第19話 ギルド長の依頼

 

 セラが部屋を出た後、リズとレイナも落ち着いてきたので話を切り出す。


「えっと、それで今日はギルド長にお願いがあって来たのですが」


 そこまで言うとギルド長が右手で遮る。


「ああ、大体の話はセラから聞いている。そこのレイナ君が金下級のロビンズに狙われているんだろ?それでその仲裁を頼みたいと」


 三人でそうですと頷くと、ギルド長は右手を顔の前に上げて指を三本立てる。


「三人からのお願いだからな、頼みを聞く代わりに三つ条件を出したい」


 そう言われ俺達は顔を見合わせ頷く。

 それを見てギルド長が条件を言ってくる。


「まず一つ、一週間後にあるオークの討伐にパーティーで参加して欲しい」


 そう言ってギルド長は立てていた三本の指を一つ折る。だがギルドの出す大掛かりな依頼は基本銀上級以上が参加資格のはずだ、なので俺達は参加資格を満たしていない事になる。俺は困惑しながらギルド長に尋ねる。


「オーク討伐の依頼が近々あるのは知っていましたが、その依頼に俺達が?」


「そうだ。私が見た所、三人供にその実力はある。トーマ君は金に上がれる程だしリズ君も銀上級で充分通用する。レイナ君も直ぐに銀上級に上がれるだろう、それに治癒魔法も使えるんだろう?」


 ギルド長の、レイナを見ながらの問い掛けに頷く。別段隠す程の事でも無いし、俺達の実力やレイナの治癒魔法の事はセラからも話を聞いているだろう、ロビンズ達に狙われるのは治癒魔法が使えるからだしな。

 俺達が頷くのを確認して話を続けるギルド長。


「実はな、今のギルドには実力のある冒険者が少なくなっていてな、魔物の討伐依頼が回らなくて魔物の数が増えているんだ。このままなら近いうちに大攻勢が起きるかもしれん、だからオークに限らず他の魔物の数を減らして欲しいのだ」


 職員には私から話を通しておくと言われ、それなら町を守る為にも、自分達の強さを上げる為にもいいかと思い頷く。


「そして、二つ目。これは君らの頼みとも関係があるのだが、ロビンズ達を始末して欲しい」


 それを聞いて俺がどういう事ですかと思わず声を荒げてしまったが、リズが落ち着いてと言ってギルド長に話を聞く。


「訳を聞いてもいいですか?確かに最終的にはそういう事もあるかと思っていました、私達はその時の為に後ろ楯になってほしいとお願いに来たんですから。でも向こうから来るならともかく、ギルド側から言われるとは思いませんでしたので」


 落ち着いて話すリズに、ギルド長はお茶を一口飲んでから説明を続ける。


「端的に言うとアイツらはやり過ぎたんだな、アイツらは多分殺しもしているぞ。お前らの事も必ず狙ってくるはずだ」


 それを聞いてリズが驚く、俺の真眼で犯罪歴が無いことは確認して伝えてある。


「でも、犯罪者は冒険者資格を剥奪されるはずじゃーー」


 そう言いかけたリズの言葉を遮るギルド長。


「発覚したら勿論そうだが抜け道はある、まずよくあるやり方だが自分の手で殺さない。相手を弱らせてから森に放置でもしたら魔物が殺してくれるからな。それと、正当な理由がある場合だ、お前らもその人の情報が魔力に記録されているのは知っているな?」


 そう聞かれ三人供に頷く。

 この世界では個人の情報が魔力に全て記録される。名前や年齢、魔物を倒してその力を得たり体内の魔力を鍛える事で上がる魔力強度、そしてその魔力強度の元になった魔物の種類や数、スキル。

 それらの情報を魔力で読み取ってカードにしたり鑑定で見たりするのだ。それは絶対に変える事が出来ないのが常識なのだがーー


 ーー実は俺は自分の魔力を魔素操作で操り異邦人やスキルの情報を隠している。

 これは魔素操作が出来る俺だけにしか出来ず、普通は魔力での隠し事は出来ないのだ。

 それと、隠す事は出来るが変える事は出来ない、最初に冒険者登録した時に年齢が14になったり名前がトーマになったのは活性化状態で魔力が安定していない時に強く思ったのでそうなったのだと思っている。

 そして活性化が消えて魔眼が真眼に変わったり、空間把握が真眼に統一されたのは不安定だった体内の魔力が安定したからだろうと直感で感じている。


 閑話休題。


 ギルド長は他所のギルドからロビンズ達の情報を集めたのか詳しく説明をしてくれる。


「アイツらは相手の弱味を握り、決闘に持ち込む事で正当化して記録に残らないようにしているのさ。両者が契約した決闘ではどんな理由だろうが罪にはならないからな」


 ギルド長の説明に、そんな手がと呟くリズ。その隣で俺はお茶を飲んで気持ちを落ち着け質問する。


「だからと言って俺達に依頼する理由がわからない、どうして俺達に?」


 ロビンズ達の情報を聞いても、それで俺達がロビンズ達を始末する事には納得が行かず、再度ギルド長に理由を聞く。少し感情的になったせいで語気を強めたので口調がいつも通りになってしまった。

