第57話 到着
「兄ちゃん、兄ちゃん起きろ、ご飯だぞ」
例の如く元気な声に起こされる、夜更かしした後はいつもだな。
テオの元気な声に起こされ、体を綺麗にして食卓に向かう。
今日はオーク肉と根菜のスープだ。どうやらセオも元気になったし大丈夫だろう、レイナとセオの美味しい料理に舌鼓を打ちながら今日の確認をする。
「今日の昼には里につくだろう、トーマ、私も索敵はするが前と後ろでは距離があるからな、今日は空間把握に反応があったらその場所を真眼で見るのを忘れるなよ」
昨日の夜にも注意された事だ、理由を聞いても見た方が早いと言われたので大人しく頷く。
俺達の準備が終わり、貴族は準備に時間がかかるのか遅れて向こうの準備も終わったので昨日と同じ隊列で森の奥に向かう。
リックとエーヴェンとは少し話をしたがクリスは馬車から離れず、目も合わせなかった。
出発して暫くは魔物の反応も無かった、里が近くなってきたからか踏み均された道も少しずつ幅が広がっていく、歩きやすく、戦い易いなと考えていると左右前方に反応が出る、だが道のすぐ側に反応があるのに魔物の姿が見えない。
スゥニィに言われた事を思い出し、真眼で鑑定をしながら反応がある場所を探ると道の側の木に反応が出る、左に一つ、右に二つで反応は合計三つだ。
トレント
魔物
魔力強度:38
スキル:[擬態] [生命吸収]
なるほど、コイツが森の中で厄介な魔物か、確かに見た目では全然わからないし、反応があっても見つけるのは大変だな。
俺はリズに左側のトレントの位置を教え、エーヴェンに声をかける。
「エーヴェンさん、魔物がいるので少し離れます、他に反応は無いので大丈夫だと思いますが注意して下さい」
注意を促し、リズに頷いて魔物に近づく為に足を早める。
二十メートルまで近づいたが見た目では全然わからないな、本物の木にしか見えず、リズが戸惑いながら手を握る。
『トーマ、道のすぐ側のあの木でいいの?』
俺も真眼がなければ戸惑う所だ、確認を取るリズに頷き、魔物が擬態を解く前にタイミングを合わせて先に仕掛ける。
『縮地』『疾風迅雷』
まず二匹いる右側のトレントの近い方に身鉄をかけながら近づく。
『豪脚』
そして腰を捻り右足を思いきり振り抜く。
バキッと音をたてながら大人の胴廻り二人分はありそうな木が綺麗に上下にわかれる。
「キシャァァ」
仲間を倒された、奥にいたトレントが奇声を出しながらズリズリと地を抉りながら近づいてくる、コイツ意外と早いな。
襲ってくるトレントの尖らせた枝の突きを避け、横薙ぎを避ける。
『豪脚』
もう一度右足で真っ二つにすると、魔力の無くなったトレントは大きく開いていた口や目の光が消え、普通の木になってしまった。
「トーマが教えてくれないと全然わからなかったよ」
左側にいたトレントを刀で同じ様に上下に斬り捨てたリズが、木になったトレントを引き摺りながら言ってくる。
「そうだね、奇襲されたら危なかったかも」
道の側で獲物を待ち、そこを通る人間を襲うのか、嫌らしい魔物だな。
初めての魔物なのでどう処理するかリズと悩んでいると馬車が追い付いてきた。
「トーマ君の索敵の精度は凄いな、トレントは感知のスキルがあっても大まかな位置しかわからないから苦戦するんだけどね、森人ならわかると言われているけどトーマ君は森人並に感知が得意みたいだね」
「範囲は五十メートルでスゥニィさんの足元にも及びませんけどね、色々と教えてもらってます」
真眼の事は言えないのでスゥニィに教えられた事にする、実際そうだしな、それと空間把握の調子というか、森に入ってから全体的に体の調子がいいんだよな。
「トレントの死体は燃やしていいですか?」
エーヴェンに尋ねると驚いた顔をする、トレントは死んだ後は魔力を含んだ木になるらしく、杖などの良い素材になるらしい、だが俺達は荷物にそれほど余裕が無いので、全部エーヴェン達に譲る事にした。
「トーマ君達の分も馬車の荷台に積んであげるけど本当にいいのかい?」
「そうだぜ、後ろの嬢ちゃんの杖なんかに良いんじゃないか?魔法が得意なんだろ?」
エーヴェンとリックが、レイナの杖にでもと勧めてくるが断る、貴族にはなるべく借りを作りたくないしな、それにトレントの素材で作られた杖で魔法を使うと魔素の操作がしやすくなる、魔力の消費を抑えられる、その情報を知る事が出来ただけで充分だ、レイナには悪いが少し我慢してもらってまた取りに来よう。
素材は僕達が貰うのが当たり前とでも言いたげなクリスの視線を流し、エーヴェン達が素材の処理をするのを待って再び歩き出す。
『リズ、右からオーガと蛇形の魔物が来る、オーガが先に来るよ、俺が弱めるから止めを頼む、蛇形は鑑定してから指示を出す』
道の先にオーガ二匹が草を掻き分け現れる。
オーガ:魔物
魔力強度:45
スキル:[怪力] [再生] [身体強化]
奥に行くにつれ魔物も強くなっているがまだ大丈夫だ、オーガは俺達を視認して走ってくるが遅い!
