第37話 リストルの町へ

魔物を全て倒して馬車に戻るとテオが興奮して駆け寄ってきた。


「兄ちゃんの本気すげぇな、全然動きが見えなかった」


「トーマさん、無事でよかったです」


テオが目をキラキラさせている、その後ろからレイナが来て魔族に蹴られて血が出ていた箇所を治癒魔法で治してくれた。

セオもぎこちないが頭を下げる、お疲れ様ですって事かな?


三人の顔を見ると自分の力で守れたという実感が出てくる、活性化が無ければ危なかったかもしれない。

十分程度しか使えずその後は一時間程使えなくなるが俺の切り札だな。


「トーマさん今は魔物の反応はありませんか?」


「そうだね、近くには無いよ」


「なら今のうちに魔物の死体を処理しましょう」


周りには黒焦げの魔物だらけだ、レイナの魔法凄いな。

それから四人で死体を集めて燃やした。

約百体の魔物の死体だ、それだけで三時間程かかってしまった。

魔石は勿論剥ぎ取ってある、取れる時に取れってスゥニィに指摘されたしな。


数が多い為に死体は回数をわけて燃やす、その途中で夜が開けてきた。

今日は少し雲が多い。


レイナとセオに朝御飯をお願いして俺はテオと魔物の処理を続ける。


漸く魔物の処理が終わり四人で食事を済ませるとレイナと話をする。


「スゥニィさん達が遅れてるのに魔族は関係あるかな」


「そうですね、あの魔族は魔物を集めていると言っていました。町の近くでも何か異変が起きているのかもしれません」


やっぱりそうだよな、あの口振りだとアイツは魔物を集めて大攻勢を起こすつもりだろう。

その影響でスゥニィ達は何か足止めされていると考えるのが自然だよな、これから俺達はどうするべきか。


「俺達はどう動くべきかな、町に向かうかこのまま待つか」


「魔族が魔物を操って大攻勢をするつもりなら町に行くより町から離れたここにいた方が安全だと思います、テオとセオもいますし」


確かに二人を連れて無闇に動くのもな。


レイナとこれからどうするか話をしていたら空から冷たい物が落ちてきた、旅に出てから初めての雨だ。

俺達は急いで馬車の中に隠れる、屋根があるのはこういう時有り難い。


雨の中テオとセオを連れての移動は更に危険なので取り合えず動かない事にした、雨で鍛練も出来ないので馬車で詠唱の事を話す。


「昨日詠唱を使ってみてどうだった?」


「呪文と違って時間はかかりますがかなり使えると思います」


そうだよな、いくら雑魚とはいえ魔物の群れを半分以上倒していたしな、ちょっと鑑定してみよう。



レイナ:12


人間:冒険者


魔力強度:52


スキル:[治癒魔法] [雷魔法] [風魔法] [身体強化] [詠唱]


確か昨日までレイナの魔力強度は45だったはずだが一気に7も上がってる、スキルに詠唱も増えてるし毎日試行錯誤していた甲斐があったようだ。


この世界のスキルとは何度も繰り返し使って自分の魔力に覚えさせる事で覚えるようになっている。

そう考えるとここに来た時に既にスキルを覚えていた俺は少し異常なのかもしれない。


魔力の多さ、魔力の回復の早さ、空間把握、真眼、そして魔素操作、あの空間で死にそうな目にあったおかげだとは思うがもう少し自分の事も知りたい。



トーマ:14


人間:冒険者:異邦人


魔力強度:53


スキル:[魔素操作] [真眼] [魔力回復:大] [熱耐性] [痛覚耐性] [直感] [身体操作] [格闘術] [魔素纏依] [炎魔法]



俺も漸く50越えだ、強くなれてるとは思うけど昨日の魔族が本気では無かったのならもう少し上げないと不安だ、魔力強度と体を鍛えたら素の状態でも疾風迅雷を使える様になるはずだ、先ずはそれが目標だな。

