第99話トーマ無双!

「勝者テオ」


鼻を潰されたバッゲが顔を抑え、右手を上げて降参の意を示した事でハミルがテオの勝利を告げる。


テオが勝った、それは嬉しいけど今のバッゲの攻撃は危なかった、いくら助けに入ると言っても即死されたら無理だし、何より今、テオは空中で一歩跳ねたよな?


テオが死ぬかもと思った事、無事だった事、空中で跳ねた事で頭の処理が追い付かず右往左往する俺をレイナが宥める。


「トーマさん少し落ち着いて下さい」


「だっ、だけど今のは危なかったよ」


テオを心配し、狼狽する俺をレイナが真面目な顔で諭す。


「確かに今のは危なかったですが決闘である以上は命を奪わない取り決めをしていても事故で死ぬ事もあります、お姉ちゃんも私もそれは覚悟しています。テオだってそうだと思います」


この世界は命が軽い、それは、わかっていた、俺ももしかしたら仲間が死ぬかもしれないと考えて、だから強くなりたいとずっと思ってる。


でも実際それを目の前にすると、やっぱり覚悟が出来てなかったのかもしれない。


俺は人の命を簡単に奪ってきたのにテオが危ないと思っただけでこんなに取り乱すとは…しかも俺の我儘で…、そう考え込もうとした俺にリズが苦笑いを向ける。


「テオが死ぬかもとか、自分のせいだとかまた面倒な事を考えてるでしょ?」


そう言った後でリズが手を繋ぎ、魔力を送ってくる。


『今回決闘する事になった理由の、ラザの町を良くしたいって気持ちは私達皆一緒だし、そのせいで死ぬかもしれないって理解もしてる。でもその理解は平和な日本から来たトーマにはまだ難しくて、それに覚悟も必要だってわかってる。だから私だって本当に危ないと思ってたら今回の決闘なんて許してないしテオが出る事も止めてたよ。ここでもしテオが死んだら私達皆の責任、だからトーマ一人のせいじゃないよ。それに』


そこまで魔力で会話をした所でリズが手を離し、レイナとセオを見ながら声に出して話す。


「もう少し私達を信頼してよ。リストルの町の皆をラシェリから守ったテオがこんな所で簡単に死ぬ訳無いじゃない」


リズの言葉にレイナも微笑みながら続く。


「そうですよ、それにテオが毎日一生懸命自分を鍛えているのを知っていますよね?それで拍車を使える様になったんですよ、後でテオを褒めて下さいね」


二人に諭されて気持ちが少し落ち着いた、命が軽い、その事を今までの経験で実感していたし実際にテオとセオ、二人が死にそうになったのも見た、だけどそれは目に見える驚異に対してだけで、いつでも簡単に死ぬかもしれないというのをわかっていなかった、六千の魔物に攻められるのと程度の違いはあるけれど、町の中での決闘でも命を落とす可能性はあるんだよな。


いつでも死ぬ可能性がある、本当の意味でのそれをリズ達は覚悟している、というか、当たり前に受け止めている、それはそうだ、リズ達は住んでいた村を一日で滅ぼされてるし、テオ達も十才で奴隷になって、その途中で魔物に襲われて命からがら逃げ出したんだもんなぁ。


俺も魔物や魔族、悪意ある人間に対しては命の危機を感じるけど今回の決闘は、ルールを決めた事でどこか試合感覚だった、そこがいつでも死ぬ可能性もあると理解しているリズ達と根本的に違う所だ。


「ごめん、まだまだ甘い考えをしてたよ。テオ、拍車を使える様になったんだね、後で沢山褒めなきゃね」


その言葉にリズとレイナが笑顔を見せる、そして少し気持ちの整理が出来た所でテオに目を向ける、すると何故かテオが地団駄を踏んで怒っていた、なんで怒ってるんだと思っているとセオが説明してくれた。


「テオ、拍車を使って勝った後で、多分トーマさんに褒めてもらいたかったんだと思います。それでずっとこっちを見ていたんですけど、トーマさん達がずっと話をしていたので」


あぁそうか、セオの説明を聞いて俺は慌ててテオにサムズアップをする、するとテオはニカッと笑ってくれた。


そして決闘の方だが、俺がリズとレイナに諭されている間は周りの反応から決闘が始まっていないのはわかっていたが、その話が終わった今でもまだ相手が決まってないようだ、流石に遅くないかと思っているとハミルが俺を手招きした。


