第55話 森の中を進む

「やぁ、遅くなってすまない、俺とリックは知ってるね。彼はクリス、俺達はこの三人だ」



クリス:24


人間:冒険者


魔力強度:42


スキル:[剣術] [身体強化] [土魔法]




まずは鑑定でクリスを見る、茶色のベリーショート頭に十代でも通じそうな中性的な童顔、少し強気そうな顔で俺を睨んでいた。


その視線に居心地の悪さを感じながらもエーヴェンと話をする。


「護衛は三人ですか?残りの人は?」


「あぁ、君らはスゥニィさんと一緒だから大丈夫だけどこの森に入る人数はギルドに申請した代表者を含めて五人までらしいんだ、森人を刺激しないよう配慮してるみたいだね。今回はギルドに事情を話して馬車で森に入る許可を貰ったけどそれもいい顔はされなかったよ」


なるほど、ギルドは森人を刺激しないようにかなり気を使ってるんだな。そして短く刈り上げた黒い短髪と無精髭を生やした顔を憮然とさせながらリックが挨拶をしてきた。


「よう、昨日はすまなかった。リーダーからお前らの事は聞いた、聞いたんだが本当にお前ら戦えるのか?」


リックは強面な顔で俺達を値踏みするようにジロジロと見回しながら右手を差し出してくる。


「まぁ、それなりに戦えるつもりです。里までよろしくお願いします」


リックと握手をする、リックが握手をする手に力をいれて来たので握り返してやったらニカッと笑い、大丈夫そうだなと肩を叩いてきた、その間にエーヴェンが馬車の中の人に声をかけていた。


そして馬車から二人の人物が降りてきた。


一人は四十代だろうか、赤を基調とした派手なドレスが似合う、背中まで伸びた濃い栗色の髪と栗色の瞳、少し疲れた顔をしているが気品を感じる、まさに俺が思う貴族然とした女の人だ。


もう一人は十代中盤かな、白と青が見事に調和しているドレスを来た、こちらも背中まで伸びた長い金髪に金色の瞳をした、エーヴェンに少し似ているか、少女から女性に変わり始めた、まさに花も綻ぶといった女の人だ。



アンネ:ハンプニー:46


人間:公爵夫人


魔力強度:12


スキル:[裁縫] [話術]




エレミー:ハンプニー:16


人間:公爵公女


魔力強度:8


スキル:[裁縫]




その女性が降りて来た時、俺に険しい視線を向けていたクリスが姿勢を正し真面目な顔付きになった。


降りてきた二人はエーヴェンから何か耳打ちされるとフードを被ったスゥニィの所に向かう。


「初めまして、公爵家夫人アンネと申します」


「は、初めまして、公爵家公女エレミーです」


娘はかなり緊張しているようだ。それより何だか普通の挨拶だな、目の前で本物のカーテシーを見る事が出来ると期待していたのだが、勝手に地球の貴族と照らし合わせてしまったな。


俺がそう思っているとクリスが近づいてきた。


「おい、兎の前足がどんな物か知らないがお嬢様と奥様に失礼な事はするなよ」


ひそひそ声で語気を強めるという器用な事をしながら耳打ちしてきた、奥様よりお嬢様の事を先に言葉にした事と、俺に言いながらも目線はお嬢様に釘付けのクリスを見て何となくさっきから険しい視線だったのも察する事が出来た。


俺は苦笑いをしながらなるべく気を付けますと返事を返す。


そして俺達も紹介されたので無難に挨拶をした、その時にエレミーがセオをずっと見ていたのが気になったが特に問題なく挨拶も終わり、俺達は連れ立って村を出て森に入っていった。





森の中を進む、先頭に俺とリズ、馬車を挟んで後ろにスゥニィとレイナ、テオとセオだ、エーヴェン達には馬車の側についていてもらう。

スゥニィも夫人から一緒に馬車に乗らないかと誘われていたが断っていた。


森に入る時にリックは俺を先頭にしろとこの配置に渋い顔をしたが何とか宥め、エーヴェンとクリスはこの配置に賛成だったのでリックは渋々頷いてくれた。


「一旦止まって下さい」


人が四人通れる程の踏み均された道を進んでいると右手前方に反応が出た、反応は三つでこのまま進むと丁度馬車の所で魔物と鉢合わせになりそうなので馬車を止める。


少しして右手前方からガサガサと魔物が現れた、ゴブリン二匹、そして初めて見る熊の魔物だ。



ワウドゥベア


魔物


魔力強度:31


スキル:[嗅覚] [飛爪]