 それに気付いたギルド長は少し笑みを浮かべて質問に答える。


「あぁ、そのまま普段の喋り方に直していいぞ。私と話すと口調が堅くなる奴ばかりでな、出来ればスゥニィと、そう呼んで欲しいな」


 俺はどこか楽しそうに話すギルド長の目を見詰める。


「そうそう、お前らに頼む理由だったな。これは私の全ての頼み事に関わる事なんだが」


 ギルド長はそこで一旦言葉を止めてお茶を飲み、再び口を開く。


「これから私が君達の後ろ楯になる事を正式に認め、そしてそれをアイツらに伝える。するとアイツらはどうすると思う?」


 俺はそう言われ、少し考えてみるが、答えは決まっている。


「多分、襲って来ますね」


 その返事にギルド長はニヤリと笑みを見せる。


「そうだ、アイツらはまず君とリズ君を狙うだろう。リズ君は最終的にと言ったがアイツらに目を付けられて、それに従わないなら必ずそうなるぞ。他所の町でのもめ事でもそうなってる、アイツらは盗賊と変わらないと思え」


 盗賊と変わらない。

 確かにアイツらと会った時の印象や、ギルド長の情報を合わせるとそうかもしれない。アイツらは相手の都合など考えずに、力に任せて一方的に奪うだろう。


「そしてオークの討伐は獲物を狙うのに一番都合がいいからな、その時に来ると私は思っている」


「だからオークの討伐に参加しろと言ったのですか?」


 確かに俺達を狙うのなら、森の中という人目につきにくい時の方が魔物にやられたという事にしやすいし、後始末が楽だろうと思う。


「先に言った人手が足りないというのも本当なんだがな。お前らが参加する事でアイツらが襲ってくる、その時に返り討ちにした方がギルドとしても事故という事で処理しやすいんだ」


 向こうが考える事と同じ事だと笑うギルド長。


「そして、普通なら魔物の討伐をしながら襲って来るアイツらに対処するのは困難だ。だが討伐に参加する事で襲って来る日もわかり、魔力探知でいつ来るかもわかるお前が適任なんだ」


 そのギルド長の言葉に横の二人が驚く、俺は一瞬魔力探知なんて無いけどと思うが、空間把握の事が頭に浮かぶ。

 そしてギルド長に目を向ける。


「何故って顔だな」


 俺が不思議そうにギルド長を見ると、ギルド長はニヤリと笑う。


「お前ギルドの訓練所で魔力探知をしているだろ?だからだ、と言っても気付けるのは魔力の扱いに長けた森人、その中でもさらに扱いに長けた私くらいだろうがな」


 そう言って、どうだと言わんばかりの笑みを見せるギルド長。確かに訓練をする時は空間把握を使う事もある、だが今まで誰にも気付かれなかったのに指摘されたのは初めてだ。森人って凄いんだなと感心している俺の隣で、俺以上に驚いていたリズが、ギルド長に向かって恐る恐る口を開いた。


「もしかして……ギルド長は森人の祖……ですか?」


 そのリズの質問に、満足気な顔でお茶を飲んでいたギルド長が意外といった表情を浮かべる。


「ほう、若いのによく知っているな。もしかしてリズは森人の先祖帰りで実際の歳は見た目よりも上なのか?」


 まるでリズをからかうように話すギルド長。

 リズはからかわれた事が気にならない程に、驚いた顔のまま、ブンブンと勢いよく首を振る。


「いえいえ、私は普通に十四歳です。それよりもこの町のギルド長が森人の祖だったなんて!」


 リズとギルド長、二人のやり取りがよく理解出来ていない俺はまずレイナを見るが、レイナは相変わらず固まっているので、仕方なく興奮してソファから腰を浮かせているリズに尋ねる。


「森人の祖ってのは?なんか凄そうだってのはわかるんだけど」


 その言葉に、リズはぐりんと顔を向けて早口で喋ってくる。


「森人の祖だよ!寿命の長い森人の中でも特に数が少なくて、魔力の扱いに置いては右に出る者はいなく、寿命も二千年は生きると言われていて、この世界に最初に生まれたと言われている森人の祖!」


 リズのあまりの勢いに押されてしまう、顔もかなり近い。

 確かに最初に色々説明してもらった時に、やけにこの世界の成り立ちや伝説的な話に詳しかったけどリズはそういうのが好きなのかな?

