第48話 リストル後始末 前夜
皆で日本の諺について話しているとギルド長と町長が部屋に戻ってきた、ギルド長は戻ってくるなり俺達に破顔した顔で声をかけてくる。
「おう、お前らここにいたのか、丁度良かった、お前らに話があるんだが」
ギルド長がそこまで口に出した所でスゥニィが遮る。
「金級の話なら私が確認した、断るそうだ」
その言葉にギルド長は目を見開く、ギルド長は尚も何か言おうとするが、俺達が先にスゥニィに言った事をギルド長にも聞かせる。
「そ、そうか。お前ら三人の今回の活躍は素晴らしい物なんだがな、本人達にその気が無いならしょうがないか」
項垂れるギルド長にスゥニィがニヤッとしながら声をかける。
「大方リストルのギルドで昇級させて専属にでもしようと思ったんだろうが残念だったな、それに兎の前足はまだラザ専属だ、修行の旅に出ているだけでいずれラザに戻るさ」
スゥニィの言葉にばつが悪そうに頭を掻くギルド長、それを見ていた町長が、まぁ座りましょうと促し二人はスゥニィの両隣に腰を降ろす。
なんか位置的にスゥニィがここのギルド長みたいだな、若く見えるけどこの中では一番の歳上だしな。
「なんだ?」
スゥニィが目線鋭く問い掛けてきたので慌てて何でも無いですと首を振る。
「トーマ君、リズ君、レイナ君、今回の事は本当に感謝している」
冷や汗を流している所に町長が頭をテーブルに着ける勢いで下げてきた。
「今回、町が救われたのは君達とスゥニィさんがいてくれたおかげだ、本当に感謝している」
町長に頭を下げられ慌ててしまう、町の長がこんな簡単に頭を下げていいのか?
戸惑う俺を見かねてリズが口を開く。
「町長、私達は冒険者として出来る事をしただけです、だから頭を上げて下さい。それに早めに動いてくれたギルド職員や他の冒険者達もいてこその結果ですから」
町長はリズの言葉に頭を下げたまま、しかしと言う、そこに再びスゥニィが声をかける。
「だから言っただろう、コイツらは他の冒険者と同じ扱いで構わん、変に持ち上げるとコイツらも居心地が悪くなるだけだ」
スゥニィに言われて漸く町長が頭を上げる。
「しかし、六千の魔物の大攻勢から町を守った中で中心的な活躍をした三人ですよ?他の冒険者と一緒の扱いでは流石に」
スゥニィと町長の話について行けず、思わずスゥニィに目線で問いかける。
「町長がな、お前達の名前をリストルを救った英雄として他の町にも発表しようと言ってるんだ」
それを聞いて思わず飲みかけていた珈琲が気管に入りむせる。
リズとレイナもスゥニィの言葉に微妙な表情になる。
「ちょ、ちょっと待って下さい。そんな事をされたらこっちの方が困ります、俺達はただの銀級パーティーです、だからそんな事はやめてください」
俺の言葉にリズとレイナも頷く。
「ただの銀級ってのは無理がないか?」
今度はギルド長が横から口を挟む。
ギルド長が言うには大攻勢が起き、それから町を守るのはそれだけで他の町で話題になるらしい、それが今回は魔物の数が六千、そして魔族が少なくとも二人、更に金上級の冒険者が魔族と手を組んでいたとなると王都どころか国中で噂になるそうだ。
そしてその中で活躍をした俺達は名前を出せば王都に呼ばれるかもしれない程の事だと言う。
因みに大陸の中央にある人間界、その人間界の更に中央にある国ロトーネ、北東の果てにヒズール、東南にステルビア、南にジーヴル、西は大小の様々な国があり、それらを纏めてメーヌ連盟と呼ぶ。
昔起きた戦争で中央のロトーネが大きな勝利を修めた為に実際は中央の国が他の四つの国も治める形になっているが、領地と呼ぶには大きすぎるので形式的には国という形になっている。
なのでここでギルド長が言う王都とは中央の事だ。
「王都になんて呼ばれても困るだけです、スゥニィさんの言うように普通に他の冒険者と同じ扱いをして下さい」
それを聞いて町長とギルド長は納得していないようだがスゥニィが諦めろと言うと漸く諦めてくれた。
