第11話 リズの妹


 

 リズと二人、ここまで来た道を戻り門まで歩く。


 門につくと丁度町に入ってくる人との手続きが終わったタインが此方に気付き、声をかけてきた。


「おっ、無事に登録出来たみたいだな」


 タインは俺が貰いたての真新しいカードを差し出すと、右手で受け取りながら軽く確認してカードと一緒に金貨を返す。

 そのまま俺の左肩に手を乗せ、もう片方の手を伸ばしてくる。

 俺が反射的に手を取り握手をするとニヤッと笑う。


「ようこそラザの町へ、これからの活躍を期待してるぞ。その顔で十四歳とは思わなかったが腕前はリズ君が保証してるしな」


 そして握手をしたままの手をグイッと引き寄せ、小声で喋る。

 リズちゃんをよろしく頼む、色々と。

 そう言いながら手を離し、ニカッと笑うとじゃあまたなと門に戻っていく。


 よろしく?色々と?まぁリズは絶対に守るつもりだけどなと思いながら少し離れて待っていたリズの方に歩いていく。


「よし、じゃあ次はトーマの装備の事もあるし武器屋さんに行こう、わからないことは歩きながら話すから」


 二人で歩きながら、目的地につくまでにリズから色々と説明を受ける。

 歩きながらなので簡単にだが、この世界での時間や季節も地球と変わらない様だった。


 季節などの詳しい事は追々聞く事にしてまずは町で暮らす時に必要な事をリズに聞き、色々説明されながら必死に覚える。

 他にも冒険者の暗黙のルールなどを聞いていると、登録した時の事を思い出す。


「そう言えば、登録した時の事だけど、あの文字が浮き出る紙ってどんな仕組みなの?」


「あぁ、ごめん忘れてた。あれはね、特殊な紙で作られていて、あの紙に魔力を通すとその人の簡単な履歴が登録されるんだよ。スキルとかまでは無理だけどね。種族や犯罪歴なんかも出るし、魔族が人に化けてる事もあるから、犯罪者や魔族が登録出来ないようになってるんだ」


 魔力は嘘をつけないからねと言いながら、その仕草が余程気に入っているのか、世界の成り立ちの説明をしてくれた時のように人指し指を立てて説明するリズ。


「でもトーマには魔眼があるから騙される事はないね」


 そう言われ自分のスキルを思い出す、人のステータスを勝手に覗くのは悪いと思い、ここまで全然使っていなかったが魔族が人に化ける事もあるのなら、怪しい人がいたら使ったほうがいいなと思いリズに伝える。


「そうだね、無闇に使おうとは思わないけど怪しい人がいたら使うよ。リズも怪しいと思ったら教えてね」

 

 その答えを聞いてリズは一瞬目を見開くがすぐに微笑み、前を向きながらトーマはやっぱり優しいねと呟く。


 優しい?少し不思議に思ったがそのままリズに連れられ、表に看板を出した店が立ち並ぶ区画まで行く、そして武器の絵が描かれた看板がある店に入る。


 ごめんくださいと言いながら店に入るリズについていくと、店の中には沢山の武器や防具が陳列されていた。


 店内には見た目では用途のわからない武器が沢山ある、武器の実物など見たことの無い俺には全てが珍しい。

 キョロキョロと店をうろつく俺を置いて、リズは店の人と何やら話をしている。


 俺が店の中をウロウロしながら暫く武器を眺めているとリズに呼ばれたので、カウンターの方に歩いていくと店の人を紹介された。


「この人がこの町で唯一の武器屋のタブさん、少し偏屈だけど腕は確かだよ」


 そう紹介され、軽く会釈をしながら挨拶する。

 するとタブと呼ばれた爺さんは、ふんと鼻をならしながら俺の側によると、ジロジロと上から下まで体を見ながらゴツゴツした無骨な手で触ってくる。


 白髪をボサボサに伸ばし、同じようにボサッとした白髭を伸ばした爺さんは見た目、結構な歳だと思うが意外と力が強い。

 そして、俺の体を調べ終わったのか、わかったと言うと店の奥の作業場に戻って行った。


 今の何?と呆気に取られていると、あんな人だけど面倒見はいいんだよとリズが苦笑いする。


「武器はまだ何を使うか決めて無いでしょ?防具は時間がかかるからね、トーマを待たせて町に戻った時に、ナイトローソンリーダーの皮で防具をお願いしといたの。トーマは冒険者になるってわかってたからね。後は防具を取りに来る時までに武器も何を使うか決めなきゃね」


