第45話 魔族の協力者

「レイさん!俺は直ぐに町に戻ります、北側には行けません」


魔族が去ったのを確認してレイに詰め寄る。


「わかってる、だが少し待て」


レイは俺にそう言うと冒険者に指示を出していたシェリーを呼んで話をする、その間に俺はリズに町に戻る事を伝える。


「リズ、俺は直ぐに町に戻る、魔力の少ないリズに頼むのは悪いけど北側は任せていいか?」


「わかってる、さっきマジックポーションを飲んだから少しは回復してるし大丈夫だよ。それよりも私も町に行くから、テオとセオが心配だからね」


リズも町に目を向けながら頷く。


「トーマ、お前達は町に戻るんだな、悪いが北側もこのままだとマズイからな、お前達だけで行ってくれるか?」


「貴方達が町に行くなら北側に多めに冒険者を回さないといけないの、ギルド長と冒険者五人を残して門を守って、私達は残りの冒険者を連れていくわ。トーマとリズはレイナも呼んで三人で町をお願い出来る?」


「北側の状況を確認して、それから裏門の状況も見てからしか冒険者は町にまわせないはずだ、それまで町を頼めるか?」


レイの言葉に頷く。


「よし、なら町を頼んだ。町の人は他所に逃げた人以外はギルドに避難しているはずだ、ギルドを頼む。ギルド長には俺から話をしておく」


レイと話を終え、リズにレイナの事を頼む。


「リズ、俺は真っ直ぐギルドに向かうからリズはレイナを呼んで来てくれ」


「私も一緒に」


「リズの縮地は移動距離が短距離だ、それを繰り返したら回復した魔力が直ぐに無くなるよ、俺は魔力も多いし回復も早い、だから任せてほしい」


リズは何か言いそうになるが俺がもう一度頼むと頭を下げるとわかったと頷いた。


「何があるかわからないけど私とレイナが来るまでテオとセオをお願いね」


俺はリズに頷き一度自分を鑑定する。



トーマ:14


人間:冒険者:異邦人


魔力強度:82


スキル:[魔素操作] [真眼] [魔力回復:大] [熱耐性] [痛覚耐性] [直感] [身体操作] [格闘術] [魔素纏依] [炎魔法]




魔物を沢山倒したしキュクロプスも倒したので大幅に魔力強度が上がっている、これならこの体でも使えるはずだ。

直感に従い呪文を唱える。


『疾風迅雷』


呪文を唱え、魔力を纏う、魔力が雷を帯びた風になり身体を覆う、レイナの魔法を見て風と雷に対するイメージが魔力に表れる程に深まったようだ。

そして足と魔眼に大幅に魔力が集まる。


「レイさんシェリーさん、町は任せて下さい。リズ、レイナを頼む」


そう言い残して町に駆ける、俺の魔法に驚く冒険者達を尻目に門に辿り着く。


「ヴァレッグさん!俺を町に入れて下さい、詳しい話はレイさんから」


急かすように言う俺にギルド長も頷き、周りにいた冒険者に指示をする。


「魔族が来たのは聞いた、町からも煙が上がっている、コイツらを町に送ろうかと迷っていたんだがお前が行ってくれるんだな、ギルドを、町を頼んだ」


俺はギルド長に頷くと、冒険者達の開けてくれた門を抜けて町に入る。





人気の無い道を通り抜け、奥に奥に、ギルドに向けて進んで行くと道の側に冒険者らしき人が何人か倒れている、空間把握に反応が無いので死んでいるようだ。

町の警備をしていた銀下級以下の冒険者だろう、悪いけど今はそのままにして更に駆ける。


ギルドに近づくと空間把握に沢山の反応が出る、そして直ぐにギルド前に到着する。


ギルド前の道に三十人程の薄汚れた鎧を着けた集団、そして向かい合うように建物の前に大勢の町の人やギルドの職員、その前に冒険者の死体、そしてボロボロのテオとセオが立っていた。