それから南側の事や正門、町に入ってからの事をギルド長と町長にも聞かせる。
ラシェリの行でギルド長が、他のギルドにも既に情報を回しているから冒険者資格の剥奪は間違いないと言っていた。
情報を渡すと、せめて金下級にと言ってくるギルド長を振り切り三人で一階に降りる。
一階に降りると、ギルドの職員にテオとセオを連れて宿に戻りたいんだけど大丈夫かと話をする。
そこで外の話を聞くと魔物も既に群れと言える程の数もいなく、冒険者達も町の東西南北に五名ずつ残して他はそろそろ引き上げるそうだ。
俺達は今回活躍してくれたのでこれ以上の仕事は無いと言ってくれた、テオとセオに試したい事もあるので有り難く宿に戻る事にする。
リズが寄りたい所があると言うのでギルド前で別れ、テオを俺が、セオをレイナがお姫様抱っこする形で宿に向かって歩く。
「テオとセオ治るかな?」
歩きながら呟くと、レイナが大丈夫です、必ず成功させて見せますと力強く頷いた。
宿につくと、ギルドにいた宿の店員に話は通していたので、早々に二階に上がり、俺とテオが泊まっている部屋に戻りベッドに二人を寝かせる、そして俺はベッドから少し離れて、レイナが二つのベッドの間に立つ。
レイナが目を瞑り魔力を高めていく。
『
『
『
『さやか
『【
レイナが呪文を唱えると部屋中の魔素が集まり凝縮されて二人の周りに集まる、そして優しく二人の全身を包む。
テオとセオの傷が、まるで以前の姿を思い出す様に消えていく。
テオの折れて腫れ上がった腕が治り、セオの酷く傷付いた右手が治る。
そしてセオの欠けた耳が少し治りかけた所で不意にレイナが倒れた。
俺は直ぐに駆け寄り抱き起こす、どうやら魔力が完全に無くなり気絶したようだ、セオの耳はまだ少し欠けたままだが、それでも二人の傷はほぼ完治したように見える。
レイナの詠唱で部屋の中の魔素も薄くなっているので、木の素材で作られた両開きの窓を開いて外の空気を取り入れる。
抱き抱えたレイナの顔色は悪く息も荒い、出来ればレイナ達の泊まる部屋に移動したいがテオとセオからも目を離したくないのでどうしたものかと考えていると空間把握にリズの魔力を感知した。
リズは宿に入り、真っ直ぐ二階に上がってくる、そして何やら袋を抱えて部屋に入ってきた。
「どうだった?」
リズに問われて俺は笑顔を浮かべてテオとセオに顔を向ける。
「ほぼ成功したと思う、見た目には治ってると思うよ、後は起きてからだね。セオの耳が少し欠けたままだけどレイナの魔力が持たなかったんだ」
リズは俺が抱き抱えたレイナを見て、袋を降ろすと中から何かを取りだして俺に手渡す。
見るとギルドで支給されたマジックポーションだった、リズも自分の分は使っていたはずなのに、そう思って問いかけると町で貰ったと答える。
「トーマ達と別れた後に町で他の冒険者達に会ってね、それが南側で一緒だった人達で、レイナの魔力が足りなかったらと思って念のために余ってないか聞いてみたら残してた人がいて快く譲ってくれたよ」
その代わり明日の祝勝会は絶対に参加しろだって、そう言いながら早く飲ませて上げてと俺に促すリズ。
飲ませてって言われてもどうやって?俺が疑問に思っているとリズが自分の口に指を当てる。
ポーションは細長い瓶に入っているので口から飲むものだ、うん、それはわかる。
でもどうやって気絶しているレイナが飲めるのかと更に不思議そうな顔をすると、リズが呆れ顔で溜め息をつく。
「もぅ、そこは口移しでしょ?レイナが苦しそうだから早く飲ませて」
はぁ?何を、何を言ってるんだ?
あれは、気絶している人にやるのは窒息の可能性もあるし危険なんだぞ?
レイナが苦しそうだし飲ませる事が出来るなら飲ませてあげたいがわざわざ危険な真似をするのは駄目!絶対!
俺が目を丸くして驚いているとリズがふふふと笑う、ラシェリかよ!嫌な奴を思い出させるな!
