第82話 リストルを楽しむ 前半

明日にはリストルを発つのでオズウェン達に教えられるのは夕方までの僅かな時間だ、なので要点だけを教えていく。


「そう、アーバンはここの魔力を意識して。デリックは利き腕のある右側に魔力が偏っているから左側を使うのを少し多目にする事を意識しながら。オズウェンさんは経験があるので無駄も少ないし指摘すると直ぐに直せるのは流石ですね、後は魔力を体の内側から流すといいですよ」


アーバンやデリックはまだ少し甘い所があるがオズウェンは冒険者としての長い経験があるので魔力の流れにも淀みが少ない、それに以前より魔力の量が増えているしスキルも鍛えられている、なのでフェリックから教えられた技術を教えていく。



オズウェン:35


人間:冒険者


魔力強度:89


スキル:[剣術:大] [体術] [身体強化:大] [風魔法]



アーバン:21


人間:冒険者


魔力強度:58


スキル:[剣術] [身体強化]




デリック:23


人間:冒険者


魔力強度:57


スキル:[剣術] [身体強化]





三人は大攻勢で倒した魔物に加え、その後も依頼と並行して大攻勢の時に逃げて散り散りになった魔物を自主的に処理していたらしく魔力強度も短期間で大幅に上がっている、そのうち本当にオズウェンは金上級、アーバンとデリックは金下級になるだろう、俺達よりも冒険者としての経験と知識はしっかりしているだろうしな。


ある程度要点や型、魔力操作のコツ等を教え、そろそろ日が傾き始めたので俺達は宿を取りに行くのでオズウェン達と別れる。


「トーマ今日は助かった、それより魔力を体の内側から流すように意識するって発想は面白いな」


オズウェンにそう言われたのでフェリックから習ったと言うと三人が驚く。


「フェリック!フェリックってあの神眼のフェリックか!」


オズウェンが俺の肩を掴み前後に激しく揺さぶる、そして顔が近い、ちょ、マジで近いから!


リズならまだしも三十過ぎの、しかも体を動かして汗をかいた後の男に近寄られて喜ぶ趣味は無いので必死にオズウェンの手から逃れながら話す。


「えぇ、そうですよ。なんでもフェリックさんは南の外周からロトーネに向かってる所だったらしいんですが俺達もジーヴルからステルビアに向かう途中で偶然会ったんです、それで少しの間ですが色々と教えてもらいました」


俺の説明を信じられないという顔で聞いていたオズウェンだが説明を聞き終わると色々と質問してきた、興奮気味のオズウェンはまた俺に近付いて来そうだったので警戒しながら質問に答える。


「大体の話はわかった、だがもう少し詳しく聞きたいな。お前ら町長の屋敷で夕食を食べるんだよな?よし、俺らも行くぞ」


いや、行くぞってそんな簡単に行けるものなのか?


「招待されたのは俺達とギルドの職員だけですが大丈夫なんですか?」


「なに、俺は冒険者達の纏め役として町長やギルド長と付き合いがあるし何度か夕食に招かれてるからな。それに町長もギルド長も気にしないと思うぞ」


確かにギルド長は気にしないだろうが町長は神経質そうだったけどな、でもオズウェンが言うなら大丈夫なのか。


「オズウェンさんがそう言うなら、一応夕方の鐘が鳴る頃にギルドに迎えを寄越すと言っていました」


すると俺達の会話を聞いていたテオが横から話し掛けてきた。


「なぁなぁ兄ちゃん、やっぱり皆も一緒じゃ駄目かな?」


テオが俯きながら申し訳なさそうに聞いてきた、テオの後ろには十五名の子供達がいる、アシュや年長の子供達はテオの言葉に驚いてるが小さい子供はユーシュク!ユーシュク!と騒いでいる。