「えっと、何か問題がありましたか?」


ハミルの所まで歩いていき、テオの頭を撫でながら聞いてみる。


「それがなぁ、バッゲ達までは順番が決まっていたんだがその後を決めていなかったので誰から行くかなかなか決まらんのだ」


「ギルド長、正直に皆ビビってるって言えばいいじゃないですか。コイツらは集団じゃないと文句も言えない半端者なんですよ」


そう言って集団の中からドルントが歩いてきた。


「おう、トーマ、お前の所のチビは凄いな。凄すぎてコイツら皆ビビっちまったんだ、もう戦意のある奴は一人もいねぇ。だからトーマ、お前が相手を指名しろ」


そう言って後ろの集団を指差すドルントに不思議に思いながら答える。


「でもドルント…、さん達は俺達と戦いたいんですよね?ならドルントさん達が先に出ればいいんじゃないですか?」


ドルントは今から戦う敵だが何となく憎めないのでさん付けで呼んでみる、俺の言葉にドルントが嫌そうな顔をする。


「ああ?俺はこんな奴等の尻拭いをするのは嫌だぞ、俺は戦う以上はお前らに勝つつもりだ、だが俺が勝ったらお前らはコイツらをぶっ飛ばせないだろう?だから俺達は最後でいいんだよ」


ん?なんだか考えにすれ違いがあるような…、その疑問はハミルが口を挟んだ事で理解出来た。


「トーマからコイツらに決闘を申し込んだんだろ?だからドルントはトーマがコイツらをぶっ飛ばしてスッキリした後で戦いたいって言ってるんだ」


成る程、確かにドルント達以外は俺が煽ったせいで集まった連中だ、端から見ると俺から喧嘩を吹っ掛けた形になるんだよな、だからぶっ飛ばしたいだろうと、ぶっ飛ばしてスッキリしたいだろうという訳か。


そこまで理解出来た所で考える、正直ムカついたのは直接絡んできたニル達、それとロイド達の為にもバッゲ達を痛い目に合わせたかった、だけど他の連中は直接絡んできた訳ではなく、ニル達に便乗してその場のノリで言っただけの奴等も多いだろう。


そんな奴等はテオにビビった今の時点でもう俺達に逆らう気は無いはずだ、俺達が勝てばニル達とは違いちゃんと約束を守るだろう、俺が問題にしているのは冒険者のマナーの悪さと、採取や手伝いをする冒険者を兎野郎と馬鹿にする事で、それさえ改善されるなら別に直接戦わなくてもいいな。


そこまで考えてハミルとドルントに別に構わないと告げる。


「俺は取り決めた約束さえ守ってくれるならそれでいいんで戦意の無い人は不戦敗にしてもいいですよ。出来ればドルントさん達も不戦敗になってくれてもいいんですけどね」


「はっ、冗談だろう。俺はチビの動きを見て体が熱くなってるんだ、それにナンシーにああまで言わせるお前とは是非戦ってみたい、だから絶対にお前とは戦うぞ」


獰猛な笑みを見せるドルント、そして更に別の条件を出してきた。


「そうだ!お前らの望む報酬は町の人や下級冒険者に迷惑をかけるなって事だったよな、ならお前らが勝ったら俺もそれに協力しよう。俺はここに来てまだ一ヶ月くらいだがそれでもこの町とギルドでは何故か顔役の一人になっててな、俺の言う事なら聞いてくれる連中も結構いると思うぞ。だから本気で戦ってくれよな」


それは有り難い申し出だ、この町では金下級の冒険者は四組しかいない、そのうちの一組がドルント達らしい、そんなドルント達が協力してくれるなら俺達が町を出た後も冒険者が町に迷惑をかける事が無くなるかもしれない。