 話を聞いても俺の反応が鈍いので更に話を続けるリズ。


「森人の祖だよ!ほら、レイナも吃驚し過ぎて固まってる。人が生きてても一生見る事も出来ないくらい珍しいんだよ!トーマの世界に行ったロビィ・フゥドも森人の祖だって話なんだよ!」


 その言葉に俺とレイナ、そして言い終わったリズも別の意味で固まる。

 そこに黙って俺達の様子を見ていたギルド長が興味深そうに、面白そうに聞いてくる。


「ほぉ、今の話からするともしかしてトーマは異邦人なのか?」


 やっぱり森人だしロビィフゥドの事は知ってるよな、ギルド長も同じフゥドだしな。

 するとリズが慌て出す。


「あっ、違っ、今のはそのっ」


 俺とレイナはため息を吐き、俺はリズの肩を叩くと首を振る。


「リズ、取り敢えず落ち着こう。ギルド長も少し話を聞いてくれますか?」


「面白い話だしいくらでもいいぞ。ただ出来ればギルド長ではなくスゥニィと呼んで欲しいな、異・邦・人のトーマ君」


 ニヤニヤしながら、至極楽しそうに言ってくるギルド長にわかりましたと答え、それからこの世界に来てからの事を話していく。


 その話をスゥニィは時折興味深そうに頷きながら聞いていたが、話を聞き終えると冷めたお茶を一気に飲んで軽く息を吐く。


「なるほど、空間の歪みね。それは多分魔素溜まりだな、この事は色々と話をしてみたいのだが、このままでは話が進まん。トーマの話に比べればどうでもよくなった気がするんだがまずはロビンズ達を始末してからだな。最後の頼みもあるしな」


  狙われている俺達にはどうでもよくないですとぶつぶつと呟くが、スゥニィは構わず話を戻す。


「最後の頼みなんだが、実は私は少し事情があってな、そろそろ里帰りをしないといけないんだが、その護衛に丁度いいやつらがいないんだ。先程も言ったように使えるやつらはギルドから離れていてな。それでお前らに護衛をお願いしようと思っている訳だ」


 ギルド長はそこまで言って俺達三人を見る。


「実際は私一人でも大丈夫だとは思うが、時期も時期で魔物も増えているし私の腕も少し鈍っているかもしれん。特に夜休む時が少し不安なんだ。だから魔力探知の使えるトーマが適任だと思って、セラにお前達の事を聞いてみたんだがトーマ達はまだ銀下級なので駄目ですと言われてな」


 この世界には簡単に考えると大きな大陸の中央に人間、北に獣人、西に鱗人、そして南に森人が住んでいる。

 スゥニィの里帰りに付き合うなら南に行くって事だ。


 だが護衛と聞いてレイナが不思議そうな顔をする。


「あの、私は銅級でお姉ちゃんとトーマさんは銀下級です。護衛の依頼は受けられないと思うのですが」


 それを聞いてスゥニィはニヤッとする。


「だからこその先程の提案だ。まずオークの討伐で他の冒険者達に実力を見せる、お前らギルドでは兎だと思われてるみたいだしな。そしてロビンズ達を返り討ちにして、それを銀上級への昇格試験にする。本当は盗賊の討伐が基本なんだが、銀上級への昇格試験の主旨は依頼人や仲間を危険に晒さないようにしっかりと人を殺せるかどうかだからな。それで晴れて銀上級になり私からの依頼も正式に受けられると言うわけだ。どうだ?オークの討伐に参加するだけで全ての条件が満たせるぞ」


 レイナはそれで銀下級だな、銀上級が二人に銀下級が一人なら依頼は受けられるし万全だろうと言ってくる。

 ギルド長は俺が異邦人と知って興が乗ったのか、異邦人と聞いてからはずっと楽しそうだ。


「そして更にお前らに協力してやろう。オーク討伐までの一週間、それと里帰りの間は私が鍛えてやるぞ」


 まだ護衛を受けるとも言ってないのに全て決定事項のように言ってくる。

 異邦人の事を知られたので断る事は出来ないのだが。

 そしてリズが森人の祖に指導してもらえると聞いてやけに乗り気だ。

  俺はそれを見てしょうがないかとスゥニィに返事をする。


「わかりました、条件を飲むので後ろ楯の件はよろしくお願いします」


 俺が頭を下げるとスゥニィが右手を差し出してくる。

 この世界に来て握手をする事が増えたなと思いながらスゥニィの手を握り返す、女性らしい手だ。


「トーマはなるべく目立ちたく無いんだったな、じゃあ訓練は外でやるか。明日から私が宿に呼びに行くからな、ジーナの所だろ?」


 ジーナさんと知り合いなんですかと聞くと、若い頃一緒に冒険者をしていたと答える。それを聞いてリズとレイナも驚いていた。


 話が終わったので、三人で頭を下げて部屋を出る。

 部屋を出て階段を降り、あまり人のいない二階を素通りして一階まで降りる。

 カウンターでセラを見つけ、オークの討伐に参加する事で後ろ楯になってもらうことにしましたと簡単に説明する。

 それを聞いてセラは少し厳しい顔をしたが、ため息を吐いてわかりましたと頷く。

 今日は色々疲れたので訓練は無しにして宿に戻りますと言ってセラと別れ、三人でギルドを出て、空間把握をしながら宿に向かって歩いていく。

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