第78話 フェリックの提案

「何これ美味い!これも、これもだ。これ作ったの君達二人?なんでこんな所で冒険者してるの?どこかでお店開いてよ、お金は俺が出すよ」


食事をしながら器用に喋るフェリック、ちゃんと口の中の物を飲み込んだ後で喋っているが食べるの早いな。


「だろ、レイナ姉ちゃんとセオの料理はどこに行っても人気なんだぜ」


「テオ、喋るのはちゃんと口の中の物を飲み込んでからだ、行儀が悪いぞ」


既に随分と仲良くなっているフェリックと食べ物を口に入れたまま喋るテオを注意する。



食事を終えるとフェリックは味にも量にも満足したようだ、この世界にきてから食べる量が大幅に増えた俺に合わせてレイナとセオはいつも多目に作ってくれるからな。


「いや〜、それにしても美味しかった。俺は久し振りに人間界に戻るんだけど今はこんな料理が流行ってるの?サラダに肉と卵を乗せるのも珍しいし、このズーの肉を磨り潰して丸めたのも不思議な食感で美味しいね、つくねって言ったっけ?食べ方も面白い、煮立てた鍋を皆でつつきながら食べるのは暖まるし何だかこの季節に合ってるね。たまたま通りかかってこんなに美味しい料理が食べられるなんて運がいいな」


もうすっかり冬で外は寒いのもあって今日は鍋だ、それを美味しいし珍しいと誉めちぎるフェリック、何だか50歳越えの白銀級なのに軽いな、実力は確かなんだろうけどさ…。


「ん?どうしたんだい?顔に何かついてる?」


俺の視線に気付いたフェリックが不思議そうな顔で聞いてきたので何でもないと首を振る。


食事も終わり片付けをする、そして食後の珈琲の準備をしているとフェリックがいない事に気付いた。


「あれ?フェリックさんは?」


辺りを見回しながら皆に聞くが皆も気づかないうちに居なくなったようだ、食後にお礼は言われたが出ていく時にも声くらいかけてくれてもいいのにな、それにしても賑やかな人だったな。


そう思いながら空間把握に捉えていた魔物の反応が近付いてくるのをリズ達に伝える。


「魔物が…来ない」


空間把握に捉えていた魔物の反応が突然消えた、まさかと思い魔物の反応があった場所の周辺に意識を向けて探ってみるとフェリックの反応がある、何も言わずに出ていったのではなく魔物を倒しに行ったのか。


だがフェリックは感知系のスキルを持っていなかった筈だ、なのになんで魔物が近付いてくるのがわかったんだ?


戻ってくるフェリックの反応を待ちながら皆に状況を説明する。


「スキルが無くても長年の経験や勘から魔物の気配を感知する人もいるみたいだけどフェリックさんもそうなのかもね、それにしても初めて会う人なのに何故か憎めなくてつい油断しちゃうよね、フェリックさんが敵だったらと思うとゾッとするよ」


俺の話にリズが説明する、スキルは俺の空間把握もそうだが全て魔力を元にして発動するものだ、だが魔力を使わずとも長年の勘でたまにスキルに匹敵する事を自然と出来る人もいる、フェリックはあれで歳も50を越えているし普段は外周にいると言っていたので経験則から危険を察知出来るのかもな。


それにしてもリズの言葉には俺も同感だ、フェリックが本気になれば俺達では敵わないだろう、だが何故か警戒したくても本人を前にし、会話をすると気が抜けるんだよな。


俺達がフェリックの話をしていると当の本人はテーレボア二体を槍にくくりつけて軽々と運んできた。


「遠くに何となく美味しそうな獲物がいると思ったから狩ってきたよ、明日の昼食はコイツを食べよう、いや〜、テーレボアの肉をどう料理するのか楽しみだな」


リズの言った通りフェリックはスキルではなく何となくで魔物の気配を感じたようだ、それよりも!今フェリックは朝食ではなく昼食と言ったな、いや、本人の間違えかもしれないし確認しよう。


「フェリックさん、昼食…ですか?」


俺が確認するとフェリックは不思議そうな顔をする。


「そうだよ?君らもしかして朝食と夕食しか取らない派?」


平然と答えるフェリック、派ってなんだよ、じゃなくて。


「いや、フェリックさんロトーネに用があるんですよね?俺らも明日にはステルビアに入りたいので朝にはここを発つ予定ですよ」


百歩譲って朝食まではいいが昼食は一緒には無理だと伝える、すると一瞬不思議そうな顔をした後、フェリックはしまったという顔をする。


「あ〜、まだ言ってなかったか、既に説明した気でいたよ。ロトーネに用があるのは本当だけど別に急いでる訳じゃないからね、それで君達に三日程付き合って少し鍛えてあげようと思ってね、これでも白銀級だから色々教えられると思うよ。君らも急ぐ旅じゃないんだろ?」


食事中に俺達の次の目的地がラザだという事や、急いでいない事は話してある、だが鍛えるとかそういう話はしてないし、またフェリックにそうされる理由も見当たらない。


「いや、なんでフェリックさんが俺達を鍛えるんですか?」


なので素直にそれを聞いてみる、フェリックは手慣れた様子でテーレボアの解体をしながら気軽に話す。


「あぁ、食事のお礼は何がいいかと考えたんだけどね、君らその年齢で凄い魔力強度も高いし魔力の扱いも上手だ。でもトーマとテオの動きを少し見させてもらったんだけどまだ甘い部分がある、だからそこを教えてあげようと思ってね」