 さっき冒険者になるって伝えた時に良かったって言ったのはこれかと思いながら、採寸も終わったし今度は妹を迎えに行こうと歩き出すリズについて外にでる。

 外に出ると鐘の音が聞こえてきた。


 音のする方に目を向けると、この町の中でも一際高い塔のような建物があり、そこの天辺に設置されてある大きな鐘が揺れているのが見えた。

 簡単な時間と鐘の事はリズに聞いていたので丁度お昼かとリズに話かける。


「妹さんも昼休み?」


「そうだよ、私が町にいる時はなるべく一緒に食べるようにしてるんだ」


 すぐ近くだよと答えるリズと一緒に歩く。

 ちなみにこの世界の時間も地球と同じ二十四時間で、早朝六時とお昼の十二時、夕方六時に鐘がなるらしい。

 細かい時間を測るには一応時計があるらしいのだが、時計はかなりの貴重品なのでここらで見ることは滅多に無いと言っていた。


 武器屋を出て少し歩くと年季の入った小さな建物が見えてきた、大きな窓があり、外向けにカウンターがついた、日本にいるとき古い写真で見た、町の煙草屋のような構造だ。

 リズはそのカウンターから中に呼び掛ける。


「レイナいる~」


「今行くから少し待ってて~」


 姉妹のやり取りを聞きながら、リズの妹か、と少し緊張する。


 ソワソワしながら暫く待つと、店の裏手から小柄な少女が出てきた。

 リズと同じサラサラの金髪を腰まで伸ばした整った眉に青い瞳の女の子だ、髪の色や瞳の色といったリズに似た面影はあるが、元気なリズと対照的に大人しそうな、リズが体育系なら妹は文化系といった感じだ、うん、エプロンの様なデニム風の前掛けが似合っている、妹も可愛いな。


 レイナはお待たせと言いながらリズに駆け寄り、そのあと俺の方を向いて深く頭を下げてくる。


「トーマさんですね。お姉ちゃんが危ない所を助けてもらったみたいで、本当にありがとうございます」


 顔を上げ真面目な顔でお礼を言うレイナを見て、しっかりした子だなと思いながらも俺も頭を下げて挨拶をする。


「レイナさん初めまして、リズには俺も沢山助けられてるしお互い様だから気にしないでね」


 でも命の恩人ですからと続けるレイナを、この話題が恥ずかしいのか俺とレイナの間に割って入ったリズが止めて、早く行こうよと促す。

 挨拶の途中に割って入ったリズに、これだからお姉ちゃんはと呟きながらついていくレイナ。

 その二人のやり取りを見た俺は本当に仲がいい姉妹だなと思いながら後ろをついていく。

 す

 二人に遅れて歩いていくと三階建てのそこそこ大きな建物につく、看板を見てみると頭の中に風の安らぎという言葉が入って来た、確か二人が泊まっている宿の名前だったはずだ。

