ふぅん、女の人が夜中一人で買い物するって話を聞いてたからさ、そんな常識を持ったトーマにはまだまだ時間が必要だと思ったんだけどね」


リズ達にとっては女の人が夜中一人でコンビニに行くというのはそれほど衝撃的な事らしい、それは頻繁にある事ではないし、人によっては無用心だと思う人もいるだろうけどそれでも来る客はいたもんだ、そんな世界から来た俺がこの世界に馴染むのはまだまだ時間がかかるとリズは思っていたようだ。


リズの頭を撫でようとして空を切った手の下に、レイナがえへへと言いながら頭を差し出して来たので撫でる、レイナのサラサラの髪を撫でながらリズに俺の考えを話す。


「でも俺は自分のやりたいようにやるって決めたからさ、ならちゃんとそれなりの覚悟も決めないと駄目だからね」


そう言うとリズはそっかと言って笑ってくれた。


「あ、あの…」


そんな俺達にロイド達がおずおずと声を掛けてきた。


「今回は、色々とありがとうございました。俺達はもう少しこの町で冒険者をやってみようと思います」


「あ、うん。その事なんだけど俺からも話したい事があるから、少し待っててね」


四人で頭を下げながらお礼を言ってきたロイド達、その四人に宿で話があるからと、少し待たせてハミルの元に行く、観客はまだ興奮した面持ちで楽しそうに話をしながら少しずつ町に散っていた、祭りが終わったので日常に戻るようだ、中には昼間から酒場に行こうと盛り上がっている冒険者達もいるが。


「ハミルさん、今回はありがとうございました」


手伝いに来ていた他の職員と話をしていたハミルに今回の立ち会いのお礼を言うと、ハミルは苦笑いを見せた。


「ああ、お疲れトーマ。冒険者は荒事が好きなのは身に染みているがもう少し控え目にしてくれると助かる、今回の様に大事になると一職員には任せられなくてな、俺もそんなに暇じゃないんだ」


ハミルはこう言っているが後でセラから聞いた話だと別に今回の立ち会いも経験豊富な職員に任せても大丈夫だったようだ、だがハミルは人任せにする事を嫌い、自分で仕切る癖があるらしく、そんなハミルだからこそスゥニィは殆んどの業務を丸投げしていたようだ、だから突然のギルド長変更にも対応出来たと言っていた。


やれやれと言いながらも一仕事終えて満足そうな顔のハミル。


「まぁ、だが今回はお前らに感謝しないといけないな。決闘の報酬を聞いてわかったが今回の件は町の人やギルドの為に動いたようだしな、実はギルドにも町の人からの苦情が増えていて少し困っていた部分もあったんだ、本来ならギルドで対応しないといけないんだがこれで少しは良くなるだろう」


ハミルに礼を言われ、今日はこのまま後始末をするし、お前らも疲れているだろうという事で後日ギルドに来てくれと言われて戻ろうとすると、もう一人の別の職員に引き留められた、その隣にはドルントもいる。


「トーマさん、今回の決闘に参加した冒険者で、途中でいなくなった冒険者が二組ほどいるんです。契約自体は決闘前になされているので大丈夫なんですが…」


「トーマ、一応残った冒険者には俺からも話をした、お前らの実力を目の当たりにしたので煩く言う奴もいないだろう。だが事の発端になった奴等な、あいつらとその後に出た三人組が自分達が負けた後に帰っちまったらしくてな。見つけたら俺からもキツく言うつもりだが」


二人の話によるとニル達とバッゲ達は自分達が負けた後に姿を消したようだ、結果を見ずに帰ってはいるが契約は有効で、向こうが何か言ってきても問題は無いと職員は言う。


「あぁ、あの二組ですね。大丈夫ですよ、今回は他の冒険者達が町や若い冒険者に迷惑をかけなければそれでいいんで、ドルントさんも他の冒険者を抑えてくれるならいいです、あの二組が何かしてきても対処しますから」


俺の言葉にドルントが獰猛な笑みを見せる、正直怖い、決闘は終わったんだからその笑みはやめてほしい。


「ほう、既に覚悟してるって顔だな。お前の噂と町の人の話が噛み合わなかったんだがな、やっと納得が行った」


ドルントの話では俺達は採取や町の人の手伝いを喜んで受ける優しい冒険者だと言われているようだ、嬉しいな。だが俺達の噂を聞いてこの町に来たドルントは、町の人の話を聞いてガッカリしていたらしい、そこに今回の決闘騒ぎがあったので噂は本当なのか確かめようと参加したみたいだ。


