第20話 異邦人の立場
宿に着くとまだ夕飯時には早いので、ジーナに戻ったことと夕方の鐘が聞こえたら夕食を食べに降りて来ますと言って部屋に戻る。
そして俺の部屋に三人で集まる。
その間、レイナがずっとリズを半目で見ていた。
部屋に入り、リズとレイナはベッドに、俺は椅子に座る。
「お姉ちゃん?」
「はい、すいません。酷い失敗をしました、本当に反省しています」
リズが真面目な顔で頭を下げ、レイナに謝るが、レイナは相手が違うでしょと言って俺を指差す。
「トーマごめん!ギルド長が森人って事だけでも信じられなかったのにまさかの森人の祖だったから興奮しちゃって」
両手を合わせて謝るリズを、大丈夫だよと宥める。
「確かに失敗だったけど向こうも秘密にしてくれるみたいだしさ、今回はしょうがないよ。二人の様子を見てると森人の祖ってそれほど凄い人なんでしょ?」
その言葉に、リズがそう!そうなんだよ!と反応した所でまたレイナに怒られる。
「お姉ちゃん反省してない!私もビックリしたけどトーマさんの事は一番言っちゃ駄目な事だよ」
レイナが本気で怒っているので俺が横から宥めるが、今度は矛先がこちらに向いてしまう。
「トーマさんも甘いです。あの事が知られたら普通は町の詰所で見張りつきの軟禁、その後は王都から騎士団が出てきて護衛という名目の見張りつきで王都まで連れていかれる所ですよ」
俺がそこまでなの?と聞くとレイナは大きくため息をする。
「お姉ちゃんならわかるよね?」
レイナは一度リズに鋭い視線を飛ばしてから話始める。
「森人の祖は確かに一生で一度見れたら凄い事です、でも異邦人というのは五百年前の文献に記述が残ってるだけって存在なんです。確かに存在は信じられてますが、今の世では森人の祖が見た事があると言われてるくらいの存在なんです」
レイナが一気に喋るとリズは項れ、俺は五百年前という単位に想像がつかず呆気に取られる。
「それらしい人や自称での人はたまに出るんですが、その手の話に少し詳しいだけだったり人より少し能力が高いだけだったりで偽者とされてます。トーマさんが自分の事をお姉ちゃんに話したのはこの世界で初めて会った人だからしょうがないけど、本当は私に話すのはやめてもよかったんですよ?そのくらい慎重にならないといけない事なんです。ただ、私に話してくれたのは本当に、凄く嬉しかったですけど」
喋りながらレイナの口調は穏やかになったが、声の小さくなった後半部分では先程怒っていた時よりも顔を赤くしている。
その様子を見て、落ち着いてきたけれどまだまだ怒ってるのかなと思い、俺の事を本当に心配してくれているんだなと真剣に謝る。
「自分の立場はわかった。次からは軽々しく自分の事を言わないように気を付けるよ。心配してくしてくれてありがとう」
謝る俺にリズも続く。
「そうだね、いくら興奮してたと言っても軽率だったね。本当に反省したよ。私もトーマが連れていかれたら嫌だからね」
それで納得したのかレイナは三人で気をつけましょうとこの話を締める。
レイナに異邦人の事を話した時から急に甘えて来るようになったのは、周りに知られると俺がラフさんのように居なくなるかもって不安になったのかもな。
「それで、本当は言っちゃ駄目な事なんですけど、今回はギルド長を味方にする事が出来そうなのでそれは心強いですね」
レイナがそう言うとリズと俺も頷く。
「反省は本当にしているけれど、結果的にはトーマの事を知って更に興味が出たのかロビンズ達の事が終わっても目をかけてくれそうだしね。後は私達がアイツらを返り討ちに出来るかだね」
リズに出来る?と聞かれ、俺は二人を見回す。
「……出来るよ。昨日は自棄になって考え無しに動こうとしたけど、今度はちゃんと二人を守る為にする事だから」
俺がそう言うと二人は微笑んだ。
「トーマさんだけに任せる訳じゃなくて三人でですからね」
「そうだね、それに明日からのギルド長の指導で更に強くなれるはずだからね」
レイナとリズがそういい、話が纏まると丁度夕方の鐘が鳴ったので、そろそろ夕飯の時間だから一旦部屋に戻るねと二人は出て行った。
俺は少し疲れたのでベッドに仰向けになる、そして森人の事を考える。
確かに綺麗だったけど現実味が無いっていうか、芸術品と言われれば確かにそうかもなと思う。
俺にはリズやレイナの方が身近で可愛いけどな、セラさんも微笑むと可愛いし。
そうやって俺は異性の事を考えながら夕飯時までうつ伏せになる。
コンコン
「トーマ、そろそろ下に行くよ」
扉を叩く音でウトウトしていた意識が覚醒し、いつの間にか眠ってしまっていたなと思いながらリズに今行くと声をかけて部屋を出る。
