第53話 家族への憧れ
次の日も魔物の襲撃を退けながら進んだ俺達は、スゥニィによると明日には村に着くだろうという距離まで来た所で野営をしていた。
「それで、そのコンビニって所でおでんって料理を出すんですけどね、地方毎に具材が違うらしいんですよ、俺は大根や玉子などの定番メニューも好きなんですけど色々な物も食べたくて、いつか日本中を旅したいなって思ってました」
「この世界に来て、少し懐かしいと思う事はあったんですけどもう食えないと諦めてたんです、それがヒズールの話を聞いてもしかしたらって思ってるんですよね。でもおでん発祥は江戸時代で、ヒズールを作った異邦人はそれより前の時代から来たみたいで、どうかなって」
今日の夜番はスゥニィと俺だ、そろそろ肌寒くなってきたので久し振りにおでんの味を思い出しながら話をしたらついつい饒舌になってしまった、でもスゥニィはそんな話も楽しそうに聞いてくれる、地球の話を聞く時のスゥニィは子供のようだ。
そう言えば沖縄のコンビニには豚足がおでんの具材にあるらしい、ヒズールで調味料を探せばオークの肉を使ってレイナに作ってもらえないだろうか?玉子はあるし、色々と地球に似た野菜もこの世界にはあるしな。
「おい、話が止まっているぞ」
スゥニィに促され、今度はリズの持つ刀、太刀から打ち刀に変わる歴史を話していく。
ふむ、ほぅ、と頷きながら聞いていたスゥニィが馬車の方に目を向ける、俺も馬車の方を見るとセオが起きてきた、どうやら花を摘みに行くようだ。
丁度話のキリが良い所というのもあって俺は席を立って珈琲を入れ直す、入れ直している間にセオが戻ってきたので何か飲むか聞いてみると頷いたので、椅子に座るように言って牛乳を温める。
この世界の牛は黒とピンクの模様をしている、牛乳の味は少し濃厚だが地球とあまり変わらない。
ちなみにこの世界の食材は魔力を含んでいる為か総じて腐りにくい、死体で放置したままだと月の光を受けて直ぐに淀み、腐るらしいがちゃんと切り分けて処理した肉は数年は持つそうだ、魔力強度の高い魔物だと百年経っても腐らず、美味しく食べられた記録もあるとリズが言っていた。
「はい、どうぞ」
セオに温めた牛乳を出し、スゥニィには珈琲を渡す。
「セオの耳、傷はそのままでいいの?」
セオは、体は完治しているが欠けた耳はそのままにしている、レイナの治癒も大丈夫だと断っているそうだ。
後で聞いたのだが欠けた部位を治すというのは、自然治癒で治るような怪我とは違ってかなりの魔力を使うらしく、テオとセオの体の傷が治り、残りはセオの耳という所でレイナの魔力が切れたのはその為らしい。
「はい、体は大丈夫ですし、特に問題は無いので。それにこの耳は、奴隷になるはずだった私が自分の意思で子供達の為に戦った証なので」
証か、親に売られ、奴隷になる所だったセオにとって子供達の為に戦った時についたあの傷は誇らしい物なのだろう、子供達にも好かれていたしセオは面倒見がいいのかもな、そう思いながらセオにも何か、地球の話で聞きたい事があるか訪ねる、料理の事でもいいしな。
するとセオは俯き、少し口ごもるが、顔を上げるとハッキリと俺の目を見て切り出した。
「その、私とテオを引き取った時に、トーマさんと私の顔が同じだって言いました、トーマさんは昔ツラい事があったんですか?」
セオの問いにスゥニィも同意する。
「ある程度は聞いたが私も詳しくは聞いてないな、私を嫁にするなら隠し事は無しだぞ」
「別に隠していた訳じゃ無いし楽しい話でも無いですよ、それにスゥニィさんには隠し事は出来そうも無いですし」
スゥニィはやたら勘が鋭いから隠し事なんて出来ないよ、それより結婚するってのは本当なんだろうか、迎えに行くって約束はしたが、既に結婚も決定事項のように言うし。
まともな家庭で育ってない俺にはハッキリ言って家族というものに不安がある、だけど仄かな憧れもあるのが事実だ。
嫁とか結婚とかはまだ全然考えられないが、今の旅、この六人で過ごす日々はとても心地いいなと思う。