「わかりました、じゃあ俺が本気を出せる様に頑張って下さい」


思わず偉そうな言葉が口をついて出た、俺の言葉を聞いてドルントが笑い出す。


「ははっ、面白ぇ。それじゃあ周りの観客も焦れてるしさっさと始めるか。おい!残ったお前らは敗けだ。それとマイオ、お前がうちの一番手だ」


ドルントが後ろの集団に声をかけると集団からスキンヘッドの男性が出てきた、俺もテオに声をかけてリズ達の所に戻る。


「テオ、相手は強いけど頑張れよ。信頼してるぞ」


「任せとけ兄ちゃん、俺も兎の前足の一人だからな」


そしてテオとマイオが対峙する、テオは俺に元気な顔を見せたがそろそろ限界も近いだろう。


「始め」


ハミルの合図にテオが飛び出す、マイオは待ちが得意なのかその場から動かない、そのマイオにテオが一直線に突っ込む、やはり腕が痛むのか横の激しい動きは出来ないようだ。


「ふっ」


テオの勢いをつけた飛び蹴りはマイオの身体強化された分厚い腕に受け止められる、そしてそこを右の拳が襲うがテオは最小限の動きで避けるとマイオの左脇腹に拳を突き入れる。


「ぐっ」


マイオが顔を顰めるがテオの奮闘もそこまでだ、マイオがテオの攻撃に構わず繰り出していた左の裏拳をモロに顔に受けて吹き飛ばされる、テオはそのまま立ち上がる事が出来なかった。


「勝者マイオ」


ハミルの宣言に周りから歓声と、その歓声を越える程の悲鳴があがる、悲鳴は若い女性や子供の声が殆どだ、テオはどこでも人気者だな。


「もう少しパーティーの役に立てると思ったけど無理だった、やっぱり兄ちゃんみたいに格好よくは行かないな。兄ちゃん後は任せるぜ」


テオの側に行くと弱々しくも笑顔で答えてくれた、大きな怪我は右腕のヒビと、今殴られた左の頬か、頬も大きく腫れ上がっているがレイナの治癒で治るだろう、テオが左手を出して来たので引っ張り上げる。


「お疲れテオ、十分に格好よかったぞ。それに拍車を使える様になってたのは驚かされたよ。使い方も上手だった、テオは立派にパーティーの一員だ、後はリーダーに任せとけ」


テオを引き起こし、頭を撫でると嬉しそうに微笑む。


テオをレイナに任せ、場に戻りマイオの前に立つ。


「笑っているのか、余裕だな」


前に立った俺を見てマイオがそう言う、どうやら今の俺は笑っているらしい、すぐにマイオに頭を下げる。


「俺、笑ってますか?すいません、余裕とか、そういう事じゃ無いです。テオが頑張ってくれたのが嬉しくてつい笑ってしまったんだと思います」


そう言って誤魔化す、テオの頑張りが嬉しかったのは事実だが今の俺は複雑な心境だ。


町の中だから、ルールが有るからと仲間が死ぬ可能性を考えていなかった甘い自分。いつも受け身で、悪意を向けられても最初は我慢してしまうヘタレな自分。自分から決闘を仕掛けておいて、その決闘でテオを殴ったマイオにムカついている理不尽な自分。テオに頼られ、格好いいと言ってもらえる自分。こうやって、ウジウジと考える優柔不断な自分。


色々な考えが頭の中を駆け巡っている、笑っていたのなら自嘲の笑みだ。


色々と考えてしまうのは全然覚悟が足りてなかった証拠だ、やりたいようにやると決めた筈なのに、その行動に対する覚悟が全然足りてなかった、スイッチが入らないと戦えないなんて阿呆かと、テオが死んで、その後でスイッチを入れます、なんて事が通るわけがない。


あぁぁあぁぁあ!イライラする、この世界で生きるって決めたんだからさっさと覚悟を決めろよな。


町の中のルールのある決闘、この比較的安全な時に気付けたのは幸運だ、これが絶体絶命の状態じゃなくてよかった、理不尽は何処にでもある、今すぐ覚悟を決めよう、スイッチを入れよう、この世界の理不尽を受け入れよう。


「っしゃ!」


そう決めて自分の頬を殴る、とても痛い…、でもスイッチが入った気がする、このスイッチを切らない様にしよう。


「だ、大丈夫かお前?」


目の前のマイオが引きつった顔で聞いてくる、ハミルも何だコイツって顔で俺を見ている、目の前の男が笑っていると思ったら突然自分の顔を殴ったんだからこの反応は当然か。


「すいません、気合いを入れただけです。最初から本気で行くんで、死なないで下さいね?」


「お、おう…」


あれ?ここは、へっ、面白ぇ、って返す所じゃ無いのか?マイオはまだ引き気味だ、どうやらドルントと違って戦闘狂では無いようだな、まぁいいか、魔力強度も高いし死なないだろう。


