アップダウンのある生活
僕の彼女は、
香澄の体は、頭の先からつま先まで、税金とちょっとした技術でできていて、今もこの世で生き続けている。その機械の体で。
===
普通よりどこか未来的で冷たい街を抜け、12階のビルの裏手で自転車を降りる。
「お疲れ。
「いやいや、お前さんを運ぶためとあれば、わけないことじゃよ」
「なんだい、その口調。次からこれ、なしで運ぶかい?」
香澄がケーブルを右手で振って示す。そのケーブルは彼女の体から伸びていて、さっきまで自転車に電力を与えていた。
「ご勘弁。香澄は重いんだから」
「ほう? 女性として振る舞う人間に体重の話をするなんて。命がいらないのかな?」
「事実だろ。軽いのを使ってるけど、
「そ。じゃあ
持っていたケーブルを香澄が軽く引くと、薄いベージュのショートスカートの
「えー………」
「反省ぐらいしたまえ、
カードキーでホールの扉を開け、彼女と連れ立って入る。なぜかこの時間にも大学にいて、ホール奥のエレベータから出てきたボサボサ頭の教授に
6。
緑と白の混ざった配色の廊下を通り、3番目の重たい鉄扉をカードキーと指紋・静脈パターン認証で開ける。やや面倒だが、中にある機材がそこそこ高価ゆえだ。
僕らが入ると同時に点灯した照明に照らされた実験室の様子は、昨日21:00に帰ったときのままだ。大きく開いた窓の外に目を
彼女は窓の外を
いつまでもぼうっと窓の外を眺めているわけにもいかない。僕は窓から目を
彼女もいい加減この作業に慣れてきたのだろう。言葉をかける前から、枕元に脱いだ衣服を放り、
「ほら、始めるよ」
「了解」
ボタンを押して転送を始める。彼女が、彼女のデータが、ケーブルを通じて吸い上げられて仮想的なサーバに分散、複製、処理、加工されていく。
そう。僕の彼女はクラウドに。
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