将来的にこんな家族が待てたらいいなと思いながら俺の生い立ちをスゥニィとセオに聞かせていく。
「生まれた時から…。」
俺の話を聞いたセオが目を伏せ呟く、学校での生活などは想像しにくいだろうがある程度の事は伝わったのかな。
「まぁ、それでも今は力も得て、賑やかな毎日で楽しいよ」
セオが自分の境遇を思い出して悲しくならないように努めて明るく話す。
「トーマさん、私とテオを引き取ってくれてありがとうございます、レイナさんから教わる料理も、それと自分の身を自分で守れる力がついていく事も、実感出来ているので毎日が、その…楽しいです」
セオが少し赤くなりながら話す、セオはテオと真逆で感情表現が苦手みたいだしな、嫌われてはいないとわかってはいたがこうして言葉で言われると嬉しいな。
後は笑顔さえ見せてくれたらなぁ。
「ふふっ、お前らは、辛い思いをしたが今は二人とも自由だ、里を飛び出したつもりでも未だに縛られている私には少し羨ましいな」
スゥニィが俺とセオを見て目を細める、三百年生きて、それでも里に縛られるというのは窮屈で息苦しいのかもしれないな。
「だがトーマが迎えに来た時、その時は私も自由になれるかもしれん、だから頼むぞ」
俺が迎えに行けばスゥニィは里から自由になれるのか?なんだかよくわからないな。
「それが理由ですか?」
スゥニィの考えが今一わからないので、失礼かも知れないが聞いてみる。
「ん?結婚の事か?それは違うぞ、お前らと旅をして、昔ジーナ達と旅をしたのを思い出してな、あの時はジーナとノーデンの結婚で旅が終わったが、もう一度旅をするなら満足するまで旅をしたくてな、なら結婚してその相手と旅をしようというわけだ。それにトーマの事を気に入っているのも本当だ、お前の甘さは冒険者としては馬鹿にされる類いの物だ、もう少し改めないといけない物だが、その為に激しく感情を出すお前は私には時々眩しく見える。それと言葉に対する想い、同じ事に共感出来る相手というのはそれだけで好ましく感じる物だ。そして一番の理由が見ていて飽きないという事だな、ほら、こんなに理由があるぞ、だから安心して迎えに来い」
「それとお前の体なんだが…、それはまだハッキリとしないのでお前が私を迎えに来た時だな」
俺の体?気になるが迎えに来た時と言われたのでこれ以上聞くのも野暮だな。
それに性格、共感、刺激と理由も教えてくれた、どうやら酔いのせいでは無かったようだ、自分がそれほどの人間だとは思わないが、これはまた強くなる理由が出来たな、スゥニィに比肩出来るくらいの強さ、目安は白銀級か。
俺達の話を聞いていたセオが小さく可愛い欠伸をしたので寝るように言ったが、セオが他にも話を聞きたいと言うので、たまには夜更かしもいいかと時折襲ってくる魔物をセオと倒しながら、夜が明けるまで話を聞かせた。
「そろそろ見えるぞ」
馬車の中で微睡んでいた俺はスゥニィの声で目を覚ます、御者台の方に目を向けるとリストルの町より堅固な壁に囲まれた村が見えてきた。
俺とスゥニィは馬車を降りて門に向かう、門番の人はスゥニィを見て姿勢を正した。
「私が里に戻る為に立ち寄ったんだがコイツらはその護衛の冒険者だ、トーマ、カードを見せろ」
言われてカードを取り出し門番に見せる。
「はっ、はい。銀上級のトーマさんですね、大丈夫です」
門番は録にカードを見ずにそう言って門の前にいた二人に門を開くように指示を出す。
堅固な壁に囲まれ、他所では昼間は開いているはずの門が閉じたままだったので事情も詳しく聞かれると思ったが、馬車の荷も改めず、すんなりと村に入れたのを不思議に思いスゥニィに聞いてみる。
「ここは森に囲まれ魔物が多いからな」
村を囲む堅固な壁や昼間から門を閉じているのは魔物を警戒しているらしい、それと俺達が簡単に入れたのは、この村は人間界で唯一森人界と交流があるらしく、森人に失礼が無いように国から徹底されているようだ、ちなみにここは、ラザやリストルのある東南の国ステルビアと違い既に南の国ジーヴルの管轄だ。