「じゃ、じゃあ始めるぞ?」


ハミルが俺に確認を取る、そんなのいいから早く始めて欲しい、俺は今、無性に戦いたい、やってやるぞって気分なんだ。


「は、始め」


ハミルの合図にすぐに呪文を唱える。


『疾風迅雷』


バチバチと放電する風の魔力を纏い、風に乗る様に動き一息にマイオの懐に入る、呆けた顔のマイオの目の前で飛び上がる。


『豪脚』


そして疾風迅雷に豪脚を重ね、地面に叩き付けるようにマイオの太い腕を蹴り、そのまま振り抜く。


「がっ、ぐえっ」


二の腕の辺りを蹴り飛ばされたマイオはその場で地面に叩きつけられた。


「しょっ、勝者トーマ」


ハミルが直ぐに俺の勝利を告げ、決闘を止める、マイオは俺の蹴りで左腕が完全に折れたようだ、やり過ぎたかな?だけどテオの顔を殴ったし、戦いたいって理由だけで参加したんだからいいよな、ギルド側が治癒魔法の使い手も準備しているので大丈夫だろう。


ん?やけに静かだな、そう思って辺りを見回すと何故か静まり返っていた、いや、町の人はヒソヒソと話をし、冒険者達はザワついている、何故だろう?テオだってジーザ達を圧倒したんだし、俺も同じ事をしただけなのに。


「兄ちゃん格好いいぞ」


テオが声をかけてくれた、振り返って拳を突き上げるとテオも俺の真似をして拳を突き上げた。


「おっおおお!」「すげぇ、マイオを一瞬で」「あれが魔族殺し」「リストルの英雄」「いや、兎の前足はラザ専属だぞ」「ラザの英雄?」「ラザの英雄!」


その途端に大歓声が起きる、やっぱりテオか?俺じゃ駄目なのか?それにラザでは何もしてないのに英雄扱いされても困る。


「きっ、君は凄いね。あのタフなマイオを一撃で、マイオとは十五年一緒に冒険者をしているけどあそこまで簡単に倒されたマイオは初めて見たよ。それにナンシーが君の事を怖いって、俺は棄権しろって言われたよ」


振り返るとパットが来ていた、次の相手はパットだ、手には槍を持っている。


「テオとの戦い方を見て、マイオさんは待ちが得意だと思ったので最初から全力で行きました。次はパットさんですね、なるべくナンシーさんを怖がらせないように気を付けて戦います、よろしくお願いします」


「あぁ、よろしく。ちなみに私にはどういう戦い方をするんだい?」


「それは戦ってみてのお楽しみです」


俺の答えに笑顔で舌打ちしながら構えるパット、マイオは俺を初見だったので少しは油断があっただろう、だけどパットは最初から真剣だ、マイオのように行くとは考えないでいよう。


「始め」


まずはそのまま突っ込んでみる、するとパットはその軌道上に槍を突いてきたので横に飛び退いて避ける、呆けたマイオと違い動きにはついて来れるようだ。


もう一度突っ込む、パットも同じ様に槍を突いてきたのでギリギリで躱そうとするとパットは途中で槍を止め、素早く引き、狙いを足元に定めて最初の突きよりも鋭い突きを放つ。


『拍車』


呪文を唱えながら飛び上がって躱す、パットの突きは俺を飛び上がらせるのが狙いだったのか直ぐに槍を手放し腰の剣を抜きながら斬りかかってきた。


だが俺は左足の拍車を使いその場で跳ねてパットの袈裟斬りを躱す、パットはそこまでを狙っていたのか袈裟斬りを振り切らずに止め、返す刀で斬り上げてきた。


それを右足の拍車を使い、前に一回転しながら躱す。


「なっ、まだ跳ねるのかっ」


驚くパットの肩に踵を叩き込んだ。


「ぐっ、参った、骨が折れたようだ、降参するよ」


「勝者トーマ」


パットの降参を受けてハミルが勝利を告げ、今度は直ぐに大歓声が起きた。


「あの空中で跳ねるのは風魔法かい?それに体に纏っている魔力は身体強化みたいなものかな?君らは面白い魔法の使い方をするんだね。これも時代の流れなのかな」


肩を手で抑えながらパットが話し掛けてきた、拍車が何魔法かなんて考えた事が無かったな、でも身体強化だって魔力を使うけど何魔法かなんてわからないし、拍車もスキルの様なもんだな。