「テオ、流石にこんな大人数は町長さんの屋敷でも入らないかな」


アシュの兄のアーバンがテオに無理だと伝えるがオズウェンが町長に話を通すとアーバンを遮る。


「俺達も押し掛けるついでだ、俺が町長に話をして庭で夕食を取ろうと提案してみるさ、少し寒いが大丈夫だろう」


どんどん話が進む、オズウェンってもう少し落ち着いたイメージだったんだけど大攻勢の緊張感が無いとこれが素なのか。


「そうと決まれば子供達の親御さんに許可を取りに行くぞ、トーマ達も準備があるだろうから後でギルドで合流しようか」


オズウェンはそう言うとアーバンやデリックと共に子供達を連れてさっさと広場から出ていってしまった。


「なんだか大事になりましたね」


子供達を見送りながら呟いたレイナの言葉に頷く、だがまぁオズウェンが話をすると言っているので大丈夫だろう。


子供達も一緒でいいと言われ喜ぶテオに忍び寄る陰、ガッとテオの脇腹を掴みワサワサとくすぐるリズ、俺達はくすぐったそうに悶えるテオを見て笑いながら宿に向かった。





宿につくと直ぐに部屋を取り二階に上がる、宿の店員は前と違っていたので俺達を見ても特に驚く事もなく対応してくれた。


店員は前と違っていたが部屋は前と同じだった、ドアを開ける、そして思い出す、キス、そしてキス。


一日で二人とキスをしたんだよなぁ、今でも思い出せる目の前に近付くリズの顔、レイナの顔。


「兄ちゃんが部屋に入らないと俺も入れないぞ」


後ろからテオに言われて現実に戻る


「ごっ、ごめん。じゃあ汗を流すか」


「俺は一人で入るぞ、兄ちゃんに任せると尻尾ばかり触ってくるから体が洗えないしな」


口を尖らせるテオ。


旅の途中だと清浄の魔法で済ませるのが基本だがたまに川を見つけるとテオと一緒に体を流したりする、普段は服の中に隠れている尻尾がその時は触る事が出来るのだがどうやら触りすぎたようだ。


それにしても最近のテオは…、さっきも子供達を連れていくと言った時に迷惑をかけるかもとわかっていたようだし、今も俺の考えを読んで先に断った。まだ慕ってくれていると思うが嫌な事はハッキリと言うようになったな、シッカリしてきて嬉しい反面少し寂しい。


先にテオが汗を流し俺も汗を流して下に降りる、少し遅くなる、夕食は外で食べますと店員に声をかけて宿の外でリズ達を待つ、空間把握を使えばタイミングを合わせる事は出来るが何となく風呂に入っているのを空間把握で感知するのは恥ずかしいんだよなぁ、俺も健康な男だし想像してしまうからな、色々と。


「待たせてごめん、じゃあ服屋さんに行こうか」


テオから子供達の様子を聞いたりと他愛の無い話をしていたらリズ達が来た、汗を流した三人から良い匂いがする、先程のオズウェンとは大違いだ。


五人揃ったので服屋に行く、もう夕食時なので店の中には客はいなかった。


「いらっしゃいませ、あ、来たのね。準備は出来てるわよ」


俺とテオは店長に連れられて左側、女性陣は黒髪の店員と一緒に右側にある試着室に別れて着替える。


試着室の前で店長が服を渡しながら服の説明をしてくれた、リズ達の選んでくれた服は蚕のような魔物から採れる糸で作られていて、貴族の着る服にも使われる高級品だ、本来は特殊な染料を使って色々と派手な色にするのだが店長が渡してくれた服は魔物の糸をそのまま素材に使っているらしく赤黒い色だった、魔力の色だ。


見た目は燕尾服というよりは学生服に近い作りだ、着心地もそんなに悪くは無く、ジーヴルで城に行くときに着せられた服よりはこっちの方がいいし色も好みだ。


俺が自分の格好を確認しているとテオも着替えてきた、襟つきの白いシャツの上から俺と同じ素材の赤黒いベストを着せられ、下も赤黒い半ズボンで中からタイツを履いている、店長が尻尾の穴を作ってくれていたらしく尻尾も出ている。


「なんか変な感じがするよ」


タイツの感触が気になるのかしきりにタイツを摘まんで引っ張ったりしているテオ、だがなかなか似合っている。


「格好いいぞテオ、それにまたお揃いの色だな」


俺がそう言うとテオもそうだなと笑顔で頷いた、店長も俺達の服に満足そうだ。


そしてリズ達はまだかかりそうなので先に代金を払う。


今の俺達の財産は魔物の素材を売った分やリストルでの報酬で得た金貨が約二千枚、それにハンプニー家からの報酬は嵩張るからとダスティンにお願いして金貨ではなく宝石にしてもらったので宝石が一袋だ。


リズから聞いた宝石の価値は少なくとも金貨二千枚以上はするそうだ、使うよりも増える方が早く、お金は貯まっていく一方で持ち運ぶのもそろそろ邪魔になってきているので少し困っている所だ。


革を鞣した頑丈な袋から金貨を取り出し店長に払う、五人分で金貨百二十枚と服に払うお金としてはなかなかお高いがこれでもかなり安くしてもらったようだ。


金貨を払った後は店長と話をして時間を潰す、ジーヴルでの貴族の服に興味を示したので俺の拙い知識から話せる範囲でハンプニー家や城で見た服の事を話す。


そうしているとリズ達の着替えも終わったようだ。


歩いてくる三人、俺はその姿を見て少し呆けてしまった、三人が着ているのは色違いの…浴衣?なんで?