俺はボロボロのテオとセオを見て頭が一瞬真っ白になる。


立ち尽くす俺に、集団から離れてテオとセオの前に立っていた男が声をかけてくる。


「なんだお前?今良いところなんだ、邪魔するなよ」


良いところ?あ、あぁ、テオとセオがボロボロだ、助けないと。


俺は考えが回らない頭で、テオとセオを助けるという感情になんとか動かされて男に飛び掛かる。


「シッ」


疾風迅雷を纏った体を遠慮なく使い男の胴を蹴る。


「ぐっ」


男は何か口から声を出すがそのまま上下に別れて集団に飛んでいった。

集団に一瞥もせずにテオとセオに振り向く。


「テオ!セオ!大丈夫か!」


俺の問い掛けにテオが虚ろな目を返す。


「に、にい…ちゃん?」


服はボロボロで体中傷だらけ、酷く殴られたのだろう目や唇、頬が血だらけで腫れていた。

それを見て俺の体が…。


「トーマ…さん」


セオも同じ様にボロボロで、そして左の耳が半分千切れていた。

二人を見て俺の体が小刻みに震え出す


二人は腫れ上がった顔で俺を見る。


「ま…守った…チビ達守った…兄ちゃん…来てくれた…もう大…丈夫だ…よな」


そう呟いて二人は前に倒れ込んで来る。


俺は魔法を解いて二人を抱き止める、二人とも小さい体だ、テオの左腕が不自然に腫れている、丁度大人が右足を思い切り振るにはいい高さだ、俺がさっき男を蹴ったように小さいテオを思い切り蹴ったんだろう。


セオの右手の指が、皮は剥がれ、曲がってはいけない方に曲がっている、セオの手から血が滴り、地面が赤くなっていた。

治るかな?セオは料理が好きなんだ、絶対に治さないとな。

俺は二人をなるべく優しく、揺れないように気を付けながら肩に担いで職員の方に向かう。


「すいません、この二人を見ててくれますか?」


「私に任せて下さい、二人と、そして周りの冒険者達は私達を守ってくれたんです」


声をかけてきたのは獣人のギルド職員レミーだ、俺は二人をレミーに慎重に手渡し話を聞く。


「どういう状況なんですか?」


「魔物が来たって情報を聞いて、私達は皆をギルドに避難させていたんです。そして南側の魔物は全滅して、正門も大丈夫だって情報に皆で喜んでいたら突然何軒かの家から火が上がって、そこからあの集団が出てきてギルドに攻めてきて」


「ギルドを守っていた冒険者達も抵抗したんですが職員の一人が後ろから冒険者達に魔法を撃ってそれで…」


職員?ソイツが魔族の協力者か?

怒りに体が支配されそうになるが話を聞いて不思議と体の震えが収まってきた。


「冒険者がやられてテオ君とセオちゃんが飛び出したんです、素早い動きで三人程倒したんですが捕まってしまって。それで、テオ君が、兄ちゃんが来たらお前らなんかって叫んだら、それを聞いた魔法を撃った職員が、二人が無抵抗で殴られて立っていられる間は私達には手を出さないって言って」


レミーが目に涙を浮かべながら話す。

俺はレミーの話を聞いて状況を把握する、状況は理解できたが何故そんな事をするのか、考えてもわからない。


レミーの話を聞いてる間に震えは止まり冷静に考えられてるはずだ、なんだか頭もいつもより冴えていると思うんだけどな。


考えてもわからないなら考えないでも別にいいか、どうせアイツラ殺すんだし。


「あの職員、最近他所からの派遣って事で来たんです」「私達が変わりに殴られるって言ってもアイツが!アイツがテオ君とセオちゃんじゃないと駄目だって」「子供に変わるならいいって、でもテオ君が子供達は絶対に俺が守るって」