「魔族殺しの噂と町の人の話がどうにも噛み合わなくてな、だがその様子だと大規模討伐の時に魔物に殺された三人の冒険者、その冒険者に関する噂も本当のようだな。普段は大人しく活動しながら裏では町に迷惑をかける冒険者を排除する冒険者か、本当に面白い。パットの言う通りこれが時代の流れってやつなのかもな」


別に裏でやってるわけではないんだが…、どこかの必殺な仕事人のような事を言いながら豪快に笑うドルント、おそらく魔物に殺された三人の冒険者とはロビンズ達の事だろう。


「噂は話半分で聞いて下さい、レイナも町を壊した訳じゃなくて公爵家の屋敷を少し壊しただけですから」


「「公爵家!」」


俺の答えにドルントと職員が大きな声で驚く、この世界での貴族の立ち位置を忘れていたな。


畏怖の目でレイナを見るドルントと職員に簡単な説明をしながら、話が長くなってしまったのでまた後日という事で別れた。


「遅くなってごめん、じゃあ話はまた明日ギルドでするから今日は俺達も宿に戻ろうか」


「公爵家って何の事ですか?それに何だか見られてたんですけど」


遅くなった事を謝りながら皆と合流し、レイナの質問に何でもないよと誤魔化しながら全員で宿に戻る、途中ロイド達の泊まっている宿に寄り、必要だからと言って宿を引き払ってもらい、ロイド達にも風の安らぎ亭に移ってもらった、風の安らぎ亭には昼食を取った時に部屋の空きを確認してある、もしロイド達が冒険者を続けると決まった時は俺達と行動する事が必要になると思ったのだ。


まだ日が傾き始めた時間なので、宿の食堂もそれほど混んではいなかった。


「その様子だと上手くいったようだね、新しい部屋は二つでいいんだったよね?」


テーブルをくっつけて全員で座っているとジーナがトレイに水を入れて持ってきてくれたので受け取りながらロイド達の部屋をお願いする。


「はい、二人部屋を二つお願いします。それと、少し話をするので食事は後でお願いします」


「あいよ、なんだかシッカリしちゃってまぁ、この宿の部屋は防音じゃないから気を付けな」


そう言いながらジーナは戻っていった、人に聞かせる話でもないが別に聞かれて困る話じゃないんだけどな、それに部屋じゃなくて食堂で話をするし、そう思いながら話を切り出す。


「ロイド達はこれからもこの町で冒険者をするって決めた訳だけど、これから一週間は俺達と行動してほしいんだ」


俺がそう言うとロイドが口を開いた。


「それは、俺達が未熟だからって事ですか?それなら、俺達はこれからも採取や町の手伝いをこなして、十分に経験を積むまでは無理をしないと誓います。だからこれ以上兎の前足にお世話になる訳には」


そこまで言ったロイドを手で遮る。


「そうじゃないんだ、ロイド達の為にじゃなくて俺達の為にロイド達には餌になってもらいたいんだ」


「餌…ですか?」


「そう、今回の決闘は俺達が勝った。だけどそれで納得しない冒険者が二組いるんだ、一組は俺達の方に来るだろうけどもう一組はロイド達を狙う可能性が高い、だから少しの間一緒に行動してほしい。俺達もあの二組を放ったままで町を出たくないんだ」


俺の話を聞いてミーヤがハッと気付いた様子で口を開く。


「あの、三人組ですか?」


「うん、俺達の方には最初に出てきた五人組、あの五人組の様な冒険者を知ってるからね、必ず逆恨みして何か仕掛けて来ると思う。それとミーヤ達に絡んでいた三人組、特にあのモストールって男のミーヤに対する執着はこのくらいで諦めるとは思えないんだ」


ニル達の様な冒険者とはリストルの町で逆恨みをして盗賊と一緒に襲ってきたセッタの事だ、ニル達はセッタと同じ考えで必ず襲ってくるだろう、そしてバッゲ達もまた同じで、特にモストールは簡単にミーヤを諦める様には見えなかった。


