第43話 トーマの詠唱リズの武器
俺達が正門に来て三十分程が過ぎた、冒険者は負傷しては後ろの組と交代して、なんとか魔物の群れを押し止めている。
だがゴブリンやコボルトが減ってきて、オークの数が増えてきた。
冒険者にも疲れが見え始め、取り零しも増えてきた頃に空間把握に大きい魔力の反応がかかる。
「リズ、大物が来たよ。右はオーガだと思うから任せても大丈夫?」
「わかった、私はオーガの相手をしたらいいのね、トーマは…今度は大丈夫?」
リズも俺の言葉にすぐに反応し、遠目で奥を確認したようだ。
魔力の大きさから右側はオーガだとわかる、そして俺達の前から来るのはラザの森で俺が殺されかけた因縁の魔物、キュクロプスだ。
「新しい力もあるし今度は大丈夫、オーガは5匹、任せたよ」
リズにそう言うと、俺は目を瞑り、集中して魔力を練り上げ詠唱を唱える。
『
『
『
『
『【
詠唱で辺りの魔素を集めて圧縮し、俺の得意属性である炎魔法を使って赤白く輝く焔に変えると、黒曜石の籠手と具足に纏う。
使ってみてわかったが、黒曜石は火山岩で、しかもこの世界の黒曜石は元から魔力を帯びているので俺のこの魔法ともかなり相性がいいようだ。
焔を籠手と具足に纏った俺は疾風を使い、前方で魔物を食い止めている冒険者の横から魔物の群れに飛び込む。
「おっ、おい!」
「奥から大物が来るので倒してきます、ここは任せます。炎に気を付けて下さい」
声を掛けながら群れに飛び込んだ途端に四方から魔物が迫ってくるが魔素操作で焔の形を鋭い刃に変える、腕を振り、足を振るうだけで魔物は切り飛ばされ、燃え上がって道が出来る。
魔物に燃え移った魔力の籠った炎は簡単には消えず、他の魔物にも燃え広がり更に被害を広げていく、これで冒険者も少しは余裕が出来るだろう。
焔を纏っている間、魔力は減っていくが俺はまだまだ魔力に余裕があるので大丈夫だ。
異邦人の体は本当にずるいな、自分の魔力量に苦笑いをしながら魔物を切り飛ばし、燃やし続けて遂にキュクロプスの元まで辿り着く。
キュクロプス:魔物
魔力強度:87
スキル:[豪腕] [再生] [身体強化] [魔力探知]
状態:洗脳
森で会った奴より少し魔力強度が高いがあの時程の驚異は感じない、俺も成長しているんだ。
まず動きやすいように俺を囲んでいる邪魔なオークを焼き払い、燃える死体で壁を作り場所を確保する。
キュクロプスもそれを見て、一声大きく吠えると手に持った太い棍棒を振り回し、味方の筈の魔物を吹き飛ばして俺と同じ様に場所を作る。
洗脳されている筈なのに他の魔物と違って自分の意思で動いているように見える、俺に驚異を感じて動いたのだろうか。
あの時は死を覚悟した相手だが逆の立場になるくらいに成長したのかもしれない、大丈夫だ、行ける。
「フッ」
鋭く息を吐きながら一気に駆け出す。
豪腕から繰り出される太い棍棒の鋭い振り下ろしを右に飛んで避け、キュクロプスの左膝に焔を纏った拳を叩き込む。
そのまま再生出来ない様に傷口を燃やして股の間から背中側に回り込み、右足の膝裏にも手刀を突き入れ傷口を燃やす。
「グゥオォォ」
両足を燃やされ膝をついたキュクロプスは体を捻り、棍棒と左手を滅茶苦茶に振り回すが落ち着いて避け、懐に飛び込む。
「お前の仲間に殺されかけて得た力だ」『豪腕』
ラザの森でキュクロプスと戦う事で覚えた呪文を唱えて心臓を貫く、そして手を体から抜いて胸を蹴飛ばす、キュクロプスはズシンと地面が揺れる程の大きな音をたてながら後ろに倒れた。
「グゥ…ォ…」
心臓を貫かれたのにまだ息があるようだ、魔力強度が高いと生命力も強いようだな。
万が一再生が始まると厄介なので、籠手に纏った焔を魔力操作で細長く伸ばし、剣のような形にしてからキュクロプスの太い首を撥ねる。
完全に魔力が消えたのを確認すると、周りで燃える死体に突っ込んでは更に燃えている魔物を飛び越え、まだ燃えていない魔物を焼き払いながらリズの元へ駆ける。