「トーマは突っ込みが激しいね」
どうやら声に出していたようだ。
「聞いてたならわかるでしょ?あの飲ませ方は危険なんだよ」
チッチッチッ、そう言いながら人差し指を立てて左右に動かす姿にイラッとする。
でもこのやり取りも懐かしいな。
「トーマの世界では知らないけどこの世界には魔力があるんだよ?魔力でイメージしながらポーションを操って飲ませれば大丈夫、この世界では常識だよ?」
そ、そうなのか?常識なのか?リズに言われてレイナの唇を見る、ぷくっとして柔らかそうだな、レイナの唇に一瞬見蕩れるがリズの言葉を思い出す。
「ねぇ、魔力で操って飲ませる事が出来るなら別に口移しじゃなくてもいいんじゃないの?」
ちっ、舌打ちをするリズ、やっぱりか。
その後はポーションに魔力を通し、顔色の悪いレイナに少しずつ飲ませていく。
それにしてもここまで苦しそうになるのは初めてだな、大量の魔力を一気に使ったからだろう、詠唱は威力効力を大幅に上げてくれるが使い所は気を付けないと、魔物を前にしてこの状態になるのは危険だ。
レイナにマジックポーションを飲ませた事で、後は三人が目覚めるのを待つだけになり、ベッドが足りないのでリズ達が泊まる部屋に三人を連れていく。
「ねぇ、トーマは女の子に興味って無いの?」
レイナとセオを運び、最後にテオをベッドに寝かせている俺にリズがそんな事を言ってきた。
女の子、日本では考えもしなかったがこの世界に来て、正直興味が出ている。
だけど自分が成長する事に精一杯で考える余裕も無いってのが本音かな、テオを寝かせ、ベッドの側に置かれていた椅子に座りながらリズに伝えるとそっか、と答える。
「トーマってラザでもそうだったけど、町を出てからも女の人に囲まれてるでしょ?でもそんな素振りをあまり見せないから少し気になってさ」
「う~ん、興味はあるけどよくわからないんだよね、リズもレイナも俺から見たらとっても可愛いし、スゥニィさんも綺麗だと思うんだけどさ」
セオも可愛いと思うけど妹みたいな感じだよね、テオは弟、俺がそう言うとリズは少し頬を染める。
「ト、トーマよく可愛いとか平気で言えるね?」
「え?だって本当に可愛いよ?」
俺は何を当たり前の事をという感じで返すとリズが慌てる。
「まっ、またそういう事を」
何だかリズのこういう姿は新鮮だな、そう思って見ていると何で笑ってるのと言われた。
「俺、今笑ってた?」
「笑ってたよ、ニヤニヤといやらしく」
え、そ、そうなのか、気を付けよう、そう思ってごめんと頭を下げて謝るとリズがレイナに視線を移して、これは苦労するよと呟く。
「トーマはもうこの世界で生きていくって決めたんでしょ?将来的に結婚したいとか子供が欲しいとか考えないの?」
「結婚って早くない?」
俺の常識では結婚なんてまだまだだという感覚なんだけど、そう言うとリズが説明してくれた。
「この世界では女は十二、男は十四から結婚出来るって教えたでしょ?その年齢になったら結婚を意識し始めるんだよ」
リズに言われて考えてみる、確かにラザの町では二十歳そこそこで大きな子供がいる人も多かったな。
そう言えば戦国時代の日本では男も女も十五歳前後に結婚してる人が多かったな、武将の息子や娘は家の都合もあったし農民は村の都合で子供を産むのが早かったんだよな、この世界も魔物や魔族とずっと争ってるし戦国時代のようなもんかな?
俺がつらつらと理由を考えていると不意に目の前に影が落ちる、ん?上を向くと唇に柔らかい感触が触れる。
え?一瞬何が起こったかわからず戸惑う、少し頬を染めたリズがイタズラをした子供の様に微笑んでいた。
え?なんで?俺が惚けているとリズが口を開く、俺の唇に触れた柔らかい唇が動く。
「トーマ、あのね、ありがとうね」
ありがとう?キスの理由もありがとうの理由もわからずただただ呆けてしまう。
「私ね、本当は、ずっと村を、家族を奪ったラシェリの事が怖かったんだ。ラザに来てもたまに村の事を夢に見る事もあった。だけど、もう一度ラシェリと会いたい、会って皆の仇を取りたいって気持ちもあって、レイナに危ない仕事だからって反対されながらもずっと冒険者を続けてた」
「そして今度は魔物に自分の命を奪われそうになった時にトーマと出会って、それからは冒険者としても強くなって、今日ラシェリを目の前にした時、私は怖がらずに、ちゃんと戦う事が出来た」
逃げられちゃったけどね、言いながらもリズは笑みを崩さず話を続ける。
「トーマと出会ったから私は成長出来たんだ、だから、さっきのは出会ってから今までの感謝。それと、ナイトローソンに襲われた時も言ったけど、戦っている時のトーマはやっぱり格好いいよ」
普段はウジウジして手のかかる弟だけどね、リズはそう言って、ちょっと外の様子を見てくるとドアノブに手をかける、そして一度振り向く。
「日本の話は聞いたけど、この世界は重婚大丈夫だからね」
笑顔で言い残して部屋を出て行った。
重婚、ハーレム、またはハレム、アラビア語のハリームからきており意味は禁じられた場所、日本では一人の男性が複数の女性を侍らす時に使う。
キス、口づけ、接吻、古くは口吸い(口吸う)とも、この場合は唇と唇が触れ合う事、主に男女の友愛を示す時に行われる、初めてのキスはファーストキスといわれている。
ありがとう、感謝の意やお礼を言う時に使われる言葉、元は有り難し、有り難い、と言われ神や仏に感謝をする時に使われていた言葉が人に対しても使われるようになった。
そう言えば有り難うって、有る事が難しい、有り、難し、滅多に無いって意味で、神や仏が助けてくれたと思う程の奇跡的な出来事に感謝をする言葉だったんだよな、この言葉は詠唱に使えないだろうか?