それを聞いてロイドも納得してくれたようだ、それにロイド達と俺達の受ける依頼は殆んど一緒だ、だからロイド達にも少しはアドバイスが出来るはずだ、俺は鑑定で採取するので参考にならないから主にリズとレイナがアドバイスをするのだが。


それで明日は午前中は依頼を受け、午後はギルドで話をした後で一緒に訓練をする事で話はついた。


その後、少し早めの食事を取って部屋に戻る、部屋の並びは三人部屋のリズ達が奥、そしてミーヤ達、俺達、ロイド達の順番にしてもらった。


部屋に戻り体を綺麗にした後でテオと少し今日の話をする、テオの拍車はまだ利き脚の右だけしか使えないみたいだ、テオと話をしている時に夕方の鐘が鳴る、テオはそれを聞いて今日の分の魔力操作の練習をしてくると言って部屋を出ていった、俺が真眼で教えてもよかったのだがレイナと教え方が違うと困るので考え直す。


一人残った俺も、自分の空間把握に意識を向け、そして新しい詠唱を考える、空間把握をもっと広く使えるように、イメージを乗せられる言葉を考えていく、色々と言葉を考えているとリズがこの部屋に近づいて来たので一旦集中を解く。


コンコン、ドアをノックする音にどうぞと返すとリズが部屋に入ってきた、今日はお疲れ様と言いながら椅子を移動させて座るリズ、髪が少し濡れている。


「お疲れ様、どうしたの?」


「三人が魔力操作の練習を始めたから邪魔にならないようにと思ってね。それと私はトーマから詠唱に使う言葉を聞こうと思って」


そういう事なら丁度いいと、リズと一緒に色々な言葉を考える、時にリズが俺にイメージを伝え、そのイメージを持つ言葉を教え、時に俺が好きな言葉を教え、その言葉の持つ意味を教える。


そうして結構な時間が経った筈だがレイナ達はまだ魔力操作の練習をしているようだ。


「三人はまだ練習してる?」


リズに聞かれて空間把握に意識を向けると三人はまだ魔力操作をしていた。


「まだ頑張ってるよ」


「そっか、テオは今日頑張ったけどやっぱり負けたのが悔しかったんだろうね。それと、セオも冒険者カードを大事そうにしてたから、私達の役に立てる様にって気持ちが強いのかもね」


テオは分かりやすいのだが、なかなか感情に出さないセオも冒険者になった事を喜んでくれたようだ。


「二人がやる気になってくれるのは嬉しいけど俺達も二人に恥ずかしくないようにしないとね」


リズにそう言いながらふとリズの髪を見ると乾いていた、相変わらずサラサラだ。


「そうだね、特にテオはトーマの事が大好きだからね。ん?どうしたの?何かついてる?」


リズの頭を見ていたのでそれを疑問に思ったようだ、自分の頭を触るリズ。


「あ、部屋に来た時に濡れてた髪が乾いてるからさ。リズとレイナの髪はサラサラだよね、テオとセオはファサファサって感じで触り心地がいいし、俺のパサパサの頭とは大違いだよ」


リズとレイナはサラサラ、テオとセオはファサファサって感じの髪質だ、いつも飲水や清浄の魔法で綺麗にしているとはいえシャンプーやリンスも無いのになんなんだろうな、俺はパサパサなのに。


「でもトーマもこの世界に来た時よりツヤツヤになってる気がするよ、もしかしたら魔力が関係してたりしてね」


俺の髪がツヤツヤに?冗談ぽく言うリズだが本当にそうなら魔力が関係しているのかもな、食材も魔力が多い程に長持ちするし、人間も魔力強度が高ければ若々しい見た目だし。


「触ってみる?」


俺が考えているとリズがニヤニヤしながら頭を差し出して聞いてきた、そうだな、昼は触り損ねたし、リズがいいって言うならいいよな、俺もやりたいようにやるし後悔もしないようにするって決めたからな。


「うん、じゃあ遠慮なく」


え?え?と驚くリズの右腕を左手で、リズの左腕を右手で掴み、腰を捻りながら、リズの掴まれた腕が痛くないように、ゆっくりと引きながら隣に座らせる、そして右手をリズの頭の上に置き、テオ達にするようにゆっくりと髪を撫でる、そして少し考え、今はこうした方がいいと脳裏に過ったので、髪に指を入れてリズの髪を指で梳いてみる。


