第39話 親バカな異邦人

「レイさん、シェリーさんここ二日見ないから町から逃げたと思ってましたよ。こんな子供を連れてきてどうしたんですか?」


近付いてきた冒険者は二人とも金髪で、ヘラヘラしながらレイに話しかけて来た。


金髪なのは地毛だろうが、喋り方と相まってなんだかチャラそうだな。

必要無いとは思うが念のために鑑定しよう。




アーバン:21


人間:冒険者


魔力強度:26


スキル:[剣術]




デリック:23


人間:冒険者


魔力強度:28


スキル:[剣術]




うん、大した事無いな、これで銀上級なのか。


ロビンズも同じ金下級のレイやシェリーと比べると魔力強度もかなり低かったので同じ階級でも差があるんだな。


俺が二人を鑑定しているとレイが二人に事情を話したらしく、今度は俺に絡んできた。


「おいお前、魔族と戦ったってのは本当か?箔をつけようと思ってホラ吹くんじゃねぇぞ」


アーバンが大きな声で聞いてきたので周りの冒険者も魔族という言葉に反応してギルドが静かになってしまった、目立ちたく無いんだけどなぁ。


「ホラじゃありません、二日前の夜中に襲われました。その時にそろそろ魔物の数が揃うと言って、近くの町で遊ぶと言っていたので大攻勢を起こすつもりだと思います」


どうせ注目されているなら丁度いいと魔族が大攻勢を起こそうとしている事を伝える、周りで聞いていた冒険者達はそれを聞いてザワザワし出した。

既に噂は広まっているので概ね信じてくれたみたいだ、魔族が、やっぱりか等と話し合っている。


だが目の前の男は空気が読めないようだ。


「嘘くせぇな、お前みたいなガキが魔族と出会って生き延びる訳がねぇ」


ロビンズ達もそうだが冒険者は人の話を聞かない奴が多いのか?レイとシェリーも笑ってないで助けて欲しい。

リズとレイナは格下だからと安心しているのかセオと何か話をしてる、ルーズの命を奪った事で揉め事に対しても余裕が出来たのかもな。

テオは揉め事が楽しいのかワクワクした顔をしている、少し血の気が多いのかもしれない。


「俺はお前という名前じゃありません、銀上級冒険者のトーマです」


助けが期待出来ないので、そう言って銀色の冒険者カードを見せる。

すると周りの冒険者はカードを見て嘘では無いと思ったのだろう、大攻勢に備えるように話し合いをしたりギルドを出ていったりしていた。


「お前みたいな奴が俺達と同じ銀上級か、何かコネでも使ったのか?」


コイツらいい加減しつこいな、魔族の話から階級の話になってるし。

コネで上がったのはお前らじゃないかと言いたかったが口には出さず、レイとシェリーに目線で助けを求める。


レイが仕方ないなと口を挟もうとした時に階段の方から声がかかった。


「トーマはただの銀上級じゃないぞ、実力なら既に金下級はある。人を見掛けで判断するようではお前らは銀級止まりだな」


声のしたほうを向くとスゥニィが立っていた、空間把握で三階にいるのは知っていたが人の目がある場所では声をかけて来ないと思ったんだけどな。


ラザのギルド長で森人のスゥニィのお墨付きじゃ、これ以上無いくらい目立ってしまったな。

周りの冒険者もスゥニィに一瞬見とれて、それから俺に目線を向けて来る。


「トーマ、話は少し聞いていた。もう時間も無いだろう、詳しい話をしたいから上に来い、お前ら全員だ」


話を進めるスゥニィにアーバンが何か言おうとする。


「ちょ、ちょっと待ってください。コイツらギルド長の部屋に呼ぶんですか?俺達でも行ったことないのに」


「ん?ギルド長の部屋に入りたいのか?ならお前達も来たらいい、私とリストルのギルド長、そして町長の前で話をするんだ、勿論有益な情報があるんだろうな?」


そう言われたアーバンはそこで漸く口を閉じてくれた。


スゥニィに早くしろと急かされたため、俺達はアーバンを横目に、魔族と出会って無傷だと、森人の弟子なのか、ラザ期待の、という周りの声を聞きながらスゥニィについて階段を上がっていく。


テオ、アーバンにドヤ顔するのはやめろ。


二階も人で賑わっていたが下の話を聞いていたらしく、各々のテーブルで話し合いをしていたり武器の手入れをしたりと慌ただしくなっていた。


三階に上がりスゥニィについて部屋に入る。


「下の騒ぎの中心人物を連れてきたぞ、どうやら魔族に襲われたそうだ」


部屋に入りながらスゥニィがそう言うと、ソファに座っていた二人が少し驚いた顔をした。

眼鏡をかけた気弱そうな人と黒髪を逆立てた厳つい人だ、取り合えず鑑定しよう。




ウォルミー:リストル:44


人間:町長


魔力強度:18


スキル:[交渉] [話術]