レイナにも魔力強度が50を越えた事を教えよう。


「レイナ、魔力強度が50越えてるよ。昨日は魔物を沢山倒したからね」


「本当ですか?時間がたって回復すると魔力が少し増えた気がしてたんです、これでまた新しいイメージが出来そうです。トーマさんの話を聞いてどんどんイメージが膨らんでるんですよ」


普通は少しずつ魔力も増えて行くので実感出来る事なんてあまりない、それだけ一気に上がったのだろう、レイナがかなり嬉しそうだ。

レイナは理解力もあるし想像力も豊かだ、それに呪文や詠唱を覚えてかなり強くなっている。


俺も負けてられないな、レイナの笑顔を見ながらそう思っていたら横からおずおずと声がかかる。


「あ、あの、私も、私もレイナさんの様に強くなれますか?」


セオが初めて自分から俺に話し掛けてきた、まだ怯えている気がするが力強い目だ。

俺と同じ、全てを諦めていた顔から変わろうと、必死で抜け出そうとしている。


「あ、うん、なれる、強くなれるよセオ!」


俺がそう言うとセオはお願いしますと頭を下げた。

俺はセオの決意が凄い嬉しくて、何故か十歳の頃の俺を思い出して、少し、昔の俺が救われた気がして泣きそうになった。


それが恥ずかしくてテオの明るさに助けを求めようと目を向けると既に横になって眠っていた、静かだと思ったんだよ、雨の日って眠くなるよな。


俺はテオを見て力が抜けたのか何とか泣かずにすんだ。

なのでレイナと話をしながら早速セオに身体強化をしてもらい、狭いのでゆっくり動いてもらいながらそれを見て昼まで魔力の流れを指摘し続けた。








あれから一時間程で雨は上がり、地面が乾き始めて太陽が真上に掛かりそうな頃に空間把握に三つの反応が出た。

一つはよく知っているリズの魔力、残りの二つは知らない魔力だ、だけど一緒に移動している。

俺は馬車を降りて伸びをしながらレイナにリズが来ることを伝える。


「レイナ、リズが帰ってきたよ。スゥニィさんとは別みたいで他に知らない二人の反応がある」


「お姉ちゃんと知らない人ですか、町で何かあったんでしょうか?」


二人して西へと続く街道を見ていると三頭の馬とそれに跨がって来る人影が見えてきた。

向こうも此方に気付くと、真ん中の馬に跨がる人物が大きく手を振る、相変わらずリズは元気だな。

あの様子から特に大きな問題は無かったのだろう、少し安心した。


「ただいま、少し遅くなってごめんね。ちょっと町で問題が起きてさ、スゥニィさんもその対応で離れられなかったからこの二人を護衛に皆を呼びに来たんだ。レイナは知ってるでしょ?」


そう言われてレイナを見ると少し驚いた顔をしている。


「レイさんとシェリーさん?」


「あぁそうだ、久し振りだなレイナ。元気そうで何よりだ、冒険者になって一ヶ月で銀下級になったんだってな、リズから聞いて驚いたよ」


レイと呼ばれた男の人が馬から降りてくる、続いてシェリーと呼ばれた女性の人も降りてきた。


「リズちゃんもレイナちゃんも立派に冒険者してるわね、まさかこんな所で会うとは思わなかったわ」


レイとシェリー、確かリズ達の村が盗賊に襲われた時に村から連れ出してくれた人達だったな。

テオとセオを助けた時に直ぐに鑑定しなかった事をスゥニィに怒られたので取り合えず鑑定はしておこう。


レイ:32


人間:冒険者:


魔力強度:56


スキル:[弓] [狩り] [剣術] [身体強化] [体術]




シェリー:29


人間:冒険者


魔力強度:51


スキル:[弓] [剣術] [身体強化] [風魔法]



二人ともに魔力強度は50を越えていて身体強化もある、服装は身軽そうでフード付のシャツと簡単な革のベスト、少しゆったりしたズボンに長めの革靴、色も森での保護色なのか緑と茶色で統一されていて冒険者っていうより狩人っぽいな。