森の浅い所で魔力強度30越えが出るのか、確かに銀上級に丁度いい狩り場かもしれない、里から戻ったらテオとセオを鍛えるのもいいかもな。


そう考えながらリズに指示を出す。


「リズ、熊を頼む。ゴブリンは任せろ」


言って身体操作を使い、先に茂みから出てきたゴブリンを左、右と順に首の骨を折り、ワウドゥベアが威嚇行動の為に立ち上がったのを見て後ろに飛び退く。リズはすぐさま縮地を使い立ち上がったワウドゥベアの首を刀で斬りつける。


首を撥ねたと思ったが、思いの外立ち上がったワウドゥベアの首が遠く、傷は致命傷になっていないのかワウドゥベアの魔力が途切れない、そして首から血を吹き出しながら振り上げた右腕の爪に魔力が集まる。


俺はすぐにワウドゥベアの視線の先にある馬車の前に立ち塞がり、呪文を唱える。


「ガアァァ」『氷面鏡』


ワウドゥベアが腕を振り下ろすと同時に五本の細長い魔力の刃が飛んで来るが魔力の鏡で上手く斜め上に逸らすと同時にワウドゥベアの首が飛ぶ。


「トーマごめんね、思ったより間合いが遠くて目測を誤っちゃった」


「大丈夫、それより他の魔物が来る前に処理しようか」


倒れたワウドゥベアの後ろから首を撥ねたリズが戻ってくる、俺達は話をしながら魔物の死体の片付けを始める。


あまり荷物を増やす訳にも行かず、エーヴェン達も特にいらないと言うので、浅い穴を掘ってゴブリンとワウドゥベアの死体を燃やして処理し、穴を埋めてまた歩き始める。


「お前らやるじゃねぇか、リーダーの話に半信半疑だったがリストルの悪夢を生き残ったってのも本当かもな」


馬車から離れ、先頭に来ていたリックが笑いながら背中を叩く、リストルの悪夢、そんな風に広まっているのか、それよりリックは持ち場を離れてもいいのだろうか。


「ありがとうございます、それより持ち場を離れても大丈夫なんですか?」


「あぁ、お前らの強さを見て少し話がしたかっただけだ、嬢ちゃんの剣といいトーマの魔法といい少し変わっているが実力は本物だな、ギルドではすまなかった、余計な心配だったようだ」


非を認め、素直に謝罪をするリックはなるほど、なかなか面倒見が良さそうだ、俺達の事を気にかけて言ってくれたようだし気にしてないですからと言って歩き始める。


そこに再び空間把握に反応が出る、今度は馬車の左側からだ。


「リックさん、馬車の左側から魔物が五匹来ます、人形…オーク四匹、それと多分…ワウドゥベア一匹です。馬車を急がせる事は出来ますか?」


空間把握の精度も大分上がったのか、慣れたオークだけではなく一度遭遇した魔物も何となくだがわかるようになってきた。


「いや、馬車の速度は変えない。次は俺達に任せろ」


そう言ってリックはエーヴェン達の所に戻る、俺は後ろのレイナ達にも伝えようとしたがスゥニィから既に聞いていたのか、テオ、セオと共に左側を警戒しているので大丈夫だろう。


「来ます!」


俺が叫ぶと同時に馬車の左側の茂みがガサガサと音を立てる、そしてエーヴェンの魔力が高まる、炎魔法を使う気だ。


「マジか!リズ!ワウドゥベアを頼む」


俺は慌てて疾風迅雷を使い魔法を放とうとするエーヴェンの前に行き、レイナ達に指示を出しながら呪文を唱える。


「レイナ!テオ!セオ!リズのフォローだ」『氷面鏡』


エーヴェンの放った炎の塊を氷面鏡で上に弾く、そして突然現れ、魔法の邪魔をした俺に戸惑う三人を無視して魔物に向き直る。


一度戦って間合いを修正したリズが、茂みの中でワウドゥベアの首を落とし、オーク四匹はレイナの風魔法と、木を上手く使ったテオとセオの立体的な動きに翻弄されている所だった。


「な、何を」


戸惑うエーヴェンの声を無視して疾風迅雷で茂みに突っ込む、そしてテオとセオの動きを見極め、身鉄と豪腕で一匹、二匹とオークの胸を貫く、残り二匹はリズが首を撥ねてくれたので辺りに魔物の魔力は無くなった。


「ふぅ、急に指示してすまない、皆ありがとう」


魔物の返り血や、茂みの中での戦闘で汚れた皆に清浄をかけながら一息ついていると森の中に声が響いた。


「どういう事ですか!」


隣で宥めるエーヴェンとリックに構わずクリスが俺を睨んでいた。

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