第32話 のんびりした時間

 

 テオとセオを連れて行く事を決めた俺達はまず、これからどうするかを話し合う。


 テオはずっとはしゃいでいて、セオは泣いたのが恥ずかしいのか俺と顔を合わせてくれないので、レイナに二人を任せてからリズとスゥニィと話をする。


「リズ、スゥニィさん、俺はまだこの世界での奴隷の扱いも知らないし、これからの対応もわからないから何かいい考えがあったら教えて欲しいです」


 するとリズが答えてくれる。


「そうね、テオとセオはまだ仮契約で首輪もしていないし奴隷と認識はされてないはずだよ。トーマの鑑定でもまだ表示されてないんじゃない?」


 そう言われて二人を鑑定してみる。



 テオ:10


 獣人:ライカンスロープ


 魔力強度:11


 スキル:[身体強化]



 セオ:10


 獣人:ライカンスロープ


 魔力強度:10


 スキル:[身体強化]



 確かに奴隷の文字は表示されていない。

 それにしても、二人とも身体強化を使えるのか。レイナから聞いていた、獣人は体が強くて体を上手く使って戦う種族ってのは本当のようだ。

 それにライカンスロープって事はやはり狼の獣人なんだな。二人のステータスを見ながらリズに答える。


「そうだね。二人とも奴隷の表示は無いよ」


「ならスゥニィさんが見つけた契約書を燃やしてしまえば大丈夫だよ。奴隷商の人と護衛の人のカードを近くの町に届けて説明したら、その町から報告がジーヴルと奴隷館に行くはずだからね」


 リズによると、仮契約は奴隷商の人とテオ達の親で買い取りが交わされただけなのでまだ正式ではなく、ジーヴルまで行って正式に奴隷商から買い取った人と契約をするか、一度奴隷館に戻って正式に商品として登録、首輪をしない限り奴隷とは認識されないらしい。


 元々テオとセオを買う人が決まっていたのなら少し厄介事になる可能性もあるみたいだが、今回は獣人界で奴隷を集めていた奴隷商が、たまたまテオとセオを買い取り、そしてたまたま子供の奴隷が欲しいという情報の入ったジーヴルに売りに行く所だった、と馬車に残っていた書類を読んで説明してくれた。


 ちなみに外で死亡した人の財産は基本は見つけた人の物だが、金貨以外の物は持ち主の親族や雇い主が適正な値段を呈示したら売るのが常識らしい。なのでテオとセオも奴隷館が欲しがれば相応の金額で買おうとする可能性があるが、リズとスゥニィが言うにはテオとセオは特別な奴隷では無いので、俺達が奴隷館に届け出てテオとセオを買い取って欲しいと言わない限りは特別な価値の無い二人をわざわざ探したりしないようだ。


「じゃあ近くの町に行って、その町で亡くなった人のカードと情報を渡した後は、テオとセオをそのまま連れていってもいいんだね」


「今回はその手続きは私がやろう。冒険者ギルドには直接、奴隷館の方には商業ギルドから話を通せるはずだ。私の依頼で里に帰る途中に、魔物に襲われた奴隷商人が死亡していた所を見つけたと言っておく。テオとセオは偶然生き残った事にしよう」


 そこまで言って、スゥニィが人差し指を立てる。


「だがな、こういうのは今回だけだぞ?他にも奴隷を助けたいのなら私が里で別れてからにしてくれ」


 俺はスゥニィの言葉にしっかりと頷く。


 ラザの町の冒険者ギルドの長であるスゥニィが話を通すと言うのならテオとセオの事は大丈夫だろう。それよりも、スゥニィには俺が他の奴隷も見境無く助けると思われている。でもそう思われても仕方ないよな。

 テオとセオを連れていくのは俺の我が儘、目に入る奴隷を見る度に助けていたらキリが無い、その考えを徹底しないと駄目だな。


「大丈夫……です。今回はセオの顔が昔の俺を見ているみたいで、つい我慢出来なかったけど、本当は会う度に奴隷を助けていたらキリが無いのはわかります。だから、この世界の常識に早く慣れるように努力しますよ」


「そうだよ。キツい事を言うけど今回みたいに仮契約で奴隷商が死んでて買い主も決まってない、そして二人には行く宛が無くて私達には少し余裕がある、なんて偶然はもう無いからね」


