第59話 少しの別れ、新たな旅立ち

「行っちゃったね」


「まぁ少しの間だからね、世界を回って成長したらまた会えるから。そう言えばスゥニィが里を発つ前にステータスは確認しろって言ってたな」


ポツリと声を出したリズに返しながら皆を鑑定してみる。



トーマ:14


人間:冒険者:異邦人


魔力強度:89


スキル:[魔素操作] [真眼] [魔力回復:大] [熱耐性] [痛覚耐性] [直感] [身体操作] [格闘術] [魔素纏依] [炎魔法] [詠唱]




リズ:14


人間:冒険者


魔力強度:86


スキル :[採取] [身体強化:大] [部位強化] [弓矢] [剣術] [魔力操作]




レイナ:12


人間:冒険者


魔力強度:86


スキル:[治癒魔法] [雷魔法] [風魔法] [身体強化] [詠唱] [複合魔法] [魔力操作]




テオ:10


獣人:ライカンスロープ


魔力強度:48


スキル:[身体強化] [嗅覚] [魔力操作]




セオ:10


獣人:ライカンスロープ


魔力強度:47


スキル:[身体強化] [嗅覚] [魔力操作]




タイドゥトレントを皆で倒したので魔力強度が上がっている、特に止めをさしたリズは大分上がったな。それと魔力が安定したからだろう、魔力操作のスキルを全員覚えていた、タイドゥトレントとの戦闘で装備も含めてかなり戦力が上がったな、スゥニィに感謝だ。


レイナとセオが料理を作っている間にリズに皆のステータスを伝えながら帰りの隊列をどうするか話す、リズを下げてテオとセオをフォローしてもらおうと思ったが今の二人ならその必要も無いのではと思ったのだ。


「どうせなら帰りを利用して二人を戦闘に慣れさせるのもいいかもね、テオとセオを前に上げようか」


「そうだね、じゃあ俺とテオとセオが先頭、後ろにリズとレイナで行こうか」


帰りの隊列も決まったので朝御飯を食べる、スゥニィが居なくなった食卓は、必要な時以外は口数が少なかったがその存在感の大きさで俺達に安心を与えていたと教えてくれた。


「ほらほら、皆少し元気無いよ。こんなんじゃ成長なんて出来ないよ」


森人に憧れ、スゥニィを一番尊敬していただろうリズが声を出す。そうだよな、これからはリズと俺が最年長なんだからしっかりしないとな。


「別れて直ぐに腑抜けたらスゥニィに呆れられそうだね。テオ、セオ、帰りは先頭で魔物と戦う回数が増えるぞ、だから沢山食べろよ」


「兄ちゃん本当か?スゥニィさんに力になれって言われたしな、頑張るぞ。セオもだぞ」


そしてご飯を勢いよく食べ始めたテオにつられて皆で食べる。


食事を終え、夜営地の片付けをして出発の準備を整えた後はエーヴェン達が来るまで成長した体の調子を確かめる。


レイナは杖を使った魔法の行使、テオとセオは魔力操作で身体強化を細かく使える様にだ。





「遅くなってごめん、待たせてしまったかな」


朝御飯を終えて一時間程でエーヴェン達が来た、腹ごなしに丁度良かったので、謝ってくるエーヴェンに大丈夫だと伝えて帰りの話をする。


テオとセオを先頭にする事にリックが心配をしたが大丈夫だと宥める、たった一日では強くなれないと思うよな、そう思うと俺達の成長速度は異常かもな。


「そういやトーマ達は新しい装備だな、嬢ちゃんも杖を持ってるじゃないか」


「スゥニィさんからの餞別です」


トレントの素材で気を使わせておきながら直ぐにトレントより良い素材の装備を持っている事に少し気まずさはあるがこの装備を使わないって選択肢は無いので正直に話す。


「そうか、相当に気に入られたみたいだな。俺達は森人とまともな会話も出来なかったぞ」


森人は他人に興味が無いってのは本当のようだ、リックは俺達の装備に気にした様子も無く笑顔で俺の背中を叩くと馬車の側に戻って行った。


第一印象はうるさいおじさんだったけど気持ちの良い人だな。


それから話し合った隊列で里を後にした、結界を出る直前に、風も無いのに世界樹の枝が大きく揺れて旅を祝福するように涼やかな音を鳴らしてくれた。






「テオ、セオ、来るぞ」


俺の空間把握は距離が八十メートル程に範囲が伸びていて、その中なら距離も自在に操れる様になっていた、そして縮めれば縮める程に把握出来る精度も上がる。


今は頭の中でその精度を確めながら、テオとセオには魔物が来る事だけを伝えて二人の嗅覚も鍛えながら進んでいる所だ。


「え〜とえ〜と」


「右からアンフィスバエナだ」


俺の声で位置を知ると発見出来るがまだ自力では発見するのが遅い、だが魔力操作は大分使える様になっている。


二人は少し先に進み、茂みの横で待ち構える。


アンフィスバエナが茂みから飛び掛かってきた瞬間に身体強化の魔力を足に多めに集めて飛び退き攻撃を外し、直ぐに地を蹴って近付くとスムーズに手に魔力を集めて手刀で頭を斬り落とした。