 文字を見るだけで理解が出来るなんて本当不思議だよなと思いながら二人について店に入る。


 木造の小さな受付がある場所を抜け、お昼時でかなりの賑わいを見せる食堂のような場所に行き、四名掛けのテーブルが空いていたので三人で座るとリズが店の説明をしてくる。


 一泊銀貨一枚と銅貨五枚で、更に銅貨五枚を足すと朝夜にご飯がつく、昼は銅貨三枚で定食が食べられるらしい。

 リズと食べた串焼きが一本銅貨一枚なので百円くらいだろう、なので銀貨二枚だと二千円で一泊二食付きだ、そう考えると結構お手軽に泊まれるみたいだ。

 昼の定食も三百円ならこの盛況も頷ける。


「注文は決まったかい?」


 リズから説明を受けていると横から声がかかる、声の方をみると四十代くらいだろうか、赤い髪に愛嬌のある顔をした、スタイルのいいおばさんが立っていた。

 日本で近所に住んでいた、胡散臭い笑顔を張り付けたおばさんとは違い優しさと力強さを感じる笑顔で俺を見ている。


「あんたがトーマだろ?リズちゃんから聞いたよ、危ない所を助けたんだってね。リズちゃんは二年も面倒を見てるからね、娘みたいなもんだ。ありがとうね」


 おばさんは軽く頭を下げながら更に捲し立てる。


「今日はお礼に私が奢るから遠慮しないで食ってきな」


 快活にそう言うと、そう言えば名前を言ってなかったねと笑って挨拶をする。


「私の名前はジーナだ、この宿屋の女将ってやつさ。二十年はこの店をやってるからね、わからないことがあったら何でも聞いてきな、かなりの世間知らずなんだろ?」


 一気に捲し立てられて圧倒されるが、気を取り直してしっかりと挨拶を返す。


「初めましてジーナさん、今日から冒険者になったトーマです。よろしくお願いします」


 挨拶をしながら頭を下げる、横で見ていた二人も俺の挨拶が終わったのを見るとジーナに声をかける。


「ジーナさん私はお昼の定食お願いします」


「私はさっきトーマとフラムディアの串焼き食べたから飲み物だけお願い」


 ジーナは二人の注文を聞いて俺にもう一度目を向けてくる。

 俺も串焼きはリズ以上に食べたがまだ食べれそうだ、それに折角の好意だしと思いレイナと同じ定食を注文する。

 ジーナはあいよと言いながら戻っていった。


 リズは料理が来るまでに、俺が今日冒険者になった事とこれからリズと組んで活動する事をレイナに話す。

 二人で組む事を反対されたらどうしようとレイナの反応を待つが、レイナはこれで少しは安心ですと言ってくれたのでホッとした。

 世間知らずだからこれから迷惑をかけるねと話をしている所に料理が来たので話を中断して料理を食べる。


 三百円の定食は柔らかいパンにシャキッとしたサラダ、人参やジャガイモに似た野菜と大きめの肉が沢山入ったスープだ。お代わり自由と言われていたのでシチューの様なスープを二回お代わりして満足する。

 俺のお代わりをジーナは微笑みながら、リズは串焼きも食べていたのにと呆れながら見ていた。


 そして食事を終え、レイナは薬屋の手伝いに戻って行った。


「トーマも疲れてるでしょ?私もまだ疲れてるから部屋で少し休もうか」


 リズにそう言われ頷くと、ジーナを探す。

 一緒に活動するなら同じ宿がいいと言われ、食器を下げに来たジーナに宿の空きがあるのを確認していたのでジーナに軽く挨拶をし、鍵を受け取ってから二階に上がる。


 リズと一緒に二階に上がり部屋を案内される、俺の部屋はジーナの好意なのかリズ達の隣だった。


 鍵を使ってドアを開け、リズにじゃあまた後でと言って部屋に入ろうとするとリズもついてきた。


「ん?どうしたの?」


 振り返りながらリズに聞くとリズは俺を追い越し部屋に入る。


「トーマは部屋の使い方わからないでしょ、その説明」


 そう言いながら部屋の備品の使い方を説明してくれる。

 灯りとトイレ、風呂場の備品はギルドでの用紙と一緒で掌を乗せると魔力で動くようだ。

 動力は魔石がついていてそれで動いてるらしい、簡単な説明を受けた後は備え付けのベッドに座り、リズは椅子に座る。


 部屋はベッドと小さい机と椅子、奥に風呂場兼トイレがついているだけの簡素な部屋だ。


「トーマの防具が出来る三日後から活動しようと思ってるけどトーマはどんな武器を持つか決めた?」


 俺は武器屋で色々な武器を見ながら考えていた事を話す。


「俺は少し力が強いのかリズの剣を使ったらすぐに壊しちゃったからね。それに元々拳で戦うのに慣れてるから頑丈な籠手を使おうと思ってるよ。あと、魔法も覚えられたらと思ってる、まだ魔力の使い方もちゃんとわからないけど」


 俺がそう言うと、リズは覚えたら簡単だよといって魔力の使い方を教えてくれる。

 リズに教えられ、暫く体の胸の中心に集中してると胸の中に熱を感じた。

 この世界に来る時に、死ぬほどの痛みを感じた時の熱を、凄く弱くした感じだ。

 その熱を胸から少しづつ体の隅まで通して行くようにすると魔力を使えるようになるらしい。

 それを聞いて俺は暫く集中して魔力操作の練習をする。


 時間を忘れるくらい熱中して、体中に熱を通す感覚が掴めてきたので、少し休憩して水を飲もうと顔を上げると、リズは椅子に座りながら眠ってしまったようだ。

 俺はリズをお姫様抱っこでベッドに連れていき、毛布を被せると、部屋に備え付けの水差しからコップに水を入れ、一息に飲むと大きく息を吐き、再び練習に熱中していく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る