三人で食堂に行き、ジーナに注文をして席に座ると森人の事や未だに見たことのない獣人と鱗人の事を話す。
話をしているとジーナが料理を運んで来たので会話をやめて食事をする。
そして三人での食事を終え、飲み物を飲んでいるとジーナが席に腰掛けてくる。
「で、どうだった?」
ジーナに聞かれ、ちゃんと話は出来ました、色々条件はありますがと答える。
「そうかい、最近は会えていないけどスゥニィは約束は必ず守る奴だ。だからアイツが承諾してくれたら大丈夫だ」
ジーナが笑ってそういうので俺達は安心する。ジーナは俺達がこの町で一番世話になっている人だし一番頼りになる人だ。
「そう言えばジーナさんは昔は冒険者だったんですね。色々と理解があるとは思っていましたが経験者とは思わなかったです」
俺がそう言うとリズとレイナも頷く。
「ははっ、まあ若気の至りってやつだよ。スゥニィと旦那のノーデン、そして後半はタインも加えて色々と旅したもんだ。あんたらももう少し成長したなら旅にでも出てみな」
ジーナにそう言われて俺達は顔を見合わせる。
「あんたらは評判もいいし、この町は居心地が良いかもしれないけどね。若いうちに旅をしないと成長するのが難しくなるよ、なんたって冒険者なんだからね」
ニッと笑顔を見せるジーナに、俺達は戸惑いながらも頷く。
ジーナは客が降りて来たので、旅に出る事も真剣に考えときなと言って席を立っていった。
ジーナを見送ると俺達は口数が少なくなる、飲み物も無くなったので部屋に戻る事にした。
ジーナに明日の朝、スゥニィが呼びに来ることを伝えお休みなさいと言って部屋に戻る。
そのまま部屋の前でまた明日と別れてから部屋に入り、ベッドに寝転びながらジーナに言われた事を考えてみる。
この町は居心地がいい、町の人にも受け入れられてると思うし、ギルドでも評判は悪くないと思う。
問題は何も無いはずだ、でもそれだけじゃあ駄目なんだろうか。
先程のジーナの言い方と表情は、町を出て旅をした方が良いと確信しているようだった。
何となくジーナの言うように旅に出た方が良さそうな気がするが俺一人では判断が出来ない。
なのでまずは目先の問題を片付けてからリズとレイナに相談しようと決め、日課の訓練を魔力が無くなる深夜まで続けていた。
翌朝、何時もより少し早めに起き、準備をしてからリズ達を呼びに行くと、向こうも準備を終えていたので食堂に向かう。
食堂につくとフードを目深に被った人物が食事をしていて、その前にジーナが座っていた。
ジーナが俺達に気づいて手招きをする。
ジーナにおはようございますと挨拶をしながら側まで行きフードの人物に目を向ける、フードの人物はスゥニィだった。
スゥニィにもおはようございますと挨拶をすると、お前らも飯を食えと言われたのでジーナに注文して席につく。
そして軽くスゥニィと今日の予定を話し、料理が来たので急いで食事を終え、先に食事を終えてジーナと話をしていたスゥニィと一緒にジーナに挨拶をして四人で宿を出た。
宿を出ると空間把握を使い辺りを警戒しながら真っ直ぐ門に向かう。町の人と朝の挨拶をしながら歩いていると、全身をフードでスッポリ覆ったスゥニィが珍しいのか町の人にチラチラ見られる。だが朝の忙しい時間なので特に何も言われず門につく。
門番のタインに門の外に行くと声をかけていたらスゥニィに気づいたタインが驚いて目を見開く、そして不思議そうに俺達とスゥニィを交互に見るので、レイナが狙われている事を簡単に説明してスゥニィに協力を頼んだ事を説明する。
説明を聞いてタインはそ、そうかと頷いていた。
門の外に出て森に向かう途中、スゥニィが話かけて来た。
「トーマ、お前はあまり魔力探知に慣れてないのか?」
そう聞かれたので今までは魔物を探す時とギルドでの訓練所、宿で寝る前に使っていた事を話し、町中で使うようになったのは昨日からですと話すと何故だと聞いてきた。
まずは魔力探知ではなく空間把握という能力だと説明し、それから空間把握を使うと他の事に集中が出来なくなる事を説明する。
「俺のスキルは魔力探知ではなく、空間把握というスキルなんですが、使うと有効範囲の情報に意識が割かれてしまうので使ったままだと町で会話をする時に上手く喋れなくなるんです」
空間把握と聞いてスゥニィは少し驚いた顔をしたが、そうかと言った後、取り敢えず森の中に入るぞと言ったので四人で森に入っていった。
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