 スゥニィと俺の会話を聞いていたリズが、横から参加してきた。


「地球の、日本の常識を少し聞いたからトーマの我慢出来なかったって気持ちは何となくわかるけど、ここでは当たり前の事なんだからさ、それに慣れるようにしないと」


 リズが苦しそうな顔で言ってくれた。

 本音はこんな事は言いたくないけれど、俺の為を思って言ってくれているんだろうな。本当に同い年には見えない。


「リズの言う通りだな。リズ、トーマはまだ順応出来ていないから常識の部分ではお前のフォローが必要だ。お前らはパーティーだからな、三人で助け合え」


「はい、トーマもこれから成長していくし三人で立派なパーティーになります」


 リズが神妙な顔でスゥニィにしっかりと返事をした。これじゃどっちがリーダーかわからないな。


「よし、じゃあトーマの話は終わりだ。これからの事を話すぞ。まずは近くの町に行くメンバーと、ここに残って馬車を守るメンバーを決める事からだ。人数も増えたし私も夜が眠れないからな。ここで馬車が手に入ったのは丁度いい。町に行くついでに馬を手に入れようか」


 スゥニィがここからは馬車の旅だと言う、リズも賛成のようだ。


「そうですね。いくら獣人でも子供の足だと少しキツいかもしれませんから馬車を使った方がいいですね」


 奴隷商の使っていた馬車はラザの町で見たのと違って、車輪が車のタイヤ程と小さく、四輪で荷台になる箱は広く浅い形になっている。そこに幌がついている形だ。

 馬は一頭建てで、車輪と箱を繋ぐ部分は木と何かの金属を組み合わせて作られている。段差等で起きる衝撃を吸収出来るように作られているようだ。移動は馬車が主流らしいので馬車を作る技術が発展しているのかもしれない。


 奴隷商たちは馬車から逃げた所で魔物に追い付かれたらしく、馬車からは距離のある場所で死んでいた為、馬車にそれ程の被害は無く、馬が逃げた時に壊れた馬具の部品を取り換えたら問題ないそうだ。


 それよりも、ついに馬車に乗れる。牧歌的な風景の中をガタゴトのんびりと行く、憧れの馬車の旅。


「おい、聞いているのか?」


 スゥニィの声で頭の中に流れていたイントロが消え、想像していた車窓からの世界が現実の世界に戻る。

 スゥニィとリズに目を向けると白い目で見られた。


「はぁ、お前が二人を同行させたんだろう?しっかりしろ」


「私、トーマが成長出来るか不安だよ」


 呆れ返る二人にひたすら頭を下げてなんとか許してもらった。


「それで、話は戻るが町で馬を手に入れない事にはここから動けないからな。町に行くのはギルドに情報を届ける私、それともう一人はリズを連れていくからな。お前には私達が戻ってくるまでの間、あの三人を頼むぞ」


「なるほど、どのくらいで戻るかわかりますか?」


 俺の問いにスゥニィは多分だが、と前置きして答える。


「この森に見覚えがある、馬車が通っていた街道をそのまま北西に向かえばリストルという町につくはずだ。そこなら馬も買えるしギルドもあるからな、二日程で戻れるはずだ」


「馬車もあるなら嵩張ると思って諦めていた物も乗せられるだろうし、それも買ってくるね。トーマも何かあれば言ってね」


 という感じで話は決まったので、少し早いが昼食にする事にしてレイナ達の所に戻る。昼の準備はリズだったのだが、先程二人の話を聞いていなかった罰で俺が準備をする事になった。


 人数が増えて料理の量も増える。なので馬車の側でスゥニィが土の精霊に語りかけて簡単な竈を作ってくれた。

 スゥニィが地面に向けて何か喋ると土が盛り上がり、竈を形作る様さまは不思議な感じだった。

 俺の魔法だとただ土を盛り上げて簡単な台を作る、で終わってしまうのだが、スゥニィが使う精霊魔法は、精霊に魔力を渡して手伝ってもらうので色々な事が出来るようだ。


 昼御飯まで時間もあるし、罰という事もあって少し時間のかかるハンバーグを作る。

 オークの肉で挽き肉を作ってる間、テオがずっと鼻をヒクヒクさせて周りをウロウロしていた。


 料理の匂いに釣られたのか一度森からゴブリンの襲撃があったが、リズとレイナが先にゴブリンを弱らせ、俺達と旅をする事になるこれからは、魔物と戦う事が当たり前になるからと言う理由でテオとセオに止めをさせていた。


 料理が出来たのでスゥニィが作ってくれた即席の食卓に座り食事をする。


 いつもは食卓も俺に作らせるのだが、今日は子供がいるからだろう、スゥニィが作ってくれた立派な食卓で食事を取る。

 スゥニィは怒らせると本当に怖いし、考え方も俺から見たらシビアに感じるが、本当は面倒見がいいのだろうな、そう考えていたら睨まれた。


 六人での賑やかな食事が終わる。スゥニィはあまり眠れていないし、明日の朝は町に行く為に早くから出発するので今から寝るようだ。

 俺も今夜から三日間は火の番をするので先に仮眠を取る。

 もう少しテオとセオから話を聞きたいが、無理はせずに馬車で眠る事にした。

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