困惑する俺にリズが笑顔で説明をしてくれる。


「ふふ、どう?実は店員さんにヒズール出身の人がいてね、少し時間をもらえればヒズールで着る事のある正装を用意出来るって言うからお願いしてたの」


浴衣って確かに平安時代からあったようだがその時は貴族の風呂着に使われていたと聞いたような、日本ではそこから庶民に広がり祭り等で着られるようになったがヒズールではそれが正装に変わっていったんだろうか?


俺が不思議そうに浴衣を見ていると黒髪の店員が説明を付け加えてくれた。


「トーマさん初めまして、トモエと申します。私がヒズール出身と聞いてリズさんが何かヒズール色のある物は無いかと聞かれたので用意させていただきました。この服は主にヒズールの女性が催し物に行くときに着る服でございます」


催し物、祭りではないが町長に招待されたのも似たようなものか、少し違和感があるが三人とも似合っているので細かい事を気にするのはやめよう。


「どう?なかなか着心地もいいんだけど、似合ってる?」


リズに聞かれたので改めて浴衣姿の三人を見る。


リズは少し濃い黄色を基調にして赤い花の模様、帯も赤、レイナは水色を基調に白い花の模様と白い帯、セオは黄緑色を基調として緑の花と緑の帯だ、浴衣の裾は長く足元を隠すように広がっている、中が革靴なのはご愛嬌だな。


「本来は履き物も専用の物があるのでそれも用意したかったのですが流石に履き物までは無理でした」


俺が足元を見ていたのでトモエが説明してくれた、俺はトモエに大丈夫ですよと言いながら浴衣の感想を話す。


「最初は見慣れないから違和感があったけどジックリ見ると似合ってるよ、なんだか三人とも大人っぽく見えるね」


「兄ちゃんの言う通りだよな、リズ姉ちゃんもレイナ姉ちゃんも綺麗だし、セオもなんだか少しお姉ちゃんになったみたいだ」


俺とテオの言葉にリズ達も嬉しそうに微笑む、浴衣姿で微笑むとより大人びて見えるからドキッとするな。


「二人ともありがとう、ヒズールに行った時も着る事が出来ると思うしトモエさんにお願いしてよかったよ」


「トーマさん達も似合ってますよ」


「あ、ありがとうございます」


リズ、レイナ、セオの順に返してくれた、そして店長達にお礼を言って店を出るとギルドに向かう。


「三人ともまさか浴衣姿で来るとは思わなかったよ」


「ふふ、驚かせる事が出来たかな。そうそう、トーマの服はねトーマから聞いた学生服に似てるなと思って選んだんだよ。サイズが無かったからテオのは準備出来なかったけどね、なんだかお互いに普段と全然違う格好すると楽しいね」


前に打ち上げで着た服もいつもとは違ったがここまで周りから浮いてはいなかった、今の服は道行く人も振り返りながら見てくる程には珍しい格好だと思う。


新しい服、そしていつもと違う自分という感じがする、コスプレする人もこんな気持ちなのだろうか、楽しいというリズの言葉がわかる、不思議な高揚感だ、町に入った時に注目された時は恥ずかしかったが今は皆と一緒だから恥ずかしくないしな。


会話も弾みながら歩き、ギルドにつくと丁度夕方の鐘が鳴る、既に馬車は停まっていてセインも来ているようだ。


ギルドの前で待っていると職員とギルド長、セインがギルドのドアから出てきた。


俺達を見るとその格好に目を見開くギルド長達、それもそのはずギルド長は普段通り冒険者かよと言いたくなる格好だし職員は制服のままだ、俺達だけが力を入れすぎたのか?


