犬が歩くと?
『犬も歩けば棒に当たる』ということわざを知っていますか?
英語だとこの犬、何と骨を拾うそうです。
これはそんな犬のお話です。
昔むかしある所に一匹の犬さんがいました。
この犬さん、誰かに飼われている訳でもなく、いつもあっちへうろうろ、こっちへうろうろと動きまわっていました。
さあ、今日はどこに行きましょう。
犬さんが向かったのは町でした。
町には人がたくさんいます。そして人に飼われている仲間の犬たちもたくさんいました。
早速散歩をしている人間とその飼い犬に出会いました。
「わん!」
犬さんは挨拶をしました。「挨拶は大切よ」と赤ちゃん犬の時にお母さん犬から教わった言いつけを今でも守っています。
だけど、人間も飼い犬も変なものを見る様な目で犬さんを見ると、何も言わずに行ってしまいました。
犬さんは残念に思いましたが、気分を替えて散歩を続けました。
しばらく歩いていると、くんくん。良い匂いがしてきます。
くんくんくん。どこから匂ってくるのか探してみましょう。
匂いの元は食べ物屋さんでした。大勢の人間が出入りしていました。
「ああ!また来やがったな!」
と、突然怒鳴られました。どうやらお店の人に残飯をあさりに来たと勘違いされてしまったようです。
犬さんは誇り高い野良犬なので、残飯をあさったりなんかはしません。
「わんわんわん!」
違うよ、違うよ。と訴えてみてもお店の人はちっとも聞いてはくれません。とうとう棒を持って追いかけてきました!
叩かれては大変と犬さんは必死になって逃げました。お店の人が投げつけてきた棒を避けた後も一生懸命に逃げました。
町外れまで逃げてきて、犬さんは「わふ」と溜め息を吐きました。
悲しいけれど、こんな日もあります。
犬さん、明日は良いことがあるといいですね。
それから何日か経ったある日、犬さんは海辺へとやって来ていました。
実は犬さん、お肉も好きですがお魚も好きなのです。
昔、野良猫の大将のお世話になっていた時に「魚は美味いぞ」と教えてもらったのです。
潮の匂いがする浜辺をてってこと歩いていきます。
ときどき足の裏が熱くなると、波打ち際を歩いたりもしました。
しばらく歩いていると、また良い匂いがしてきました。
ふとこの前の町のことが思い出されましたが、食いしん坊の犬さんはいい匂いには逆らえずに今日も匂いの元を探してみることにしました。
着いた先は港でした。網の手入れをしている人や船を直している人など沢山人が働いていました。
そんな港の一角で、漁師さんたちが魚を焼いていました。
「わんわん」
こんにちわ、美味しそうな匂いですね。と挨拶すると、
「おや?なんだお前、犬のくせに魚が欲しいのか?」
漁師さんたちは珍しそうな顔をしていましたが、親切にも焼けたばかりの魚を犬さんに分けてくれました。
その魚の美味しいことと言ったら!
犬さんは夢中になって食べました。
「あっはっは。夢中になって食べているな。骨には気をつけろよ」
と言われてすぐのことでした。
「きゃうん!」
何と魚の小骨が口の中に刺さってしまいました。
「ほら、口を開けてみろ」
漁師さんの一人が小骨を取ってくれました。
「わふわふ」
犬さんはお礼を言うと、また魚を食べ始めました。今度は骨が刺さらないように慎重に。
骨は骨でも魚の骨に当たってしまった一日でした。
さてさて、それからまた数日が過ぎたある日、犬さんは小さな村の近くを歩いていました。
そこでまたまた良い匂いがしてきました。
だけど変です。匂いは村とは別の方向からしてきます。気になった犬さんは今日も匂いの元を探してみることにしました。
「おや?お前、村の犬じゃないね。どこから来たのかな?」
匂いを辿っていくと、一人の男性に追い付きました。優しい目をした、けれどもたくましい青年です。
「わんわん」
犬さんはいつものように挨拶をした後、青年の腰に付けた袋から良い匂いがしているのに気がつきました。
「うん?もしかしてこの団子が欲しいのかな?」
「わふん!」
犬さんは誇り高い野良犬ですが、人がくれたものは食べることにしていました。捨てるのはもったいないですからね。
「あげてもいいのだけれど……。そうだ!これから僕は一仕事しに行く所なんだけれど、それを手伝ってくれないかな?もし手伝ってくれるのならこの団子をあげるよ」
「わんわんわんわん!」
そのくらいならお安いご用です。犬さんは即答すると、青年からお団子を貰いました。
こうして犬さんは青年のお手伝いをすることになったのですが……。
あれあれ?このお話はどこかで聞いたことがありませんか?
「おばあさん特製のきび団子は美味しかったかな?そう言えば自己紹介がまだだったね。僕は桃村の太郎。これから一緒に鬼退治に行くからよろしくね」
「わおん!?」
おやおや。犬さん、とっても大変な仕事を引き受けてしまったようです。
でも大丈夫。
だって私たちは太郎さんたちが大勝利することを知っていますから、ね!
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