うん、これなら充分だ、二人の成長に満足しながら帰り道を行く、そして初日に夜営をした開けた場所に着くと昼御飯を兼ねて休憩を取る事にした。


今日のお昼は余っていたワイバーンの肉を使ったステーキだ、スゥニィがいなくなった事で椅子の準備等に時間がかかるため、簡単な料理しか出来ないからな。


肉を焼いている、匂いは風魔法で上に逃がしているのだが音を聞いてリックがやって来た。


「なんかすげぇ旨そうな音がするんだが何を焼いてるんだ?うおっ、匂いも凄い旨そうじゃねぇか」


旨そうって音でわかるのか?リックは肉が好きそうだしわかるのか。


「ワイバーンの肉です、リックさんも食べますか?」


「ワイバーン!本当かよ、これも餞別で貰ったのか?」


喜色満面で形の整えられていない土が盛り上がっただけの椅子に座るリック、つい癖で六人分出してしまったんだよな。


「違うぞ、これは兄ちゃんが戦って倒したんだぞ。ブワァッって来たとこをズバッて斬ってゴォォってされてギャァッてされたのをサッとよけてシュパッて斬ったんだ」


うん、よくわからないな。テオの擬音での説明も耳に入らないリックは、それでも俺がワイバーンを一人で倒した事を聞いて感心していた。


「いやぁ、リーダーがな?お前ら兎の前足はリストルの悪夢を生き残っただけじゃなくて大活躍をしたって言うんだよ、でもならなんでまだ銀上級なんだって信じて無かったけどワイバーンを一人で倒せるなら本当かもな」


感心しながらも肉を焼くレイナから目を離さないリック、向こうは大丈夫なのかと聞いてみるがリックは食事は別なようだ。


「俺達、獅子の鬣はたまにこうやってハンプニー家の用事に付き合わされるんだがその時はリーダーとクリス以外のメンバーは食事が別なんだ、貴族との食事ってのは肩が凝るし時間がかかるからな」


エーヴェンが冒険者になる事を後押ししてもらった手前、獅子の鬣はよくハンプニー家に付き合わされるらしい、その時は報酬はいいがいつもの倍は疲れると、焼けた肉に目をキラキラさせながらリックが教えてくれた。


旨いな、旨いだろ、そう言いながらテオと仲良く肉を食べるリック。


「ありがとな、素材も良いし料理の腕前も良いし旨かった。お前ら良いパーテイーだな、後ろで見ていたが実力も俺らより上だ、クリスは認めてないがリーダーもこれでジーヴルまで安心だって言ってたよ」


冒険者って粗暴で第一印象が悪い人が多いが話すと結構サッパリした人が多いんだよな。


食事を終えた俺達は、向こうはまだまだ時間がかかるぞと言うリックと一緒に腹ごなしに体を動かした、その時にリックにゆっくりと動く型を教え、真眼で魔力の流れを教えてやると年下の指摘にも素直に喜んでくれた。


「トーマの指摘は分かりやすいな、この型を繰り返せば俺もまだまだ強くなれそうだ。お前らが強い理由がわかったよ、魔力の感知に優れているとそんな事も出来るんだな」


真眼の事は言えないので感知スキルだと信じたリックはそう言って戻って行った、それから三十分程たって漸くエーヴェン達の準備も整ったので日が落ちるまで村に向けて森を進む。




「テオ、後ろからオークが二体追ってくる」


後ろから来る魔物はこうしてテオに情報を伝えてもらい、前から来る敵も問題なく倒し、横から来る魔物は馬車の速度を上げたり落としたりして対応しながら日も落ちてきたので夜営をする事になった、休憩を取った場所とは違い十メートル程と広くはないが寝るには充分な場所だ。


馬車を中央に置いてエーヴェン達と挟んで夜営をする、リックが夜も来ると言っていたので六人分の椅子を作り、夜は時間があるのでスープとサラダも作る。


料理が出来上がるのを待っているとリックがやって来た、クリスを連れて。


「あ〜、すまんがワイバーンの肉をわけて欲しいそうだ」


苦笑いをしながら言うリックの前に出てクリスが椅子に座る俺達を見下ろしながら口を開く。


「ワイバーンの肉があるならなんで言わないんですか?こんな森じゃオーク肉しかないから直ぐに飽きるってわかるでしょう?」


わかるわけ無いだろ、クリスの言い分に呆れる俺達に構わず続けるクリス。


「四人分の肉と、奴隷の娘も貸して下さい」


話を聞いているだけで疲れるな。


「肉は自分達の分しかありません、それとうちには奴隷はいません」


リズが俺に手を乗せ落ち着いてと伝えて来る、大丈夫、落ち着いていると返す。


「あなた達はもう充分に食べたでしょう?それと耳欠けの娘です」


「トーマっ!」


あまりの言い分に魔力が昂った所でリズに止められ、リズが会話を引き継ぐ。


「クリスさん、肉は自分達で取った物なので私達の物です、それと、それ以上仲間を貶めるなら付き合いは村までです」


別に契約をしているわけじゃないしな、最悪ハンプニー家と敵対しても構わない。 リズと魔力会話で確認をしながらクリスを睨む、これ以上何か言うなら今すぐ俺達だけで帰ってもいい、今の実力なら夜でも森を抜けられるはずだ。


