第18話 冒険者ギルドの長

 

 翌朝、目を覚ました俺は準備を整え部屋を出る。

 そしてリズ達と合流すると、食堂に行き朝食を済ませ、ジーナに昼も食べに戻ると伝えレイナを薬屋まで送っていく。


 レイナを薬屋まで送った後、セラに事情を話す為にギルドに向かう。途中で町の人に声をかけられ挨拶を返しながらだ。


 町の人は俺達を見掛けると毎日挨拶をしながら笑顔を見せてくれる。

 やはりこの町は居心地がいい、昨日みたいに自棄になって、証人もいない訓練所のような場所で問題を起こせば肩書きの低い俺は町に居られなくなる。そうならない為にもまずは周りの状況に合わせて適切な対応をしないとな、そう考えながら歩いているとギルドに着いたので中に入り、セラを探す。


 冒険者の朝は意外と早い。俺達がゆっくりとギルドに来る頃にはあまり人はいないので、職員も仕事が事務作業くらいで意外と暇そうなのだ。


 俺達がギルドに入って来たのを見て、昨日の事を話すと思ったのか既にセラはカウンターに座って待っていた。そのままセラの所に行き話を切り出す。


「セラさん、昨日は迷惑をかけてすいませんでした。それであれから考えたんですけど、レイナをちゃんと冒険者登録して正式にパーティーを組もうと思います」


 セラはこちらこそすいませんと言いながら、レイナの登録の話を聞くと、その方がいいですねと頷く。


「正式にパーティーを組むと強引な引き抜きはギルドからも注意出来るので賛成です。でもそれだけで手を引くとは思えないので注意はしてて下さいね」


 そこまで聞いてから今度はリズが話しをする。


「その事なんだけどさ、ギルド長に会って話をしてみたいんだけどギルド長に会う事は出来る?」


 そう言われて普段はあまり表情を崩さないセラの顔が曇る。


「確かに会う事は出来ます。ギルド長に揉め事の仲裁をお願いするのはいい考えだと思います」


 セラはそこまで言うと一旦息を吐き、ただし、と付け加えてから話を続ける。


「ここのギルド長は他所とは違い、難しい人なので……何事も無く協力を得られるのであれば良いのですが、何か条件を出されるかもしれません」


 それでも会いますかと確認してくるセラに、リズと俺は顔を見合せる。


「実はこのギルドでは最近腕の立つ冒険者が長期の護衛などで少なくなっている事もあって、最近目立っているトーマ君が目をつけられていました。でも銀下級という事で私の所で話を止めていたのです」


 そこまで聞き、リズと相談する。

 そしてどうせ目をつけられているのなら、まずは話を聞いてみようという結論になったのでセラにお願いする。


「取り敢えず話を聞いてみる事にします。午後にレイナを登録に連れてくるのでその時に会えるならお願いします」


 頭を下げてそう言うとセラはわかりましたと頷いたので、後は急ぎでの採取系の依頼が無いかを確認して、今の所は急ぎの依頼は無いと言うので、昨日は中途半端だったからレイナを迎える時間まで訓練をしようとリズと話し、セラに確認を取ってから訓練所に向かう。


「普通じゃないギルド長ってどんな人だろうね、でも私は二年やってても会った事無いのに三ヶ月で目をつけられるトーマって」


 訓練所に入り、ストレッチをしているとリズがそう言って白い目を向けてくる。


「リズと一緒に活動して効率的に採取と討伐を繰り返したおかげだよ、それになるべく目立ちたく無いんだけどなぁ」


 この三ヶ月の付き合いでリズが冗談で言っているのはわかるが取り敢えずリズの経験のおかげだと持ち上げながら、既に目をつけられていた事に渋い顔をする。

 

「トーマといると魔物を見つけるのも早くなるし、ギルドに売る素材も傷が少なく綺麗なままだから目立つのもしょうがないのかも」


 一日、二日の日程で依頼を出してもその日の午前中に完璧な素材を出すんだからとリズが言うが、時間を効率的に使うには早く仕事を終わらすのは必要なので難しいなと考える。


 そしてストレッチを終え身体強化の訓練を一時間、本格的な組み手を三十分程すると清浄の魔法をかけてレイナを迎えに行く為に薬屋に向かう。


 ギルドを出る時に、セラに昼御飯を食べたらレイナと一緒に登録に来ますと伝えておく。


 ギルドを出ると直ぐに空間把握をかけながら歩く。空間把握を使うと意識が引っ張られ、簡単な会話しか出来なくなるので町の人によく話し掛けられる俺はなるべく町では使わないようにしていたのだが、昨日の事もあり、警戒の為に今日は朝から外を歩く時はずっと使っている。なので挨拶以外の町の人との会話はリズ任せだ。