魔物の群れを横切り、群れの中に死体で炎の壁を作りながらリズの元に辿り着くと、リズを囲んでいた三体のオーガに近付き背中から一気に首を撥ね飛ばす。
『縮地』
リズも縮地を繰り返して傷を与えているがオーガの皮膚が硬く一撃とはいかないようだ。
「ガァッ」
俺に気付いたもう一匹のオーガが振り返って拳を振るうが、前に踏み込みながら沈む様に避け、オーガの左足を払うように蹴飛ばして体勢を崩してから首を撥ね飛ばす。
もう一匹はリズに任せて大丈夫だろう、俺は周りの魔物の群れを焼き払っていく。
「トーマ、終わったよ」
「よし、他に大きな反応は無いから戻ろうか」
オーガを倒して声を掛けてきたリズに返事を返して頷くと、魔物を焼き払いながら二人で正門の方に向かう。
「トーマのその魔法凄いね、炎が消えずに魔物に燃え広がってるよ」
「体から離れても炎に込めた魔力が無くなるまで燃え続けるんだ、再生持ちの魔物や魔族の様になかなか死なない相手に継続してダメージを与えられたらと思ってイメージしたけど洗脳されてる魔物には丁度いいね。リズも炎に気を付けて」
洗脳された魔物は燃えた死体に構わず前進するので炎がどんどん燃え広がっている。
「それに細長く形を変えてオーガの首を一撃で撥ね飛ばしてたね、オーガと戦って私の剣はボロボロだよ」
私も何か詠唱を覚えたいなと言うリズと話をしながら腕と足を振るい魔物を切り捨て、群れを抜けると冒険者達に声を掛ける。
「大物を倒してきました、残っているのはオークくらいです。燃えている魔物の炎には気を付けて下さい」
俺が大声で呼び掛けると冒険者から一斉に声が上がる。
「おおっ!」「後は任せろ」「またお前らか」「大物ってオーガでも出たのか?燃えてる魔物はお前のせいか」
疲れの見えていた冒険者達も大物を倒したと聞いて気合いを入れ直したようだ、声を掛け合いながら魔物を倒していく。
「お疲れ、お前らのおかげで大分助かった。魔物の数も半数以下まで減っているから正門はもう大丈夫だろう」
レイとシェリーが魔物に弓を打ちながら声をかけてくる。
「私達が来てからは死人も出ていないわ、二人の魔法も見たけどあなた達の魔法は私達のとは別物ね。スゥニィさん直伝なの?」
俺はシェリーに聞かれて曖昧な笑みを返す、異邦人で住んでた世界の言葉とは言えないからな。
「え、えぇ、スゥニィさんから呪文を教えてもらったので」
「へぇ、森人は呪文を唱えて魔法を使うから威力が高いって聞いた事があるけど本当なのね、私も呪文を習おうかしら。あら?」
シェリーは魔物から少し目を離して俺達を見る、そして俺の隣にいたリズの剣を見て、刃が欠けているのに気付くとレイに声を掛ける。
「レイ、リズちゃんの剣がボロボロよ、リズちゃんもかなり強くなってるしあの剣を譲ったら?貴方はあまり使わないでしょ」
「あぁ?あの剣は簡単には譲らんぞ、大事なもんだからな。せめて金級に上がってもらわんとな」
弓を打ちながら返事をするレイにシェリーが溜め息を吐く。
「はぁ、少しは融通を利かせなさいよ、リズちゃんはオーガ5匹と一人で渡り合ったのよ、充分じゃない」
「なに?トーマと二人でじゃないのか?」
「トーマ君はキュクロプスと戦ってたの、その間リズちゃんはオーガと戦ってたのよ。トーマ君もキュクロプスを倒した後に加勢してたけど3匹はリズちゃんが倒したんだから」
「キュクロプス?あれは誤報じゃなかったのか?それよりなんでそこまで詳しいんだ?」
「ふふん、私はリズちゃんからコツを聞いて遠目のスキルを覚えたからね、レイにキュクロプスの事を伝えたらすぐに突っ込むと思ったから黙ってたの、トーマ君は不思議な魔法を使ってたから様子を見ようと思って。トーマ君が危なくなったらレイに言おうと思ったけど一人で倒しちゃったんだから」
レイ:32
人間:冒険者:
魔力強度:67