他の職員も涙声で話す、町の人は恐怖と、そして気絶しているテオとセオを心配するように見ている。

レミーに抱き抱えられるテオとセオの周りで、テオが守ると言っていた子供だろう、小さい子が八人、堪えるように震えながら涙を流している。


職員がギルドから布を沢山持ってきた、それを地面に敷いてテオとセオを横にして、桶に入れた水で顔や体を拭いてくれている。

腫れ上がった顔やセオの千切れた耳が痛々しい。


魔眼で見るテオとセオの魔力は弱々しいが死ぬ程じゃないだろう、俺はテオを拭いてくれている職員に支給されたポーションを渡す。


「これ、二人に半分ずつ飲ませてもらえますか?」


「それはトーマさんの」


セオを拭いていたレミーが声を上げる。


「俺は大丈夫、あいつら程度、魔物に比べたら」


『氷面鏡』


レミーと話していると空間把握に魔力を感知したので呪文を唱える。


後ろから俺に向かっていた炎の塊を氷の鏡が跳ね返す、魔族ほど強い魔法じゃないな。


俺は集団に向き直る。


「お前外に出ていた冒険者か?」


魔法を撃った男が喋っている、コイツが集団を纏めているのか?魔力強度は28、銀上級になれるかって所だな。他にも一人一人鑑定をしていく、魔力強度は20前後、スキルも無いし特に強い奴はいないな、そう思った時に、集団の後ろにいた一人の男に目が止まる、ギルドを訪れた時に忙しそうにしていて、レミーを紹介してくれた職員だ、だけど何か雰囲気がおかしいな。

薄笑いをしている職員に鑑定をかける。



ラシェリ:34


人間:冒険者:殺人者


魔力強度:166


スキル:[剣術:大] [体術:大] [身体強化:大] [魔力操作] [闇魔法:大] [氷魔法] [精神汚染:大]


状態:変装



ラシェリ…ラシェリか、確かリズとレイナの村を襲った冒険者がそんな名前だったはずだ、魔族に協力したのはコイツか。


そして、無抵抗でテオとセオを甚振るように仕向けたのも。


コイツ変装なんて出来るのか、薄笑いが癪に障るな、よしコイツは確実に殺そう。


「貴方は確か銀上級のトーマさん、でしたよね。魔族殺しの」


ラシェリが薄笑いを浮かべながら何か喋っているな、まずは集団の後ろで笑う、その癪に障る顔を変えよう。

そう思うと再び呪文を唱えて集団に突っ込む。


『疾風迅雷』


「おっ、おい待てっ」「ぎゃっ」「ぐぇっ」


集団の男達は口々に何か叫んでいる、俺は興味も無いし声も耳障りなのでなるべく早く殺せるように魔力を高めて首、喉、胸と一撃で殺せる場所を選んで手刀を振るう。


首を撥ね、喉と胸を貫いてどんどん殺して行く。

返り血が目に入るが清浄をかけながら動きを止めずに手刀を振るう。


と、空間把握に魔力を感知する、俺が飛び退くと同時に氷の礫が俺がいた場所を襲う、側にいる男達に礫があたり痛そうに叫んでいる。


「まぁ落ち着いて下さい、少し話をしませんか?」


「落ち着け?俺は充分落ち着いている。それより目障りなお前らを早く殺してテオとセオを治療したいだけだ」


俺の言葉にラシェリは笑い出す。


「ふふっ、人にはあまりにも怒りを覚えると、我を忘れる人と、逆に冷静になる人がいるんですよ、貴方は冷静になるタイプですね」


楽しそうに話すラシェリの薄笑いを見て一瞬我を忘れそうになる、落ち着け、冷静にならないと。


「俺は冷静だ」


「貴方の後ろの住民を見て下さい、あまりの惨劇に引いてますよ?そんな風に淡々と人を殺したら当然です」


「お前らは犯罪者だ、犯罪者を殺して何が悪い?」


「そうですね、貴方は正しい。でも私達も正しいんですよ、結局世の中は力が全てですからね。ただ、殺し合う前に話をしたいと思っただけです」


コイツは何を言っているんだ?


「お前の言いたい事がわからないな、何が言いたい?」


「貴方は獣人の子供が甚振られて怒っているんでしょう?だから甚振った私達を殺す、私達は貴方達を甚振って殺したい、だから甚振る、ほら?どちらも正しいでしょう?」


「あぁ、そうだな。だから何が言いたいんだ?」


何が言いたいのかわからない、適当に話を合わせ早く答えを言えと急かす。

俺はお前らを今すぐ殺したいんだよ。


「う〜ん、私と楽しく話をしているのに貴方はなかなか冷静ですね、壊れた貴方が見たいのですが、獣人の子供はやっぱり殺しておけば良かったですね」


「トーマ!」「トーマさん!」


ラシェリの、テオとセオを殺しておけば良かったという言葉に我を忘れそうになった時にリズとレイナの声が響いた。


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