俺が頭の中の知識を引き出し現実逃避をしていると隣から小さな声が聞こえた、見るとテオが目を開けている所だった。
「テオ、えっと、お、おはよう?」
テオはまだ意識がハッキリしないのかキョロキョロと部屋を見回した後で俺に気づく。
「兄、ちゃん?」
テオの言葉に頷く、俺はテオが無事に目を覚ました事に気持ちを切り替え、少し待ってろと言って部屋の机の上に置かれていたコップに水を入れて手渡す。
テオは一口水を飲み、そして一気に飲み干す、もっと飲むか?そう訪ねると首を振り、自分の身体を見る。
「あれ?俺、ギルドが襲われて、冒険者の人が魔法で倒されて、それで、それで」
記憶が朧気なのか思い出しながらつっかえつっかえ話すので、俺が人から聞いた話とギルドについてからの事を話す。
そして子供達は大丈夫だ、テオが守ったんだと伝えるとテオが涙目になる。
「兄ちゃん、俺とっても怖かったんだ、アイツら凄い沢山でさ、チビ達も、セオも死んじゃう、殺されちゃうって」
そう言って泣き出すテオ、俺はテオの頭を右手で抱き寄せ、左手で背中を叩いてやる。
テオはあんな時でも人の心配ばかりしてたんだな、強い奴だな。
そう言って泣き続けるテオの背中をトントンと叩いていると次はレイナが目を覚ました。
「トーマさん?」
レイナは魔力枯渇で気絶したので魔力が回復したのなら大丈夫だろう、俺はテオから手が離せないのでレイナが倒れてからの事を説明する、説明をしている途中で二階の物音に気付いたのか、一度宿の外に出て、また宿に戻って来てからはずっと一階にいたリズの魔力が二階に上がってくる、そしてリズがヘヤノナカニハイッテキタ。
「テ、テオとレイナが起きたんだね」
少し照れくさそうな顔で喋るリズにこちらも、う、うん、と照れながら返す。
俺とリズを不思議そうに交互に見ながら首を傾げるレイナの隣で今度はセオが身動ぎをする、直ぐにリズが側に行き、レイナも体の調子を確かめながら起き上がるとベッドから降りてセオの隣に行く、そして目を覚ましたセオに水を飲ませたり気分はどうか聞いていた。
意識もハッキリとして大丈夫そうなのでリズとレイナがセオにもギルドでの事を話す、セオは比較的に落ち着いて話を聞いて、話を聞き終わると俺達に頭を下げてお礼を言っていた。
そうこうしてる内にテオも泣き止んだのでテオとセオにお腹は空いてないかと聞く。
「お腹、空いた!」
「私も少し」
それを聞いて二人が自分で歩けるか確認しながら一階の食堂に皆で降りる、宿の人に厨房を使うかもしれないと断っていたのでレイナが料理をしようとするが、リズが先程一階に居た時に作っていたと言ったのでテオとセオにはスープ、俺達はパンとスープを食べる。
食事を終えて、テオとセオもまだ万全では無いしレイナも魔力切れから回復したばかりなので今日は休もうと部屋に戻る。
部屋に入り、テオを寝かせてからベッドの側に椅子を持っていって座る。
テオの頭を撫でると気持ち良さそうな顔をする。
「兄ちゃん、ありがとうな」
撫でられてくすぐったそうにしながらテオが口にする。
「え?急にどうしたんだ?」
「俺達を森で助けてくれたのと、一緒に行かないかって誘ってくれたこと、修行で強くしてくれたこと、ボロボロになっちゃったけど服を買ってくれたこと、それと、また助けてくれたこと、兄ちゃんには沢山感謝してるんだ」
やはりまだ疲れがあるのだろう、少し眠そうな顔をしながらテオが話す。
「そうか、でも、一緒に行こうって誘ったのも、服を買ったのも俺がそうしたかったからだし、森で間に合ったのも今日間に合ったのもテオが頑張ったからだ、修行も一生懸命やってるしな」
俺の言葉にテオがはにかむ。
「兄ちゃんの言ったように俺はまだ未熟だった、だからまた修行で強くしてくれよな」
