第94話 変わらない所、変わった所

人だかりが出来ている場所に行くと言い争いが聞こえてきた。


人垣であまり見えないが、ハゲ頭、茶髪に髭面、モヒカン頭のオッサン三人組と、若い男性二人に女性二人のパーティーが向かい合って何か揉めているようだ。


「てめぇらが道の真ん中を歩くなんて十年早いんだよ」「そうだ、兎野郎は大人しく道の端から歩きやがれ」「へへっ、兎野郎とパーティーを組むより俺達と来いよ」


オッサン三人組が若い冒険者に絡んでいるようだ、それにしても兎野郎って言葉を久し振りに聞いたな。


「お、俺らだって魔物の討伐もしてる。オークだって討伐してる」


モヒカンのオッサンが女性に向かって伸ばした手から女性を庇う様にして前に出た若い男の冒険者が言い返す、それを聞いてオッサン達はゲラゲラと笑い出す、もしかしたら酔っているのかも知れない。


「オークなんて簡単に倒せるぜ、あれは魔物じゃなくて食料だろ」「お前らはパーティーで倒すのがやっとだろ、俺らなら一人でも倒せるぜ」「そうだぜ、だからお嬢ちゃん二人はこっち来いよ」


他の二人はからかっている感じだけどモヒカンのオッサンは女性に執着し過ぎだろ、それにしても、俺達がロビンズ達に絡まれてる時も周りからはこういう風に見えていたのか、かなり不愉快だな、不愉快だ、特に兎野郎と馬鹿にするのが不愉快だ、止めに入るか?でも確実に面倒な事になるよな。


俺がそう思っていると肩を叩かれた、振り向くと笑顔のリズとレイナ、サムズアップをしたテオ、真っ直ぐに俺を見詰めるセオがいた。


「有り難う」


確実に面倒な事になると分かっていながら背中を押してくれる四人にお礼を言って、人垣を掻き分けて止めに行こうとすると衛兵がやって来た。


「おい!何をしている、町中で揉め事を起こすと冒険者資格を停止にするぞ」


どうやら町の人が衛兵を呼んだようだ、少し洒落た服を着た人に先導されて十人程の衛兵が来ると群衆も散っていき、オッサン達も何か注意をされた後で反省の色も見せずに笑いながら去って行く、若い冒険者達も少し話を聞かれた後でギルドの方に歩いて行った。


え?せっかくやりたいようにやると決めて、皆にも送り出してもらって、かなり緊張しながらも止めてやると思ったのに終わり?いや、何事も無く済んだのならそれが一番なんだけどさ、うん、何事も無くて良かった。


自分に言い聞かせながら皆の所に戻ると皆は苦笑いを浮かべていた。


「無事に済んで良かったね、これからどうする?ギルドの訓練所にでも行こうか?」


「そうだね、買い食いで昼食も済ませたし腹ごなしに体を動かそうか」


リズの提案に頷き、ギルドに行こうとした所で後ろから声がかかる、振り返るとタインが手を振っていた、衛兵を連れてきたのはタインだったようだ。


「タインさんお久し振りです、いつもの鎧姿じゃないから気付きませんでした。私服はお洒落なんですね」


そう言ってタインの所に歩いていくと横から一人の女性が歩いてきた、セラだ。


「セラさん、お久し振りです。セラさんもギルドの制服じゃないんですね、タインさんも私服で、セラさんも私服でこの場にいるなんて偶然って面白いですね」


タインもセラもいつもは鎧と制服だ、その二人が私服で、しかも偶然居合わせるなんて面白いな、そう思っているとリズが呆れた顔をする。


「トーマ、どう見てもタインさんとセラさんはデート中でしょ。タインさんは門にいなかったし、セラさんもギルドにいなかったから休みを合わせて町の中をデートしてたんだよ」