「それは困るな」


一触即発の俺達の元に騒ぎを聞いてエーヴェンがやってきた。


「クリス、兎の前足の実力と感知能力の凄さは知っただろ、今から村で感知スキル持ちを探してもトーマ君より優れた使い手は見つからないって納得したはずだ、頼むから貴族の考えは捨てて安全を優先してくれ、お前も母さんや妹を無事に帰したいだろ」


エーヴェンに言われても暫く睨み合いは続いたがフンと鼻を鳴らしてクリスは戻って行った。


「本当にすまない、何度も冒険者に合わせろと言っているんだが長年の考えがなかなか抜けないんだ」


「すまねぇ、嬢ちゃんの料理があまりにも旨くてつい喋っちまった」


まだ落ち着かない俺に変わってリズがエーヴェン達と話す。


「エーヴェンさん、私達はジーヴルまで行くと約束はしましたが契約を交わした訳ではありません、ハンプニー家と敵対したい訳ではないですがこれ以上は無いですよ」


最年長の責任感からかリズがキッパリとエーヴェンに断言した。


「わかってる、俺もリストルの英雄とは揉めたくないよ」


二人の会話を聞き、少し時間を置いて落ち着いて来たので料理を終えたレイナ達を呼んで食事をする。


「ふぅ、エーヴェンさん、リックさん、食べて行きますか?」


ワイバーンの肉は値段よりも、出回る数が少なくて公爵程の貴族でもあまり口にすることは無いようだ、じゃあ少しだけと言うエーヴェンと、嬢ちゃんのファンになったと言うリックと共に食事をする。


その間エーヴェンは俺達を信頼している事、クリスにはキツく話をする事を伝えてきた、一緒に食事をしたのも険悪な雰囲気を気にしてなのかもな、リックはテオと仲良く旨い旨いと食べていたが、他意なくセオとレイナを褒めちぎっていたし褒められた二人も満更でも無さそうだから良しとするか。




食事を終えて俺とリズ、エーヴェンとリックで少し話をする。


「そう言えばエーヴェンさんは何でそんなに俺達を信頼しているんですか?感知スキル持ちだって公爵の名を出して探せば見つかりそうなもんですけど」


「スキルだけが使えても戦う実力が無いとね、帰りはスキル持ちを狙うなんて事はせずに直接母や妹を狙うと思うからね、トーマ君以上の実力者もそうはいないはずだ」


そうか、行きは森で魔物に殺させる目的で感知スキル持ちを狙ったが帰りはそうもいかないし、リズも形振り構わないだろうって言ってたしな。


「それに兎の前足は実質金級パーテイーだ、テオ君とセオちゃんも冒険者なら銀上級の実力はある、こんなパーテイー簡単に探せないよ」


「エーヴェンさんはどこまで知ってるんですか?」


金級の話は断ったしさっき英雄とか言ってたけど、その話はギルド長の部屋で完結したはずなんだけど。


「俺は冒険者だけど公爵家の三男でもあるからね、色々とツテがあるんだ。俺は使えるものはなんでも使うよ、って言うか俺達もリストルに行こうとして間に合わなかったんだ、それで町長とギルド長に挨拶をしたら君達の事を嬉しそうに話してくれたよ、金上級は間違いない、いずれ白銀級だってね」


って言うかって貴族が使う言葉じゃないだろう、エーヴェンはたまに砕けた話し方をするから話しやすいんだよな、エーヴェン達は俺達の後にリストルを訪れたようだ、俺達はテオとセオを鍛える為にゆっくり進んだからエーヴェン達に追い付かれたんだな。


「リストルのギルドで部屋に行った時にそんな話をしてたんですか?言ってくれりゃあ最初から信じたのに」


「嘘を言うな、冒険者は、特にリックは自分で見た事しか信じないって嫌と言うほどわかってる。そして貴族は都合の良いことしか信じない。クリスは典型的な貴族思考なんだ、だから少し言い聞かせてくるよ」


エーヴェンはご馳走さまと言ってリックを連れて戻って行った。


「あれが普通なの?」


あまりにもクリスの態度が酷すぎて思わずリズに問い掛ける、夫人や公女と考えは変わらないようだが言い方が酷すぎる。


「流石にあそこまで極端なのはそういないと思うけど概ねあんな感じかな」


ステルビアはそうでも無いけどジーヴルとロトーネの貴族はクリスみたいな考えが多いらしい、あまりジーヴルに行きたくないな、狙われる理由も知らない方がいいと言うリズの助言で聞いてないしさっさとジーヴルに送り届けてヒズールに向かおう。


テオとセオが嗅覚に慣れる為に先ずはテオ、次にセオと一緒に夜番をする事に決めてこの日は夜を明かした。

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