第42話 正門の攻防
体に清浄をかけ、既に四匹のオーガを倒していたリズと共に冒険者の所に戻る。
「レイさん終わりました、生き残りはいないはずです」
空間把握では近くに反応が無いので魔物は全滅したはずだ。
「トーマさん、お姉ちゃんお疲れ様」
そう言って駆け寄ってきたレイナの体調は大分回復したようだ。
これで魔力の回復も早ければいいんだけどな、今のレイナの魔力量だとマジックポーションで回復を早めても二割回復ってとこか。
「レイナの魔法が凄かったからね、あそこまで威力かあるとは思わなかったよ」
「そうそう、オーガも既にボロボロでただ首を飛ばすだけだった」
リズがよしよしとレイナの頭を撫でる、嬉しそうにえへへと笑う女の子があんな大規模な魔法を使ったなんてやっぱり信じられないな。
レイナ:12
人間:冒険者
魔力強度:79
スキル:[治癒魔法] [雷魔法] [風魔法] [身体強化] [詠唱] [複合魔法]
魔力強度が30近くも上がってる、それに複合魔法という新スキルも覚えていた。
風と雷の二つを使ったからだろう。
トーマ:14
人間:冒険者:異邦人
魔力強度:59
スキル:[魔素操作] [真眼] [魔力回復:大] [熱耐性] [痛覚耐性] [直感] [身体操作] [格闘術] [魔素纏依] [炎魔法]
リズ:14
人間:冒険者
魔力強度:55
スキル :[採取] [身体強化:大] [部位強化] [弓矢]
俺は少し魔力強度が上がって、リズは縮地を使うときに身体強化の魔力を足に集めるので部位強化になってるな、遠目も部位強化に統合されたようだ。
それにしてもレイナには大きく水を開けられてしまった、ちょっと悔しいな。
俺がステータスを見ていると突然冒険者が雄叫びを上げる。
「うおぉぉ!」「お前らマジか!」「嬢ちゃんすげぇな!」「千匹の魔物の群れを十分で」「行ける、行けるぞ!」「あんな魔法は初めて見たぞ」
俺達の周りを囲み次々に声を掛けてくる、突然の歓声に俺達が戸惑っていると冒険者の囲みを割ってレイとシェリーが入ってきた。
「レイナの魔法は凄いな、スゥニィさんから聞いてた以上で暫く呆けて動けなかったぞ」
「十五年近く冒険者をしてるけどあんな魔法は初めて見たわよ、トーマとリズも亜種を含んだオーガを簡単に始末してくれちゃって」
レイとシェリーがレイナの頭を撫で、俺達に笑いかける。
「オーガもレイナの魔法で弱ってましたからね」
それでもオーガの硬く分厚い皮膚を簡単に貫くのは凄いさ、レイがそう言って俺の肩を叩く。
そして周りで騒いでいる冒険者達に声をかける。
「お前ら、俺達のここでの仕事は兎の前足に取られちまった。次は正門に行くぞ、レイナのあの魔法は打ち止めだからな、今度は俺達の番だ」
レイの声に冒険者達は任せろ、やってやる、など口々に叫ぶ。
興奮しているのか震えている人もいる。
空間把握で皆の魔力が昂っているのがわかるほどだ、なるほど、士気を上げるとはこういう事か。
そして俺達は意気揚々と正門に向かって歩き出す、レイとシェリー、そして俺達が先頭だ。
後ろからはまだ冒険者達の称賛が聞こえてきて少し恥ずかしいな。
「レイナ、お前のおかげで俺達は無傷で正門に行ける、よくやった」
後は任せて治癒を頼むとレイに言われて笑顔で頷くレイナ、そしてレイは俺達に正門での行動を伝える。
「いいかお前ら、俺達は正門に着くとそこで踏ん張ってる冒険者達に南側の魔物を倒して加勢に来た事を大声で伝えろ。そしてゴブリンやオークなどの雑魚を蹴散らすぞ」
レイの指示に再び大きな声が上がる、そしてレイは俺とリズの二人に指示をだす。
「トーマ、リズ、お前らはこの中で一番の戦力だ、他の冒険者達が苦戦しそうな強い魔物を早めに倒してくれ。ゴブリンやオークには遅れを取らないがオーガ以上だと厳しい奴もいるからな、数が違いすぎるので一人減る度に厳しくなる」
「私達は危なそうな冒険者を弓で援護して数を減らさないように耐えるからその間にお願いね」
レイとシェリーの言葉に頷く、南側はレイナの独壇場だったからな、これからが大攻勢の本番だ。
俺が両手で顔を叩いて気合いを入れ直しているとリズが小声で声を掛けてきた。
「それにしてもレイナの魔法は凄かったね、やっぱり詠唱を日本語で唱えたのが良かったのかな?」
あれは俺も想像以上だったな、だけど確かに特別な言葉だしリズにもそう説明して信じてもらったほうがこれからの呪文も効果が上がるはずだ。
「レイナが詠唱で使った言葉は昔の日本で使われていた言葉なんだ」
今は言葉が変わり、娯楽も増えたが昔は貴族に
「昔の人は娯楽が少なくてさ、言葉を使って歌で好きな人に想いを伝えたり、世の中を嘆いたり、雷を神の仕業、神鳴りなんて読んで自然の恐ろしさを言葉で形にしたりと色々と自分の気持ちを言葉で表現したんだ」
