第17話 トーマの責任
夕飯の準備が出来たので食堂に行き、ジーナに三人分のメニューを頼んでから席につく。
「まずね、レイナを冒険者登録して三人で正式にパーティーを組もうと思うの」
リズがそう切り出してくる、レイナも頷いている。
薬屋さんはどうするのと聞くとそろそろ辞める事は伝えていたので少し早くなっても大丈夫ですと言ってくる。
どうやら二人であの後話し合ったらしい。
「正式にパーティーを組むと強引な勧誘はルール違反だからね」
俺が頷きを返すのを見てリズが話を続ける。
「それでギルド内では強引に来ないとは思うけど、問題は依頼で外に出た時なんだよね。外だとそれこそ私達を殺してでもレイナを奪いに来るだろうし、レイナが拒否したらレイナを殺しても別にいいって考えを持ってると思うよ」
リズの言葉に納得する。
ああいう奴等は理不尽を押し通そうとし、理不尽が通らなければ全てを壊してもいいと思っている。
そして厄介なのがロビンズの金下級という肩書きだとリズが言う、冒険者は金級に上がると貴族との付き合いが増えるのだ。
そして金級の肩書きと貴族の後ろ楯で強引な事もするし、なかなか罰する事も出来ない。
リズの村を襲ったラシェリもその後に、レイとシェリーが町のギルドや王都のギルドにラシェリの凶行を訴え出たが、ラシェリの後ろ楯である貴族の力がかなり強く、ハッキリとした証拠も無く証人も村から逃げた子供のリズとレイナ、そして銀上級のレイとシェリーでは通じなかった。ここに金下級だったエーヴェンや村長であるトーリの証言があればまた違ったんだろうけどねと悔しそうに話すリズ。
それほど貴族の力と金上級という肩書きは強いのだ。そして金下級のロビンズはラシェリほどでは無いが、それでもある程度の強引な事はしてくるはずとリズは言う。
「どうしようか、死角が多い場所では空間把握を使うからどこで襲ってきても対処は出来ると思うけど」
空間把握は俺がラザの町に来た時に使えるようになったスキルで、半径五十メートル程の物や人の持つ魔力を感知出来る能力だ。
活性化が消えて魔眼が真眼になった時にスキル上では真眼と一緒になっている。
「問題はその後の後始末なんだよね、殺して終わりなら楽なんだけど」
リズが当然の様に物騒な事を言うが、この世界では別におかしい事でも無い。盗賊に襲われたら殺すか殺されるかだし、冒険者同士の揉め事でも正当な理由があればその場で殺しても罪には問われない、それが例え町の中でもだ。
町の外では殺してギルドに正当な理由を言えば、言った方にある程度の肩書きがあれば深く追求されたりはしない。
リズ達の住んでいた村を襲った金上級のラシェリも、返り討ちして村の村長のトーリと金下級冒険者のルーヴェンがギルドに話を通せば、後ろ楯の貴族も死んだ者の為に強引な話は通さずラシェリは犯罪者として名前が残っていたはずなのだ。
問題は俺達に何も肩書きが無い事である。
リズとレイナはまだ人を殺した事が無いがこの世界で育ったので考えとしてはそこら辺は割り切っている、村に襲ってきた盗賊を父やラフが殺しているのも見ているらしい。
逆に俺から日本の話を聞いたリズ達は、俺が銀上級に上がる時に、その資格として人を殺す必要があるので日本の倫理観を持つ俺が銀上級に上がれるかを心配しているくらいだ。
ちなみに俺がバイトをしていたコンビニの話は今でも信じてもらえていない。夜中でも店が開いていて、更に女の人が一人で店を訪れる事もあると言ったら白い目をされたのだ。
俺がその時の事を思い出しているとリズが突っ込んで来る。
「トーマ真面目に考えてる?」
そう言われて俺は、慌ててコンビニおでんの味を頭から追い出しリズに向き直る。
「う、うん、ちゃんと考えてるよ。肩書きかぁ」
「私達を責任持って守るって言ったんだからシッカリしてよね」
リズが呆れ顔でそう言うと隣で聞いていたレイナが早口で乗ってくる。
「そっ、そうですよ。トーマさん、ちゃんと自分の言葉に責任を持って私の事も責任を取って下さい、来年はトーマさんは成人ですからね、自分の事以外にも責任が取れる年齢なんですからね」
それを聞いて今度はレイナに呆れ顔を見せるリズ、どうやら妹はトーマに責任を取って欲しいらしい。
この世界では男は成人が十五歳で、成人すると結婚出来る。
女の方は成人は十四歳だが結婚は十二歳から出来る事になっている。
そんな事を知らない俺は、自分以外にも責任?自分で言った事だけどなんだか責任だらけだなぁと息を吐く。
そこにジーナがニヤニヤしながら料理を運んできた。
「なんだか楽しそうな話をしているね、またレイナちゃんの早とちりじゃなきゃいいけど」
そう言いながら料理を並べるジーナに、レイナが頬を染めながら金下級冒険者に狙われている事を簡単に説明する。
するとジーナがなんだそんな事かいと答える。