あ、なるほど、そういう事か、リズの言葉に納得して二人を見るとタインは照れ臭そうに頭を掻き、セラは無表情ながらも少し頬を赤くしていた。


「いや、まぁそうだな。それで町を歩いていたら揉めてるのを見付けてな、セラさんに待っててもらって衛兵を呼びに行ったんだ」


気恥ずかしいのか少し言いにくそうにタインが話す、別に恥ずかしがらなくてもいいのに、それよりもデートか、いつも皆と一緒にいるから考えた事も無かったけどデートっていいな。


レイナも羨ましそうに二人を見てるし今度誘ってみよう。


「それで、トーマ達は今日帰ってきたのか?それにその二人は?」


タインに聞かれたのでテオとセオを紹介する、セラにはリズとレイナが話を聞かせていた。


簡単な経緯を話した所で一緒に昼食に行かないかと誘われたがデートの邪魔をするのも悪いと思い俺達はもう済ませたと言って断った、じゃあ夕食をと言われ、デートは夕食が一番大事なんだよ言うリズの言葉に一度は断ったのだが、タインとセラが俺達の話を聞きたいと言ったのでそれならいいかと宿で一緒に夕食を食べる約束をして、二人はデートの続きに、俺達は少し体を動かす為にギルドに向かった。


ギルドにつくと顔見知りのギルド職員に訓練所を使うと断りを入れて訓練所に向かう、先客がいたので隅の方で体を動かす事にした。


今日は時間に余裕があるのでまずは一時間ほど柔軟をして体を解す、それだけで体が温まる、それから型を一時間、組手を一時間程して訓練を終えた。


身体強化を使わない組手だったがレイナがテオに何回か遅れを取っていた、旅に出てからのレイナは修行の方を呪文中心にしていたのでテオに追い付かれたのかもな、レイナも悔しそうにしていたし、懐に入られた時や、森の中では魔法よりも自分の体で戦う必要もあるはずだ、レイナとももう少し組手をした方がよさそうだ。


訓練を終えて部屋を出ようとすると周りからの視線を感じる、来た時よりも人が増えてるな、普段は訓練所を使う冒険者は少ないのに、そう思いながら訓練所を出るとギルドは依頼を終えた人達で混み始めていた、その人達も俺達を見てヒソヒソと話をする、何だかやりにくい。


「おい、兎の前足じゃないか。町に戻っていたのか」


周りの視線に戸惑っていると一人の冒険者がそう言って俺達の方に来る、確か、大規模討伐の時に一緒だった冒険者だな、名前は覚えてないが長い茶髪を後ろで束ねた二十代中盤の冒険者、顔は覚えてるぞ。


「アウルさんお久し振りです、大規模討伐からラザに残ってたんですか?」


アウルは大規模討伐の前にラザに来た銀上級の冒険者だ、あまり話をした事はなかったが会釈する程度の顔見知りではあった、大規模討伐が終わってもラザに残っていたようだ。


「あれ?俺ってトーマに名前教えたか?一方的に俺が知っているだけだと思ったんだけどな」


しまった、名前は聞いてなかったか、鑑定で名前を知っていたのでつい名前を呼んでしまった、取り合えず誤魔化そう。


「一度森で会ってその時に聞きましたよ、それよりあれからずっとラザにいたんですね。大規模討伐が終わったらまた別の所に移動すると思ってました」


そうだったか?まぁいいや、そう言って嬉しそうに話をするアウル。


「そうなんだよ、大規模な討伐があるって事でラザに来たんだけどこの町は中々居心地がよくてな、そのまま居着いちまった。それにしてもお前らは目立つな、あの時も目立っていたけど今も注目の的だ、それに色々と噂を聞いてるぞ」


意味深な笑みを浮かべながら話すアウル、録な噂じゃなさそうだ。


少し話をしないかと言われ、夕方の鐘が鳴るまでならいいかと思い、リズ達にも確認してギルドに併設されている酒場に行く事にした。


そこで聞いた俺達の噂は本当に録なものじゃ無かった。


まず、燃え盛る炎で敵味方問わず燃やし尽くす魔族殺しのトーマ、目にも止まらぬ早さで魔物の首だけを撥ねる首狩りのリズ、辺り一帯、魔物も町も風と雷で破壊する殲滅者レイナ。


