第60話 暗殺者
次の日も森の中を順調に進む、魔物の襲撃も減ってきた、森を彩る木も段々と少なくなっている、そろそろ森を抜けそうだな、あと少しだ、テオとセオにそう声を掛けようとした時に空間把握に反応がかかる。
踏み均された道ではなく森の中にある反応は、精度の上がった空間把握だからわかる、魔物とは違う人間の反応だ。
森の中にある反応は俺達と距離を保ったまま並走するように森の中を進んでいたが暫くすると速度を上げて村の方に消えていった。
(トーマ、もしハンプニー家を狙う賊が村にいるなら必ず森の出口付近で確認するはずだよ)
リズの言葉を思い出す、どうやら村でも安心は出来ない様だ。
森を出た所で一度馬車を停め、皆を集める。
「トーマ君どうしたんだい?早く村に行かないと門が閉まる時間になるよ。急用でも無ければ公爵家でも門は開けられないからね、流石に今日は母と妹を宿で休ませてあげたいんだ」
日も傾き始めたので早く村に行かないと村の外で野宿になってしまう、なので簡潔に伝える。
「森の出口近くで怪しい人間の反応が出ました、こちらを伺っている様子だったので刺客だとおもいます、暫く並走した後で村の方に向かって行ったので俺達が無事に戻った事はもう伝わっているはずです」
そうか、俺の言葉にエーヴェンが呟く。村に入ると人が多くなる、その全てを空間把握で見分ける事は出来ないし、村には冒険者も多いので魔力の高い反応も冒険者か刺客か見分けがつかないのだ。
「取り合えず馬車の周りを固めて村に入りましょうか、高い魔力を持った人が近付いて来たら注意します」
そうだね、エーヴェンが俺の言葉に頷いたのでリズ達に馬車との距離を縮める様に言って村に向かう。
クリスは、エーヴェンが俺達に気を使ったのか刺客に襲われた時に直ぐに守れる様にか、両方かもしれないが今は馬車の中だ。
そうして少し進むと高い壁が見えてきた、周りに怪しい反応は無い。
門に近付くと門番が歩いてきた、村に来た時にスゥニィに直ぐに気付いた門番だ。俺とエーヴェンの二人がカードを見せる、森人の依頼を受けた俺達、公爵を護衛しているエーヴェン達なのですんなりと門を通る事が出来た。
村に入り空間把握を三十メートル程に縮めて進む、ギリギリ反応出来る距離と、もし刺客が来たなら魔力を細かく覚える為だ。
「トーマ君、少し気にしすぎじゃないか?そんなにキョロキョロしていたら変に思われるよ」
エーヴェンに言われて気付く、全身に力が入り魔力が昂っていた。魔物や、ロビンズ達の様に何度も絡んで知ってる魔力は気を付けやすいが、人の多い所で知らない人の魔力に気を付ける事はこんなにも気を使うのか。
「トーマ君達とクリスは合わないし嫌な思いもさせたから正直ここまで真剣に護衛をしてくれるとは思わなかったよ、やっぱり君達は信用出来る。ただ、もう少し力を抜いていいよ、馬車に近付く反応だけ注意して欲しい」
エーヴェンは冒険者としての経験も上だし公爵でもあるからこういう事も慣れていそうだな、正直人間を相手にするのは魔物を相手にするよりやりにくいものだと痛感する。
深呼吸をしてもう一度空間把握を五十メートルまで広げて確認し、馬車から十メートル以内の魔力だけを注意しながら町を歩く。
別段怪しい動きは無く無事にギルドまで辿り着く、俺達はスゥニィからの個人的な依頼なので報告等はする必要がなく、エーヴェン達もギルドを通して依頼を受けてはいるが、護衛はジーヴルまでなので中間報告と預けた馬車を明日引き取る事を伝えにといった所だ。
ギルドへの報告が終わったエーヴェン達が戻って来た。
「トーマ君、ありがとう。出来ればこのまま一緒に酒場にでも行きたいんだけど今日は流石に皆も疲れてるだろうしこのまま休もうか、前に使った宿にトーマ君達の部屋も取ってあるけどよかったよね?」
ギルドに報告に行っている間に馬車の護衛をしていた俺達に礼を言いながら、宿も取ってあると言うエーヴェン、隣にいるリックが酒場の行で残念そうな顔をしたが俺達も疲れているので宿の件も加えて有り難く提案に乗らせてもらった。
エーヴェン達と一緒にギルドのすぐ側にある宿に行く、前に泊まった部屋は覚えていたので宿前で一旦別れて明日の朝に集合する事にした。俺達の馬車も町で待機していた他の仲間に頼んで門の所に準備しておくらしい、食事も一緒にどうかと言われたが疲れていると言って断った、公女やクリスとは会話が合わないしな。
「疲れた〜眠い〜」
リズがベッドに飛び込みながら情けない声を出す、俺も村を出てからは仮眠しか取っていないので疲れは溜まっているがあと少しの辛抱だ。テオはもう一つのベッドで元気に跳び跳ねている、レイナが入れてくれた珈琲を飲みながらセオや跳び跳ねているテオを呼んで清浄の魔法をかけてあげる。
「二人とも疲れてない?レイナも大丈夫?」
レイナは笑顔で、テオは元気に、セオは…セオも笑顔ではいと答えた、セオは本当に笑顔が増えてきたな。