スキル:[弓] [狩り] [剣術] [身体強化] [体術]
シェリー:29
人間:冒険者
魔力強度:65
スキル:[弓] [剣術] [身体強化] [風魔法] [遠目]
確かにシェリーに遠目のスキルが増えてるな、二人とも魔力強度がかなり上がってるし今日に備えて準備をしていたようだ、ロビンズ達とは違うな。
俺がステータスを見ているとレイが目を丸くして声を掛けてくる。
「トーマ、キュクロプスが出たって本当か?それより一人で倒したのか?」
「は、はい」
かなり驚いている、弓を落として手が止まっているけどいいのだろうか。
あ、リズがレイの弓を拾って冒険者の加勢を始めた。
「ね?リズちゃんも剣さえもっと良ければオーガ5匹倒してたわよ」
シェリーも風魔法を使っているのか放った矢を自由に操り魔物を倒し、囲まれそうになっている冒険者を助けながら話す。
「そ、そうか、トーマもリズもそれほどか」
レイはシェリーの話を聞くと、腕を組んで少し何かを考えていたが、顔を上げてシェリーに頷くと矢筒の隣に背負っていた、布に巻かれた長い棒の様な物を外してリズに手渡す。
「リズ、これはルーヴェンさんが使っていた剣だ。俺が形見として持っていたが俺は弓の方が得意だからな、お前が使ってくれ」
「え、ルーヴェンさんってあの時村に来ていた…。で、でも形見ってそんな大事な物を、ルーヴェンさんってレイさんとシェリーさんの恩人だったんじゃ?」
「ルーヴェンさんが大事にしていた剣だから出来れば使ってやりたいんだがな、俺とシェリーは剣術のスキルはあるが弓で充分なんだ、あの村出身のリズが強くなって、俺とここで会ったのも何かの縁かもしれん」
「そうよ、この剣はルーヴェンさんが依頼で北東の国、ヒズールを訪れた時に一目で気に入って、ヒズールの職人に一ヶ月拝み倒して作ってもらった物よ、使わなきゃ勿体無いわ」
リズが布を外すと、黒い拵えの柄と鞘が出てきた。
って、刀だろ!思わず叫びそうになり慌てて口を塞ぐ。
何故名称を知ってるんだって聞かれても困るしな。
リズが鞘から刀を抜くと、反りが浅く、美しい波打つ模様を持った刀身が表れる。
少し赤く光っているな、もしかして魔力を帯びているのかと思い真眼で鑑定してみる。
大太刀:
素材:
:異邦人が持ち込んだ刀と製法を元に造られた武器、刺殺を目的に作られているが浅い反りを持つ事により切る事にも適している、重ねも厚く耐久性も高い。
素材は玉鋼とミスリルを混ぜた特殊な素材で魔力との親和性が非常に高い。
やはり魔力を帯びていて鑑定する事が出来た、どうやら異邦人が持ち込んだ刀と作り方を元にこの世界で造られたようだ。
なんか色々と俺の知っている刀の良いとこ取りをした武器だな、流石は異世界だ。
「その剣はヒズールに伝わる製法で少数の職人しか作る事が出来なくてな、切っ先が両刃で突きに特化しているが反りがあるから切れ味も凄いぞ、切ってよし、突いてよしの武器だ」
「ルーヴェンさんが素材を揃えるのにその時の手持ち全部使っても足りなくてね、私達も出してそれでも足りなくて暫くヒズールで依頼を受けたのよ、懐かしいわね」
二人がルーヴェンとの思い出を懐かしむ様に話す、確か二人の面倒を見ていた人だよな。
…ヒズールってもしかして
異邦人が作った国があるってリズが言ってたがヒズールの事かもしれない、後でリズに聞いてみよう。
俺達が話をしている間も冒険者が魔物を倒していて、大分魔物も減っていた。
「レイさん、シェリーさんありがとうございます。私はルーヴェンさんとはちゃんと話をした事は無かったけど村の為に戦ってくれたのは覚えています。大事に使わせてもらいますね」
リズが頭を下げるとレイとシェリーは微笑みながら頷き、残りの魔物を片付けるぞと真面目な顔で弓を構える。
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