いやいや、明らかにおかしいだろ、まず敵味方問わずってなんだよ!それに首狩りって…いや、リズは別におかしくないか、おっとリズに睨まれた。レイナも町を破壊するって思われてるけどレイナはハンプニー家の屋敷を少し壊したけど町は壊してないんだけどな。


この世界ではどうなのかわからないけど、俺には首狩りとか殲滅者って言葉で日本語で聞こえるからな、これがこのまま二つ名になると恥ずかしいな…。


「ははっ、まぁ噂ってのはそんなもんだ。俺が知ってるお前らとは大分違うから俺も噂半分で聞いてたよ、でも噂になるくらいの事はしたんだろ?」


苦い顔で噂を否定する俺達にアウルが面白そうに言ってくる、そうやって話をしていると三人の冒険者が酒場に入ってきた、三人はキョロキョロと酒場の中を見ると俺達の方を見て声をかけてきた。


「おいアウル、依頼達成の報告に行ってなんで酒場にいるんだよ」


そう言って近付いてくる三人の冒険者、どうやらアウルのパーティーメンバーのようだ、俺達がラザにいるときのアウルはソロで活動していたのだが今は四人パーティーのようだな。


三人が近付いて来る、俺達を一瞥し、アウルに何かを言おうとするが再び俺達の顔を見て驚いた顔をする。


「おっ、おい!お前ら兎の前足じゃないか、ラザに戻ってたのか」


大声で言う冒険者、見た事あるような、無いような、鑑定で名前を見てもハッキリしない、どこかで会ってたかなと考えているとリズがもしかしてと言いながら三人を指差す。


「リストルでポーションを譲ってくれた方ですよね?」


その言葉に嬉しそうに笑いながら、隣のテーブルを引き寄せて座る冒険者。


「おお、そうだ、覚えててくれたか。あの後少し町の後始末をして、それから何処に行くかって時にな、お前らの噂を聞いてここに来たんだ、それでアウルと仲良くなってパーティーを組んでラザで活動してたんだ、ジーヴルとラザどっちに行くか迷ったんだが正解だったな」


それから少しリストルの話やラザの話をした所で鐘が鳴ったのでまた今度、町にいる間に飲もうと話をして別れた。


酒場やギルドを出る時にジロジロと見られたが、知り合いが増えた事で嬉しかった俺は視線を気にせずに、リズ達と世間は狭いねと話をしながら宿に向かった。



宿には既にタインとセラがいてジーナと話をしていた、食堂に入ってきた俺達を見つけるとこっちこっちとタインが声をかけてくる。


半分以上の席は埋まっていたが混んでるという程では無かったので隣同士空いている五人掛けのテーブルに移動して、テーブルをくっつけて皆で食事を取る、給仕をする為に戻っていたジーナも落ち着いた頃に席に着き、色々な事を話した。


俺達の旅の話、俺達の噂、今のラザの様子、特にセラがテオとセオの事を聞いてくる。


「セラさんは子供が好きなんですね」


俺が聞いてみると普通ですと返されたがテオやセオを見る表情が崩れているので絶対に子供好きだ、そんなセラにタインが緊張しながら話す。


「こっ、子供って、か、可愛いですよね」


セラに話すタインにジーナがニヤニヤとからかうように口を開く。


「なんだ、タインは子作りがしたいのかい?ジーナ、タインが子作りをしたいらしいよ」


「ジ、ジーナさん何を言ってるんですか!僕達には子供なんてまだ早いです、そういうのはゆっくりとお互いを知ってから考える事です」


慌てて否定するタインに更に面白そうに話すジーナ。


「あんたは僕って柄じゃあないだろう、それに冒険者時代はあちこちで子作りをしてたんじゃなかったかい?まさか隠し子なんていないだろうね?」


ジーナの言葉に女性陣からタインに向けて冷たい視線が突き刺さる、そして助けを求める様に俺を見るタイン、なんだか既視感を覚えるやり取りだ、思わず声を出して笑ってしまう、あぁ、皆は全然変わってないんだな。