だがセインは流石で顔色を変えずに話し掛けてきた。


「これはこれは、皆様とても素晴らしい服で招待する私達も腕がなりますね。そちらはヒズールの礼服ですか、懐かしい物を見せていただきました、黒髪の女性以外が着ていてるのは初めて見ましたが大変似合っておりますね」


セインはヒズールに行ったことがあるのかな?浴衣の事を知っていたようだ、そのセインは俺の髪に目を向ける。


「そう言えばトーマ様も赤みがかってはいますが黒髪ですね、ヒズールと何か関係がおありですか?」


そう聞いてくるセインにヒズールの近くの村で育ったので関係はあるかもしれないけど自分は村から出た事が無かったのでわからないと、色々と考えてそうなった俺の設定を答える。


ヒズール近辺の情報はあまり出て来ないようだし黒髪というのもあって怪しまれないだろうとリズと相談して考えた設定だ。


左様でございますかと頷き、そろそろ参りましょうかと言うセインにオズウェン達も行くと話していた事を伝える。


ギルド長達にも伝え少し待ってもらう事にした。


服にシワをつける訳にもいかないので揉みくちゃというわけではないがテオとセオは職員に囲まれ可愛いを連呼されている、リズとレイナは獣人のギルド職員、レミーと浴衣の話で盛り上がっていた、そして俺はギルド長から俺達の馬車から物を盗ろうとして追放された三人の処分を詳しく説明され、ついでにリストルに残れと勧誘してくるのを受け流しながらオズウェン達を待つ。


そしてオズウェンがアーバンとデリックと共に子供達を引き連れてギルドにやってきた、職員に尻尾をいじられていたテオは助かったとばかりにアシュの所に向かう。


「遅くなってすまん、子供達の家を巡るのに時間がかかってな」


遅くなった事を俺達に謝ってからセインに子供達も連れていきたいと説明をするオズウェン、それから俺達の馬車を出しても全員馬車に乗るのは無理なので歩きで行く事に決まった。


「トーマ様達も歩きでよろしいのですか?」


セインに確認されたので頷く、では先に戻って町長にオズウェン様達も来る事を伝えて準備を整えておきますと言ってセインは先に戻って行った。


仕事や夕食の買い物を終え足早に歩く町の人達に見られながら町長の屋敷に向かう、総勢三十人だ、今から何があるんだと気になるよな。


そして貴族街という程ではないが少し大きめの建物が並ぶ町の奥の区画に入ると突き当たりに立派な屋敷が見えてきた、町長の屋敷についたようだ。


門で先に戻っていたセインと使用人達に迎えられ、そのまま庭に案内される、庭では使用人達が食事の準備をしていた。


「準備にもう少し時間がかかるのでその前にトーマ様達は町長に挨拶をしていただけたらと思います」


セインに言われ俺とギルド長、そしてオズウェンの三人は屋敷の中に入る。


中には絵画や装飾品等も少なくハンプニー家の屋敷を見ていたので屋敷の大きさに比べて少し質素に感じてしまう、だが所々に熱を出す魔道具が置かれていて屋敷の中は暖かい、ハンプニー家にもあった魔道具だ、屋敷を暖かくする程に置くなら結構な金額になるだろう、町長は見た目は気にしないがそういう部分には金貨を惜しまないようだ。


「この中でお待ち下さい、直ぐに町長を呼んでまいります」


セインに案内された応接室でソファに座り町長を待つ、出されたお茶を飲みながら再びギルド長と更にオズウェンも加わり勧誘をしてくるが断る、ギルド長もしつこいな。


「こちらから呼びつけておいて待たせてしまってすまんね、今日はよく来てくれた」


そう言って町長のウォルミーが入ってきた、前に見た時は顔色も悪く疲れが顔に出ていたがリストルの悪夢が終わって落ち着いたのか血色も良くなっていた。


こちらこそ無理を言って大人数でおしかけてすいませんと謝りながら少し話をする。


「リストルの悪夢の後処理はなかなか大変でね、どれくらいの規模、 魔族の情報、どうやって撃退したのか等を他の町にも説明しないといけないし、詳しい情報を集めようと直接訪ねて来る人の対応もあってまだ終わって無いんだ」


大攻勢というのは他の町でも他人事ではなく、いつ来ても対処出来るように備えていないといけない、しかも六千の魔物の大攻勢なんて普通は信じられないが現にリストルの町長がそう言っているのだからと情報を確認しに来る人が絶えないようだ。


「それで、ギルド長やスゥニィさん、オズウェン達の事も話すのだが君達の事も話しているよ、嘘を言うわけにもいかないからな。それに君達は最近ジーヴルのハンプニー家に気に入られてるらしいな、君達の名前は貴族達の間で少しずつ有名になっているようだ、その事も知らせておきたかった」