その言葉に頷くと、テオはゆっくりと瞼を閉じて寝息をたてはじめた。
今日はよくありがとうって言われるなぁ、そう思っていると部屋のドアがノックされる、空間把握でレイナだとわかっていたのでどうぞと声をかける。
「テオ、寝ましたか?」
そう声を掛けながらレイナが入ってきたのでレイナを俺のベッドに座らせ、椅子を移動してレイナの前に座り直す。
「眠った所だよ、リズとセオは?」
「セオはまだ疲れてたのか直ぐに寝て、お姉ちゃんも少し話をした後で寝ました」
リズも色々な事があったしな、レイナは寝ないのか聞くとさっき少し寝たからと言って、頭を下げる。
「トーマさん、ありがとうございます」
レイナもか、薄々そうかもと思っていたが理由がわからないのでどうしたのと話を聞く。
「お姉ちゃん、今日ラシェリと戦った後から雰囲気が昔に戻ってたんです、村にいた頃の様に」
さっきリズも自分で言ってたな、今日ラシェリと戦って何か吹っ切れたのかもな、レイナは姉妹だから気付いてたのか。
「村を出てからのお姉ちゃんは明るく振る舞っていたけど、たまに何か考えている時があって、冒険者は危ないって何度言っても絶対に聞いてくれなくて、多分、村の事をずっと考えていたんだと思います。私は甘えるだけの子供で、未熟でわからなかったけど、今ならその気持ちが少しはわかるんです」
ポツポツと話すレイナの言葉をじっと聞く。
「私は、私は村に居たときの事はどうしようも無かった、仕方ないって諦めて、ラザで新しい人生を始める事が出来ました、でもお姉ちゃんはずっと悔しくて自分を責めてたんだと思います」
レイナはあの時十歳だからな、今はしっかりしてるけど村の出来事があったから成長出来たのかも知れない。
「お姉ちゃんが納得はしてても、どこか悔しかった気持ちが、今日ラシェリと戦った事で全部呑み込めたんだと思います。それは、トーマさんと出会って強くなれたからで、だから、ありがとうございます」
俺は頭を下げるレイナに、お互い様だと答える。
「俺もリズとレイナと出会えたから成長出来てると思う、だから気にしないで」
その言葉を聞いてレイナは微笑むと右手を差し出す、握手かなと思い、少し距離があったので椅子から腰を浮かせてレイナの手を握ると、グイッと手を引かれ、レイナが素早くベッドから立ち上がると顔を近づけ唇と唇を軽く触れ合わせた。
え?一瞬何が起こったかわからず戸惑う、少し頬を染めたレイナがはにかむ様に微笑んでいた。
え?なんで?俺が惚けているとレイナが口を開く、俺の唇に触れた柔らかい唇が動く。
「トーマさんへの日頃の感謝と、お姉ちゃんが、トーマさんはヘタレだから自分からこのくらいしないと駄目だって」
「トーマさん、私、トーマさんの事が好きです、だから旅を終えて成長出来たら」
せ、成長出来たら?レイナはそこまで言ってドアの方に歩いて行き、振り返ると真っ赤な顔で微笑む。
「トーマさん、この世界は重婚、大丈夫ですよ」
そう言って部屋を出て行った。
好き、心惹かれる様、って違う!
再び現実逃避をしそうになる頭を振って正気に戻る、好き、好きかぁ、もしかしたらって思う事もあったけど兄に対する様な物だとばかり、でもキスまでするって事はそう言う事だよな。
まだ惚ける頭でベッドに寝転がる、するとベッドからレイナの残り香がして更に気持ちを浮わつかせる。
なんだかなぁ、魔法とか魔物とか、この世界に来て現実味が無い事ばかりだったけど今日の出来事が一番現実味が無いな。
ベッドに寝転がると今日の疲労に体が気付いたのか急に眠くなる、俺はふわふわした気持ちでゆっくりと眠りに落ちていった。
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