その後も色々と話をして、最後にずっと弄られて泣きそうになっていたタインが真面目な顔をして話し出した。


「トーマ、お前らは少し滞在した後で町を出ると言っていたが気を付けろよ、昼間も見ただろうが最近は冒険者が増えて揉め事も多くなっている。お前らは見た目も若いし銀上級だ、侮られる事も多いはずだからな」


ジーナにも言われた事だ、俺達が頷くとセラもギルドの現状を教えてくれる。


「ギルドも冒険者が増えて滞っていた依頼が無くなって助かってるんだけど、他所から来た冒険者、特に銀上級や金下級になりたての、所謂中級と言われる冒険者達のマナーの悪さが問題になっているの。彼等は若い冒険者や採取を主にする冒険者を馬鹿にする態度が多く見られるわ、だから若いトーマ君達も気を付けてね」


二人の言葉にわかったと返し、明日から午前中は採取の依頼を受けに行く事を伝えて別れた。


そして俺達もジーナとノーデンに挨拶をして部屋に戻り寝る事にする、だが寝る前に一度皆を部屋に集めた。


「明日からは午前中は採取の、午後からはギルドでの訓練をしたいと思う、特に午後は魔法や呪文に頼らない身体強化だけの動きを見直したいんだけどいいかな?」


旅に出ていると満足に自分達の訓練が出来ない、俺とリズとテオは合間合間に体を動かしていたがレイナとセオは料理もあるし、魔法の事もあるからな、特にレイナは自分の魔法だけではなくセオに魔法を教えたりもしてるので体を動かす事が少なくなった。


だからラザで少し皆の動きを見直す、そう伝えると皆頷いてくれた、それと俺達が居る間にもう一つやりたい事がある、これも伝えないと、でも少し恥ずかしいな。


どう切り出そうか考えているとリズが意味ありげに笑いながら聞いてきた。


「でも、それならさ、それこそ朝から訓練をした方がいいんじゃない?セラさんも言っていたけど滞っている依頼も無いようだしさ」


そう聞いてくるリズは俺の考えをわかっているはずだ、俺が皆に言い出しやすいように聞いてくれたんだろう、レイナも笑みを浮かべているし、二人とも有り難いな、そう思いながら自分の気持ちを話す。


「それと、採取の依頼を受けるのは、兎野郎って言われる冒険者達の力になりたいというか、そういう依頼も大事だという事を、兎野郎って馬鹿にされる冒険者達にもわかってほしいと思ってさ」


俺は採取や町の手伝い等の依頼を通してラザの人と触れ合い、ラザに受け入れられ、ラザの町が好きになった、だからそういう依頼をこなす人を兎野郎と馬鹿にするのはちょっと許せない。


「俺達が採取の依頼をしたり町の人の手伝いをすると必ず絡んで来る冒険者もいると思う、それで、とても偉そうな言い方だけど、俺はそんな冒険者達に思い知らせてやりたいんだ。でもそれは言葉では無理だから、力を使う事になると思う。だから町で揉める事も多くなるかもしれないけど皆にも協力してほしい。俺はラザの町や冒険者ギルドを少しでも良くしたいから」


俺の言葉に皆頷いてくれた、リズとレイナは俺よりもラザの町が好きだろうし、テオも嬉しそうだ、テオは好戦的だからな、レイナも皆と仲良くなったようだし、夕食の後、話をしてる途中からずっと厨房に籠っていたので特にノーデンと仲良くなったようだ、テオとセオもラザを気に入ってくれたようだし町を良くする事に依存は無いようだ。


冒険者、いや、この世界は力が全てだ、だから自分の力で町を良くしてやる。


俺も、やりたいようにやると決意してから少し好戦的になったかな、テオの事を好戦的だなんて言えないな、そう思いながら眠りについた。

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