第88話 都合の良い相手
「う〜ん、ミリエメさん、次は右手の方を意識してみて」
「わかった」
ミリエメは俺の言葉に頷くが魔力の流れは変わらない。
「どうだろうか?」
額に汗を滲ませながらミリエメが聞いて来るが俺は無言で首を振る。
「駄目か、これは、なかなか難しいものだな」
ミリエメの魔力を見ながら指摘して一時間、一向に流れが良くならない、リズ達や獅子の鬣の人に教えた時は一時間でもある程度の効果は出たのに何故だろう。
「少し休憩しようか」
俺の提案に、効果を実感出来ない上に俺の顔に落胆の色が見えて焦ったのだろう、ミリエメはまだ大丈夫だとそのまま続けようとするが、このまま続けても効果が出そうにない、なので俺が考えを纏める為に少し休憩を挟みたかったので土魔法で簡易椅子を作り強引に座らせる。
ミリエメに座って待つように言って食卓に戻り、お茶を入れてミリエメの所に戻ると、ミリエメは襲ってきたゴブリンを返り討ちにしているリズを見ていた。
「凄いな…」
縮地を使いゴブリンの首を撥ねるリズを見てそう呟くミリエメにお茶を渡す。
「今日はリーヴァも見てるから張り切ってるのかも、お茶どうぞ」
ここら辺のゴブリンなら呪文を使わず素で簡単に倒せるはずなのにリーヴァの前で良いところを見せようとしているのか、縮地を使いゴブリンの群れを正しく蹂躙しているリズ、リーヴァはそれを見て凄い凄いと喜んでいる。
年頃の女の子が魔物とはいえ人形のゴブリンの首を撥ね、年頃の女の子がそれを見て喜ぶというのもどうかと思うのは俺がまだ古い常識に縛られているという事だな、でも楽しんでるならいいかと思う程には新しい常識も芽生えてきている。
それにリズもただ遊んでいるのではなく縮地の距離を調整し、拍車と重ねて色々と試しているようだ。
「私も、私もあのように強くなれるのだろうか?」
俺も久し振りにリズの動きをジックリと見ているとミリエメが声をかけてきた、難しい質問だ、ミリエメは魔力強度が40と高い、だがそれに対して魔力の流れは悪い、ハッキリ言ってお粗末と言ってもいいくらいだ、強くなる手助けをすると言ったが正直自信が無くなっている。
「ミリエメさんは普段はどうやって自分を鍛えてるの?」
取り合えず普段はどうやって鍛えているのか聞いてみる、どうやらミリエメ達は普段は魔物と戦う事は少なく走り込みや素振り、あとは同じ騎士同士対人での模擬戦が多いようだ、そして魔物と戦う時は集団で戦うのが殆どで個人で戦う事はあまりないらしい。
魔物を倒す方が効果が高いとはいえ走り込みや素振りで体を鍛えるだけでも魔力強度は上がる、更に集団でとは言え魔物を倒しているのだから魔力強度が高いのは理解できた、だが魔力の流れが酷い理由にはならない、逆に走り込みや素振り等で体を鍛えるのが主なのにも係わらず魔力強度が高いのなら魔力の流れももう少し良くなりそうなものだ、現に身体強化も覚えているしな。
身体強化は魔力の流れが良くないと覚える事は難しい、それでも、もしかしたら小さい頃から地道に体を動かせば覚える事は出来るかもしれない、ミリエメは真面目な性格なので身体強化を地道な努力で覚えた可能性はある。
そして元々は体内の魔力を操る才能自体はあまり無いのだろうか?だが今まで教えた人達は、それこそ子供でさえもある程度の教えで少しは上達は見られた。
ミリエメに才能が無いという可能性もあるが全く進歩がないのがおかしいのだ、それこそミリエメの魔力の流れは型を始める一時間前と何も変わっていない。
「試してみるかな」
少しでも魔力の流れが変わるのを感じてもらう、俺が考えた方法は俺が直接魔力の流れを整えるというやり方だ、リズ達と修行を始めた頃に一度試して出来なかったが今の俺なら、ミリエメになら出来そうな気がする、どうせこのまま型を続けても効果が出そうにないのだ、なので俺は直感に従いミリエメに断りを入れる。
「ミリエメさん、甲冑を脱いでもらってもいい?」
するとミリエメは飲んでいたお茶を吹き出した。
「なっ、いっ、いくらトーマ殿といえどリーヴァ様のいる隣で何を考えているのですか」