「それならギルド長に話を通せばいいんだよ。ギルド長に話を通せばある程度の揉め事は解決してくれるはずだよ」
ギルド長?とリズが答える、二年以上冒険者として活動しているリズでもギルド長には会った事はないらしい、冒険者歴三ヶ月の俺も勿論そうだ。
そんな人もいるんだと聞かされ、職場の揉め事は職場の上司に相談するようなものかと納得していると、さあ早く食べなとジーナに促されたので取り敢えずジーナに話の礼を言って料理を食べる。
食事を終えて三人で俺の部屋に集まると明日の話をする。
「まずはギルドに行ってレイナの冒険者登録をして、そのままセラさんにギルド長の事を聞いてみようか」
リズがそう言うと、レイナが午前中は薬屋に行き仕事をして、その時に冒険者になる事を伝えると言うので、明日は午後からギルドに行こうという話しになった。
じゃあまた明日と二人が部屋に戻ったので俺はここ三ヶ月日課になっている、寝る前の訓練をする。
まず右目に魔力を通し空間把握の練習をする。
最初は建物などの囲まれた場所の中は把握出来なかったが、真眼と一緒になってからは開けた場所はあまり変わらないが囲まれた場所でも五メートルくらいなら壁の向こうも把握出来るようになったのだ。
見る方向も意識を向けた所だけだったが今は何度も練習を繰り返し、全体に意識を散らす事で自分を中心に俯瞰で見れるようになった。
俺が空間把握の練習をしていると隣の部屋の動きが見える、更に意識を向けて詳しく見るとリズが体を拭くのか風呂場に入ったようだ、慌てて空間把握を切る。
「人の動きを見るのが一番練習になるんだけど流石に風呂は無理だな」
そう呟き深呼吸をして浮ついた気持ちを落ち着ける。
空間把握の練習が出来なくなったので次は魔素操作だ、魔素操作は魔力になる前の、魔素と呼ばれる大気に含まれる力を操作出来る能力だ。
普通は魔素を体に取り込んで、そこで体の中で魔力にし、その魔力を使って大気の魔素にイメージを乗せて魔法を使うのだが、魔素操作を持つ俺なら自分の体から一メートルくらいまでの距離の魔素なら魔力を使わず操る事が出来る。
遠距離への魔法は魔力を使わないと無理だが、身に纏うような魔法は魔力なしで使えるようになった。
俺はその力を使って、先に覚えていた体内に魔力を巡らせる身体強化と、外側から魔素を身体に纏い内と外から身体を強化する事で身体操作のスキルを得た。
その身体操作の力を使いゆっくりとした動作で体術の練習をする。ゆっくりとした動きは体勢を維持するのに負荷がかなりかかるのでかなりキツいが、身体操作の感覚が体に馴染むので普通に身体を動かすよりもかなり効率が良いのだ。
俺はこの訓練と合わせて真眼で魔力の正しい流れを見て教える事で、本来は身体強化が使える人に習って一年以上かけて習得する身体強化を、リズとレイナに三ヶ月で覚えさせた。
そうやって身体操作の訓練を二時間ほど続けるとかなり汗だくになる。訓練に満足した俺はまず床の汗を綺麗にする、これには俺が作った生活魔法の清浄を使う。
リズから習った生活魔法は着火や飲水と言う生活に必要な誰でも使える簡単な物だったが、ドライヤーやクリーニングのイメージを持つ俺が乾燥や清浄の魔法を覚えてリズとレイナにも教えると、二人からはかなりの好評を得られた。
清浄の魔法で床と体の汗を綺麗にすると最後は魔力解体だ。これは魔素操作の延長なのでスキル欄には無いが俺が一番時間を割く練習だ。
まず部屋の中央に胡座をかくと空間把握をする、そして目を閉じると自分で攻撃魔法を作り天井から落とす。それを空間把握で感知しながら一メートル以内に入ったところで魔素操作で魔法に込められた魔力を解体する。
これで簡単な魔法なら体に届く前に魔素に変えて霧散させる事が出来る。
大がかりな魔法は完全に消す事は出来ないがそれでも多少なりとも威力を殺す事が出来るはずだ。それに身体操作をしている事も合わせると結構な威力の魔法にも耐えられると考えている。更に熱耐性を持つ俺はある程度の火系の魔法なら完全に無効に出来るかもしれない。
日本で暮らしていた俺は、この世界ではすぐに死ぬような驚異が近くにある事がわかるので防御の方をかなり優先している。なので今は魔力解体を重視している。
俺には魔力回復のスキルがあるので人よりも長く訓練が出来る。
この魔力回復のスキルは大気中の魔素を自動で体内に入れて魔力にして回復するスキルなので、部屋の魔素が無くなれば効果が悪くなる。
体内の魔力が無くなってくると呼吸がしにくくなり体力を使い果たした様な疲れが身体を襲い異様に眠くなる。
俺はその症状が出る深夜まで訓練を続け、魔力が減って魔力切れの症状が出始めると、何度か清浄の魔法をかけて漸く眠りに落ちた。
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