ヴァレッグ:51


人間:ギルド長


魔力強度:140


スキル:[剣術] [体術] [身体強化] [炎魔法]




ギルド長は体も大きくかなり強そうだな、見た目も三十代に見えて若々しい。眼鏡の人は町長らしくそれっぽいスキル持ちだ、ただ年の割には白髪が多く、眠れていないのか顔色も悪いな。


まずは町長がこめかみを右手で押さえながら聞いてくる。


「私はこの町の町長のウォルミーだ、早速だが魔族の話を聞かせてもらえるかい?」


そう言われて頷く、ソファには町長とギルド長、その対面にスゥニィが座っているので俺はソファの間に歩いていくと魔族の事を説明する。


「もう女神の季節も終わろうって時に大攻勢の予兆が出ておかしいと思ったがやはり魔族が裏にいたか、他に気付いた事はあったか?」


俺の話を聞いたギルド長が右手で無精髭をなぞりながら難しい顔で聞いてくる、魔族を鑑定した情報も伝えようか迷ったが鑑定出来る事を何となく言い出せず、交戦して胸を貫いたが逃げられた事を伝えた。


「アイツらは心臓ではなく魔石で動いているからな。魔石はへその少し下にある、確実に殺そうとするなら頭を潰すかへその下の魔石を壊すかだ」


魔石で動くって事は魔物と一緒なのか、会話が人間臭くてあまり人と変わらないと思ったが次からは気をつけよう。


「スゥニィさんから魔物が洗脳されていると聞いて覚悟はしていましたが」


町長が深く溜め息をする、失礼だがこの人は溜め息が似合うな、苦労していそうだ。


「話は大体わかった、大攻勢は確実に起きるだろう、どう対処するかを決めようか。トーマ、お前らは来たばかりだろう?少し町を回って何か準備があれば今のうちに済ませておけ」



スゥニィが今のうちに準備をしろと言ってくれた、レイとシェリーは残って話し合いに加わるようなので俺達は頭を下げて部屋を出た。


幸い一階にはアーバン達は見当たらなかったので慌ただしいギルドを出て町に繰り出す、テオとセオの服も買わなきゃな。


「リズ、服屋に行きたいんだけど案内をお願い出来る?」


「鍛冶屋さんじゃなくて服屋さんなの?一応知ってるけど、こっちだよ」


リズは武器や防具の手入れをするつもりだったらしい、確かに籠手と具足はまだ大丈夫だが防具の方が少しボロくなってきたな。

テオとセオの服を買ったら鍛冶屋に寄る事にしてまずは服屋に行く。


ギルドを出て町の奥に少し歩くと、周りを店がぐるっと囲む様になっている少し開けた場所に出た。

色々なお店がある中で武器屋や鍛冶屋に冒険者がいるくらいで他の店は静かだ、開いているか不安になるな。


建物を見渡して服屋の看板を探す、一応営業はしているようだ。


「すいません」


俺が店に入り呼び掛けると、若い女の声で返事が聞こえた。


「いらっしゃ〜い、久し振りのお客さんだ、こんな時に服を買いに来る人がいるなんてね」


声の方を見るとカウンターに突っ伏してダルそうにしてる若い女の人がいた、話を聞くとここ一週間で客足が減っていき、今日は誰も来ていなかったそうだ。


食糧や薬屋は噂が出始めて直ぐに買い占められ、武器屋や鍛冶屋は今が稼ぎ時で服屋だけが暇をしてたようだ。

俺は店員にテオとセオを紹介して服を見繕って欲しいと言うと、店員はテオとセオを見て急に元気になる。


「に、兄ちゃん、俺らの服を買いに来たのか?」


「トーマさん、私達はこの服でも大丈夫です。それにまだ何も役にたててないのに」


テオとセオに服を買う事を伝えてなかったので二人は困惑してしまった。


「何を言ってるの、貴方達二人とも可愛いのにこんなボロボロな服じゃ勿体無いじゃない」


店員が横から笑顔で口出ししてきたので俺もそれに乗る。


「テオもセオも遠慮しないでいいよ、テオは俺の手伝いをしてくれるし、セオはレイナの手伝いをしてるからね。それにもうテオとセオは仲間だよ」


俺がそう言うとリズとレイナも賛成してくれた。


「そうね、二人とも仲間なんだから遠慮しないでいいんだよ。でもトーマがそんな気遣い出来るとは思わなかったかな」


「二人の服は私も気になっていたけど落ち着いたらと思ってました、トーマさん鈍感なのにテオとセオの事は気が利くんですね」


なんだか俺が弄られてる気がするのは気のせいかな?