『疾風迅雷』
雷を帯びた風の魔力を纏い走り来るオーガに先制する、右側のオーガの首に手刀を叩き込む、リストルで戦ったオーガより魔力強度も高いし俺は焔を纏っていないので一撃で首を撥ねるまでは行かないが苦しそうに呻いて体勢を崩した、狙い通りなので直ぐにオーガから離れ、もう一匹のオーガに向き直る、リズが体勢の崩れたオーガの首を刀で撥ねるのを確認しながら呪文を唱える。
『氷面鏡』
俺に棍棒を振り下ろそうとしていたオーガは突然目の前に現れた氷の鏡を避ける事が出来ずに勢いよくぶつかり体勢を崩す、そして俺はすかさず氷の鏡を自分で砕いて破片をオーガにぶつける、体勢を崩したオーガは呆気なくリズに首を撥ねられた。
空間把握で、オーガとの戦闘中に茂みから蛇形の魔物が近づいて来たのは感知していたので、その場から飛び退くと俺が立っていた場所に双頭の蛇が飛び掛かった。
アンフィスバエナ:魔物
魔力強度:51
スキル:[毒牙] [溶酸] [隠密]
噛み付こうと飛び上がったのだろう、虚しく空を切った蛇に鑑定をかける、森の奥の魔物は強い、今のテオとセオでは危ないな、目の前で俺の声に応えたリズに斬られて魔力の反応が消えたアンフィスバエナの死骸を見ながら考える。
「リズ、帰りはレイナと一緒にテオとセオをフォローしてくれる?」
「そうだね、ここら辺の魔物はまだ二人には厳しいね」
空間把握に魔物の反応が消えたので死体の処理をする、今度はエーヴェン達も素材はいらないようだ。
そしてオーク、オーガ、トレントにアンフィスバエナ等の魔物を倒しながら森を進み、日が真上に来た頃に突然、本当に突然に目の前の視界が開けた。
そこには低い柵に囲まれた集落があった、そしてその奥にはただただ圧倒される木があった、見ているだけで包まれるような、吸い込まれるような木があった、天地の境があやふやになり、体が溶けて無くなり、魂だけで浮いているようなフワフワした気持ち良さ、何でも出来るという万能感、いつまでもこのままで、そう思っていると凛とした声が耳に響く。
『しっかりしろ!』
スゥニィの魔力の籠められた声に意識が覚醒する、どうやら俺以外の皆も似たような感覚を味わったのかハッとした顔をしていた、だがエーヴェン達は俺達を不思議そうな顔で見ていた。
もしかして俺達のメンバーだけだったのか?気持ちはわかるが後にしろとスゥニィに言われ、取り合えず今の感覚は後回しにしてエーヴェン達と話をする。
「トーマ君達のおかげで無事に辿り着けたよ、俺達はほとんど何もしてないな」
「俺の我が儘に付き合ってもらったので気にしないで下さい。エーヴェンさん、一旦ここで別れましょうか、明日の朝にここに集合、それから出発で大丈夫ですか?」
「そうだね、俺達は国からの手紙も見せに行かないと行けないし中で少し挨拶もあるので一旦別れようか、また明日ここで」
お互いに握手をして別れる、そして俺達はスゥニィと話をする。
「トーマ、私も少し中で話をしてくるが夜には戻って来るので向こうの方で夜営をしていて欲しい。あの木が見える範囲は全て結界の中なので魔物も来ないから安心していいぞ」
中でエーヴェン達に森人の祖と気づかれませんかと聞くと、森人から情報を貰えるのは森人だけだと言われ、安心して頷き、一旦スゥニィと別れる。
スゥニィに言われた場所、集落の柵から少し離れた所に布を広げ、荷物を置き、俺の魔素操作、一メートル以内では全属性が満遍なく使えるという便利なスキルで土魔法を使い椅子やテーブル、竈を作る、スゥニィの精霊魔法のように綺麗には作れず、土の壁が地面から突き出すだけなので手作業で形を整えながら皆で人数分の椅子を作る、スゥニィも来ると言っていたので六人分の椅子だ。
準備を終え、途中で竈を作った時に作業から料理に移っていたレイナとセオの作った昼御飯を食べる。
食事を終え、少し休んだ所でテオとセオを森に連れていく事にする。
