第50話 閑話テオ

今日、俺とセオは今まで住んでいたペンディオ村を出て、人間界にあるジーヴルって国に行く為に旅に出た、初めての外だ。


なんでもその国に行くと仕事があって、沢山ご飯が食べられるしフカフカのベッドで寝れるんだって父ちゃんが言ってた。


馬車に乗って険しい山道を降りる、俺達で丁度人数が揃ったって言って、このまま獣人界を出て人間界に行くって話を綺麗な服を着たおっちゃんと、少し汚れてるけど格好いい鎧を着けたおっちゃんが話してた。


いつも見ていた山の景色が変わって緑色の景色が広がる、人間界に入ったんだ、これから何があるんだろうとワクワクするな。


でも、セオも、馬車に乗ってる他の子供もなんだか元気が無いんだよな、誰も喋らないし。

知らない所に行くのが怖いのかな。


神様が疲れたから今度は女神様に交代する時間になった、馬も疲れたから今日はもう休みだって言って見晴らしのいい場所に馬車が停まる。


「少し待ってろ」


鎧を着たおっちゃんがそう言って暫くすると、干し肉と豆のスープを人数分持ってきてくれた、おっちゃんは食わないのかって聞いたらもう食べたって、獣人と俺達じゃ食う物が違うんだって、そうなのかな、ご飯は皆で食べた方が美味しいのにな。


村で飲むのとあまり変わらないスープを飲んで、セオを見ると全然食べてなかった。


「セオ食べないのか?冷めたら美味しくないぞ」


俺の言葉にセオは変な顔をして、いらないからあげると言う、もしかして笑ってるつもりなのか?村を出てからのセオはやっぱり変だな。


村でも、考え過ぎのセオって言われてたから色んな事を考えているのかもな。





俺達を乗せた馬車は、たまに綺麗な服を着たおっちゃんが指示をした町に行く事がある、たまに入る町は色んな人がいて、色んな建物があって面白いけど馬車から離れるなって言われてるから我慢する、ジーヴルについたら自由にしていいぞって言われたしな。


でも町にいる人間が俺達を見る目が変なんだよな、馬鹿にするような、可哀想な人を見るような目で俺達を見てくる。


なんか人間の町って嫌なとこだな、町を出ると緑が沢山あって気持ちがいいのにな。


ジーヴルに行くとそうじゃないのかな。





鎧を着たおっちゃんが、もう半分は過ぎたからなと言いながら皆にいつものスープを渡す、でもスープの量がどんどん減ってるんだよな、馬車に乗ってた他の子供がたまに入る町で働きに行ったから人数は減ってるし、普通は増えそうなのにな。


これじゃ村にいたほうが良かったかな、俺はいつもいらないと言うセオのスープと、自分の分のスープを二つ持って、馬車にいる他のチビ達に分けてから、干し肉をかじりながら考える。


「これもいらない」


「セオ、いつもスープ飲まないんだからそれだけは食べないと、あと半分だって鎧のおっちゃんも言ってたからな」


俺の言葉にセオはまた変な顔を顔をする、笑ってるのか泣いてるのかわからない変な顔だ、なんだか最近のセオは急に大人になったみたいなんだよな。


あっ!俺はセオの顔を見て思い出す、村を出る時に、村の大人達の顔が今のセオと同じだったんだ。


そう言えばセオは村を出る前に何か母ちゃんと話してたな、俺と違ってセオは長い時間話をしてたからその時に何かいわれたのかな。


それからの旅で他の子供達も働きに行って、残ったのは俺とセオだけだ、ジーヴルまでは少し距離があるからって言って、近くの町に、色んな準備をするために寄る事になった。


その町でも馬車から降りなかったけど、花が沢山咲いてて綺麗な町だと思った。


今までと違って町の人も変な視線を向けて来ないしな、でも何だか忙しそうにしてるし、何か怖がってるようにも見えるんだよな。


それに鎧のおっちゃんが沢山いて空気がピリピリしてる、せっかく綺麗な町なのにな。


俺が勿体ないなと考えていると、綺麗な服を着たおっちゃんと鎧のおっちゃんが帰ってきた、それと鎧のおっちゃんが一人増えてた。


「町を出れるのはありがたいんですけど、この馬車はどこに行くんで?」


「ジーヴルだ、巻き込まれたら大変だから急いで出るぞ、今日は休みなしだ」


「安くても金は払うんだからな、しっかり仕事しろよ」


「はいはい、俺も早いとこ逃げ出したいし丁度良かったですよ」


なんだか慌てているみたいだ、急いで準備をして町を出る、もうそろそろ神様が疲れる時間なのに町から離れてもいいのかな。




馬車は女神様が出てもずっと走ってる、夜は魔物が元気だから大丈夫かなと思ったけどなんとも無かった、そう言えば最近は夜でも魔物が襲って来ないんだよな、明るくなっていく空を見ながら考えていたら風に乗って獣の臭いがした。


「何かくるよ」


俺が声をかけると鎧のおっちゃんが辺りを見渡す、すると遠くから大きい狼が集団で襲ってきた。


「ナイトローソンだ、リーダーもいるぞ、なんでこんな所に」


鎧のおっちゃんが叫ぶ。


「馬車じゃ逃げ切れねぇ、応戦するぞ」


おっちゃん達が馬車を停めて武器を構えた、でも狼の群れは十匹はいるから敵わないと思う、それに一番大きくて真っ白な狼、あの狼は今まで見た中で一番強そうな魔物だ、あの魔物が他の狼を操っているみたいだ。


「お、おい!あの大きいのはリーダーじゃなくてフェンリルじゃないか?う、嘘だろ」


「フェンリルなんて見た事ないぞ、森の奥から出ないんじゃないのかよ、これも大攻勢の影響か」


鎧のおっちゃん達が叫ぶ。


「お、お前達、金は払ったんだからを雇い主を守れ」


綺麗な服のおっちゃんも泣きそうな顔で叫ぶ。


「取り合えず逃げるぞ」


鎧のおっちゃん達は馬車を置いて逃げ出そうとする、綺麗なおっちゃんも慌てて後を追おうとするが三人は直ぐに群れに飲み込まれてしまった。


セオの手を握って、何も出来ずにおっちゃん達が狼に襲われてるのを見ていたら、誰かに見られている気がした、気がつくと白い狼が俺の事をじっと見ている。


『森に逃げろ』


何だか白い狼がそう言っている気がする、俺は慌ててセオの手を引いて森に走った。


何でかはわからないけど後ろで白い狼が優しく笑っているような気がした。

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