第38話 二番目の町

リストルに向かっている俺達は夜になったので街道の側で夜営をしている。


スゥニィがいないので手頃な枯れ木や石を椅子にして、レイナとセオが作ってくれた食事を食べ終えるとテオとセオを馬車に寝かせてから五人での話し合いだ。


焚き火を五人で囲み、俺とレイとシェリーは珈琲、リズとレイナはお茶を飲みながら会話をする。

レイが珈琲を飲んで美味いなと呟いていた。



「トーマ、取り合えず町についたら魔族の情報をギルドに伝えてくれ、それでギルドから強制依頼が掛かると思うからリズとトーマは大攻勢の対応に参加する事になるはずだ」


レイ曰く、町に非常事態が起きた時はその町に滞在している銀上級以上にギルドから強制依頼が出され、それを知っていて断った時は降格や資格停止等の罰則があるらしい。


俺はリズに顔を向け、頷いたのを見て、レイに参加する事を伝える。

問題はレイナだ。


レイナは銀下級なので不参加でもいいのだが詠唱を覚えたレイナは大量の魔物に対しては有効な戦力になる。

だけどテオとセオを町で二人だけにする訳にはいかない。


俺達がテオとセオの事に悩んでいると、珈琲を楽しんでいたシェリーが助け船を出してくれた。


「それならギルドに預けるのが常識よ、強制依頼だから他にもそういう冒険者もいるのよ」


話を聞くと、冒険者には子供や年の離れた兄弟がいる人もいるらしく、強制依頼の場合はギルドが面倒を見てくれるらしい。


これでレイナの参加も決まりだな、今日も馬車の中で俺から聞いて色々呪文をイメージしてたからな、対集団では活躍の場があるはずだ。

レイナも頑張りますと拳を握り、既にやる気充分だ。


話が纏まったのでレイがそろそろ休もうかと言ってきた、俺も昨日の夕方から寝ていないのでかなり眠いが、リズ達も休み無しで俺達を呼びに来たらしく疲れた顔をしている。


レイも話が終わると大きく欠伸をした、なので俺は明日の移動中に寝る事を伝えて火の番をすると言い、皆には休んでもらう事にした。

レイには御者もしてもらってるしな、それを聞いて二人は悪いなと言って馬車に歩いていった。


「リズとレイナは眠らないの?」


二人が焚き火の側から動かないので声をかける。


「私は明日も馬で移動だからもう少ししたら眠らせてもらうけど、少し話をしようと思って」


「私はトーマさんよりは睡眠を取っているのでまだ大丈夫です」


リズとレイナがそう言ったのでリズに昨日の魔族の話を詳しく聞かせる。


「胸を貫かれても死なない、か。それと絶望を集める訳ね、魔族は暗躍する事が多くて詳しい情報はあまり出ないけど魔族にも何か事情があるのかもね」


絶望を集める訳があると聞いてリズが焚き火を見ながら考えるように呟く。

他にも精霊魔法に似た力を使っていた事も気になるがそれは二人には話していない。

落ち着いたらスゥニィに確認してみるつもりだ。


「それでさ、私もトーマに日本語を教えてもらいたいんだ。トーマもレイナもそれで効果が上がってるからね、私も二人に置いてかれないようにしなきゃ」


リズが少し照れ臭そうに日本語を教えて欲しいと言ってきた、レイナの呪文の話を聞いて自分にも使えるかもと思ったらしい。

俺やレイナが日本語を使い初めてから魔法の効果が上がっているので日本語自体を特別な言葉と思っている節もあるな。


それを聞いて嬉しくなった俺は早速手頃な棒を拾って地面に漢字を書き、それをそのまま単語として伝えてしまうとリズにはこの世界の言葉に変換されて伝わるので、まず平仮名一文字一文字を意識して伝えて行く。