「リズ、レイナ、少し森で夕食の材料を捜して来るね、大丈夫だと思うけど荷物をお願いしてていいかな?」
「テオとセオも連れていくの?」
リズの心配に俺の考えを伝える。
「ここら辺の魔物は少し強いからさ、テオとセオも今の内に鍛えようかと、守る人がいなければ自由に動けるし危なそうなら逃げればいいしね」
テオとセオは体も小さいし獣人だけあって俊敏な動きが得意だ、レイナも身体強化が出来るくらいに体を動かせるが素早さだけなら二人が上かもしれない。
「そうですね、森の中ならテオとセオは生き生きしてるから大丈夫そうですね。荷物は任せて下さい、スゥニィさんに美味しい料理を食べさせたいので材料をお願いしますね」
二人に見送られて俺達は森に入る、振り返ると森人の里は見えなくなっていた、あんなに大きな木も消え、空には鮮やかな青と白、そして太陽があるだけだった。
「テオ、止めを頼む」
足を折られ、魔法で弱められたオーガの胸をテオが貫く、一匹だけの魔物を見つけては俺が弱らせ、テオとセオに交互に止めを任せて三時間ほどたった。
テオ:10
獣人:ライカンスロープ
魔力強度:41
スキル:[身体強化] [嗅覚]
セオ:10
獣人:ライカンスロープ
魔力強度:38
スキル:[身体強化] [嗅覚]
なかなか上がってきたな、やはり格上の魔物を倒すと上がりやすいようだ。
そろそろ日も落ちるので材料を探しながら戻る事にした、そして展開している空間把握に意識を集中する。
すると魔物や魔力を含んだ植物等がある場所がわかる、範囲も少し広がっているような気がする、円の形で広がる空間把握の端の方が波打つような、不安定な感じだ。
森に入ってから調子が良かったりと気になっていたが、里についた時に木に圧倒された時、あの時から不安定さが増した感じだ、だけど悪い事ではないと直感で思うので、どうしたのと聞いてきたテオになんでも無いよと答えて索敵を続ける。
空間把握を使いながら良さそうな植物を集め、何か珍しい魔物でもいないかと探していると空間把握に一瞬大きな魔力の反応が出た、直ぐに上空を横切った魔力の持ち主を鑑定する。
ワイバーン:魔物
魔力強度:90
スキル:[風魔法] [滑空] [嘴撃]
ワイバーン、確かリズが竜の一種でたまに市場に出回る高級な肉と言っていたな、俺より魔力強度は高く、森の中で焔も使えないがスゥニィの為に少し頑張ってみるか。
ワイバーンを倒すことを決めた俺は、感度の上がった空間把握で開けた場所を探す、そして見つけた場所まで行くと、周りに魔物がいないのを確認し、テオとセオに木に隠れて待つように言い、開けた場所に出る。
まだ近くを気持ち良さそうに旋空するワイバーンに向けて威嚇の炎魔法を放つ。
炎はワイバーンのすぐ側を横切る、そして俺に気付いたワイバーンが高度を下げながら近づいて来た。
「グァッ、グァァッ」
猛スピードで滑空してくるが目に魔力を集め、動体視力を上げて迎え撃つ、近付いてくるとワイバーンのデカさに圧倒される。
『身鉄』
上空から滑るように向かってくるワイバーンの進路から少しズレて立ち、体を鉄にして、翼の根本を狙って思いきり右腕を振り下ろす。
『豪腕』「グァァァァ」
右腕にワイバーンを切り裂く感触を感じたと思った瞬間に滑空の勢いに吹き飛ばされる。
「がはっ」
鉄に変えた体に鈍い痛みが走るが、空間把握で地に叩き伏せたワイバーンが体勢を立て直したのを感知しているので直ぐに立ち上がる、片翼を無くしたワイバーンは、それでも二本の足で立ち上がり俺に怒りを向けていた。
「グァッグァッ」
近づこうとする俺に、翼を無くして空に逃げる事も出来ず、魔法で風を一点に集め、指向性を持たせて俺の接近を阻止しようとするワイバーン。
俺は強烈な風を疾風迅雷で堪え、魔力解体を使いながら近づく、気持ち良さそうに空を飛んでたのにごめんな、そう思いながら止めをさす。
『活性化』
体の細胞を活性化させ、風魔法をものともせずに近づくと、最後の抵抗とばかりに嘴で攻撃してきたワイバーンの攻撃を避け、伸びきった首を手刀で斬り落とした。