いや、お前が何を考えているんだよ、なんでミリエメはすぐにそっち方向に勘違いするんだろう、ミリエメはこの世界では結婚して子供がいてもおかしくない年齢なので焦っているのだろうか?まぁいいや、身体強化を覚えているミリエメならもっとすんなり行くと思っていたがそうもいかないようなので時間がおしい。
「違います、今から直接魔力の流れを調整するので甲冑が邪魔なんです。脱ぐのは甲冑だけです」
何となくミリエメが勘違いしそうな気がしたので甲冑を、と言ったのだが最初から甲冑だけをと言えばよかったな。
ミリエメは真っ赤な顔で飛び散ったお茶を拭いながら甲冑を脱いだ、さっきまで格好よかったのに台無しだよ。
「じゃあ背中に少し触れます、魔力の調整をする為ですから」
勘違いしないように念を押してミリエメの背中側に回り、両手で背中に軽く触れながらまずは魔力操作を試してみる、だがリズ達に試して失敗したように他人の魔力はなかなか操る事は出来ない、次は魔素操作で大気中の魔素を魔力に変え、それをミリエメの体内に入れて強引に流れを良くしようと思ったがこれも大半が弾かれ少ししか送り込めず駄目、やはり他人の魔力調整は簡単にはいかないな。
だが新しく試すのはここからだ、まずは魔力解体を使いミリエメの、不恰好に流れている魔力を解体し流れを弱める。
よし、操作は無理だが解体するだけなら問題無い、少しずつ慎重に、ミリエメの体に異常が出ないか注意しながら魔力を解体していく。
「うっ、くっ、ひゃんっ、あっ」
…………。
次は魔力会話の要領で俺の魔力をミリエメの体内に送る、魔力会話で使う魔力は治癒魔法の魔力に質が似ているので相手にも無害だ、その魔力で解体したミリエメの魔力を包み、そして理想の流れを作るイメージを持って相手の体内に魔力を送り込んで行く。
だが本来の魔力の使い方ではないのでやはり殆どの魔力は弾かれる、がそれでも少しは入る、それを普通の人よりも多い俺の魔力量で強引に押し入り魔力の通り道を作る。
「あっ、トッ、トーマ殿、あんっ、いやっ」
寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚の水行末、雲来末 、風来末、食う寝る処に住む処、藪ら柑子の藪柑子、パイポ パイポ パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの、長久命の長助!
よし、なんとか理想の流れを作れた、このままいけば…、だがやはり魔力の量が足りないのか薄い通り道では直ぐに壊れてしまった。
しかし魔力解体で崩し、一度整えられた魔力の流れはそのまま大きく崩れる事はなく、明らかに先程より魔力の流れは良くなっている、これなら。
「はぁ!?」
成功した事に安心した所であまりにも思いがけない物を目にしたので大きな声が出てしまった、ミリエメの声に反応してこっちを見ながらヒソヒソと話をしていたリズ達に何でもない、大丈夫だからゴブリンの処理を続けてと返して気持ちを落ち着ける。
「ど、どうしたのだトーマ殿、何かあったのだろうか」
顔を赤らめ、息を弾ませながらミリエメが聞いてきた、正直とても色っぽいんだけどもう一度頭の中で寿限無を繰り返して気持ちを落ち着ける。
「な、何でもないです。それよりどうですか?かなり良くなったと思いますけど」
「あ、あぁ、そうだな、確かに少し体が軽くなった気がする」
そう言ってミリエメは体の動きを確かめるように手足を動かす、俺はそんなミリエメのステータスを確認する。
ミリエメ:22
人間:騎士
魔力強度:39
スキル:[剣術] [槍術] [身体強化] [礼儀作法]
やはり40あった魔力強度が一つ下がっている、こんな事は初めてだ、魔力解体の影響だろうか?それならこの方法は余程の事が無いと使えないな、体内の魔力を弄られるのはどういう感覚かはわからないが相手も変な声が出るしな。
取り合えずミリエメの体調は別段おかしな所はないようだ、そのまま体調の変化に注意しながら指摘を続けていく。
そしてミリエメの体調にも特に変化はなく、一度流れを正した後は順調に進んでいった。
「ミリエメさん、大分良くなってます。毎日とは言いませんがこれを繰り返すだけでかなり良くなっていくと思いますよ」
「あぁ、体の動きが変わったと自分でも実感出来ている、感謝するトーマ殿」