 把握出来る範囲に特におかしな反応は無いので何事も無く薬屋に着く、レイナを一人待たす訳にはいかないと早めに来て待ってると、昼を知らせる鐘が鳴って少ししてレイナが出てきた。


「店では特に変わった事は無かった?アイツら店まで来そうだけど」


 リズがそう聞くとレイナは首を振りながら変わりは無いよと答える。


「あと、少し面倒な事になってる事も話をしてね、それで冒険者になるのを早める事を伝えて今日で終わりにしてもらったよ。でも忙しい時は手伝いに来ますって言ってね」


 レイナがそう笑顔で言うので問題無く店を辞める事が出来たようだ。そのままリズとレイナが会話、俺は空間把握をしながら宿に向かう。


 宿につくと相変わらず盛況な食堂に行き、何とか席を見つけて三人で座る。

 こんな盛況なのによく夫婦二人で店が回るなと考えていると手の空いたジーナが注文を取りに来たので三人分の定食を頼んだ。


 料理を待つ間にレイナにもギルド長に会う事を伝え、何か条件を言われるかもとセラに言われた事を話していると料理が来たので一旦会話をやめて食事をする。


 相変わらず美味しいノーデンの料理を食べ、少し休憩しながら飲み物を飲んでいたが、食堂にはどんどん人が入ってきて全然人が減る気配が無いので、食べ終えた俺達は席を開けようと早めにギルドに行く事にする。


 忙しそうなジーナを見つけギルドに登録に行く事とギルド長に会う事を伝え、セラに普通じゃないと言われた事を話すと、あぁアイツはねと何かを言おうとするが、直ぐに他の客から声が飛んで来たので取り敢えず会ってきなと言われて宿を出る。


 ギルドに向けて歩いていると空間把握によく知った気配を感じる。

 この魔力はセラだ。


 俺の空間把握は範囲内の魔力を捉えて見るスキルのようで、個人個人で魔力は微妙に違うので何度も空間把握で捉えた人は認識出来るようになるのだ。


 セラが来る事を二人に伝え、気配の方に行くとセラは丁度昼食を終えギルドに戻る所だったらしく、四人連れだってギルドに向かう。


 四人でギルドに入り、セラはカウンターの中に行き、レイナをセラの向かいに座らせる。


「レイナちゃんには説明はいらないかな?」


 そう言いながらセラが土気色の紙を出すと、俺は自分の時を思いだし懐かしくなる。

 たった三ヶ月前なのにと考えていると登録が終わったのかレイナがカードを受け取っている、レイナも俺達と一緒に、ある程度の魔物を討伐しているので最初から銅級だ。それを見て見習いから始めたリズが二人供ズルいと言っているが、レイナがお姉ちゃんのおかげだよと言うと、リズはまあねと言って胸を張る。


 俺は普段はあまり目が行かないようにしているがリズの胸は薄い、レイナは十二歳にしてリズより少し大きい。


 この三ヶ月でリズやレイナ、セラという女性との付き合いも増えたおかげで異性に慣れて来た俺は、最近になって漸く異姓の事を考える事が出来るようになっていた。

 今までは男も女もただの他人としか思っていなかった俺には結構な変化だ。

 ただ、セラの胸に一度目が向きそうになった時にゴブリンを察知した時よりも嫌な予感がしたので、セラにはそういう視線を向けないようにしている。


 セラは多分、冷たい笑顔と温かい笑顔の二種類のスキルを持っているのだろう。


 俺が下らない事を考えていると会話が終わったのか、セラがいつもより事務的な感じでそろそろ行きましょうと言うので少し冷や汗を流しながら階段に向かう、まだ四の月で冬には早いはずなのに寒いな。


 ちなみにこの世界の暦は地球と違い十に別れている、そして人間の住む大陸の中央は四季があり日本と似ているようだ。

 夏には雨季もあり冬には雪も降る、五の月は女神様の季節で二つの月が一番大きく影響する月だ。


 閑話休題。


 セラに先導され階段を登る、初めてのギルドの二階だ。

 酒場が併設されている一階と違い、フロア全てが使われているのでかなり広い、二階は銀上級以上しか使えず、銀上級以上になるとパーティーを組むのが普通なので話し合いの為かテーブルが一階よりも多目に置かれている。


 リズも二階は初めてなのかキョロキョロしているがギルド長の部屋は三階になるのでそのままセラについて階段を上がる。


 階段を上がると目の前に大きな扉がある、 周りにも幾つかの扉があり、三階は職員の仮眠室とギルド長の部屋になっているみたいだ。


 セラが大きな扉をノックして連れてきましたと言うと入って良いぞと返事が来る。


 セラが扉を開けて先に中に入りその後に三人で入る。

 中に入ると直ぐに声をかけられた。


「よく来たね、最近職員の間で噂になっているトーマ君」


 声のする方を見ると緑色の髪に先の尖った長い耳、綺麗な眉と横長の目、細く高い鼻筋に少し細目の唇、非常に整った顔に透けるような白い肌の二十代前半くらいの、白いワンピースを着た女性が立っていた。