「お、俺、お下がりじゃない服って初めてだ。兄ちゃん本当にいいのか?」


俺はテオに頷くと、俯いているセオの背中を押して、俺達のやり取りを見ていた店員にお願いする。

リズとレイナにも二人に似合う服を見繕ってくれるように頼んだ、俺は服とかよくわからないしな。


皆にテオとセオを任せて俺は店の外に出る、すると丁度鍛冶屋から出てきた冒険者三人が俺を見て何か話し合った後に近付いてきた、二人はギルドで絡んできたアーバンとデリックだ。


二人を引き連れる様に先頭を歩いていた男が声をかけてくる。


「トーマ、だったか。さっきはこの二人が失礼したみたいだな。俺はコイツらの面倒を見ている金下級のオズウェンだ、魔族に襲われたらしいが話を聞かせてもらってもいいか?」


アーバンとデリックを見て警戒していたがこの人は口調も柔らかいし大丈夫かな。



オズウェン:35


人間:冒険者


魔力強度:61


スキル:[剣術] [体術] [身体強化] [風魔法]




実力もありそうだ、俺は魔族と戦った時の話をオズウェンに聞かせる。

オズウェンは興味深そうに聞いていたが俺が胸を貫いたと言うと少し驚いた顔をする。


「トーマは若いのにかなりの実力がありそうだな、スゥニィさんにも認められてるらしいし当然か」


「スゥニィさんにはラザの町でお世話になったんです。それより魔族なんですが、俺と戦った時は魔物の洗脳に力を割いていて本来の実力では無いと言っていました」


俺が魔族は実力を出してなかったと言うとアーバンが何か言おうとするがオズウェンが手で制する。


「なるほど、その情報も頭に入れておこう。俺ももしかしたら冒険者の指揮を取るかも知れないからな、その時はよろしく頼む」


オズウェンはそう言って俺と握手をした後で踵を返すとデリックも一緒に戻っていく。


「レイさんとシェリーさんも金下級だけどリストルの冒険者で一番の実力者はオズウェンさんだ、お前もちゃんと指示を聞けよ」


一人残っていたアーバンがそう言って慌てて二人の所に走っていった、なるほど、ギルドでレイに絡んだのはオズウェンを尊敬していて、同じ金下級のレイに嫉妬の様なものがあったのかもな。

その後俺に絡んだのもレイの連れが有力な情報を持っていた事が理由か。


なんだか子供みたいだな、アーバンにギルドで絡まれた時、ロビンズ達に絡まれた時の様に嫌な感情が出なかったのはそれでなのかもな。


俺がアーバンを見送りながら苦笑いをしていると服屋から四人が出てきた。


「トーマ、二人とも服を変えたよ。どうかな?」


振り向くとテオが笑顔で、セオは照れているのか少し顔が赤い。


テオは布の色がそのまま使われた膝まで丈があるゆったりしたフード付きの長袖、黒いズボンに脛まである革靴。


セオは赤い布に白の縁取りがされている、脛まで丈があるワンピースに白い靴下、それに革靴だ。デニムの前掛けもしているので青い布に白の縁取りのワンピースにデニムの前掛けをしたレイナとお揃いにしたようだ。


二人とも似合っているが尻尾が見れない、少し期待したんだけどな、尻尾は今度テオに見せてもらおう。


「二人とも凄く似合ってるでしょ?テオは動きやすい服って事でゆったりした服に、セオは料理もするからレイナと一緒にしたんだ」


「うん、二人とも見違えてびっくりした。セオとレイナは姉妹みたいだね。とっても似合ってるよ」


「兄ちゃんこんな良い服買ってもらってありがとな、凄く動きやすいんだ」


「トーマさん、ありがとうございます。レイナさんと一緒に料理頑張ります」


テオは嬉しそうに服やズボンを引っ張って俺に見せている、セオは少し恥ずかしそうに俯いているが、喜んでいる雰囲気だ。


まだレイナの笑顔は見れてないがそろそろ見れそうな気がしてきた、それにしても、これは親バカな人達の気持ちがわかるな、俺の子供じゃないけど喜んでいる二人を見ると何だかニヤニヤしてしまう。


二人のお披露目が一段落したので俺達は鍛冶屋に向かう。


人が減っていたので俺はナイトローソンの革を使った肩当てと胸当て預け、リズは鉄の剣と革鎧を預けて調整をお願いした。


簡単な調整なので夕方には出来ると言われた俺達は、まだ昼を食べていなかったのを思い出して食事をするために店を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る