身体強化のスキルがあるとはいえ元がかなり酷かったからな、それが普通の冒険者と変わらない所まで戻り、それから更に良くなっているのだ、実感もあるだろう、これで手助けをするという約束は守れた。
俺がホッと一息ついているとミリエメが真剣な顔で俺を見ていた、お礼は言ってもらったんだけど何かあるのかな?また謝礼がどうこう言い出したら面倒だな、そう思っているとミリエメが少し言いにくそうにしながらも口を開いた。
「ト、トーマ殿、とても恥ずかしいのだがお願いがあるのだ。危ない所を助けられ、愚痴を聞いてもらい、強くなるきっかけを教えてもらった上で更にお願いをするのは厚かましいとわかっているのだが…」
「取り合えず聞かせて下さい、出来る範囲のお願いなら考えます」
護衛か?それなら断る、と言いたいけどリーヴァとも仲良くなったしミリエメも憎めないし、リズ達と相談してみようかな?このタイミングなら護衛のお願いだろうなと考えていたがミリエメのお願いは意外な事だった。
「その、先程のトーマ殿はもう少し気安く喋ってくれていた。私の勘違いで再び他人行儀になってしまったが出来ればもう一度あの喋り方で接してはくれないだろうか?」
あぁ、確かにリーヴァと気軽に話していた流れでミリエメともそのまま喋ってたな、でも甲冑の行でまたミリエメを他人というか、女性と意識して敬語になっていたな、友達とは言わないが顔見知りとしてならいいかな、そう思って返事をしようとするとミリエメが先に口を開いた。
「トーマ殿が私の、私のセオ殿に対する態度に不快な思いをしているのはわかっている。それは、これから直していくと約束する、必ず直す、だからどうかもう少し気楽に接して欲しい」
俺はミリエメのお願いをそんな事かと思っていたがミリエメはかなり真剣な顔で頭を下げた、別にいいかなと思っていたがあまりにもミリエメが真剣なので理由を聞いてみる。
「わかった、そのくらいなら別にいいよ。でもなんでそこまで真剣に?今日でお別れだからもしかしたらミリエメとはもう会わないかもしれないよ?」
俺がリズ達に話すような口調で話すとミリエメは顔を上げ、安心したような、嬉しそうな顔で理由を話してくれた。
「それは、私に目標が出来たからだ、騎士としてではなくミリエメ個人としての目標が」
目標?それと俺が気軽に話す事と何の関係があるんだろうか?取り合えず続きを聞いてみる。
「オークを倒した後、トーマ殿が私をリズ殿と勘違いして声をかけたのがきっかけなのだが、あの時私はリズ殿が少しだけ羨ましかった。私達をあっという間に助け出し、オーク五体を簡単に倒すトーマ殿に当たり前の様に信頼され、気軽に話し掛けてもらえるリズ殿が。それで私もと張り切って少し失敗してしまったのだが、先程のリズ殿の強さを見て、そしてそれを当たり前のように見ているトーマ殿に気付いて、トーマ殿に信頼されるのはこういう事なのかと思ったのだ、私もトーマ殿に信頼されるような人間になりたいのだ」
オークの解体をお願いした時か、確かにその後ミリエメは止める間もなくオークの解体をしたな、あれは張り切っていたのか。
そしてゴブリンを倒すリズを見て、か、だが。
「ミリエメの目標はわかった、だけど俺はリズの事を強さだけで信頼してる訳じゃないよ?」
俺はリズを強さで信頼している訳じゃない、俺がリズを信頼しているのは出会ってからこれまでの中で自然とそうなったんだ、レイナも、テオもセオもだ、スゥニィは出会った頃からとても強かったけど最初は信頼は無かったと思う、だけど教えを受け旅をする内に信頼したんだ。
それにしても信頼か、最近よく言われるので少し考えてみたけど信頼するっていうのはお互いが都合のいい関係って事じゃないだろうか?リズもレイナもテオもセオもスゥニィも俺にとってとても都合がいい、俺を助け、俺を慕い、俺に色々と教えてくれる、そして俺の駄目な所や足りない所をちゃんと教えてくれる、人の駄目な所を指摘するのは嫌だしとても難しい事だと思う、だけど皆はそれを教えてくれるし俺もそれを感謝してしっかりと受け止める事が出来る、そして俺も、なるべく皆に都合のいい存在でいたいと思う。
