第484話、重なる影の数ほど、うそつきライアーは詭弁を吐く



「おぉい! オマエら、何してんだよっ! こんな所で遊んでる場合じゃねぇだろっ! ついに、ようやっと『災厄』に憑かれし者が見つかったんだ! 倒すには知己の力がいる! すぐに来てくれっ!」

「……っ、何だって? それはどこの……っ、いや。いい、わかった。すぐに向かうよ。そのための道はナオが開いてくれるんだろ?」

「言われなくともっ! おらっ、法久も手伝えっ!」

「はいはい。了承、でやんすよ~」



急ぎの案件だと、すぐに理解したのだろう。

皆まで聞かず知己は頷き、そのまま異世へ続くことのできるゲートを開かんとするナオと法久を、見守っていて。



そんな中、扉を創り開かんとするナオと、恭子は一瞬だけ目があった。



「……」


知己や法久と違って、何もかもを理解している、そんな瞳。

そこから見えてくるのは、幾重にもダブった……それこそ無数の並行した世界に存在しているはずのナオの姿で。




―――ここから先は通れない。


それは、ただ純然たる事実である。

知己たちが望む、当然のように思い込んでいるであろう異なる世界はそこにはない。

ナオは、それらすべてを承知の上で、知己のためにとその扉を開け放とうとしている。


彼はこの先、一体どれだけの嘘を吐き続けなければならないのか。

きっとそれは、重なりきった『もう一人の自分』の数だけ存在していて。



恭子は、それ以上は見ていられず。

茶番にも等しいそれを、俯くようにして視線を逸らし避けていた……その瞬間である。




正にこの世の終わり。

その始まりの合図であるかのような、世界の震えが。

その場にいる一同に襲いかかったのは。




「な、なんだっ!?」

「かなり大きな地震っ、近いでやんすねっ」


局地的なものなのか、それほどまでに規模が大きいのか。

立っていられないほどの揺れに、表舞台はパニックの様相を呈してくる。


一旦の撮影、演じ披露することを留める放送が聞こえてきて。

知己がハッとなって思い出したのは、美弥たちのことであった。



「悪いっ! ちょっと様子見てくるからっ!!」

「あっ、ともみくん。待つでやんすよっ!」


それからの知己と法久の行動は迅速果敢で。

現実の世界と異世界の境界を繋ぐゲートを開かんとしていたナオや、ただそれを見守っているようにも映る恭子や、王神、須坂兄弟を置いて駆け出していってしまう。




「……ったく、とによぉ。いつだって自分本位で参るぜ、おい。あぁ、そうだ。どうする? 『AKASHA』班のみなさん。この際ぶっちゃけると、今ここでゲートを開いても君たちが望む子たちに会えるとは限らない。それでも敢えて、向かうかい?」

「? ああ。もちろんだ。あの娘は目を離すと何を仕出かすか分かったものじゃないからな」

「アカシャ……ね。何故だろうか。初めて耳にするはずなのに、妙にしっくるくるのは。いや、とにかく王神さんと同意見だ。アイツがそばにいないと、哲が不安がるからね」

「その言葉、そのまま兄さんにそっくり返すよ」



現時点で彼らが班(チーム)を組んではいなかったこと。

ほとんど初対面に近かっただなんて。

気づかされたのは、既に言葉が飛び出してしまった後で。


ナオは誤魔化すように。

そうであるのならば止めはしないと、時の狭間に扉(ゲート)を創り出す。



「そう。……その扉は」

「ええ。時空の壁すら超えますよ。たとえ異世がどこにあろうとも、向かえ辿り着ける可能性はゼロじゃない」


ナオも。

そして、恭子自身も。

今いる表舞台、現実の世界ではなく。

黒い太陽が、今まさに生まれ落ちようとしている『ドリーム・ランド』と呼ばれる異世が。

ここに、すぐそこに。

文字通り裏側にないことを理解している。



今、『ドリーム・ランド』は表舞台から剥がれ、時の狭間の世界へと。

七色の奔流の最中を漂っていることだろう。


事実としてそれを示すがごとく。

ナオが無造作に生み出し取り付け開いた扉の向こうには、虹色にうねる濁流が飛沫くさまが見えて。



「ご覧の通り、100パーセント行きたい場所へ行けるとは限らない。それでも行くかい?」

「ああ。男に二言はない」

「右に同じ、で。何だか王神さんとは気が合いそうだ。本当にコラボを。チームを組むのもありかもしれないね」

「面倒だなぁ。もしそうしたいのなら、もう一人くらい兄さんのお守り……メンバーが欲しいところだけど」


ナオとしては、なまじその先のことを知っているからこそ躊躇わずにはいられなかったが。

知らない彼らには迷いがなく、止める暇もあらばこそ(もっとも、ナオには止めるつもりはさらさらなかったが)、本当のチームのように連れ立って虹の奔流、その先へと飛び込んでいってしまう。



そうして。

その場には当然のこと、ナオと恭子だけが残されて……。



            (第485話につづく)






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