あ、これ凄く気持ちいい、テオの頭を撫でる時は簡単に頭を撫でるだけなんだけど、指で髪を梳くのって気持ちいいな。


「ちょ、ちょっとトーマ?どうしたの?」


「え?何が?」


「何がじゃなくて、反応がいつもと違うんじゃない?」


「あぁ、後悔しないようにって覚悟を決めたからね、だからやりたい事はやろうってね。それに触ってみるかって聞いたのリズだよ?」


「それは…、そうだけど…」


「ふふ、本当に気持ちいいな」


「き、気持ちいい…の?」


「うん、気持ちいいよ」


「そう…」


「………」


「………」


「………」


「………」


……はっ、あまりにも触り心地が良くて無心で触ってしまった、そろそろ、ん?


無心で髪を触っていた事に気付き、名残惜しいけどそろそろやめようかと思ってリズを見ると目を閉じていた、少し頬が赤いが悪い気はしてないように見える。


というか、リズが少し顔を上に向けているような、なんだか頭の中がぼ〜っとするな。


リズの唇、唇が…。


俺はぼ〜っとした頭のままでリズの髪を梳いていた右手をリズの頭の後ろに回し、優しく引き寄せ、そして唇に唇を重ねる。


リズの右腕を掴んでいた左手をリズの腰に回すと、リズは俺の首に抱きつく様にして両腕を回してきた。


そのままどちらともなくベッドに倒れ込む、何も、何も考えられない…。


このままリズと…。


そう思った所で頭に警鐘が響き、直感でマズイという思いが過る。


何が?そう思いながら空間把握に意識を向けるとレイナとテオが部屋を出てこの部屋に向かっていた、そして両隣の壁のすぐ側にも反応が二つずつある。


「いやぁ、いつの間にか転た寝をしちゃったよ、やっぱり今日は少し疲れたね」


わざとらしく声を出しながら起き上がる、リズも咳払いをしながら起き上がり、椅子に座り直す、そのすぐ後でテオがノックもせずに入ってきた。


「兄ちゃん、ガッツリ魔力操作の練習をしてきたぞ。明日は体を動かしたいからよろしくな」


「あ、うん。そうだな、明日はギルドで少し話をするからその後でな」


元気なテオに返事をしているとレイナがテオの後ろから顔を出す。


「お姉ちゃん、トーマさんすいません、テオとセオがとても熱心なのでこの時間までかかってしまいました。お姉ちゃん終わったからもう部屋に戻って来てもいいよ」


レイナがそう言いながら俺とリズを見る、笑っているレイナが何故か無表情に見える、気のせいか?それとも…、俺にやましいことがあるからだろうか?そ、そうだよな、俺がレイナに何だが少し悪いなって気持ちがあるからだよな、ちゃんと二人が来る前に座り直したしな。


それにレイナもリズとスゥニィの事は認めてるからな、気のせいだよな、そう思いたかったが次のレイナの言葉で固まってしまう。


「それか、今日はテオを私達の部屋に泊めてお姉ちゃんはここで眠る?」


「な、何言ってるの、戻るよ。じゃあトーマ、また明日ね」


そう言ってリズがレイナを引っ張っていった、その時のレイナの顔がドルントの獰猛な笑みより怖かった…。


「兄ちゃん固まってどうしたんだ?そろそろ寝ようぜ、俺も今日は疲れたよ」


「あ、うん。じゃあ魔力操作の練習だけでも汗かいただろ?清浄の魔法をかけようか」


そう言って何とか立ち上がり、テオの側に行く。


「に、兄ちゃんの方が汗だくだぞ?まずは自分に魔法をかけた方がいいと思うぞ」


「あ、あぁ、そうだな。兄ちゃんも汗だくだな、ははは…」


その後はなんとか立ち直り、自分とテオに清浄の魔法をかけ、部屋に備え付けの魔石の灯りを消し、ベッドに入る。


はぁ、あのまま雰囲気に流されてたらどうなってたんだろうな…、そういう事は一人前になってからって決めてたのにな、今日覚悟が出来た後、少し気持ちが高揚してたけどそのせいかな、明日はクタクタになるまで思いっきり体を動かさないとな。


そうやってごちゃごちゃと考えているといつの間にか眠りに落ちていた。


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