 凄い綺麗な人だな、少しセラさんに似てる?でもこんなに若くてギルド長なのかと思う、がまずは挨拶をと思い直ぐに頭を下げる。


「銀下級冒険者のトーマです、今日は少し相談があって来ました」


 そう言うとギルド長は含み笑いをしながら挨拶を返してきた。


「ギルド長のスゥニィ・フゥドだ、それにしても初対面でここまで普通に挨拶をされたのは初めてなんだが、トーマ君は私以外の森人と会った事があるのか?」


 言いながら、取り敢えず座りなさいと促されたのでじゃあ座ろうかとリズとレイナに目を向けると二人とも目を丸くして固まっていた。二人の反応を不思議に思いながらも俺が座ろうかと声をかけると、二人はぎこちない動きでなんとか来客用の大きなソファに座る。


「で、さっきの質問なんだが、トーマ君は森人に会った事があるのかい?私以外の森人が集落の外に出たという話は聞いてないのだが」


 そうギルド長に聞かれるが何故そんな事を聞かれるのかわからない、まだ女性の魅力に頭が回らない俺にとっていくら綺麗だろうが可愛かろうが、親しく無ければただの他人だ。ギルド長を目にした感想はそれで終わりで、その次の感情が出てこないのだ。


 リズと最初に会った頃は異性に免疫が無くて挙動不審になったが今は普通に話を出来る程度には免疫も出来ている。


 俺は何か変な事でも言っているのかとリズに助けを求めようとしたがリズは固まっている。仕方無いので世間知らずの設定で話をする事にして口を開く。


「森人を見たのは初めてなんですが、自分はこの町に来るまで凄い遠い所で暮らしていて、それで世間知らずなので何か失礼があったのならすいません」


 そう言って俺が謝ると、ギルド長はいやいやそういうことじゃあ無いんだと手を振る。


「森人ってのは人間から見るとかなり魅力的で綺麗に、それこそ芸術品のように見えるらしくてね。それと滅多に集落からは出ないんだ。だから初対面の人には毎回驚かれるんだよ、そこの二人は少し極端だがね」


 楽しそうに話すギルド長、俺もレイナから少しは聞いていたので森人が珍しい事は理解していたが、それがどれほど珍しいかは詳しく聞いていない。


 少し話が逸れるが、森人の事をレイナに聞いた時に、リズに森人の事を聞くと話が止まらなくなるのでリズには聞かない方が良いと忠告されていたのでリズには聞いてない。

 それでレイナからは、森人は総じて顔が整っていて、南の森に住んでいて、そして魔法が得意な種族という事くらいしか聞いていないのだ。


 目の前のギルド長はレイナから聞いていたように確かに顔が今までに見た事もないくらいに整っている、それは俺にもわかるのだが、だがそれも俺にとってはただ綺麗で終わってしまうのでリズ達がここまで驚く理由がわからない。

 それよりも自分の事を自然に、普通に芸術品と言える自信が凄いと思う。ここは容姿を褒めるべきだったのだろうか?


「えっと、すいません。ギルド長は凄い綺麗だとは思いますが、自分は女性とちゃんと話をするようになったのはリズが初めてでそれも最近の事なんです。なのでまだ女性の事がわからないので、ギルド長の事はセラさんと同じ綺麗な女性としか思えません」


 するとギルド長は笑い出す。


「あっはっは、セラ聞いたか?私とお前は同じ様にしか見えないんだと、自分で言うのもなんだが良かったな」


 話を向けられたセラは、頬を少し染めてはいるが無表情で答える。


「ギルド長、トーマ君は言ってはなんですが感覚がまだ子供なんだと思います。子供が芸術品を見ても理解出来ないようなものです」


 セラにそう言われてギルド長はそういうもんかと答え俺を見る。


「だがまぁ確かに面白いな、職員の噂になるのも頷ける。驚いてくれなかったのは森人としては悔しいが横の二人がそれ以上に驚いてくれたのでいいか」


 ギルド長はそう言うとセラの入れてくれたお茶を飲む。


「ほら君らもお茶を飲みなさい、セラの入れてくれたお茶は美味いぞ。それで落ち着いたら横の二人も挨拶してくれ」


 ギルド長がそう言うとリズとレイナはハッとした顔をして頭を下げる。


「し、失礼しました!銀下級冒険者のリズです。トーマと妹のレイナとパーティーを組んでます。今日はよろしくお願いします」


「今日から冒険者になった銅級冒険者のレイナです、よろしくお願いします」


 二人が挨拶をすると、取り敢えずお茶を飲んで落ち着きなさいとギルド長に言われる。

 セラは挨拶も終ったようなので戻りますと言って部屋を出ていった。

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