情報を聞きに来る人はギルドの職員や他の町の町長の使い等だがそれほどの大攻勢を退けたのなら有力な冒険者もいるのだろうと、繋がりを得ようと貴族の使いも来るらしい、当初俺達の事を聞いても反応が薄かったそうだが最近はジーヴルのハンプニー家と繋がりがあると広まってきたようだ、ハンプニー家もジーヴルを代表する家になると注目されてきていて、獅子の鬣と一緒に俺達の名前も挙がる事があるらしい。


「君達の事は希望通り英雄等と持ち上げるような真似はしていないが直接君達を見ているリストルでは既にそうなっている。ジーヴルの方では何か揉め事があったそうだがその後で王子がハンプニー家の令嬢と婚約したと聞いている、そのタイミングで君達の名前をハンプニー家からよく聞くようになってるんだ、有望な冒険者だと目をつけられているだろうな」


うん、なんだか知らない内に貴族達に名前が広まっているみたいだ、まぁラザの後はヒズールだし暫くは大丈夫だと思う。なんだか貴族に名前を知られると面倒臭い事になりそうだと思ってしまうのは本で読んだ物語に影響され過ぎてるのかな。


「君達と知己を得ようと寄ってくる人も増えるだろう。君達は実力は確かだがまだ経験が足りないからと金級の件も断ったようだ、だから貴族の持ってくる美味しい話には気を付けてくれと注意を促そうと思って君達を招いたんだ。勿論町を救ってくれた感謝の意味も大きいがね」


あ、やっぱり名前が売れると面倒臭い事になるんだ。


「だからリストルの専属になれば俺が守ってやるぞ、ラザの専属って言っても今は名前だけだろ?リストルの専属になってこの町で経験を積めばいいじゃないか」


ギルド長がここぞとばかりに勧誘をしてくる、豪快な性格で男らしいという見た目と違ってしつこいな、再度断るとオズウェンが俺の表情を読んだのか苦笑いしながら話す。


「ギルド長はリストルの悪夢ですっかり兎の前足に惚れてるんだ、レイナの魔法は大攻勢などの魔物の群れに有効だしリズは素材を傷付けずに手に入れる事が出来るからな」


「そうですね、二人の力はギルドにとって喉から手が出るほど欲しいものですね」


大攻勢は普通は千や二千の魔物の群れだ、それならレイナの魔法で対応出来る、そしてリズは刀で綺麗に魔物を倒すので素材も良い状態で手に入るので素材を扱うギルドは助かるからな。


それに比べて俺の焔だと素材が残らないしレイナの様に派手でわかりやすい魔法も無いな、そう思っているとオズウェンが話を続ける。


「そしてトーマは魔族も一対一で倒す程だし魔物の群れにも怯まず突っ込んで掻き回せるからな、リズ達もトーマの事を信頼しているようだしお前ら三人が町にいてくれたらいつ大攻勢が来ても怖くないとギルドも安心出来るんだ。テオとセオもギルド職員に大人気だ、説得出来たらギルド長の株も上がるだろうな」


「信頼、ですか?」


オズウェンの言葉に反応して聞き返す。


「ああ、リズとレイナも、テオとセオもトーマをかなり信頼しているように見えるぞ。なんだ、トーマは気付いてないのか?」


そう言われても俺は皆に迷惑ばかりかけていると思っているからな、だけどリーダーをリズと代わろうと何度か提案したが頑なに断られている、信頼、されているのか。


「そろそろ庭の準備が整ったようです」


俺がオズウェンの言葉に困惑と、少しの嬉しさを感じているとセインが声をかけてきた。


「私の話はこれくらいだな、これからはリストルの友達である兎の前足を歓迎する時間だ、気楽に楽しんでほしい」


町長が話を切り上げ庭に向かおうとこの場を締める、リストルの友達か、いいなそれ、そう思い俺は町長に右手を差し出す。


「町長、俺もリストルの事は好きです。友達としてよろしくお願いします」


うむと頷く町長と笑顔で握手を交わし、ギルド長にも友達でいいでしょうと握手をする。


「そうだな、今は友達で我慢するか。その内絶対にお前を口説き落としてやるからな」


言葉だけ聞けば誤解されるような事を言うギルド長とも握手をし、オズウェンとも流れで握手をする。


ハンプニー家も獅子の鬣も、そしてリストルの町もだ、少し前まで友達が一人もいなかった俺が最近は沢山友達が出来た、リストルの友達っていいな、そう思いながらセインに案内されて庭に向かった。


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