「ふぅ」
久し振りの強敵に思わず息を吐く、テオとセオが駆け寄ってきた。
「兄ちゃんやっぱり格好いいぜ、なぁセオ」
「そうだね、強い魔物だったけど凄かったね」
興奮気味に褒める二人にありがとうと言って解体を始める。
活性化はまだかかったままで、何となく出来そうな気がしたので解体用のナイフを取り出したセオに待ってもらう。
『疾風迅雷』
雷を帯びた風を纏い、そして右手の先に魔力を集め、風をナイフの様にイメージしてワイバーンを切り分ける。
うん、いける、切れ味の鋭い風にスパスパと切り分けられていくワイバーン、やっぱり全体的に能力が上がっているようだ、魔力の細かい操作も出来る。
辺りが暗くなり始めたので、すげぇすげぇとはしゃぐテオとセオにも肉を持ってもらい、ワイバーンを余す事なく持って帰る、活性化出来る時間は十分だったのが三十分は続くようになっていたので、帰りは進路上避けられない魔物もサクッと倒してさっさとリズとレイナの所に戻った。
「遅〜い」
リズが俺達を見て開口一番言ってくる、俺はごめんと謝りながらテオとセオが順調に魔力強度が上がった事を伝え、ワイバーンの肉を見せる。
リズは肉を見て上機嫌になると、俺達に少し眠っていいよと言ってきた、俺達が森にいる間に先にリズが眠り、今はレイナが寝ているようだ、今日は夜遅くまで起きるかもしれないのでリズの言葉に甘え、体を綺麗にして三人で仮眠を取った。
目を覚ます、何となく感覚も鋭敏になっているのがわかる、隣で寝ているテオとセオを起こし、テーブルに向かうとレイナも既に起きていて、ワイバーンの肉に腕が鳴りますと喜んでいた。
そしてそろそろスゥニィが来るだろうと下拵えをする、丁度終わった所でスゥニィが来たので、まずは席についてもらい、スゥニィが夕食を食べてないのを確認したので三人で料理を始める。
レイナが肉料理を、セオがスープを、俺はサラダを担当する、ワイバーン肉のステーキ。ざく切りした野菜とウィンナーの変わりにワイバーン肉を使ったコンソメ風味のスープ。薄切りしたワイバーン肉をさっとお湯に通したしゃぶしゃぶのサラダだ。
そして、皆で食卓について六人での食事を始める。
「美味いな、私の為にワイバーンを狩ってきてくれたんだろう?ふふっ、お前らといると感情が揺さぶられる事ばかりだな」
「兄ちゃんな、スゥニィさんの為にってわざわざ珍しい肉を探したんだぞ。この肉本当に美味しいな」
テオっ、照れるだろう、そういう事は本人がいないところで言った方がいいと思うぞ。
和やかに食事が進み、好評な内に食事が終わった。
そして腹ごなしに会話をし、会話が尽きた所でスゥニィが皆を案内したい所があると言うので移動する事にした。
スゥニィの後について、暫く歩く、スゥニィの後ろだと魔物の反応すら出ない、スゥニィの魔力感知は遠くまで索敵出来るから魔物と遭遇しないルートを選んでいるのだろうな。
スゥニィ:フゥド:318
森人:祖:ギルド長
魔力強度:301
スキル:[魔力操作:極] [魔力感知:極] [魔力回復] [魔力吸収] [弓矢:極] [精霊魔法:極] [身体強化] [森林調和:極]
久し振りに見たがやはり凄いステータスだ、俺が目標にし、辿り着かないといけないステータスだ、って前に見た時より上がってるし、リストルの悪夢で魔物をどんだけ倒したんだよ。
そして一時間以上歩いた所で開けた場所に出た。
その場所にスゥニィは真っ直ぐ歩いていく、その場所は、直径二百メートル程の広さがあり、真ん中に大きな木がポツンと立っている場所だった、そして空間把握の範囲外だが遠くからでもあの木は魔物だとわかる程の存在感があった。
あの魔物を全員で倒して欲しい、振り返ったスゥニィが真面目な顔で口を開いた。
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