僕の彼女はクラウドに。
下道溥
いちのひとつまえ
僕の
彼女の細い指が
コップがコトンと机の上に戻される。
「
本気さ、と気軽に答えるのには
「本気……かな。多分、いけないことはないと思う」
「いけないことって、それは技術面での話だと思うんだけれど、
「いや、いらない。そんなことをされたら香澄の前に僕が眠ってしまうよ」
「まったく。君はほんと、ある種、
妙にうまい声
「それは、どうも。ともかく、やるだけやってみないか? これが原因で死期が早まる、ってことは、多分、ないはずだから」
基礎の技術自体は、個別には、もう十分だ。今回の応用だって、猿での実験でも、成功が
「やめてくれ。そのくらいには信じてる。どっちかっていうなら、その私が
僕には、もう、何も答えられなかった。
===
「私は今、この国で一番高価な衣装を着ているに違いないな」
マイク越しに、彼女の声が入る。
違いない。頭を含めて体全体を覆うスーツ。10年前の人間が聞いたら卒倒ものの密度で、センサがそのスーツの表面に、整然と多重に並んでいるはずだ。彼女の周りを
夜の3時。いくら裁量労働が広まっても、この時間に起きている人間は少ない。
「ああ。始めるよ。しばらくお別れだ」
「あぁ。なんということ。またお会いできるかしら」
劇がかった声を最後にマイクを切る。
これから、リングは磁気をはじめとした、生体に影響がないと信じられているあらゆる手法と生体に影響があるかもしれないが大したことはないと信じられているあらゆる手法で彼女に干渉を始めるだろう。そして、体の上のセンサはその干渉の切れ目からデータを僕の手元に送るだろう。
データは僕の手元で処理されて、僕には分からない手法で、僕に分かるデータに形を変えるだろう。そして、僕はまたそれを、僕の分かる手法で、僕に分からないデータにするだろう。そして僕はそれを……。
夜の3時。人目につかないようにこっそりと。
===
香澄は、今、僕の手の届くところにいる。
香澄自身は、ひょっとするといないのかもしれないけれど、今は僕の目の前にいる。
少し太くなった彼女の指が
尤も、飲食は突き詰めると
コップがコトンと机の上に戻される。平たいレンズの表面から白さが消え、曇る前よりも、幾らかやわらかい印象の目線をこちらに送っている。満足のいく味だったのだろう。
その味を、人間と同じ意味では感じていなかったとしても。
重い病気が体を破壊し、その機能を止めても。
彼女は
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