体のありか

 月末の「こんしんかい」の準備もきょうだ。行き過ぎたお巫山戯ふざけを好むすみも今は口をきっと横に引きベッドの上でようついからケーブルを伸ばしたままぶっちょうづらめいそうしている。

 いつも通り左手が耳のあたりでかみねんのようなくうをこね回している。まり度は5中で4といったところだ。


 と、テキストメッセージメールが来た、とつうされた。香澄のまゆがピクリと動く。彼女を見てしばらくぼうっとしていた僕もそのぐさに不安なものを感じてメッセージを開いた。

subject件名: 第2回懇親会出資者要求についてのご相談

 なるほど、おんだ。『読め』とあんがおの中で香澄の目がげる。


 メッセージに目を通した僕は思わず頭を抱えそうになった。そればかりかきんのどの奥までせりあがっていた。香澄が通知をす。


(私の体が行くしかないんじゃないか?)


 とう。妥当だ。香澄の提案はほとんどの場合、そうだ。それでも(いや)とタイプしたけれど、そこで指が止まる。

 要求は ないこっかくを見せて欲しい、というものだ。しかもせきちゅうきょうこつ。せめてしゃっこつとかなら悩まずに済んだかもしれないのに。

 考えている間に香澄からさらにメッセージが届く。


(こいつが見たいタイプの骨は他のプロトタイプ有栖と鈴鹿には使われてないし、今後は分からないけど、少なくとも第一世代のプロダクションモデルには使わないでしょ。このあいだ予備を船便でオスロに回しちゃったし、それで在庫は切れてるから新しく作ってたらわない)


(いや、でも)

「いや、でも、分解だけして不可逆的に破壊しないで見るとしたら胴部主脳コンピュータにはどいてもらうしかないけど、それは……」


 タイプの途中で耐え切れなくなって口を開いてしまう。胴部主脳は要するに香澄の脳を再現するけの中心だ。気軽に取り外すことはできない、と僕が続けようとするのを香澄は少し大きな声でさえぎった。


「私がこの体を使えないってことだ。それだけだろう?」


 他人事ひとごとみたいだ。僕はなんだかやりきれない気持ちになる。


「いや、そんなわけないよ。僕は香澄の体を所有しているわけじゃないけど、あえてこの言い方をさせてもらうよ。とうてい認められない。大体、パソコンをシャットダウンするのとはわけが違うんだ。香澄が生きるか死ぬかみたいな非常時ならともかく、下手に電源を落とすと、外せないセンサの個別の設定校正が狂うかもしれない。もしそうなったら安全性のねんもあるし、廃棄もありうる。そうすると、電源は落とせないわけだから、給電しながら胴部主脳だけ外すことになる。とすると、無眼耳鼻舌身見ることも聞くことも嗅ぐことも味わうことも触ることもできないばかりかあらゆるずい性が奪われた上で、ただ認識可能という担保だけがある、そんな想像もつかない状態に特別な準備もなしに放り込むことになる。当然ありえない。ただのごうもんになりかねない。百歩ゆずって、倫理的な問題を考えなければ放り込むこと自体はいいかもしれないさ。それで、復帰したとき何が起こる? その状態にあったことによる影響は残らない? 僕らはね、香澄、残らないとも、こんな影響が残るとも、何かしらの影響が残るとも言えないんだよ?」


 僕は一息で言った。香澄は余裕そうな笑みを浮かべたままずっと黙っている。


「そうだ。ここは多少資金面の問題が出たとしても要求を断るべきだと思う」


 早口でそう続ける。香澄はどこか優しげな顔をして僕の頭の上の手に温かい手を重ねて言う。


「分かりやすい最悪の事態があるとその最悪の事態以外起こらないと考えて、最悪の事態以外に気が回らないのは君の悪いところだと思うよ。まあ、私がここにいるのはその性質ゆえかもしれないから全面的に悪いとは言わないけれど」


「けれど?」


「簡単に思いつく解決法を見逃しているよ」

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