眠ってしまったリズはそのままにして暫く話をしているとドアがノックされる、ルームサービス、食事が来たのでレイナにリズを起こしてもらいドアを開けて料理を入れてもらう。
眠そうなリズもなんとか食べ終え、眠る準備も終わったのでやっと就寝だ、元気だったテオとセオも昨日の夜番でやはり疲れていたのだろう直ぐに眠ってしまった、俺も漸く眠れると思い、何となく、念の為にと思って五十メートル、俺達とエーヴェン達の部屋をカバー出来る程度で展開していた空間把握を最大の八十メートルまで拡げてみる。
「ねぇ、リズ、宿の外、裏口の方に反応が五人程固まってるんだけどこれって」
嫌な予感を感じつつ寝惚け眼のリズに聞いてみる。
「トーマ!向こうの部屋に行って伝えてきて、私はレイナと一緒にテオとセオを見てるから」
リズは俺の話を聞いて直ぐに真顔になると指示を出す、確かにテオとセオをそのままに出来ないしレイナも建物の中だとあまり魔法が使えないのでこれがベストだ、そう思いリズに頷き部屋を飛び出す。
反応が動き出す、二人、二人、一人に別れたようだ。
エーヴェン達の部屋は二回の、凹の形になっている通路を挟んで反対側だ、その通路を急いで部屋に向かう。角を曲がった所で一階にいる、黒い外套を着た二人組を見つけ鑑定をかける。
マー:25歳:
人間:暗殺者
魔力強度:45
スキル:[身体強化] [隠密]
チェス:24:
人間:暗殺者
魔力強度:43
スキル:[身体強化] [隠密]
向こうも階段の上の俺に気付く、二人組の体を纏う魔力が更に強くなる、俺を敵と認識したようだ。
俺は二人に構わずエーヴェン達の部屋に向かう、宿の外側から壁を登ってエーヴェン達の部屋に向かっていた反応はすぐそこだ、もう一つの反応は…屋根裏か!
部屋に辿り着くとドアを蹴破り四つの反応がある中に踏み込む。
「奇襲です、エーヴェンさん窓から来ます」
食事をしているエーヴェン、クリス、夫人と公女に俺が叫ぶと同時に木造の窓を破って二つの影が部屋に飛び越んで来る。
そこは金下級のエーヴェン、すぐに立ち上がり飛び込んで来た二人の暗殺者の内一人を腰から抜いた剣で斬り伏せもう一人に斬りかかる。
俺は一階にいた暗殺者がドアから入って来た所で一人を豪腕で吹き飛ばし直ぐにもう一人の鳩尾を蹴りあげる。
その瞬間に屋根裏から魔力の高まりを感じ夫人と公女の座るテーブルに走る。
『氷面鏡』
天井を突き破って夫人に向かってきた風の魔法を氷面鏡で跳ね返すと魔法を放った暗殺者が魔法で空いた穴から降りてくる。
カース:36
人間:暗殺者
魔力強度:68
スキル:[身体強化] [隠密] [風魔法] [毒物]
金下級並みの魔力強度だ、身体強化の魔力も淀みない、強いな。
そう思い疾風迅雷を使おうと思った時に暗殺者はドアの方に向かい俺に蹴られて倒れている男の胸にナイフを突き立てた。
「えっ?」
暗殺者は戸惑った俺に構わず廊下で気絶していたもう一人の首を切り裂きそのまま手摺を乗り越えて一階に降りると宿の外に逃げていった。
「まさか宿で襲われるとは思わなかったよ」
窓から浸入した二人を斬ったエーヴェンが俺に声をかける。
「一人逃がしてしまいました、仲間を殺して逃げたのは情報を渡さない為ですかね」
まさか仲間を殺すと思わなかったので一瞬追うのを忘れてしまった。
「だろうね、俺も手加減出来る相手では無かったよ、母さん、エレミー、大丈夫だったかい?」
「ええ、大丈夫よエーヴェン。それにしてもトーマさんは凄いのね、あっという間に二人を倒して私達を魔法からも守ってくれたわ」
落ち着き払った夫人が笑顔で俺を褒める、娘も全然動じてないんだけど…貴族って凄いな。
「す、すいません奥様、お嬢様」
隣にいたクリスが夫人と公女に頭を下げる、エーヴェンと違って直ぐに動けなかったのを気にしてるんだろう。
「二人とも無事だったんだから気にするな、それより母さん、宿の人に話をしに行こう。トーマ君、今は反応は無いよね?」
窓、天井、部屋のドアに廊下の手摺と派手に壊れているなと思いながら、空間把握に怪しい反応は無い事をエーヴェンに伝える。
「クリス、お前はエレミーを連れてトーマ君達の部屋で待っててくれ、そこが一番安全だ」
クリスは項垂れたままそうですねと小さく返事をして公女の側に立つ。
「トーマ君、俺と母さんは宿の弁償と、他の仲間に宿の外を見張ってもらうように言ってくるからその間クリスと妹を頼むよ」
ここで断る訳にもいかないのでわかりましたと返事をして二人を連れて部屋に戻る、暗殺者の死体もリック達に片付けをお願いすると言っていた、村の中にも簡単に入る事が出来、宿でも平気で襲い、そして平気で仲間を殺す、魔物より人間の方が厄介だな。
そう考えながら部屋に戻った。
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