だからミリエメにも俺にとって都合のいい存在になってもらわないと信頼なんて出来ない、まずはミリエメの駄目な所、というか俺にとって都合の悪い所を指摘してみよう。
「ミリエメがそう言ってくれるのは嬉しいけど今のままじゃ信頼は無理かな、ミリエメはセオに対する態度って言ったけどセオだけじゃない、獣人、鱗人、そして森人。人間以外の種族を気にする事なく、種族としてではなくその人個人として見る事が出来ないとね。これは人それぞれの価値観の違いで俺が嫌ってだけだ、だからミリエメには俺の都合に合わせてもらう事になる、でもそれが出来ないとね」
その俺の言葉にミリエメは迷わず頷いた。
「勿論だ、私は、国にいる時にリーヴァ様からも種族ではなく人を見てと言われていた。それがどうしても理解出来なかった、だが今は理解出来ると思う。直ぐに変える事は無理かもしれないが必ず変える、変えてみせる。そしていつかトーマ殿に信頼されるような人間になってリーヴァ様を守る」
そう言ったミリエメの目には先程のリーヴァと同じ様に強い覚悟が見えた、ミリエメは本当に変われるかもしれない、だから。
「わかった、次にミリエメと会うの楽しみにしてるよ。でも俺も偉そうに言ってるけど最近まで貴族を貴族という括りで見てたんだけどね、価値観を変えるのは難しいけどお互い頑張ろうね」
そう言って右手を差し出す、俺も貴族は偉そうで傲慢だと思っていたけどエーヴェンやエレミー、リーヴァは全然そんな事無かったしな、ダスティン達はまだ保留だけどな。
とにかく、まだミリエメを友達だとは言えないけど、知り合い以上友達未満にはなれたかな。
「有り難う」
ミリエメは笑顔で差し出された俺の手を握る、少し大柄で、日に焼けた肌でキリッとした顔のミリエメはやっぱり格好いいな。
そして感謝する、ではなくて有り難うか、ミリエメはどこか力んで空回りしている印象だったけど少し柔らかくなってきたな。
そう思っていると遠くの山から日の光が差してきた、もう夜明けか。
「その様子だとミリエメさんも友達になるの?」
一段落ついたと思ったのかリズとリーヴァが歩いてきた、仲良く歩く二人はまるで昔からの親友のように見える。
俺はその二人に笑顔を返しながらリズの質問に答える。
「まだ知り合いって所かな、友達になるのはこれからのミリエメ次第だよ」
その俺の言葉にリーヴァが嬉しそうに微笑む。
「ミリエメ、トーマとどんな話をしたのかわからないけど握手をした以上その期待に応えないとね。トーマと友達になったら皆とも仲良くなれるよ」
その言葉にミリエメは大きく頷き、勿論ですと元気に返事をする、そしてリーヴァの隣で二人のやり取りを見ていたリズがミリエメに小さな革袋を渡す。
「これは、ポーションですか?」
両手で丁寧に袋を受け取ったミリエメが中を見て不思議そうに尋ねる、中にはレイナ特製のポーション、そして魔力を回復するマジックポーションが入っていた。
ポーションの方は素材が多く取れたのもあってまだ余裕があったが、マジックポーションは森人の里周辺の森にもあまり素材が無く作れたのはなんとか五本、リズはその内の三本をリーヴァに譲ったようだ。
「こ、こんな高価な物を」
ミリエメが驚くのも無理はない、マジックポーションは多種多様な草が生える森人の里周辺でも素材が少なく、俺もリストルでの防衛戦の時に町長から冒険者に支給された時に初めて見たが一般に店で売られているのは見た事がない、薬屋で働いていたレイナによるとマジックポーションは伝や資金力のある貴族や冒険者ギルド等が素材を店に持ち込み、作った側からそのまま買い取るので店に出回る事はあまりないようだ。
そのマジックポーションを簡単に譲られた事に律儀なミリエメは戸惑っている、そこにリズが声をかける。
「ミリエメさん、私はミリエメさんがどんな人かまだわからないけどリーヴァを守れるのはミリエメさんしかいません、だからそのポーションはリーヴァを守る為に使って下さい」
ミリエメはリズのその言葉を聞いて真剣な顔になると、革袋を大事そうに抱えながら深くお辞儀をする。
「本当は近くの町まで護衛してもよかったんだけどリーヴァに断られたからね、だからミリエメさんにお願いするよ。あまり寝てないだろうしトーマから魔力の流れを教えてもらうのにも少なくない魔力を使ったはずだから上手くポーションを役立ててね」