そしてここには村では珍しい冒険者ギルドがある、冒険者ギルドは相互扶助の精神から出来た互助組織なので、国からは独立しているが村を守る為に冒険者を常駐させる事を目的にジーヴルが予算を出して運営しているようだ。
「結構大きな村ですね〜」
馬車の隣を歩く俺とスゥニィに、御者台からリズが声をかけてくる。
「あぁ、元々は小さな村だったんだがな、森人との交流を重要視した国が介入してどんどん大きくなった、後二十年もたてば町と呼ばれるようになるかもな」
確かに、家は木造の建物が大きく、道も土を踏み固めただけだがちらほらと煉瓦造りの建物も見受けられる、堅固な壁に囲まれているのもあってなんだかチグハグな感じを受けるな。
そして村に入って直ぐに目に入った三階建ての建物、あれが冒険者ギルドのようだ。
「ラザやリストルと殆んど変わらない建物、あれがギルドですよね」
ラザやリストルでは気にならなかったが、いくら煉瓦造りの建物が増えているとはいえまだまだ木造の建物が多いこの村の中で一際異彩を放つ建物だ。
「あぁ、冒険者ギルドはどこに行っても殆んど同じ造りで三階建てだ、冒険者は馬鹿が多い、だから分かりやすいようにと、大攻勢が起きた時の住人の避難場所にもなるからな」
明け透けに話すスゥニィに俺とリズは苦笑いをしながらギルドに向かう。
「おい、兄ちゃん」
俺達は馬車を四日程預かってもらう事を伝える為に見慣れた構造のカウンターに向かう。
「おい!兄ちゃん」
建物の中はなかなか盛況だ、この村は周りに魔物も多く、銀上級に上がった冒険者にはいい稼ぎ場として人気があるらしい。
「おいてめぇ!無視してんじゃねぇ」
さっきから後ろが煩いなと思って振り向くと三十歳ほどの使い込まれた鎧を身に纏った男が立っていた。
その男が俺を見ていた、男の後ろにはテーブルに座る四人の冒険者達もいる、もしかして俺に話し掛けていたのか?
リック:33
人間:冒険者
魔力強度:38
スキル:[剣術] [身体強化]
なかなか強そうだ、少なくとも今のテオとセオじゃ勝てないか、後ろの冒険者も全員魔力強度が35を越え、身体強化を覚えている。
その中に一人気になる男がいた。
エーヴェン:ハンプニー:29
人間:冒険者
魔力強度:68
スキル:[剣術] [身体強化] [風魔法] [炎魔法]
魔力強度の高さ、スキルも四つある、何より名前の後ろに姓がある、冒険者では初めてだな。
まぁ怪しい所は無いので取り合えず目の前の男だ。
「すいません、俺に話し掛けていると気づかなかったので、それで、何か用ですか?」
俺が軽く頭を下げて謝ると、男は少し毒気を抜かれた顔をしたが直ぐに険しくなる。
「てめぇ、ここは森に囲まれ魔物が多く、危険な村だ、女子供を連れて訪れる場所じゃねぇぞ」
スゥニィはローブのフードを被っているので他を見ると、俺とリズ、レイナとテオとセオ、確かに女子供だな。
「すいません、でも俺達も依頼で訪れているので」
「依頼だぁ?じゃあ何か、お前ら女子供が銀上級の冒険者っていうのか?」
「俺と、そこのリズとレイナが銀上級、三人で兎の前足ってパーティーです、テオとセオは…俺の弟と妹です」
もうその様な物だし俺はそう思ってるし別にいいよな、テオとセオは少しびっくりして俺を見上げたが、俺が笑うとテオも笑い、そして、セオが少し笑ってくれた。
それを見た俺とテオが顔を見合わせ、テオが、セオ今笑ったよな?笑ったよな?と繰り返しているとリックが割り込んで来た。
「人の事を無視して和んでんじゃねぇよ、お前らが銀上級「待ってください」」
リックが話しているところに更に姓持ちのエーヴェンが割り込んで来た。
「すいません、今兎の前足って言いましたか?」
「えぇ、そうです」
俺が頷くとエーヴェンはフードを被ったスゥニィに目を向ける。
「もしかして彼女は」
エーヴェンはそこまで言って場所を変えませんかと言われ、他の冒険者達も俺達に注目し始めたので促されるままに移動する事にした。
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