敢えて言うならイメージ魔法か?スキル魔法?それとも無属性魔法?俺がパットの質問に考え込んでいるとパットが笑いだした。


「ははは、隠してるんじゃなくて本当にわからないようだね、自分でもわからない魔法を使っているのか、若いっていいね。今までも若く才能がある冒険者を見てきたけど君達は飛びっきりだ。次で最後だ、頑張ってくれ」


そう言って集団の方に歩いていくパット、若いから使える訳じゃないんだよと言いたかったけど、何だか一人で納得してるからいいか、そしてパットと入れ違いでドルントが出てきた、ナンシーは戦わないようだな。


「お前本当に凄いな」


ドルントが歩いてくるなり開口一番言い放つ。


「こんな大勢に喧嘩を売るだけの事はあるな、噂ってのは大抵大袈裟になるもんだがお前らは全くそんな事がない、ってぇ事は後ろの嬢ちゃん達の噂も本当なのか」


そう言ってドルントは俺の隣まできてリズ達に目を向ける、流石にレイナの町を破壊するという噂は大袈裟だけど、疾風迅雷を纏ったままなので早く戦いたいから訂正するのは後でいいか。


「まぁ概ねそんな感じです、それよりドルントさんが最後なんですよね?」


俺がそう言うとドルントは獰猛な笑みを浮かべ、開始の位置まで退がる。


「あぁ、そうだ。じゃあ話をしててもしょうがないしさっさとやるか。ギルド長、どうぞ合図を」


ドルントが促すとハミルがうむと頷き、合図をする。


「始め」


その途端にドルントの体を纏っていた魔力が更に膨れ上がる、ドルントは身体強化を特大まで鍛え上げている、そこだけを見るならリズと一緒だ、魔力強度は俺が高いが油断は出来ない。


ゆっくりと近づく、ドルントも近づいてくる、お互いが近付き、先に剣の間合いに入る。


「しっ」


鋭く息を吐くドルントの、構えた剣の切っ先が目の前に迫ってくる、それを顔だけで躱す、だがドルントは素早く引き、そして連続で突いて来る。


それを全て躱しながら徐々に近づいていく。


「おいおい、これが見えてるのか」


ドルントが突きを繰り出しながら驚きの声をあげる、言うだけあって確かに速い、速いがリズの縮地ほどではない、ドルントと同じ身体強化特大を持つリズの、縮地からの攻撃は正面に立って見ると、横から見るのとは違い本当に速い、しかもリズの攻撃は木の枝でも血が出るし骨が折れる程に痛いんだ、それを旅の間何度も受けてきたんだ、それに比べたらいくら連続で突かれてもこのくらいの速さならまだ避けられる。


ドルントの突きを躱し、籠手で逸らし、遂に拳の間合いに入る。


「流石、に、予想、外、だっ、」


懐に近づく程に速度を上げていたドルントの突きだが十分な距離まで入る、するとドルントの渾身の力を込めた一際鋭い突きが来る、だがそれも疾風迅雷の影響で上がっている動体視力をもって躱す。


「うらっ」


ドルントはその渾身の突きを引かず、そのまま横に薙いできた、だが突きよりも遅いそれを屈んで躱す、ドルントはそのまま剣を捨て殴りかかってきた、ドルントは退がる気はないようだ、それならここで決めてやる。


剣を捨て、左の拳を突いて来るが先程の突きで十分に目も慣れている、右手の籠手でドルントの拳を外側に逸らしながらその左腕を掴み、右拳を構えたドルントがその拳を突くより早く踏み込んで左肘をドルントの胸に突き入れる。


「うぐっ」


胸を強打され呻くドルント、俺はドルントの胸を打った左腕でそのまま胸ぐらを掴み、ドルントに背中を預ける様に体を回し、ドルントの左腕を掴んでいた右手と、胸ぐらを掴んだ左手を引き付けるようにしながらドルントの体を背中に乗せると、梃子の原理を使い思いきり地面に叩きつけた。


「ぐはっ」


背中から石畳の地面に強く叩きつけられたドルントは、それでも直ぐに立ち上がろうとするがそれを素早く制し、馬乗りになりドルントの顔の前に拳を突き付けた。

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