「他の人もその言葉を聞いて、その人の気持ちを想像したりして楽しんだんだ。スゥニィさんが言葉にイメージと魔力を乗せるのが呪文だって言ってたでしょ?だから同じ、人のイメージを乗せる為に作られた言葉だから相性がいいのかもね」
リズはそっか、と頷くと私も詠唱を使えるようになるかなとレイナと色々話をしていた。
正門の方が見える所まで来るとかなり魔物側に押し込まれている様子が見えた。
冒険者達は二手に別れて、五十名程が門から離れた場所で炎を打ち込んだり土で壁を作ったりしてなんとか凌いでいるが取り零しが多く、抜けてきた魔物を門の近くで十名程が片付けている所だ。
しかも抜けてくる魔物が増えている様に感じる、レイが行くぞと冒険者に声を掛けると俺達は大声を上げて走り出す。
「おらぁっ!」「南側は片付いたぞ!」「てめぇら加勢に来たぞぉ!」
冒険者達は取り零した魔物を片付けながら乱入する者や魔法を使い、魔物に囲まれている冒険者を援護する者と様々だ。
「トーマ、リズ、魔物はまだ雑魚しか出てないようだ、後ろに大物がいると思うから出てきたら任せるぞ」
「レイナちゃん、一旦ギルド長に話を通しに門に行くわよ」
レイが弓で冒険者を援護し、シェリーはレイナを回復役に回す事と南側の報告をしに行くようだ。
俺達はレイに頷き冒険者と魔物の乱戦に突っ込む、空間把握にも大きめの反応は前の方には無い、流石に二千匹の魔物を全て把握するのは無理なので前の方から片付けていく。
「リズ、俺は左側の囲まれた冒険者の方に突っ込む!右側の危なそうな冒険者を任せた」
魔物の群れに飲まれて囲まれている冒険者を助けに向かう、いくら雑魚とはいえ戦いながら囲みを突破するのは難しく、パーティーなのか三名で凌いでいるが一人崩れたら全滅も有り得る状況だ。
『疾風』
魔法を使い、動きを早めるとゴブリンやコボルト、オークなどを豪腕、豪脚で蹴散らして進む。
急所を狙う余裕などなく本当に手当たり次第に腕や足を振るいながら進むだけだ。
そして囲まれた冒険者の元に辿り着く、装備はかなりボロボロで所々傷もある。
「今、南側から加勢が来ています。一度門に戻って下さい、治癒魔法を使える冒険者もいます」
ゴブリンやコボルトは軽いので殴り飛ばし、蹴飛ばして他の魔物の邪魔をしながら冒険者に声を掛ける。
「あ、有り難いが既にお前が来た道も埋もれちまった」「コイツら数が多すぎる」「しかも痛みを感じず全然怯まないんだ」
コイツら全て洗脳されてるからな、纏まっているのはこちらも戦いやすいが確かに全然怯まないんだよな。
「俺が前を全て引き受けます、後ろを三人で切り開いて下さい」
俺の言葉に冒険者が戸惑う、だが俺が早くと叫ぶとわかったと返事をして、俺と背中合わせになると魔物を切り捨て進み始める。
俺は冒険者の背中を守るようにしながら襲ってくる魔物を蹴散らして戻る。
既に百匹以上は倒しただろうか、数が多すぎて空間把握も全く役に立たない。
「よっしゃ、抜けたぞ」「おい、人数が増えてるぞ、本当に加勢に来たのか?南側は大丈夫なのか?」
「詳しい話は門で傷の治療をしながら聞いて下さい」
俺の言葉に三人は治療をしたらすぐ戻ると言って駆け出す。
何とか誰も死なずに魔物の群れを抜ける事が出来た、だが確かに厳しいな。
ゴブリン達は弱いが数が多すぎて冒険者の体力が持たないだろう、活性化を使って一気に数を減らすか、だけどまだ何があるかわからない。
少しでも時間を稼げれば俺もレイナの様に…。
俺が魔物を蹴散らしながら悩んでいると後ろから声がかかる。
「おい!魔族殺し、少し目立ち過ぎだぞ。」「俺達に任せて少し休んでろ」
振り向くと南側で一緒だった冒険者が十名程来ていた。
「南側での小さい嬢ちゃんは仕方ないがここでもお前ら二人が一番目立ってる、兎の前足は働きすぎだぞ」
「おらぁ!おれたちも銀上級の冒険者だ、このままじゃ飯も食えねぇ」
冒険者達は軽口を叩きながら俺に変わるように前に出て魔物を倒してくれる、下がって休めと言われ、戸惑いながら下がるとリズが近寄ってきた。
「私も少し休めって言われちゃった、冒険者は目立ちたがりだから悔しかったのかな」
リズの言葉に苦笑いをすると、冒険者を見る。
ゴブリンが二匹抜けて来た。
「休むのはいいが取り零しは頼むぞ〜」
冒険者の軽い口調にリズと顔を見合わせて笑うとゴブリンを一息に片付ける。
少し肩に力が入りすぎてたのかもな、落ち着いて見ると冒険者も一息で三匹の魔物を切り捨てたり、連係して魔物を通さない様にしている。
俺がやらなきゃって思ってたな、力を過信して油断しても力を頼りに無理をしても駄目なんだ、連係するにはバランスを取らないとな。
「リズ、デカイのが感知に引っ掛かったら伝えるからそれまではサポートしよう」
俺とリズは冒険者の取り零しと、危ない場面では助けに行ける様に気を付けながら少し休息を取る。
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