第490話、その手のひらは、いつかきみのはぜる頬、なぜるために
落ちていく。
成すすべもなく。
一度目の黒い太陽が。
その、爆心地……たもとにいた少女も。
そのすぐ傍までやってきていた仲間たちも。
愛しい者を探し求めて、迷い込むこととなった者たちも。
大切なひとを見つけ出し、安堵していた少年も。
訳あってその黒い太陽が踊り狂う場所へ居合わせた者たちも。
もれなく焼き尽くし、押し潰さんとする。
その余波、脅威は。
異世、『ドリーム・ランド』内に留まらず。
切り離され揺蕩っていた時の狭間をも超えて。
遠く離れたはずの表の世界にまで影響を及ぼしていった。
(……ちぃっ、余計なことに気を取られたのもあるが、知己の愛を見誤っていたか)
わしもヤキが回ったかと。
そんな七色の奔流に翻弄されつつも、紅粉圭太はぼやく。
(少し範囲が広すぎるな。イレギュラーが多すぎる。果たしてどれだけの『死』を拾えるか)
だが、それでも。
やるべきことは変わらない。
黒い太陽……『パーフェクト・クライム』が。
皮肉にも、知己と離れたことによって、強化されたのと同じように。
圭太の能力、【紅侵圭態】も余すことなく強化されていたのだ。
こんな機会がなければ、力の使いどころがなければ。
むしろ圭太の力が暴発して、『死』を世界に振りまいていたのに違いなくて。
「出来うる限り、拾おうではないか。
共にゆこう、【紅侵圭態】フォース、デッドリー・クルセイダーズ……」
あくまでも、一時的に迎えることとなった死を奪う、そんな能力。
それは、死を与えられんとする者たちに、生ける屍となって付き従う呪縛を植え付けてしまうようなもので。
でも、それでも。
何も成せず死にに行くよりは幾分かましであろうと。
せめてそんな、彼ら彼女らが迷わぬよう、引っ張って導いていく必要があるだろうと。
包む手のひらを意味する『パーム』と呼ばれる存在が生まれたのは。
まさに、その瞬間で……。
※ ※ ※
前触れは、予感は確かにあったのだろう。
しかし、何もできないままに黒い光に焼かれて。
それでも、本能に従ってみゃんぴょうへと変わっていたのが幸か不幸か。
「みゃかっ!?」
気づけば正咲は、どこか高い所から放り投げ出されるように転がっていて。
「いったぁ、なんなのさ。もう」
激しく打ち付けられたが、受け止められた場所がベッドの上だったので、それほどの痛みはなく。
正咲はすぐに起き上がって状況に把握につとめようと辺りを見回す。
「ここは……まこちゃんのおうち? ……って、まこっちゃん、まりちゃん、みんなはっ!?」
そして、それだけで。
『みゃんぴょう』……ファミリアとなったことで、真の能力、ファミリアを送還するための術式を受けたことで遠くへ。
この場へと逃がす、助けられたことに気づいた正咲は。
そのまますぐに駆け出していく。
「……ぐっ。まってて! みんな、すぐに助けにいくからねっ!」
こぼれ、止まらない涙などなかったことにして。
あの状況じゃあ、まず助からないだろうこと、本能的に理解しつつも。
そんなことは知ったこっちゃないと言わんばかりに。
ひまわり色の猫、みゃんぴょうの姿のまま正咲は。
あてのない、終わりの分からない。
大好きなひとたちを見つけ出すための。
長い長い旅に、出るのであった……。
(第491話につづく)
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