ミリエメの真剣な態度にリズも納得したようだ、それにしても余程リーヴァを気に入ったのかリズはリーヴァ達を護衛してもいいと思ったようだな、俺はまだ悩んでいたがリズが護衛をしてもいいと言うなら否も応もない…、のだが既にリーヴァに断られたようだ。
リズとリーヴァの様子から既にお互い遠慮する間柄にも見えないので理由を聞いてみよう、と思ったらリーヴァが先に答えてくれた。
「リズの申し出は嬉しかったけど私達も信頼出来る護衛がミリエメ一人じゃ気軽に人捜しも出来ないからね、だから人員を補充する為に一旦ロトーネに戻る事になると思う。半日程の距離に町もあるしそこまで行けばロトーネに戻るまでは冒険者を護衛で雇う事も出来るからさ。そうするとトーマ達の目的地とは反対に行く事になるからね、流石にそこまで迷惑はかけられないよ」
リーヴァもいつまでかかるかわからない人捜しにあまり融通の利かない冒険者の護衛を雇うよりはと、一度戻ってドゥニエル家の騎士を補充する事を選んだようだ、確かにロトーネに戻るならラザの町とは反対側になるし半日程の距離に町があるなら余程の事がない限りミリエメ一人でも大丈夫だろう。
一度襲われたので再び盗賊団に襲われるという可能性もあるが盗賊団にも縄張りという物があって同じ地域に複数の盗賊団がいる事はまず無い、あっても既にランゼ盗賊団が潰したか吸収していたはずだ、そのランゼ盗賊団を俺達が潰したので新しい盗賊団が噂を聞いて他所から入ってくるまで当分は大丈夫だろう。
それもあってリズとリーヴァもそれほど危険は無いと判断したんだろうな、これが町まで一日以上の距離があるならリズも強引に護衛をしただろうしリーヴァもリズの申し出に素直に頷いていたかもしれない、リズはリーヴァの都合を考えて護衛をすると言い、リーヴァはリズの都合を考えて遠慮したわけだ、そして特に危険は無いだろうが念の為にポーションを譲る事になったと。
相手の事を考え、相手の都合を受け入れる、こういう事を重ねていけば信頼って生まれるのかもな。
「じゃあ半日程っていっても早めについた方がいいだろうし朝御飯にしようか、レイナとセオが先に作っているからそろそろ出来上がると思うよ」
俺が一人で納得しているとリズが食卓に行こうと促す、リズとリーヴァに続いて俺も歩こうとしたがミリエメが動かないので声をかける。
「ミリエメは一緒に食べない?リズのあの様子なら一緒に行っても大丈夫だよ?」
ミリエメも変わろうとしているし、リズから見て大丈夫と思ったのなら俺も文句は無い、だが俺のその言葉にミリエメが申し訳なさそうに首を振る。
「有り難い申し出だが私は行けない、リーヴァ様をよろしく頼む」
そう言って頭を下げるミリエメに理由を聞いてみる。
「セオがいるから?」
するとミリエメは自嘲気味に笑って理由を話してくれた。
「そうだな、私は、セオ殿の事を先程まで明確に蔑んでいた、その気持ちを変えようと思ったのはつい先程の事だ。そんな私が日も跨がぬ内にセオ殿の料理を食べる等とは厚かましいにも程があるというものだ。それは流石に自分自身を許せない」
あぁ、セオと同じ席につきたくないという訳じゃなくてその逆か、自分にはセオの料理を食べる資格がまだないって事だな。
ミリエメの表情や態度に嘘は無いと思える、だから俺も無理に誘う事は止める。
「わかった、じゃあミリエメ達の所はまだ準備も出来てないだろうから俺が作って持っていくよ。それならいい?」
その言葉にもミリエメは申し訳なさそうな顔で断ろうとするが強引に押し切る。
「ミリエメはリーヴァを守るってリズと約束したでしょ?お腹がすいて守れませんでしたなんて事になったらどうするの?簡単に作って持っていくから待ってて」
そう言うと返事も聞かずに食卓に向かう、ダリの分も作ろうと思ってたし丁度いいよな。
そう思いながら食卓に歩いていく、空間把握には暫くその場を動かず、俺の背中に向かって頭を下げているような反応があったが少ししてドゥニエル家の馬車に戻っていった。
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