第496話、さいごまで居残ったルーザーたちは、飛ぶことなく深い深い大地へ
『なかったことにする』、その直前まで抑え込んで。
知己が、その能力の範囲外から離れることにより、それまで抑えられていた力が反動で爆発的に高まっていく現象。
そのことに最初に気づいたのは。
その隠された特性を生かすことを考え出した相棒の法久で。
(……そうか。私がそのことすら忘れさせちゃったから)
本来なら、そのことに気づいた知己自身が『災厄』が美弥に憑いていると解ってしまったあの一度目の黒い太陽が落ちた時に何らかの対処を思いついて。
いたずらに力を高めないようにするであろう可能性もあった。
だけどキクは主である美弥が正真正銘の人類の敵として扱われることが怖くなってしまって。
……そんなこと、あるはずがなかったのに。
これで自分にもチャンスが生まれるんじゃないかって、いやしく浅ましくも思ってしまったから。
キクは気づけば自身の、さいごとなる能力【矮小皇帝】の四番目を発動していて。
それから、今の今までうまくいっているようにも見えたけれど。
それも所詮、一時しのぎにすぎなかったのだろう。
結局、二人ともが忘れていたことを思い出してしまって。
今、最悪の結果が訪れようとしている。
さいごの能力の代償により、一部の例外を除いて喋ることも人型に戻ることもできなくなってしまったきくぞうさん。
故に、何ができるわけでもないけれど。
せめて二人のそばにいなくてはと。
その場からこっそり抜け出そうとして。
今度は、麻理に。
例外のひとりにして、同胞である彼女に捕まえられてしまって。
「きゃぃん、きゃぃん!(こらぁ、はなせっ。はなすのですっ! ……くっ。最弱とうたわれたあなたにこうも簡単に捕らえられるとわぁっ)」
「だって、わたしにはキクちゃんの声きこえるもの。それに、たぶん」
「突拍子もないようにも思える話題は、私たち気を逸らすためのもの、ですか~」
「えっ? ……あぁっ、ちょっと! これはっ、どういうことですのっ? 異世が移動している?」
「ハニー、大正解。もっと正確に言えばこの異世のガワになってるワームちゃんが、だけどな。せっかく地を這うモノになったんだし、地球の反対側まで行ってみるのも一興かな、と」
未だにじたばたしている、きくぞうさんはともかくとして。
蘭にすら言わぬまま爆心地となるであろう場所から離れんとしていることに、三者三様ながらもはや抵抗の意志は無さそうにも見えた。
「ウマに蹴られたい、死に急ぎたいのならばこのオレ様を倒してから行きなされ……って当初の予定で言いたかったんだけどなぁ」
「まぁ、もう行動に移してしまったのなら仕方がないですわね。そもそもが、わたくしとしては初めからそのつもりなところはありましたから。よっし~さんを。無限の可能性をはらんだ……新しき恋が始まりそうな仁子さんを、応援したかったのですから」
「んん? えっ? なにそれ、どういうこと? ランさん、会ってから妙にやさしいなぁって思ってたけど、新しい恋って何?」
「またまたぁ。わたくし、毒タイプのモンスターのきぐるみを着ている時にこの眼ではっきりしっかり目の当たりにしましたのよ。
『何百、何千回と野垂れ死のうとも、必ずきみに会いにいく』……って!
そんなの、そんなのっ! 応援したくなるに決まってるじゃないですかぁっ」
「……っ!? そ、そそんなことっ。えぇっ? っていうかあの時ランさん、意識あったの!?」
「もちのろん、ですわぁ」
「いやぁぁっ、恥ずかしい~っ!」
きゃぁぎゃあ騒ぎ出す蘭と仁子に。
実に眼福であると、満足げに微笑む大吾。
その間にも、もう取り返しがつかなくなるくらいに。
薄闇の染まる小さな世界そのものが、ぐんぐんと下へ下へ潜っていってしまっているのが分かってしまって。
「くぅ~ん(言われてみれば確かに、こっちの気も知らないバカップルに付き合って死んでしまうだなんて、それこそ馬鹿らしくなってきました)」
「そうだねぇ。お姉ちゃんたちのことばかり考えていないで、じぶんたちのこと考えるようになってもいいのかも。……ただでさえライバルな娘、多いんだもん。わたしひとりリタイアしてる場合じゃないよね」
「きゃんきゃん?(なんと、あなたにもそのような相手が? 初ミミですよ。聞かせなさい。今すぐここで語ってみせなさい)」
「えぇー、どうしよっかなぁ」
結局。
大吾が危惧していたような流れになることはなく。
それぞれが未来を見据えて。
夢幻の未来を乗せて。
地這虫(ワーム)は地下へと。
深く深く、泳いでいく。
その先は暗く黒く、先は見えなかったが。
そうであるが故に、可能性を秘めているようにも見えていて……。
(第497話につづく)
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