俺達の事を既に呼び捨てになっているフェリックの話を聞いて考える。


フェリックはここに来た時に俺とテオが型を繰り返していたのを見ていたのだろう、確かに俺達の動きは全て我流だ、真眼に頼って魔力の流れを意識する事に重点を置いているが動きなどは何か特別な事をしている訳ではなく、戦う時は高い魔力強度による力任せだとも言える。


リズの隣に行き手を繋ぎ魔力を流す。


『どう思う?』


『確かに私達は急いでないし三日くらいなら特に問題ないと思うけど…』


解体を進めるフェリックを見ながら戸惑いぎみに話すリズ、俺も食事のお礼というフェリックに三日も時間を割く程の事だろうかと思う。


二人で考えていると解体を終えたフェリックが近付いてきた、フェリックから肉と魔石を受け取る。


「はい、魔石は俺はいらないから。じゃあ明日の昼はこれでよろしくね。やっぱり昼は肉をガッツリ食べたいよね。おっ、珈琲あるんだ、俺の分もあるかな」


魔石をリズに渡し、テーレボア自身の皮で包んだ肉を俺に渡しながらさっさと食卓に座るフェリック。


取り合えずもう少し話をしようと渡された肉と魔石を馬車の荷台に置いて俺達もテオと楽しそうに話すフェリックの向かいに座る。


「フェリックさん、理由は聞きましたが本当にそれだけなんですか?」


俺の問いにフェリックはテオとの話をやめて俺に向き直る。


「それもあるけどね、君らの料理を気に入ったからもう少し食べたいっていうのもあるし、後は俺は久し振りに人間界に入るから君達を鍛える間に少し話も聞きたいんだ、最近何か変わった事はないかい?」


変わった事と言われリズを見る、が特に心当たりはない、というか変わった事と言われても漠然とし過ぎてるよな。


「特には、というか俺達も旅に出たばかりなのでそんなに人間界の事を知っている訳ではないので」


レイナの入れ直してくれた珈琲を飲みながらフェリックはさっき狩ってきたテーレボアの話をする。


「外周では三年前くらいから少しずつ魔物に変化があるんだよ、それで人間界の方にも何か変化が無いかと思ってね、さっき狩ってきたテーレボアも俺の記憶よりも随分と大きかった。冒険者をしているなら最近魔物が変わったとか感じないかい?」


魔物の事か、だが俺はこの世界に来て半年、レイナも冒険者になって日が浅く、リズもずっと薬草採取がメインで外に出て魔物と戦うようになった時期は俺達と変わらない、テオとセオもずっと村にいて人間界に売られて来たのは最近だ。


それを伝えるとフェリックは驚いて俺達全員を見る。


「えっ、そうなの?君らの魔力強度と魔力の扱いから最低でも二年以上は冒険者をしてると思ったよ、半年?今の若者は凄いんだね、俺も10歳で魔力強度が100を越えた時は神童だ天才だなんて騒がれたけど君らの方が凄いね」


楽しそうに話ながら説明を続けるフェリック。


「外周では魔物の数が少しずつ増えていって確実に強さも上がってるんだ、その内人間界にも影響が出ると思ってロトーネのギルドに相談に行くところだったんだよ、でもさっきのテーレボアを見ると人間界でも既に変化は起きてるんじゃないかな、魔物が増えたりとか聞いてない?」


フェリックの説明にリズが思い出したように話す。


「そう言えば、今年の女神様の季節は例年より魔物が多くて活発でした、魔物の持つ魔石の純度も上がってたし。それにラザの近くでキュクロプスが出たのなんて今年が初めてです」


キュクロプス、俺が殺されかけた魔物だ、確かにあの時は魔物が例年より多いからって大攻勢が起きないように冒険者を集めて森に魔物の数を減らしに行ったんだよな、俺がその時の事を懐かしんでいる間もリズが話を続ける。


「その女神様の季節に魔族が大攻勢を作ってリストルって町を襲ったんですがその時も六千の魔物が集まったりと確かに少しおかしいかもしれないです」


あぁ、確かに六千なんて数は初めて聞いたと長年生きているスゥニィも言っていた。


「それに今思うといくら魔寄せの笛を使ったとはいえ人間が五百の魔物を簡単に集められるのもおかしい気がする」


ジーヴルに向かう途中で襲われた時の事だな。


リズがフェリックに説明をしているとセオがおずおずと手を挙げて話し掛けてきた。


「関係無いのかもしれないけど獣人界でも二年半くらい前から少しずつ変化は起きてました、魔物が増えて活発になって、そして作物もあまり取れなくなってそれで私達は売られたんです」


獣人界は人間界より外周に近いからな、影響が出るのは人間界より早いのかもしれない。


「やっぱり君らを選んで正解だった、君らを見た時に何かあると思ったんだよ。俺の神眼もまだまだ健在だね」


フェリックはそう言って嬉しそうに話すと、もう少し詳しく聞かせて欲しいと頼んできたので、話が長くなりそうなのでレイナに頼んで既に眠そうなテオとセオを先に寝かせてもらい俺とリズはフェリックに今までの事を遅くまで聞かせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る