「レイさんシェリーさん、お久し振りです!あの時はありがとうございました。それとタインさんを紹介してくれたおかげでラザの町でも助かりました」


レイナは二人に駆け寄ると握手をしながら頭を下げた、リズも交えて四人で再開を喜んだ後でレイとシェリーが俺の所に来た。


「トーマ、だよな?ここに来るまでにリズから散々聞かされたけど本当に幼いな、厄介者のロビンズを始末したってのは本当か?」


訝しげな顔でレイが俺を上から下まで見る、するとそこにシェリーが入ってくる。


「冒険者は見かけでは判断出来ないって常識でしょ、それにリズちゃんがあんなに強くなったのもこの子のおかげって言うじゃない」


「それもそうか、疑ってすまんな。金下級のレイだ、リズとレイナの二人は俺達もずっと気にしてたからな」


「金下級のシェリーよ、リズちゃんも信頼してるみたいだし二人を守ってあげてね」


二人ともそう言って笑いかけてきた、俺は頭を下げて挨拶をする。


「銀上級冒険者のトーマです、兎の前足のリーダーをしてます。よろしくお願いします」


そして馬車にいたテオとセオも紹介する、テオは元気に、セオもレイと挨拶をする時は少し強張っていたがキチンと挨拶をしていた。


挨拶が終わると俺はさっきからずっと気になっていた事を聞く、リズの乗っている馬は大きく、白馬で脚が六本あるのだ。

レイとシェリーの馬は栗毛で普通なので余計に気になる。


「リズ、その馬は?」


「あ、トーマは初めて見るよね。この馬はスリップニルって種類で馬車を曳くのに最適なんだ、ちょうど町で売られててさ、少し値段は高かったけど私達は今のところお金使わないからいいかなって」


そんな馬もいるのか、魔物では無いようだ。

興味深く馬を見る俺にリズが町での事を話してくれた。


「奴隷商と冒険者の件はすぐに終わったんだけどね、冒険者のカードをギルドに出した時に職員の雰囲気が変だったから話を聞いたら、魔物の動きがおかしくて大攻勢が起きるかもって」


それでスゥニィが対応の協力をお願いされて、リズは一人で動けず困っていたら偶然ギルドにレイとシェリーが来たので護衛をお願いして俺達を呼びに来たらしい。


やっぱり町の周辺でも魔物の動きがおかしくなっているのか、魔族もそろそろ魔物が揃うと言ってたしな。

俺はその話を聞いて昨日の魔族の事を伝える。


すると三人とも酷く驚いた顔をする。


「おいおいマジか、魔族と会ってほぼ無傷ですんだのか。なるほどわざわざリズが呼びに来るわけだ、すまんがこれから一緒に直ぐに町に行ってくれるか?」


「そうね、大攻勢が起きるのが確実なら少しでも人手が欲しいわ。腕が立つなら尚更ね」


レイとシェリーに言われて皆に同意を取り頷く、依頼人を放っておく訳にはいかないしな。


行くとなれば早速馬車の準備だ、リズが町で買ってきた部品を壊れていた部分と取り替える。

勿論やったことはないのでレイにお願いしてやってもらった。


準備が出来たのでシェリーとリズが馬で、御者を出来る人がいないのと覚えてる暇も無いのでレイが御者で町まで向かう。


馬車の箱には草を敷き詰めて布が敷かれているので少し揺れるが乗り心地は悪くない、馬も馬車を曳くならとリズが買ってきただけあって四人+御者+馬車を速度を落とさず平気で曳いている。


雨上がりに広がった青空の下、森と平原を幌の中から眺めていると今はそんな時では無いとわかるのだがやっぱり車窓からの世界に行きそうになる。


ピュピィッピィッピィッピィピィ〜ピィピュ〜ピィ〜ピュ〜♪


「トーマさんの口笛面白いですね」


思わず口笛を吹いていたようだ、レイナに笑われてしまった。

今から魔物の群れと戦うかもしれないのに気が緩んでるな、少しのんびりしてしまったがその後は町に着くまでレイナとテオと、セオも交えて町についてからの事を話し合った。

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