それを何度か繰り返し、それから繋げて言葉にする、リズに発音してもらい、伝わったのを確認したらその言葉の意味する事を伝える。


レイナにも教えたやり方だ、リズは魔法で直接攻撃するより身体強化等の補助系が得意なのでその方向で伝える、先ずは縮地を伝えた。


俺は魔法をイメージするのが苦手なので疾風や身鉄など、実際の風や鉄を言葉だけでイメージ出来る呪文を使っている。


縮地や発勁、無拍子など武術にあるとされている技法は知ってはいるが半信半疑でイメージが出来ずに使えなかったのだ。


だがリズにはこういう技法が実際にあると言い、まるで日本で見てきたかの様にイメージを伝える。

先入観の無いリズなら使えるのではと思ったのだ、嘘も方便というやつだな。


レイナの魔法を聞いてやる気になっているのだろう、リズは俺の話を真剣に聞いて言葉を呟きながら頭の中でイメージを繰り返していた。


さすがに縮地を仙術として、千里を一歩に縮めるなんて事は言わないが十メートル位なら魔力の許容範囲だろう。

この世界の魔法はイメージ次第で色々出来るしな。


リズは日本語をひとしきり練習したあと、お先にと言って、縮地縮地と呟きながら馬車に戻っていった。


「ふふ、お姉ちゃんもこれで私達と一緒ですね」


レイナも嬉しそうな顔で馬車に戻るリズを見ていた。


その後は二人で詠唱に使えそうな言葉を話し合ったりした、結局レイナは朝まで付き合ってくれたが眠くないのだろうか?ずっとニコニコしてたし大丈夫か。






朝になるとセオが起きてきたのでレイナと料理を作ってもらう。


「セオおはよう、今日も料理お願いするね。レイナもセオも料理が上手だから助かるよ」


「い、いえ、レイナさんが上手だから。私は少し手伝いをしているだけです」


セオは謙遜しているが耳をピンと立てて少し嬉しそうだ、尻尾も出ていたら左右に揺れているんじゃないかと思うが、テオとセオはかなりゆったりした大きめの、布の服をワンピースの様にして着ている為、残念ながら尻尾は未だに見たことが無い。


しかしセオの嬉しそうな顔は初めて見たな、もう少しで笑顔も見れそうだ。

料理が好きと言っていたのでそれを褒められたのがよほど嬉しかったのだろう。


こんな顔をされたら何かしてあげたいと思う、テオとセオの服は毎日清浄をかけてはいるが、かなり着古されていてほつれも多いので町に着いたら服を買う事を決めた。


俺の言葉が効いたのかはしらないが朝御飯はかなり手が込んでいた、皆で満足するまで食べたら直ぐに町に向かう。

昼までには着くだろうとレイが言っていたのでそれまで仮眠を取らせてもらう。








「兄ちゃん、そろそろ町に着くぞ」


テオに揺り起こされて目を覚ます、そうだ、今はリストルの町に向かってるんだったな。


寝不足のせいか頭が重いな、ぼ〜っとしていると馬車がガタンと大きく揺れて停まったので馬車を降りて水筒から水を出して顔を洗う。


少しスッキリした、町に入る人は少なく、待たされる事もなかったので馬車と一緒に歩いて門に行く。


レイが門番を見て、いつもの門番とは違うなと言っていた。

幸い前の方にいたリズとシェリーが俺達の事も門番に説明をしていたので俺とレイは詳しい事は聞かれず冒険者カードを見せるだけですんだ、そして馬車の中を確認してもらう。


レイナも馬車の中から門番にカードを見せ、テオとセオの事は知り合いの子供を預かっていると説明した。


「金下級二人と銀上級二人か、現在町の周りの魔物の動きがおかしくてな、冒険者を集めて町の衛兵も大忙しだ。君達も町に滞在してくれたら助かるよ」


門番は俺達のカードを見ると町への滞在を進めてきた、手続きをしている間に何人か旅支度で町を出る人達がいたので既に大攻勢が起きるかもと町で噂になっているようだ。


俺達は町に滞在する事を門番に伝え、何か起これば協力すると言って町に入る。


この世界に来て二番目、ラザ以来の町だ。


リストルの町を囲む壁はラザの大きな壁とは違い、二メートル程しかなく、一番大きな道でも馬車が二台やっと通れるくらいの広さで、建物も全体的に小さめだ。

ラザは結構大きめな町だったらしいな。


町を歩くと何だか雰囲気が物々しい、町の人はあまり見かけず変わりに衛兵や冒険者が多いのだ。

これは大分噂が広まっていそうだ、俺達は情報を伝える為、真っ直ぐ冒険者ギルドに向かう。


町の人がいなく、武装した冒険者が多いので町を楽しむ気分でもなく町の中をレイとシェリーに先行されて歩いていくと、周りの小さな建物に比べて三階建ての立派な建物が見えてきた。


レイはそのまま馬車を建物の側に停め、リズとシェリーも馬を降りる。

レイは建物の中に入り、ギルドの職員だろう、人を呼んで馬車と馬を任せていた。


馬車もしっかりとギルドに置いてくれるらしく、職員にお願いして俺達はギルドに入る。


ギルドの中はかなり賑わっていた、異常に気付いたギルドが、かなり早い段階で近くの町や村に早馬を飛ばして冒険者に集まるように呼び掛けたそうだ。


まだ強制依頼ではないがその一歩手前だとレイが教えてくれた。


職員に情報を伝えようとカウンターに向かった俺達に二人の若い冒険者が近寄ってきた。

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